続・粗雑な分類・F-1もダンプトラックも「自動車」(補足編)
- 2017/12/29
- 00:53
続・粗雑な分類・F-1もダンプトラックも「自動車」(補足編)
<いずも型ヘリ空母を叩きたい人々2>

前回の論考は、話の大枠の説明だけでも長くなってしまった。
それは、中日新聞の記事が、どうせ一般国民の多くは軍事知識や防衛問題の政治的知識がないであろうとしてデタラメを書いたものであることから、軍事知識として空母の機能別ジャンル分けの説明及び防衛問題の政治的知識として政府見解の記録を提示しながら、中日新聞記事のデタラメを論証したからである。
再度、前回の結論を念の為に書いておく。
・我が国「いずも型」にF-35B搭載機能を付加しても、それは軍事的には「攻撃型空母」にはなり得ない。
・「攻撃型空母」とは、核投射専用の艦上攻撃機を運用する昔のエンタープライズの様な大型の空母のことで、核投射専用機を運用しなくなったエンタープライスは「攻撃型空母」から「汎用空母」に用途変更している。
・「「我が国は憲法の制約で空母を持てない」が政府見解」は真っ赤なウソである。
だいたい、こんなところであろう。
とは言え、実のところ、前回の論考は、話の大枠の説明だけでも長くなっているので、理解する上での基礎となる軍事知識や防衛問題の政治的知識の説明をかなり端折っている。
その為に、「これくらいは知っているであろう」との想定で省略した説明記述が多々ある。
そういうことなので、上記した結論に至るプロセスでの説明だけでは「腑に落ちない」方もいるやもしれず、今回は、前回論考で省略した記述の落ち穂拾い・補足編として各種説明詳細を投稿しておく。
1.海上自衛隊護衛艦
我が国海上自衛隊が保有する護衛艦には、大きく分けて4種類ある。
対潜・対空・対艦・対地のオールマイティの性能を有する汎用護衛艦DDと、DDの防空性能を高めたイージス艦として知られるミサイル搭載護衛艦DDGと複数の対潜ヘリコプターの運用能力があるDDH及び汎用護衛艦DDの小型簡易版であるDEである。
今回取り上げるのは、複数の対潜ヘリコプターの運用能力があるDDHである。
現在の我が国海上自衛隊が保有するDDHは4隻。
何れも、全通甲板型のヘリ搭載護衛艦であるが、5inch砲以外は汎用護衛艦と同等の対空・対潜能力を有する「ひゅうが型」2隻(ひゅうが、いぜ)と、対潜能力及び対空能力を自艦防御レベルにして、その分をヘリ等の航空機運用能力向上に振り分けた「いずも型」(いずも、かが)の4隻である。
ヘリコピター発着艦箇所は、「ひゅうが型」で4か所、いずも型で5か所である。
我が国では、憲法9条の「戦力不保持」に合わせ、海軍機能を海上自衛隊と称し、当方が子供の頃は、戦車を特車と称している様に、諸外国では「ヘリ空部」と称される艦を「ヘリ搭載護衛艦=DDH」と称しているので、混乱すると思うが、「ひゅうが型」「いずも型」は何れも、「ヘリ空母」である。
DDHが、現在の全通甲板型になる前は、船体の前部に5inch砲2門を背負い式に装備し、船体後部をヘリの発着甲板とした、昔の航空巡洋艦(利根、筑摩等)の様な艦容をした「ヘリ3機搭載型対潜護衛艦」4隻を保有していた。
「はるな型」DDH(はるな、ひえい)と「しらね型」DDH(しらね、くらま)の4隻である。これら船体の後半部が飛行甲板になっているDDHの後継艦が全通甲板型の「ひゅうが型」及び「いずも型」である。
DDHの主要任務は、対潜作戦である。
原潜の速度は相当に速く、護衛艦の速度30ノットを上回る。
そういう原潜を相手に対潜作戦を遂行する為には、対潜ヘリコプターが必須であるのだが、ローターを回して空中で機動するヘリコプターは、固定翼機に比して航続距離が短いし、スピードも出ない。スピードが出ないと言っても、水中を機動する原潜に比べれば圧倒的に早い。
対潜作戦の都度、対潜ヘリコプターが陸上基地から発信していては、原潜相手では必ず見失うので、対潜ヘリを護衛艦に搭載することは必須なのである。
また、対潜ヘリコプターであっても、容易に原潜を発見できるものではなく、見えない相手を、あたかもマインドマスターゲームの様に推定・推理・確認しながら探査して、所在を特定するプロセスを踏む。
この様なプロセスを踏む為に、1機だけでは対潜探査は無理であり、最低でも6機程度のヘリコプターでのコンビネーションや交代を繰り返しながらの探査となる。
実際は、故障予備等を含め8機を常備体制としているのだが、旧型DDHの「はるな型」H及び「しらね型」のヘリコプター搭載能力数は3機であり、必要機数にならない為に、汎用護衛艦DDにヘリコプター1機の搭載能力を持たせ、艦隊で以て対潜作戦を遂行する体制としていた。
今は、DDHの全通甲板型化により、DDH1隻で必要な数のヘリコプターを運用できる様になっているのである。
現在のDDHの全通甲板型の艦容は、一見、先の大戦の空母の様に見える。
また、ヘリコプターという航空機を運用することを第一義とした艦船であること、また、特に、航空機運用能力を高めた「いずも型」の全長は約250mあり、帝国海軍正規空母である赤城(260m)、加賀(240m)の飛行甲板の全長に匹敵することから、これらDDHをあたかも正規空母の様な存在だとイメージしてしまう事があるが、DDHは「ヘリ空母」であり、先の大戦の正規空母とは、役割・目的が全然違う。
確かに、全長などは、70年以上昔の帝国海軍正規空母と同等であるのだが、それはプロペラ機であるゼロ戦(零式艦上戦闘機)を運用する時代の空母の話である。
現在のアメリカの主力空母であるニミッツ級の甲板全長は340mであり、F-18ホーネットの様な艦上戦闘機を運用する空部に比べれば、「ヘリ空母」である「いずも型」は全然大きくはない。
2.Game changer F-35Bの登場
ところが、科学技術の進展に伴い、今現在は、ヘリコプターの様な垂直離着陸=VSTOLが出来る超音速戦闘機が存在している。F-35Bである。
実用の垂直離着陸機の始祖はイギリスが開発した垂直離着陸機ハリアーであるが。陸上戦闘機や艦上戦闘機がマッハ2級の速度性能がある時代にあっても亜音速が精々であり、垂直離着陸機は特殊で限定的な存在であった。
ところが、21世紀現在は、航続距離等で一部劣るものの、陸上機と同等の性能を有する垂直離着陸機としてF-35Bが存在している。
この様な状態、即ち、我が国海上自衛隊には、同時複数のヘリコプターが運用できるだけの広さ、大きさがある飛行甲板を持つ「全通甲板型対潜ヘリ搭載護衛艦」があり、ヘリコプターと同様の垂直離着陸が可能なF-35Bが存在しているとの状態から、「いずも型」、「ひゅうが型」の「VSTOL空母化」運用のアイディアは以前から存在している。
それは、超音速性能がないハリアーであっても、限定的ながら防空戦闘や近接支援などで、充分な戦力があることが実戦で証明済だからだ。
サッチャーがイギリス首相であった時代に起こったフォークランド紛争で、ハリアーは大活躍した。
第二次世界大戦後のイギリスは、次々とアジア植民地を失い、サッチャー以前は「イギリス病」と称される没落を続け、イギリス海軍は、それまで空母に搭載していたF-4ファントムを退役させ、フォークランド紛争勃発時には、イギリスは正規の空母が皆無の状態であった。
イギリス海軍は、ハリアー運用の「VSTOL空母」にハリアーを乗せ、フォークランド諸島沖に展開した艦隊の防空の任にあたらせた。
亜音速機のハリアーが陸上型の超音速機に対抗できるかどうか不安があったが、予想外に活躍し、見事に艦隊防空の任を果たし、フォークランド諸島に逆上陸する際には、近接支援攻撃を行うなど、その有用性を示した。
大型にならざるを得ない正規の空母を保有することが難しい諸国は、ハリアー搭載の「VSTOL空母」を採用している。
イタリア海軍のジュゼッペ・ガリバルディやスペイン海軍のプリンシペ・デ・アストゥリアス、アジア通貨危機以前の景気の良かったタイ海軍のチャクリ・ナルエベトなどのハリアーを運用する「VSTOL空母」を採用している。
これら「VSTOL空母」とヘリコプターを運用するヘリ空母を総称して「軽空母」と呼ぶ。
「VSTOL空母」とは別に、海上からの上陸作戦に用いる「強襲揚陸艦」(LHD)と言われる艦種がある。
見た目は空母と同じ全通甲板型であるが、用途は上陸作戦用の艦船であり、兵員の速やかなる移動の為にヘリを多量に運用するフラットな甲板と、艦尾他からは水陸両用車両やホバークラフトを発信させ、戦車や装甲車を輸送・上陸させる能力を持つ艦船である。
アメリカ海兵隊のタラワ級、ワスプ級などがある。
これらの艦船は兵員輸送ヘリだけではなく、上陸に際しての近接支援を行うハリアーを搭載している。
現在、これらハリアーを運用してきたVSTOL空母や強襲揚陸艦は、老朽化したハリアーからF-35Bへと機種の更新を進めている。
イタリア海軍は、より大型のVSTOL空母カブールにF-35B搭載を検討している。一方、スペイン海軍などはハリアー搭載のVSTOL空母の後継艦としてVSTOL空母をやめ、LHDを新造するなどしている。
この様に、全通甲板型艦船にF-35Bを搭載して防衛力を強化する方法は世界の潮流である。
特に、亜音速機のハリアーとは違い、超音速機のF-35Bは陸上発進の他の戦闘機・攻撃機に引けをとらないことから、全通甲板型艦船にF-35Bを搭載するアイディアは、F-35開発計画策定時から存在していた。
正規空母をそろえる様な巨額な投資を必要とせずに、比較的リーズナブルな投資で自国の防衛力を強化できるので、全通甲板型艦船にF-35Bを搭載して防衛力を強化する方法は世界の潮流となっているのである。
我が国のDDHのヘリ空母としての性能は高い。
それらにF-35Bを搭載しない手はない、と考えるのは自然なのである。
SF戦記もの小説などでは、F-35Bを搭載した我が国海上自衛隊が活躍する物語は以前から存在し、現在はビッグコミック誌の「空母いぶき」との連載がある。
しかし、この様なアイディアが存在しているのだが、海上自衛隊他の政府関係者からは正式には出ておらず、むしろ政府関係者からは、飛行甲板が耐熱仕様ではないのでヘリコプターの運用は可能なのだが、熱風が吹き付けるF-35Bの運用は出来ない、との話となっているのである。
そういう状況下で、何故か唐突に、中日新聞は「「「空母」用戦闘機、導入検討 防衛省、「自衛目的」逸脱の恐れ」との見出しの記事を掲載したのである。
3.VSTOL空母・ヘリ空母は軽空母。ならば「普通の空母」とは何?
中日新聞の記事は、軽空母と、アメリカ海軍が運用する狭義の「普通の空母」をごちゃ混ぜにして混同させるものであることは前回の論考で説明した。
ここまで詳しく説明してきた様に、我が国の「いずも型」は「ヘリ空母」である。
それにF-35Bを搭載して運用能力を持たせたとしたら、それは「VSTOL空母」である。
そのどちらでも「軽空母」である。
米軍のニミッツ級空母の様な正規装備を備えた空母とは異なる存在だ。
ニミッツ級は、カタパルト射出機能を持ち、艦上機の着艦時にはワイヤーで制動をかける空母である。こういう装備があるので、固定翼艦上機を運用する能力があるのである。
最近は、従前からの固定翼艦上機を運用する空母だけではなく、ヘリコプターやVSTOL機を運用するヘリ空母、VSTOL空母があり、それと区別する為に、従前からの空母のことをわざわざCATOBAR空母(Catapult Assisted Take Off But Arrested Recovery:キャトバル・キャトバールと称する)と表記する様になっているのである。
VSTOL空母は、搭載する航空機自体に短距離発進・垂直離着艦機能があるので、艦船側に特殊な離着艦用の設備を持つ必要がない。
一方、従来の艦上戦闘機を運用する空母(狭義の空母)は、逆に発艦補助機能としてのカタパルト設備を、着艦補助機能として制動装置(アレスティングワイヤー)を設置している。CATOBAR空母である。
また、その離着艦の為の甲板は、相当な長さが必要となり、必然的に空母船体の大型化が必須となる。その為、大型化した空母の建造費・運用費は高額となり、ごく一部の富裕国した運用できない。
現在、CATOBAR空母を運用しているのは、アメリカとフランス(空母シャルル・ド・ゴール1隻)だけである。
中国の空母遼寧はカタパルトがない。同様、ロシアの自称「重航空巡洋艦」のアドミラル・クズネツォフもカタパルトがない。
技術的問題で作れないからである。これらは、STOBAR空母(Short TakeOff But Arrested Recovery)と称されることがある。
STOBAR空母の最大の欠点は、発艦補助装置であるカタパルトがないので、発艦する航空機の重量に制限があり、搭載兵器や搭載燃料がCATOBAR空母から発艦する航空機に比して劣後することにある。
また、発艦間隔が長くなり、一度に多量の航空機を投入する能力も劣る。
以上である。今回は、前回論考で省略した記述の落ち穂拾い・補足編であり、軍事マニア的記述となったが、その点はお許しいただきたい。
それは、中日新聞の記事が、軽空母・VSTOL空母にしかなり得ない「いずも型+F-35B」に対して、昔の米海軍空母エンタープライズの様な戦略核投射を役割・任務とする「攻撃型空母」であるかの様な虚偽を書いていたので、その詳しい説明する為に必要だったからである。
最後に、一般国民を見くびっている中日新聞に一言。 国民をバカにするな!
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<いずも型ヘリ空母を叩きたい人々2>


前回の論考は、話の大枠の説明だけでも長くなってしまった。
それは、中日新聞の記事が、どうせ一般国民の多くは軍事知識や防衛問題の政治的知識がないであろうとしてデタラメを書いたものであることから、軍事知識として空母の機能別ジャンル分けの説明及び防衛問題の政治的知識として政府見解の記録を提示しながら、中日新聞記事のデタラメを論証したからである。
再度、前回の結論を念の為に書いておく。
・我が国「いずも型」にF-35B搭載機能を付加しても、それは軍事的には「攻撃型空母」にはなり得ない。
・「攻撃型空母」とは、核投射専用の艦上攻撃機を運用する昔のエンタープライズの様な大型の空母のことで、核投射専用機を運用しなくなったエンタープライスは「攻撃型空母」から「汎用空母」に用途変更している。
・「「我が国は憲法の制約で空母を持てない」が政府見解」は真っ赤なウソである。
だいたい、こんなところであろう。
とは言え、実のところ、前回の論考は、話の大枠の説明だけでも長くなっているので、理解する上での基礎となる軍事知識や防衛問題の政治的知識の説明をかなり端折っている。
その為に、「これくらいは知っているであろう」との想定で省略した説明記述が多々ある。
そういうことなので、上記した結論に至るプロセスでの説明だけでは「腑に落ちない」方もいるやもしれず、今回は、前回論考で省略した記述の落ち穂拾い・補足編として各種説明詳細を投稿しておく。
1.海上自衛隊護衛艦
我が国海上自衛隊が保有する護衛艦には、大きく分けて4種類ある。
対潜・対空・対艦・対地のオールマイティの性能を有する汎用護衛艦DDと、DDの防空性能を高めたイージス艦として知られるミサイル搭載護衛艦DDGと複数の対潜ヘリコプターの運用能力があるDDH及び汎用護衛艦DDの小型簡易版であるDEである。
今回取り上げるのは、複数の対潜ヘリコプターの運用能力があるDDHである。
現在の我が国海上自衛隊が保有するDDHは4隻。
何れも、全通甲板型のヘリ搭載護衛艦であるが、5inch砲以外は汎用護衛艦と同等の対空・対潜能力を有する「ひゅうが型」2隻(ひゅうが、いぜ)と、対潜能力及び対空能力を自艦防御レベルにして、その分をヘリ等の航空機運用能力向上に振り分けた「いずも型」(いずも、かが)の4隻である。
ヘリコピター発着艦箇所は、「ひゅうが型」で4か所、いずも型で5か所である。
我が国では、憲法9条の「戦力不保持」に合わせ、海軍機能を海上自衛隊と称し、当方が子供の頃は、戦車を特車と称している様に、諸外国では「ヘリ空部」と称される艦を「ヘリ搭載護衛艦=DDH」と称しているので、混乱すると思うが、「ひゅうが型」「いずも型」は何れも、「ヘリ空母」である。
DDHが、現在の全通甲板型になる前は、船体の前部に5inch砲2門を背負い式に装備し、船体後部をヘリの発着甲板とした、昔の航空巡洋艦(利根、筑摩等)の様な艦容をした「ヘリ3機搭載型対潜護衛艦」4隻を保有していた。
「はるな型」DDH(はるな、ひえい)と「しらね型」DDH(しらね、くらま)の4隻である。これら船体の後半部が飛行甲板になっているDDHの後継艦が全通甲板型の「ひゅうが型」及び「いずも型」である。
DDHの主要任務は、対潜作戦である。
原潜の速度は相当に速く、護衛艦の速度30ノットを上回る。
そういう原潜を相手に対潜作戦を遂行する為には、対潜ヘリコプターが必須であるのだが、ローターを回して空中で機動するヘリコプターは、固定翼機に比して航続距離が短いし、スピードも出ない。スピードが出ないと言っても、水中を機動する原潜に比べれば圧倒的に早い。
対潜作戦の都度、対潜ヘリコプターが陸上基地から発信していては、原潜相手では必ず見失うので、対潜ヘリを護衛艦に搭載することは必須なのである。
また、対潜ヘリコプターであっても、容易に原潜を発見できるものではなく、見えない相手を、あたかもマインドマスターゲームの様に推定・推理・確認しながら探査して、所在を特定するプロセスを踏む。
この様なプロセスを踏む為に、1機だけでは対潜探査は無理であり、最低でも6機程度のヘリコプターでのコンビネーションや交代を繰り返しながらの探査となる。
実際は、故障予備等を含め8機を常備体制としているのだが、旧型DDHの「はるな型」H及び「しらね型」のヘリコプター搭載能力数は3機であり、必要機数にならない為に、汎用護衛艦DDにヘリコプター1機の搭載能力を持たせ、艦隊で以て対潜作戦を遂行する体制としていた。
今は、DDHの全通甲板型化により、DDH1隻で必要な数のヘリコプターを運用できる様になっているのである。
現在のDDHの全通甲板型の艦容は、一見、先の大戦の空母の様に見える。
また、ヘリコプターという航空機を運用することを第一義とした艦船であること、また、特に、航空機運用能力を高めた「いずも型」の全長は約250mあり、帝国海軍正規空母である赤城(260m)、加賀(240m)の飛行甲板の全長に匹敵することから、これらDDHをあたかも正規空母の様な存在だとイメージしてしまう事があるが、DDHは「ヘリ空母」であり、先の大戦の正規空母とは、役割・目的が全然違う。
確かに、全長などは、70年以上昔の帝国海軍正規空母と同等であるのだが、それはプロペラ機であるゼロ戦(零式艦上戦闘機)を運用する時代の空母の話である。
現在のアメリカの主力空母であるニミッツ級の甲板全長は340mであり、F-18ホーネットの様な艦上戦闘機を運用する空部に比べれば、「ヘリ空母」である「いずも型」は全然大きくはない。
2.Game changer F-35Bの登場
ところが、科学技術の進展に伴い、今現在は、ヘリコプターの様な垂直離着陸=VSTOLが出来る超音速戦闘機が存在している。F-35Bである。
実用の垂直離着陸機の始祖はイギリスが開発した垂直離着陸機ハリアーであるが。陸上戦闘機や艦上戦闘機がマッハ2級の速度性能がある時代にあっても亜音速が精々であり、垂直離着陸機は特殊で限定的な存在であった。
ところが、21世紀現在は、航続距離等で一部劣るものの、陸上機と同等の性能を有する垂直離着陸機としてF-35Bが存在している。
この様な状態、即ち、我が国海上自衛隊には、同時複数のヘリコプターが運用できるだけの広さ、大きさがある飛行甲板を持つ「全通甲板型対潜ヘリ搭載護衛艦」があり、ヘリコプターと同様の垂直離着陸が可能なF-35Bが存在しているとの状態から、「いずも型」、「ひゅうが型」の「VSTOL空母化」運用のアイディアは以前から存在している。
それは、超音速性能がないハリアーであっても、限定的ながら防空戦闘や近接支援などで、充分な戦力があることが実戦で証明済だからだ。
サッチャーがイギリス首相であった時代に起こったフォークランド紛争で、ハリアーは大活躍した。
第二次世界大戦後のイギリスは、次々とアジア植民地を失い、サッチャー以前は「イギリス病」と称される没落を続け、イギリス海軍は、それまで空母に搭載していたF-4ファントムを退役させ、フォークランド紛争勃発時には、イギリスは正規の空母が皆無の状態であった。
イギリス海軍は、ハリアー運用の「VSTOL空母」にハリアーを乗せ、フォークランド諸島沖に展開した艦隊の防空の任にあたらせた。
亜音速機のハリアーが陸上型の超音速機に対抗できるかどうか不安があったが、予想外に活躍し、見事に艦隊防空の任を果たし、フォークランド諸島に逆上陸する際には、近接支援攻撃を行うなど、その有用性を示した。
大型にならざるを得ない正規の空母を保有することが難しい諸国は、ハリアー搭載の「VSTOL空母」を採用している。
イタリア海軍のジュゼッペ・ガリバルディやスペイン海軍のプリンシペ・デ・アストゥリアス、アジア通貨危機以前の景気の良かったタイ海軍のチャクリ・ナルエベトなどのハリアーを運用する「VSTOL空母」を採用している。
これら「VSTOL空母」とヘリコプターを運用するヘリ空母を総称して「軽空母」と呼ぶ。
「VSTOL空母」とは別に、海上からの上陸作戦に用いる「強襲揚陸艦」(LHD)と言われる艦種がある。
見た目は空母と同じ全通甲板型であるが、用途は上陸作戦用の艦船であり、兵員の速やかなる移動の為にヘリを多量に運用するフラットな甲板と、艦尾他からは水陸両用車両やホバークラフトを発信させ、戦車や装甲車を輸送・上陸させる能力を持つ艦船である。
アメリカ海兵隊のタラワ級、ワスプ級などがある。
これらの艦船は兵員輸送ヘリだけではなく、上陸に際しての近接支援を行うハリアーを搭載している。
現在、これらハリアーを運用してきたVSTOL空母や強襲揚陸艦は、老朽化したハリアーからF-35Bへと機種の更新を進めている。
イタリア海軍は、より大型のVSTOL空母カブールにF-35B搭載を検討している。一方、スペイン海軍などはハリアー搭載のVSTOL空母の後継艦としてVSTOL空母をやめ、LHDを新造するなどしている。
この様に、全通甲板型艦船にF-35Bを搭載して防衛力を強化する方法は世界の潮流である。
特に、亜音速機のハリアーとは違い、超音速機のF-35Bは陸上発進の他の戦闘機・攻撃機に引けをとらないことから、全通甲板型艦船にF-35Bを搭載するアイディアは、F-35開発計画策定時から存在していた。
正規空母をそろえる様な巨額な投資を必要とせずに、比較的リーズナブルな投資で自国の防衛力を強化できるので、全通甲板型艦船にF-35Bを搭載して防衛力を強化する方法は世界の潮流となっているのである。
我が国のDDHのヘリ空母としての性能は高い。
それらにF-35Bを搭載しない手はない、と考えるのは自然なのである。
SF戦記もの小説などでは、F-35Bを搭載した我が国海上自衛隊が活躍する物語は以前から存在し、現在はビッグコミック誌の「空母いぶき」との連載がある。
しかし、この様なアイディアが存在しているのだが、海上自衛隊他の政府関係者からは正式には出ておらず、むしろ政府関係者からは、飛行甲板が耐熱仕様ではないのでヘリコプターの運用は可能なのだが、熱風が吹き付けるF-35Bの運用は出来ない、との話となっているのである。
そういう状況下で、何故か唐突に、中日新聞は「「「空母」用戦闘機、導入検討 防衛省、「自衛目的」逸脱の恐れ」との見出しの記事を掲載したのである。
3.VSTOL空母・ヘリ空母は軽空母。ならば「普通の空母」とは何?
中日新聞の記事は、軽空母と、アメリカ海軍が運用する狭義の「普通の空母」をごちゃ混ぜにして混同させるものであることは前回の論考で説明した。
ここまで詳しく説明してきた様に、我が国の「いずも型」は「ヘリ空母」である。
それにF-35Bを搭載して運用能力を持たせたとしたら、それは「VSTOL空母」である。
そのどちらでも「軽空母」である。
米軍のニミッツ級空母の様な正規装備を備えた空母とは異なる存在だ。
ニミッツ級は、カタパルト射出機能を持ち、艦上機の着艦時にはワイヤーで制動をかける空母である。こういう装備があるので、固定翼艦上機を運用する能力があるのである。
最近は、従前からの固定翼艦上機を運用する空母だけではなく、ヘリコプターやVSTOL機を運用するヘリ空母、VSTOL空母があり、それと区別する為に、従前からの空母のことをわざわざCATOBAR空母(Catapult Assisted Take Off But Arrested Recovery:キャトバル・キャトバールと称する)と表記する様になっているのである。
VSTOL空母は、搭載する航空機自体に短距離発進・垂直離着艦機能があるので、艦船側に特殊な離着艦用の設備を持つ必要がない。
一方、従来の艦上戦闘機を運用する空母(狭義の空母)は、逆に発艦補助機能としてのカタパルト設備を、着艦補助機能として制動装置(アレスティングワイヤー)を設置している。CATOBAR空母である。
また、その離着艦の為の甲板は、相当な長さが必要となり、必然的に空母船体の大型化が必須となる。その為、大型化した空母の建造費・運用費は高額となり、ごく一部の富裕国した運用できない。
現在、CATOBAR空母を運用しているのは、アメリカとフランス(空母シャルル・ド・ゴール1隻)だけである。
中国の空母遼寧はカタパルトがない。同様、ロシアの自称「重航空巡洋艦」のアドミラル・クズネツォフもカタパルトがない。
技術的問題で作れないからである。これらは、STOBAR空母(Short TakeOff But Arrested Recovery)と称されることがある。
STOBAR空母の最大の欠点は、発艦補助装置であるカタパルトがないので、発艦する航空機の重量に制限があり、搭載兵器や搭載燃料がCATOBAR空母から発艦する航空機に比して劣後することにある。
また、発艦間隔が長くなり、一度に多量の航空機を投入する能力も劣る。
以上である。今回は、前回論考で省略した記述の落ち穂拾い・補足編であり、軍事マニア的記述となったが、その点はお許しいただきたい。
それは、中日新聞の記事が、軽空母・VSTOL空母にしかなり得ない「いずも型+F-35B」に対して、昔の米海軍空母エンタープライズの様な戦略核投射を役割・任務とする「攻撃型空母」であるかの様な虚偽を書いていたので、その詳しい説明する為に必要だったからである。
最後に、一般国民を見くびっている中日新聞に一言。 国民をバカにするな!
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