「ナチスはドイツ憲法で禁止」との慣用句
- 2017/08/25
- 19:41
「ナチスはドイツ憲法で禁止」との慣用句

副題:ナチスだけじゃない、共産党も対象でしょ。
表題にある通り、「ナチスはドイツ憲法で禁止」との慣用句が流通している。
しかし、そういう話でドイツ憲法の何条の規定なのかとの具体的指摘をしたものを目にすることは少ない。
ザンプルとするには、些か不適当かもしれないが、レコードチャイナの記事(*1)を先ず紹介する。
<レコードチャイナ記事から当該部分を抜粋引用>
今月5日にはベルリンのドイツ連邦議会議事堂で、ナチス式敬礼のポーズで互いの写真を撮るなどしていた36歳と49歳の中国人男性2人が、ドイツ憲法に違反する組織のシンボルを使用した疑いで警察に逮捕されている。
<引用終わり>
引用記事中に「ドイツ憲法に違反する組織」との記述があることを確認できるであろう。
ただ単に「ドイツ憲法に違反」とだけ書いてあり、それ以上の言及はない。
これはレコードチャイナだけの特徴ではなく、他にも同様表現の事例が散見される。
実際、以前から、この言い方は目についていた。
そして、案の定、こういう表現方法だと法文の基本的知識がない場合には、あたかも「ドイツ憲法」に「ナチス党は違法」との条文が存在しているかの様な誤解をする方も出てきた実例があった。
そういう誤解は、あらぬ方向へと考えが飛ぶ危険性があるので、ちょっと書いてみることにした。
◇ドイツ憲法=ドイツ基本法(ドイツ連邦共和国基本法)
マスコミ記事で「ドイツ憲法」と出て来るのは通称慣例として特に問題はないと考えているので、その点は繰り返さない。ドイツ憲法と通称されるのは上記した通りドイツ基本法である。
ドイツ憲法は、ドイツの憲法なので、当然の様にドイツ語で書かれているのだが、当方は、母国語の日本語と結果的世界共通語である英語以外は解さない。そこで、和訳(または英訳)したものを参考にするしかないのだが、信頼に足ると考える和訳資料(*2)をベースにして、以降、論考することを予めご承知おき願いたい。
◇「ナチス党禁止」の条文は何処?
<ドイツ憲法の何条の規定なのかとの具体的指摘をしたものを目にすることは少ない。>と書いたのだが、だったら自分で調べろ、というのが当方の基本姿勢なので、調べてみた。
アプローチの仕方としては、「ナチス党」との政党・結社が「禁止」されているのならば、自由民主主義の基本理念である「結社の自由」に対する、特定例外規定の形式になると想定されることから、「結社の自由」規定近辺を読むとのアプローチで探りを入れてみた。
と言う事で、ドイツ憲法の第1章が「基本権」なので、先ずは、第1章の第1条から第19条まで順番に読んでみた。
とは言え、今回はドイツ憲法の特徴等を述べたり、我が国の現行憲法と比較したりするのが目的ではないので、その点を今回述べることはしないが、一言だけ。
ドイツ憲法第1章・基本権の各条文は、第1項で原則・理念を述べ、第2項(またはそれ以降)で、その原則とは違う、制限の条項が明示されるとのパターンとなっている。
原則・理念として「不可侵」とか「権利を有する」とか書いてある次の項で「ただし・・・」と「制限可能条文」が続いているパターンである。
これは憲法が国の本質的理念を掲げるという面と実体法としての最高法規との両面の性格を持つことからは、妥当な手法だと言える。
この具体的事例として、「結社の自由」を規定しているドイツ憲法第9条を以下に引用する。
尚、9条第3項は、労働団結権に特化した条文なので、今は読まなくても良い。
<ドイツ憲法・第9条([結社の自由]>
すべてのドイツ人は、団体および組合を結成する権利を有する。
同第2項 目的または活動において刑法律に違反している結社、または憲法的秩序もしくは国際協調の思想に反する結社は、禁止される。
同第3項 労働条件および経済条件の維持および改善のために団体を結成する権利は、何人に対しても、またいかなる職業に対しても、保障する。この権利を制限し、または妨害しようとする取り決めは、無効であり、これを目的とする措置は、違法である。1段の意味における団体が、労働条件および経済条件を維持し改善するために行う労働争議に対しては、第12a条、第35条2項および3項、第87a条4項および第91条による措置をとることは許されない。
<引用終わり>
ご覧の通り、第1項では「結社の自由」との原則が書かれている。
そして、第2項で「刑法違反結社」「憲法的秩序に反する結社」「国際協調の思想に反する結社」は「禁止」だとする条文である。
「ナチス党」との具体的固有名詞は登場しないが、趣旨としては「国家社会主義労働党=ナチス党」を禁止する根拠になり得る条文であることがわかるだろう。
そして、同時に、対象はナチス党に限定されていない条文であることもわかるであろう。
話を続ける。
第1章・基本権の章には他にも禁止事項がある。
「結社の自由」とのキーワードで見た場合、第18条には、他の基本権とともに「結社の自由」との明示があり、それら基本権への制限をする旨の条文が存在している。
第18条を引用する。
<ドイツ憲法・第18条(基本権の喪失)>
意見表明の自由、とくに出版の自由(第5条1項)、教授の自由(第5条3項)、集会の自由(第8条)、結社の自由(第9条)、信書、郵便および電気通信の秘密(第10条)、所有権(第14条)または庇護権(第16a条)を、自由で民主的な基本秩序を攻撃するために濫用する者は、これらの基本権を喪失する。喪失とその程度は、連邦憲法裁判所によって宣告される。
<引用終わり>
第18条での「禁止」の内容は、一言で言えば「濫用禁止」である。
「自由で民主的な基本秩序を攻撃するために」、「意見表明の自由」や「出版の自由」や「集会の自由」や「結社の自由」を濫用しちゃダメ、本末転倒でしょ、という内容だ。
同じ事を別の言葉で言うとすれば、「自由民主主義体制を転覆する目的で自由民主主義体制で認められている制度を濫用・悪用するんじゃないよ」ということだ。
妥当な規定だと思うのだが、我が国では、こういう連用禁止規定も「憲法改悪」になってしまう歪みがある。不法に道路を占拠しているパヨクが「憲法で保障されている表現の自由・集会の自由を侵害する憲法違反行為をするなぁ~!」と叫んでいるとの、ちゃんちゃらおかしい本末転倒行為は、ドイツ憲法に照らせば、それこそ憲法違反に該当することであろう。
これを「ナチス党」とのキーワードで読解すると、憲法で認められている「意見表明の自由」や「出版の自由」や「集会の自由」や「結社の自由」を掲げても、それが「自由民主主義体制を転覆する目的」である反自由民主主義の「国家社会主義・ナチス党活動」の為なら、そういうのは認めないとなるのであろう。
そして、条文内容からは、それが「共産主義・共産党活動」でも該当するものと解される。
話を続ける。
第1章・基本権の章には他にも禁止事項がある。
第1章の最後の条文、第19条は「基本権の制限」条文である。第19条を以下に引用するが、今回関係するのは第19条の第2項迄なので、今回は、それ以降を読まなくても良い。
<ドイツ憲法・第19条(基本権の制限)>
この基本法が法律によって、または法律の根拠に基づいて基本権を制限することを認めている場合、その法律は、一般的に適用されるものでなければならず、個々の場合にのみ適用されるものであってはならない。さらに、その法律は、条文を挙示して基本権の名称を示さなければならない。
同第2項 いかなる場合にも、基本権は、その本質的内容を侵害されてはならない。
同第3項 基本権は、内国法人に対しても、適用可能な場合には、その限りでこれを適用する。
同第4項 何人も、公権力によってその権利を侵害されたときは、出訴することができる。他の機関に管轄権がない限り、通常裁判所への出訴が認められる。第10条2項2段は、影響を受けない。
<引用終わり>
この第19条第1項に条文は、下位法で制限する場合は、減俸条文で制限可能である旨の条文があることが必須条件である旨が最初に書かれている。
そして、その下位法は「一般的に適用されるものでなければならず」とし、更に「個々の場合にのみ適用されるものであってはならない。」とわざわざ書いてあるのである。
要するに「ナチスだけを対象にする」という事に対する戒め条文であろう。
表面的な「ナチスは憲法で禁止」なる浅はかな理解ではダメで、本質的な理念・原則は「自由で民主的な基本秩序」の維持・継続にあると解すべき条文になっていることに注目すべきである。
以上、「結社の自由」をキーワードにしたアプローチとしては、こんなものであるのだが、これで終わりではない。ドイツ憲法には、政党関係の条文があるからだ。
ドイツ憲法で「政党」との表題が付けられた条文として、第21条がある。
第21条は第2章「連邦とラント(各州)」の2番目の条文だ。
第2章は、連邦制国家であるドイツの「国の形」に関しての規定が並んでいる。
では、第21条を引用する。尚、今回の話題で関係するのは第1項及び第2項である。
<ドイツ憲法・第21条(政党)>
政党は、国民の政治的意思形成に協力する。その設立は自由である。政党の内部秩序は、民主主義の諸原則に適合していなければならない。政党は、その資金の出所および使途について、ならびにその財産について、公的に報告しなけれはならない。
同第2項 政党で、その目的または党員の行動が自由で民主的な基本秩序を侵害もしくは除去し、または、ドイツ連邦共和国の存立を危くすることを目指すものは、違憲である。違憲の問題については、連邦憲法裁判所が決定する。
同第3項 詳細は、連邦法で定める。
<引用終わり>
読んでわかる通り、この条文も、第1項の冒頭で「(政党の)設立は自由である」との原則・理念が書かれている。その一方で、第1項の中段では「政党の内部秩序は、民主主義の諸原則に適合していなければならない。」と、民主主義に反する運営をする政党はダメとの釘刺しをしている。
第2項では、もっと明確に「政党の目的または党員の行動」が「自由で民主的な基本秩序を侵害もしくは除去」する様なものはダメ、「ドイツ連邦共和国の存立を危くすることを目指すもの」もダメ、違憲であると書いてあるのである。
理念・趣旨としては、「決算の自由」で書かれていたことと同じである。
自由民主主義に反する政党は違憲だ、というものである。
ドイツ憲法=ドイツ基本法が出来たのは戦後で、その経緯から「自由民主主義に反する政党は違憲」との規定は「ナチス党禁止」との理解になるのは、まったくに自然である。
しかしながら、今まで見てきた様に、ドイツ憲法には「ナチス党」との具体的固有名詞は登場しない。
また、条文の趣旨は「○○禁止」とのアンチテーゼではなく、自由民主主義体制の確保・維持にあり、条文の内容からは、ナチス党=国家社会主義労働党だけを特定して禁止しているものではないことも確認できたと思う。
日本の所謂カタカナ表記「サヨク」は、都合の悪いことを隠す性癖があるが、この様に、ドイツ憲法は、自由民主主義とは違う共産主義政党=共産党も違憲とするものであることもわかるであろう。
ドイツの憲法的秩序である自由で民主的な基本秩序が至上価値だとするのがドイツ憲法の主旨である。
最初に引用した記事になった「ドイツ憲法に違反するナチス党」との表現は、正確には「自由で民主的なドイツの基本秩序に反するナチス党や共産党の様な非民主的組織はドイツ憲法違反」となるのであろう。
今回は以上である。
「ナチスはダメ」とだけ騒ぎ、「共産党は・・・」と沈黙するのは、明らかなる偏りである。
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【文末脚注】
(*1):レコードチャイナ記事
Record china 配信日時:2017年8月14日(月) 13時30分
見出し:◆ドイツでナチス式敬礼、米国人観光客殴られる、1週前には中国人逮捕―露メディア
http://www.recordchina.co.jp/b187450-s0-c10.html
記事本文:○2017年8月13日、露通信社スプートニクによると、ナチスの思想を礼賛する行為が法律で禁止されているドイツのドレスデンで12日、腕を高く伸ばすナチス式の敬礼をした米国人観光客の男性(41)が何者かに殴られるという騒ぎがあった。
○男性は当時、酒に酔った状態だったという。
○今月5日にはベルリンのドイツ連邦議会議事堂で、ナチス式敬礼のポーズで互いの写真を撮るなどしていた36歳と49歳の中国人男性2人が、ドイツ憲法に違反する組織のシンボルを使用した疑いで警察に逮捕されている。2人はそれぞれ500ユーロ(約6万4000円)の保釈金を支払って釈放された。(翻訳・編集/柳川)
<引用終わり>
(*2):ドイツ憲法=ドイツ基本法(ドイツ連邦共和国基本法)和訳サイト
http://www.fitweb.or.jp/~nkgw/dgg/
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副題:ナチスだけじゃない、共産党も対象でしょ。
表題にある通り、「ナチスはドイツ憲法で禁止」との慣用句が流通している。
しかし、そういう話でドイツ憲法の何条の規定なのかとの具体的指摘をしたものを目にすることは少ない。
ザンプルとするには、些か不適当かもしれないが、レコードチャイナの記事(*1)を先ず紹介する。
<レコードチャイナ記事から当該部分を抜粋引用>
今月5日にはベルリンのドイツ連邦議会議事堂で、ナチス式敬礼のポーズで互いの写真を撮るなどしていた36歳と49歳の中国人男性2人が、ドイツ憲法に違反する組織のシンボルを使用した疑いで警察に逮捕されている。
<引用終わり>
引用記事中に「ドイツ憲法に違反する組織」との記述があることを確認できるであろう。
ただ単に「ドイツ憲法に違反」とだけ書いてあり、それ以上の言及はない。
これはレコードチャイナだけの特徴ではなく、他にも同様表現の事例が散見される。
実際、以前から、この言い方は目についていた。
そして、案の定、こういう表現方法だと法文の基本的知識がない場合には、あたかも「ドイツ憲法」に「ナチス党は違法」との条文が存在しているかの様な誤解をする方も出てきた実例があった。
そういう誤解は、あらぬ方向へと考えが飛ぶ危険性があるので、ちょっと書いてみることにした。
◇ドイツ憲法=ドイツ基本法(ドイツ連邦共和国基本法)
マスコミ記事で「ドイツ憲法」と出て来るのは通称慣例として特に問題はないと考えているので、その点は繰り返さない。ドイツ憲法と通称されるのは上記した通りドイツ基本法である。
ドイツ憲法は、ドイツの憲法なので、当然の様にドイツ語で書かれているのだが、当方は、母国語の日本語と結果的世界共通語である英語以外は解さない。そこで、和訳(または英訳)したものを参考にするしかないのだが、信頼に足ると考える和訳資料(*2)をベースにして、以降、論考することを予めご承知おき願いたい。
◇「ナチス党禁止」の条文は何処?
<ドイツ憲法の何条の規定なのかとの具体的指摘をしたものを目にすることは少ない。>と書いたのだが、だったら自分で調べろ、というのが当方の基本姿勢なので、調べてみた。
アプローチの仕方としては、「ナチス党」との政党・結社が「禁止」されているのならば、自由民主主義の基本理念である「結社の自由」に対する、特定例外規定の形式になると想定されることから、「結社の自由」規定近辺を読むとのアプローチで探りを入れてみた。
と言う事で、ドイツ憲法の第1章が「基本権」なので、先ずは、第1章の第1条から第19条まで順番に読んでみた。
とは言え、今回はドイツ憲法の特徴等を述べたり、我が国の現行憲法と比較したりするのが目的ではないので、その点を今回述べることはしないが、一言だけ。
ドイツ憲法第1章・基本権の各条文は、第1項で原則・理念を述べ、第2項(またはそれ以降)で、その原則とは違う、制限の条項が明示されるとのパターンとなっている。
原則・理念として「不可侵」とか「権利を有する」とか書いてある次の項で「ただし・・・」と「制限可能条文」が続いているパターンである。
これは憲法が国の本質的理念を掲げるという面と実体法としての最高法規との両面の性格を持つことからは、妥当な手法だと言える。
この具体的事例として、「結社の自由」を規定しているドイツ憲法第9条を以下に引用する。
尚、9条第3項は、労働団結権に特化した条文なので、今は読まなくても良い。
<ドイツ憲法・第9条([結社の自由]>
すべてのドイツ人は、団体および組合を結成する権利を有する。
同第2項 目的または活動において刑法律に違反している結社、または憲法的秩序もしくは国際協調の思想に反する結社は、禁止される。
同第3項 労働条件および経済条件の維持および改善のために団体を結成する権利は、何人に対しても、またいかなる職業に対しても、保障する。この権利を制限し、または妨害しようとする取り決めは、無効であり、これを目的とする措置は、違法である。1段の意味における団体が、労働条件および経済条件を維持し改善するために行う労働争議に対しては、第12a条、第35条2項および3項、第87a条4項および第91条による措置をとることは許されない。
<引用終わり>
ご覧の通り、第1項では「結社の自由」との原則が書かれている。
そして、第2項で「刑法違反結社」「憲法的秩序に反する結社」「国際協調の思想に反する結社」は「禁止」だとする条文である。
「ナチス党」との具体的固有名詞は登場しないが、趣旨としては「国家社会主義労働党=ナチス党」を禁止する根拠になり得る条文であることがわかるだろう。
そして、同時に、対象はナチス党に限定されていない条文であることもわかるであろう。
話を続ける。
第1章・基本権の章には他にも禁止事項がある。
「結社の自由」とのキーワードで見た場合、第18条には、他の基本権とともに「結社の自由」との明示があり、それら基本権への制限をする旨の条文が存在している。
第18条を引用する。
<ドイツ憲法・第18条(基本権の喪失)>
意見表明の自由、とくに出版の自由(第5条1項)、教授の自由(第5条3項)、集会の自由(第8条)、結社の自由(第9条)、信書、郵便および電気通信の秘密(第10条)、所有権(第14条)または庇護権(第16a条)を、自由で民主的な基本秩序を攻撃するために濫用する者は、これらの基本権を喪失する。喪失とその程度は、連邦憲法裁判所によって宣告される。
<引用終わり>
第18条での「禁止」の内容は、一言で言えば「濫用禁止」である。
「自由で民主的な基本秩序を攻撃するために」、「意見表明の自由」や「出版の自由」や「集会の自由」や「結社の自由」を濫用しちゃダメ、本末転倒でしょ、という内容だ。
同じ事を別の言葉で言うとすれば、「自由民主主義体制を転覆する目的で自由民主主義体制で認められている制度を濫用・悪用するんじゃないよ」ということだ。
妥当な規定だと思うのだが、我が国では、こういう連用禁止規定も「憲法改悪」になってしまう歪みがある。不法に道路を占拠しているパヨクが「憲法で保障されている表現の自由・集会の自由を侵害する憲法違反行為をするなぁ~!」と叫んでいるとの、ちゃんちゃらおかしい本末転倒行為は、ドイツ憲法に照らせば、それこそ憲法違反に該当することであろう。
これを「ナチス党」とのキーワードで読解すると、憲法で認められている「意見表明の自由」や「出版の自由」や「集会の自由」や「結社の自由」を掲げても、それが「自由民主主義体制を転覆する目的」である反自由民主主義の「国家社会主義・ナチス党活動」の為なら、そういうのは認めないとなるのであろう。
そして、条文内容からは、それが「共産主義・共産党活動」でも該当するものと解される。
話を続ける。
第1章・基本権の章には他にも禁止事項がある。
第1章の最後の条文、第19条は「基本権の制限」条文である。第19条を以下に引用するが、今回関係するのは第19条の第2項迄なので、今回は、それ以降を読まなくても良い。
<ドイツ憲法・第19条(基本権の制限)>
この基本法が法律によって、または法律の根拠に基づいて基本権を制限することを認めている場合、その法律は、一般的に適用されるものでなければならず、個々の場合にのみ適用されるものであってはならない。さらに、その法律は、条文を挙示して基本権の名称を示さなければならない。
同第2項 いかなる場合にも、基本権は、その本質的内容を侵害されてはならない。
同第3項 基本権は、内国法人に対しても、適用可能な場合には、その限りでこれを適用する。
同第4項 何人も、公権力によってその権利を侵害されたときは、出訴することができる。他の機関に管轄権がない限り、通常裁判所への出訴が認められる。第10条2項2段は、影響を受けない。
<引用終わり>
この第19条第1項に条文は、下位法で制限する場合は、減俸条文で制限可能である旨の条文があることが必須条件である旨が最初に書かれている。
そして、その下位法は「一般的に適用されるものでなければならず」とし、更に「個々の場合にのみ適用されるものであってはならない。」とわざわざ書いてあるのである。
要するに「ナチスだけを対象にする」という事に対する戒め条文であろう。
表面的な「ナチスは憲法で禁止」なる浅はかな理解ではダメで、本質的な理念・原則は「自由で民主的な基本秩序」の維持・継続にあると解すべき条文になっていることに注目すべきである。
以上、「結社の自由」をキーワードにしたアプローチとしては、こんなものであるのだが、これで終わりではない。ドイツ憲法には、政党関係の条文があるからだ。
ドイツ憲法で「政党」との表題が付けられた条文として、第21条がある。
第21条は第2章「連邦とラント(各州)」の2番目の条文だ。
第2章は、連邦制国家であるドイツの「国の形」に関しての規定が並んでいる。
では、第21条を引用する。尚、今回の話題で関係するのは第1項及び第2項である。
<ドイツ憲法・第21条(政党)>
政党は、国民の政治的意思形成に協力する。その設立は自由である。政党の内部秩序は、民主主義の諸原則に適合していなければならない。政党は、その資金の出所および使途について、ならびにその財産について、公的に報告しなけれはならない。
同第2項 政党で、その目的または党員の行動が自由で民主的な基本秩序を侵害もしくは除去し、または、ドイツ連邦共和国の存立を危くすることを目指すものは、違憲である。違憲の問題については、連邦憲法裁判所が決定する。
同第3項 詳細は、連邦法で定める。
<引用終わり>
読んでわかる通り、この条文も、第1項の冒頭で「(政党の)設立は自由である」との原則・理念が書かれている。その一方で、第1項の中段では「政党の内部秩序は、民主主義の諸原則に適合していなければならない。」と、民主主義に反する運営をする政党はダメとの釘刺しをしている。
第2項では、もっと明確に「政党の目的または党員の行動」が「自由で民主的な基本秩序を侵害もしくは除去」する様なものはダメ、「ドイツ連邦共和国の存立を危くすることを目指すもの」もダメ、違憲であると書いてあるのである。
理念・趣旨としては、「決算の自由」で書かれていたことと同じである。
自由民主主義に反する政党は違憲だ、というものである。
ドイツ憲法=ドイツ基本法が出来たのは戦後で、その経緯から「自由民主主義に反する政党は違憲」との規定は「ナチス党禁止」との理解になるのは、まったくに自然である。
しかしながら、今まで見てきた様に、ドイツ憲法には「ナチス党」との具体的固有名詞は登場しない。
また、条文の趣旨は「○○禁止」とのアンチテーゼではなく、自由民主主義体制の確保・維持にあり、条文の内容からは、ナチス党=国家社会主義労働党だけを特定して禁止しているものではないことも確認できたと思う。
日本の所謂カタカナ表記「サヨク」は、都合の悪いことを隠す性癖があるが、この様に、ドイツ憲法は、自由民主主義とは違う共産主義政党=共産党も違憲とするものであることもわかるであろう。
ドイツの憲法的秩序である自由で民主的な基本秩序が至上価値だとするのがドイツ憲法の主旨である。
最初に引用した記事になった「ドイツ憲法に違反するナチス党」との表現は、正確には「自由で民主的なドイツの基本秩序に反するナチス党や共産党の様な非民主的組織はドイツ憲法違反」となるのであろう。
今回は以上である。
「ナチスはダメ」とだけ騒ぎ、「共産党は・・・」と沈黙するのは、明らかなる偏りである。
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【文末脚注】
(*1):レコードチャイナ記事
Record china 配信日時:2017年8月14日(月) 13時30分
見出し:◆ドイツでナチス式敬礼、米国人観光客殴られる、1週前には中国人逮捕―露メディア
http://www.recordchina.co.jp/b187450-s0-c10.html
記事本文:○2017年8月13日、露通信社スプートニクによると、ナチスの思想を礼賛する行為が法律で禁止されているドイツのドレスデンで12日、腕を高く伸ばすナチス式の敬礼をした米国人観光客の男性(41)が何者かに殴られるという騒ぎがあった。
○男性は当時、酒に酔った状態だったという。
○今月5日にはベルリンのドイツ連邦議会議事堂で、ナチス式敬礼のポーズで互いの写真を撮るなどしていた36歳と49歳の中国人男性2人が、ドイツ憲法に違反する組織のシンボルを使用した疑いで警察に逮捕されている。2人はそれぞれ500ユーロ(約6万4000円)の保釈金を支払って釈放された。(翻訳・編集/柳川)
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(*2):ドイツ憲法=ドイツ基本法(ドイツ連邦共和国基本法)和訳サイト
http://www.fitweb.or.jp/~nkgw/dgg/



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