14-14 自民党案「第1章・天皇」の分析 その1
- 2015/04/18
- 00:32
14-14 どの様な憲法が相応しいのか。その14

14-14 自民党案「第1章・天皇」の分析 その1
先ず、自民党案・第1章天皇の条文を記載する。
比較する為に掲げる順番は、本ブログで採用している時系列原則にのっとり1.大日本帝国憲法、2.日本国憲法、3.自民党案(日本国憲法改正草案)の順番とするが、章全体の条文を紹介する場合は、自民党案のみを記載する。帝国憲法・現行憲法の条文は以前紹介したページのURLを紹介するにとどめる。各条文を比較する場合には、必要に応じ各憲法条文を紹介する。
<帝国憲法・現行憲法の第1章天皇条文は以下URLより参照可能。>
[4-2 第1章「天皇」条文比較 その1]
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-16.html
<Fact>自民党案
第一章 天皇
第1条(天皇)天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
第2条(皇位の継承)皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第3条(国旗及び国歌)
第1項 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
第2項 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
第4条(元号)元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。
第5条(天皇の権能)天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
第6条(天皇の国事行為等)
第1項 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。
第2項 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 全権委任状並びに大使及び公使の信任状並びに批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行うこと。
第3項 天皇は、法律の定めるところにより、前2項の行為を委任することができる。
第4項 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。
第5項 第1項及び第2項に掲げるもののほか、天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。
第7条(摂政)
第1項 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
第2項 第5条及び前条第4項の規定は、摂政について準用する。
第8条(皇室への財産の譲渡等の制限)皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与するには、法律で定める場合を除き、国会の承認を経なければならない。
<分析・意見>
個別条文比較論評の前に、自民党案の全体像を見ての帝国憲法・現行憲法との比較差異の概要を以下に箇条書きする。
・第1条:天皇規定、主権規定
1)天皇元首規定の明示。帝国憲法も現行憲法も天皇は元首。現行憲法に明示ない。
2)象徴天皇は現行憲法のまま。
3)「主権の存する日本国民の総意に基づく」との国民「主権」と「総意」規定。
・第2条:現行憲法と同文の皇位継承規定。帝国憲法の男系男子明示は復活せず。
・第3条:国旗・国歌の新設条文が唐突に新設登場。
・第4条:元号規定が新設。一世一元号を憲法に明記
・第5条:現行憲法第4条と同文の「国政機能を有しない」規定。
・第6条:国事行為
1)第1項の内閣総理大臣の任命、最高裁判所の長である裁判官の任命は現行憲法第6条第1項第2項と同じ。「国民のため」との一文が新規に挿入されている。
2)第2項の国事行為明示は現行憲法第7条の10件のうち、四、五、八以外は同文。四は現行憲法の誤植の訂正(笑)。五、八は国内・海外との区分整理と思われ、実質同文。
3)第3項の委任可能条項は現行憲法第4条第2項と同意。
4)第4項は現行憲法の「内閣の助言と承認」が「内閣の進言」に改訂されている。
5)第5項は現行憲法の国事行為の他に、現状実際に行われている国、地方自治体、その他公共団体主催の式典出席その他公的行為を行う旨の追加規定。なんで第6条第2項への追加ではなく第5項での追加なのかは不明。
・第7条(摂政)現行憲法第5条と同意。他項との関係を整理しただけの事務的変更だけ。帝国憲法第17条の摂政規定をその始祖とする条文。
・第8条(皇室への財産の譲渡等の制限)現行憲法第8条と同意だが「法律で定める場合を除き」との一文が挿入されている。
以上、内容の是非には触れず自民党案の第1章天皇の部分を俯瞰して読んでわかる通り、自民党案は現行憲法の「コピペ+上書き」手法で行われている。
当の自民党が、この第1章について何を言っているのかを見るために、自民党案Q&Aを引用する。
<自由民主党・日本国憲法改正草案 Q&A(増補版)の第1章天皇部分の抜粋引用開始>
https://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pd
Q5:「日本国憲法改正草案」では、天皇を「元首」と明記していますが、これについてどのような議論があったのですか? ?
↓
憲法改正草案では、1 条で、天皇が元首であることを明記しました。
元首とは、英語では Head of State であり、国の第一人者を意味します。明治憲法には、天皇が元首であるとの規定が存在していました。また、外交儀礼上でも、天皇は元首として扱われています。したがって、我が国において、天皇が元首であることは紛れもない事実ですが、それをあえて規定するかどうかという点で、議論がありました。
自民党内の議論では、元首として規定することの賛成論が大多数でした。反対論としては、世俗の地位である「元首」をあえて規定することにより、かえって天皇の地位を軽んずることになるといった意見がありました。反対論にも採るべきものがありましたが、多数の意見を採用して、天皇を元首と規定することとしました。
Q7:その他、天皇に関連して、どのような規定を置いたのですか?
↓
6 条に天皇の行為に関する規定を置きましたが、現行憲法を一部変更している所があります。
(国事行為には内閣の「進言」が必要)
現行憲法では、天皇の国事行為には内閣の「助言と承認」が必要とされていますが、天皇の行為に対して「承認」とは礼を失することから、「進言」という言葉に統一しました(6 条4 項)。従来の学説でも、「助言と承認」は一体的に行われるものであり、区別されるものではないという説が有力であり、「進言」に一本化したものです。
(天皇の公的行為を明記)
さらに、6 条5 項に、現行憲法には規定がなかった「天皇の公的行為」を明記しました。現に、国会の開会式で「おことば」を述べること、国や地方自治体が主催する式典に出席することなど、天皇の行為には公的な性格を持つものがあります。しかし、こうした公的な性格を持つ行為は、現行憲法上何ら位置付けがなされていません。そこで、こうした公的行為について、憲法上明確な規定を設けるべきであると考えました。
一部の政党は、国事行為以外の天皇の行為は違憲であると主張し、天皇の御臨席を仰いで行われる国会の開会式にいまだに出席していません。天皇の公的行為を憲法上明確に規定することにより、こうした議論を結着させることになります。
(国事行為の基本に変更なし)
なお、6 条2 項では、天皇の国事行為について列記されていますが、規定を分かりやすく若干整理したものの、基本は変えていません。
<引用終わり>
案の定と言うか、Q&Aでも現行憲法の「コピペ+上書き」だと言っている。
現行憲法「コピペ+上書き」方式は、現行憲法をベースにしており改正する際の手法としては他者にわかり易く、テクニカル的にも楽なものだが、逆に言えば思考が現行憲法の枠内からなかなか出られず、現行憲法の毒を知らず知らずのうちに引きずるリスクがある手法である。
現行憲法を読むフェーズでは帝国憲法から現行憲法へとの時系列で読み、思考が限定されたり停滞するリスクを排除してきたが、自民党案を読み考えるフェーズでも帝国憲法を踏まえることで思考限定停滞リスクを防止していきたいと自民党Q&Aを読み、あらためて考えている。
ここまで論評してきた自民党案は、新設の第9章緊急事態、国防軍規定を入れ非武装との毒を排除した第2章安全保障、一新された前文であったので帝国憲法条文が登場する機会は少なかったが、第1章天皇では、帝国憲法との比較も必要となる機会も増えると思う。
引き続きお付き合い・応援いただき度い。
<長くなったので項をわけます>
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14-14 自民党案「第1章・天皇」の分析 その1
先ず、自民党案・第1章天皇の条文を記載する。
比較する為に掲げる順番は、本ブログで採用している時系列原則にのっとり1.大日本帝国憲法、2.日本国憲法、3.自民党案(日本国憲法改正草案)の順番とするが、章全体の条文を紹介する場合は、自民党案のみを記載する。帝国憲法・現行憲法の条文は以前紹介したページのURLを紹介するにとどめる。各条文を比較する場合には、必要に応じ各憲法条文を紹介する。
<帝国憲法・現行憲法の第1章天皇条文は以下URLより参照可能。>
[4-2 第1章「天皇」条文比較 その1]
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-16.html
<Fact>自民党案
第一章 天皇
第1条(天皇)天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
第2条(皇位の継承)皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第3条(国旗及び国歌)
第1項 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
第2項 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
第4条(元号)元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。
第5条(天皇の権能)天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
第6条(天皇の国事行為等)
第1項 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。
第2項 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 全権委任状並びに大使及び公使の信任状並びに批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行うこと。
第3項 天皇は、法律の定めるところにより、前2項の行為を委任することができる。
第4項 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。
第5項 第1項及び第2項に掲げるもののほか、天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。
第7条(摂政)
第1項 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
第2項 第5条及び前条第4項の規定は、摂政について準用する。
第8条(皇室への財産の譲渡等の制限)皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与するには、法律で定める場合を除き、国会の承認を経なければならない。
<分析・意見>
個別条文比較論評の前に、自民党案の全体像を見ての帝国憲法・現行憲法との比較差異の概要を以下に箇条書きする。
・第1条:天皇規定、主権規定
1)天皇元首規定の明示。帝国憲法も現行憲法も天皇は元首。現行憲法に明示ない。
2)象徴天皇は現行憲法のまま。
3)「主権の存する日本国民の総意に基づく」との国民「主権」と「総意」規定。
・第2条:現行憲法と同文の皇位継承規定。帝国憲法の男系男子明示は復活せず。
・第3条:国旗・国歌の新設条文が唐突に新設登場。
・第4条:元号規定が新設。一世一元号を憲法に明記
・第5条:現行憲法第4条と同文の「国政機能を有しない」規定。
・第6条:国事行為
1)第1項の内閣総理大臣の任命、最高裁判所の長である裁判官の任命は現行憲法第6条第1項第2項と同じ。「国民のため」との一文が新規に挿入されている。
2)第2項の国事行為明示は現行憲法第7条の10件のうち、四、五、八以外は同文。四は現行憲法の誤植の訂正(笑)。五、八は国内・海外との区分整理と思われ、実質同文。
3)第3項の委任可能条項は現行憲法第4条第2項と同意。
4)第4項は現行憲法の「内閣の助言と承認」が「内閣の進言」に改訂されている。
5)第5項は現行憲法の国事行為の他に、現状実際に行われている国、地方自治体、その他公共団体主催の式典出席その他公的行為を行う旨の追加規定。なんで第6条第2項への追加ではなく第5項での追加なのかは不明。
・第7条(摂政)現行憲法第5条と同意。他項との関係を整理しただけの事務的変更だけ。帝国憲法第17条の摂政規定をその始祖とする条文。
・第8条(皇室への財産の譲渡等の制限)現行憲法第8条と同意だが「法律で定める場合を除き」との一文が挿入されている。
以上、内容の是非には触れず自民党案の第1章天皇の部分を俯瞰して読んでわかる通り、自民党案は現行憲法の「コピペ+上書き」手法で行われている。
当の自民党が、この第1章について何を言っているのかを見るために、自民党案Q&Aを引用する。
<自由民主党・日本国憲法改正草案 Q&A(増補版)の第1章天皇部分の抜粋引用開始>
https://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pd
Q5:「日本国憲法改正草案」では、天皇を「元首」と明記していますが、これについてどのような議論があったのですか? ?
↓
憲法改正草案では、1 条で、天皇が元首であることを明記しました。
元首とは、英語では Head of State であり、国の第一人者を意味します。明治憲法には、天皇が元首であるとの規定が存在していました。また、外交儀礼上でも、天皇は元首として扱われています。したがって、我が国において、天皇が元首であることは紛れもない事実ですが、それをあえて規定するかどうかという点で、議論がありました。
自民党内の議論では、元首として規定することの賛成論が大多数でした。反対論としては、世俗の地位である「元首」をあえて規定することにより、かえって天皇の地位を軽んずることになるといった意見がありました。反対論にも採るべきものがありましたが、多数の意見を採用して、天皇を元首と規定することとしました。
Q7:その他、天皇に関連して、どのような規定を置いたのですか?
↓
6 条に天皇の行為に関する規定を置きましたが、現行憲法を一部変更している所があります。
(国事行為には内閣の「進言」が必要)
現行憲法では、天皇の国事行為には内閣の「助言と承認」が必要とされていますが、天皇の行為に対して「承認」とは礼を失することから、「進言」という言葉に統一しました(6 条4 項)。従来の学説でも、「助言と承認」は一体的に行われるものであり、区別されるものではないという説が有力であり、「進言」に一本化したものです。
(天皇の公的行為を明記)
さらに、6 条5 項に、現行憲法には規定がなかった「天皇の公的行為」を明記しました。現に、国会の開会式で「おことば」を述べること、国や地方自治体が主催する式典に出席することなど、天皇の行為には公的な性格を持つものがあります。しかし、こうした公的な性格を持つ行為は、現行憲法上何ら位置付けがなされていません。そこで、こうした公的行為について、憲法上明確な規定を設けるべきであると考えました。
一部の政党は、国事行為以外の天皇の行為は違憲であると主張し、天皇の御臨席を仰いで行われる国会の開会式にいまだに出席していません。天皇の公的行為を憲法上明確に規定することにより、こうした議論を結着させることになります。
(国事行為の基本に変更なし)
なお、6 条2 項では、天皇の国事行為について列記されていますが、規定を分かりやすく若干整理したものの、基本は変えていません。
<引用終わり>
案の定と言うか、Q&Aでも現行憲法の「コピペ+上書き」だと言っている。
現行憲法「コピペ+上書き」方式は、現行憲法をベースにしており改正する際の手法としては他者にわかり易く、テクニカル的にも楽なものだが、逆に言えば思考が現行憲法の枠内からなかなか出られず、現行憲法の毒を知らず知らずのうちに引きずるリスクがある手法である。
現行憲法を読むフェーズでは帝国憲法から現行憲法へとの時系列で読み、思考が限定されたり停滞するリスクを排除してきたが、自民党案を読み考えるフェーズでも帝国憲法を踏まえることで思考限定停滞リスクを防止していきたいと自民党Q&Aを読み、あらためて考えている。
ここまで論評してきた自民党案は、新設の第9章緊急事態、国防軍規定を入れ非武装との毒を排除した第2章安全保障、一新された前文であったので帝国憲法条文が登場する機会は少なかったが、第1章天皇では、帝国憲法との比較も必要となる機会も増えると思う。
引き続きお付き合い・応援いただき度い。
<長くなったので項をわけます>
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