国際決済の話・最近の通貨のお話2
- 2017/08/23
- 18:39
国際決済の話・最近の通貨のお話2

副題:国力の両輪は軍事力と経済力。経済力は経済力自体でパワーがあり、けして、「軍事力を支える経済力」だけではない。一方、経済力だけでは、その真のパワーを発揮しない。
アメリカの「OFAC規制」との言葉を聞いたことがあるだろうか?
「OFAC規制」とは「OFAC=Office of Foreign Asset Control=アメリカ財務省・外国資産管理局」が担当・執行する規制のことである。
どの様な規制なのかというと、先ず、その対象はアメリカの国家安全保障を脅かす相手である。アメリカにとって好ましくない国や組織や個人をブラックリストに登録して、そういう相手のアメリカ国内にある資産を凍結するという方法で、それら好ましくない相手に対抗。兵糧攻めをする規制である。
「資産凍結」とは、分かり易く言うと、自分の銀行預金なのだけれど銀行からの引き出しが出来なくなる措置などである。
預金がなくても「ドル送金の停止」という方法で資産凍結=兵糧攻めが出来る。
詳しくは後段で説明する。
「好ましくない国や組織や個人をブラックリストに登録」するのたが、この規制での「ブラックリスト」は「SDNリスト」と言う。SDNとは「Specially Designated Nationals and blocked Persons」(特別に指定された国及びブロックされた人物)の略で、要するに、アメリカが指定した、要注意国、要注意人物・組織等リストのことである。
このブラックリストに記載されると、どうゆう事が起こるのかというと、「資産凍結対象」となり、事実上、海外送金=国際間の資金移動が出来なくなる。
この「OFAC規制」を守る責任を負うのが、アメリカの銀行とアメリカ国内にある外国銀行のアメリカ支店などである。これら銀行は、預金預入者や送金依頼者がブラックリストに該当するか否かを確認する義務を負い、また、送金の場合は、依頼者のみならず、送金先がブラックリスト該当者か否かの確認をする義務を負っている。
「OFAC規制」の概要としては、こんなもんである。
「なんだ、規制を守る責任を負うのは、アメリカの銀行や、アメリカに支店を持つ大手銀行だけじゃないか、実効性あるのかよ」と、タカをくくっていると痛い目に合う。
何故なら、ドルやユーロや円などの、国際的に通用する通貨を国際間送金する場合の仕組みとしては、結局は「アメリカの銀行」が介在することになるので、事実上、そこで送金がストップすることになるからである。
ちょっと難しいが、この点を説明しよう。
銀行送金の場合、現金である紙幣や貨幣が物理的に移動するのではなく、情報が行き来して決済が行われる。国内の場合は、中央銀行=日銀が決済の中心に位置する。その例を少々述べる。
北海道の熊太郎さんが、大阪の蛸八さんに10万円送金する場合、紙幣を封筒に詰めて郵便局から現金書留で送る方法もあるが、今や一般的ではないので、情報が行き来するだけの銀行振込の事例を述べる。
熊太郎さんが、自分の北海道銀行の口座から、大阪の池田泉州銀行にある蛸八さんの口座に送金するとしよう。
北海道での熊太郎さんの手続きも、大阪での蛸八さんの手続きでも「紙幣の様な物理的なお金の移動」はない。あるのは、熊太郎さんの口座から10万円少なくなり、蛸八さんの口座の残高が10万円多くなったとの「情報」だけである。
熊太郎さんと蛸八さんの間での金銭のやり取りは、これで御仕舞であるが、決済をした北海道銀行と池田泉州銀行の間では、まだお金の残高がバランスしていない。
この状態は、送金側では、北海道銀行+10万円・熊太郎さん△10万円との銀行と預金者の関係があり、同時に受領者側の銀行と預金者の間で、蛸八さん+10万円・池田泉州銀行△10万円の関係が存在している状態である。
このうち、熊太郎さんと蛸八さんの間では話は終わっており、各口座持ち主と銀行の間では口座残高の増減で話が終わっている状態だが、北海道銀行と池田泉州銀行の間では、まだバランスしていない状態である。
この銀行間のバランスは、中央銀行で処理・調整される。
これら銀行は、総て日銀に自分の口座を持っており、その日一日の銀行間の送金・受領等の貸し借りを精算し、その差額が日銀内の各銀行口座に移動するのである。
こういうシステムの中で、北海道銀行と池田泉州銀行間の資金も決済されるのである。
仮に、その日一日にあった取引が熊太郎・蛸八間送金だけだった場合、日銀の北海道銀行の口座から日銀の池田泉州銀行の口座に10万円が移動し、その日の決済が無事終了する、との段取である。
国内の場合は、その国の中央銀行が決済の軸の役割を担うのだが、これが国際間送金の場合はちょっと違っている。「世界中央銀行」の様な統一した決済組織は存在していないのである。
それでは、どの様に国際送金の決済をしているのかというと、通貨毎に、決済機能を有する銀行があり、そこが国内送金に於ける中央銀行(日銀)の役割を担っているのである。
世界に於ける基軸通貨は米ドル。それに準じる国際的に通用する通貨(ハードカレンシー)としてユーロ、円、ポンドである。通貨に関しての基礎知識は以前論評している(*1)ので、興味あれば、そちらをご覧いただくとして、今回は通貨為替の話はしない。
国際決済機能を有する銀行のことを「コルレス銀行」と言い、ネットで調べると以下の様な銀行名を知ることが出来る。とは言え、細かくは、そうそう簡単で単純な話ではないので、注意が必要なのだが、今回の話題を理解する上での基礎知識としては、この程度で取り敢えずは充分である。
・米ドル=シティバンク 及び JPモルガン・チェース
・ユーロ=ドイツ銀行
・日本円=東京銀行 → 今は三菱東京UFJ銀行
・ポンド=香港上海銀行(イギリスの銀行。中国の銀行ではない。)
国内の送金決済が、自国通貨にて自国の中央銀行で行われるのと違い、国際決済の場合は、円をドルにする等の通貨為替があり、その上で、上記したコルレス銀行を通じて送金決済が行われる。この様に、国内の送金決済と違っている点は、通貨為替があること、決済の軸となるのが主要通貨国の主要銀行であることの2点である。
何を言いたいのかというと、先述した「結局は「アメリカの銀行」が介在することになり、ブラックリストに載ると送金がストップしてしまう」仕組みの説明である。
例えば、日本から米ドルを、ミャンマーに住む水島さんのプチャラオ銀行の口座に送金する場合、送金依頼を受けた日本の銀行は、「コルレス契約」をしているアメリカの銀行に「ミャンマーのプチャラオ銀行の水島の口座に××US$を送れ」との情報が送られ、それを受けたアメリカの銀行がプチャラオ銀行と「コルレス契約」をしていれば、そこに送って送金完了となる仕組みである。
この様に、日本-ミャンマー間の国際決済なのだが、仕組み上、「アメリカの銀行」を介して行う必要があり、そこに至った段階で、その「アメリカの銀行」がブラックリストとの照合を行い、該当すれば、そこでストップするとの構造なのである。
実際、2012年の当時のオバマ大統領がミャンマーを訪問して、経済制裁を解除する旨を表明する前は、ミャンマー向け送金は色々と面倒臭いものがあった。
「日本-ミャンマー間送金であっても、米ドル送金だからアメリカの銀行が介在するのであって日本からユーロを送ればアメリカの規制に引っ掛からないのでは?」そう考えた方は「慣れている方」かもしれないが、実際は「基軸通貨が米ドル」なのである。
「日本円→ユーロ」との為替取引は、形式的には「日本円→基軸通貨米ドル→ユーロ」との構造なので、結局は、「米ドルの存在=アメリカの銀行=ブラックリストとの照合」との網に引っ掛かるのである。
ブラックリストに載ってしまうと、事実上、国際決済の場から締め出され、兵糧攻め状態となる、との仕組みは、こういう国際通貨制度という基盤の上に成り立っているのである。これが原則である。
勿論、原則から外れる話は存在するし、また、「世界は腹黒い」ので「抜け穴」もある。
だからこそ、北朝鮮が国連制裁対象になっても中国等を介在して物資の交流は途絶えていない。それと同じ様に、ブラックリストに記載されても、「裏の世界」の資金流通までは止まらない。しかし、そんな話をしているのではない。真っ当な世界での話である。
真っ当な世界では、アメリカの「OFAC規制」に反したと認定された銀行は生き残れない。
それ故に、我国の銀行は、ブラックリストに記載されている相手への送金依頼を最初から受け付けていない。ブラックリスト(SDNリスト)と言っても、一般の人々には何のことか分からないので、我国の銀行の場合は、送金依頼を受け付けられないケースとして以下の様な注意書きをしている。
<注意書きの事例>
※(引用元銀行に配慮して一部改変しているが趣旨は変わらず)
○送金先の所在地・関係国・関係地等に、・イラン、・スーダン共和国、・キューバ、・北朝鮮、・シリア、・クリミア地域が含まれている場合
○米国政府により特定されている、・テロリスト、・麻薬取引者、・大量破壊兵器取引者、・多国籍犯罪組織など
<事例終わり>
銀行側にしてみたら、これらの送金をして、「OFAC規制」に反したと認定されれば、基軸通貨米ドルに係る銀行業務が出来なくなるのであり、それは倒産を意味する。
これが基軸通貨国の国力である。
以前から、国力の代表的両輪は軍事力と経済力にあると述べている通り、軍事的な大国が、必ずしも世界をリードしていない状態の理由がここにあることがわかるだろう。
経済力は経済力自体でパワーがあり、けして、「軍事力を支える経済力」だけではないのである。
一方、誤解しないでいただきたいのは、経済力だけでは、その真のパワーを発揮しない。
だからこそ、国力の「両輪」だと述べているのである。
現在の世界は、ルーズベルトの失政(*2)で先の大戦後の共産主義国ソ連の拡大が起こったが、これは日英仏独等の列強の没落であり、共産主義国ソ連の急拡大により、戦後の米ソ東西冷戦構造に陥ったが、ソ連の没落により、アメリカ一人勝ち状態となったのだが、その過程でソ連からの離反を目的に優遇した中共が、それに乗じて肥大化し、今は、支那文明が西欧文明型世界秩序に兆戦をしている状態だ。
現代の世界の構造からは、軍事のみならず、経済力が独自の国家パワーとして存在しており、これを使わない手はないと、有形無形の世界の仕組みが存在している。
リストに何を載せるのかは、アメリカの胸先三寸である。しかし、これに逆らうには相当な覚悟が必要だ。
具体的な事例としては、送金が困難だった民主化前のミャンマーがある。
ミャンマーは、2012年のオバマ訪問以前は、制裁対象国として長らく封鎖状態にあった。
その際は、幾つかのミャンマー組織や企業が、このブラックリストに掲載されていて、ミャンマーの大手銀行自体が記載されていた。我国の視点では、必ずしもミャンマーは「悪い国」ではないのだが、リストに記載されていることにより、経済開発援助も、それに伴うビジネスチャンスも活かせないという状態であった。
「アメリカの御意向」は必ずしも正しくはないことは知っての通りであるが、世界の仕組みとしてはこうなっているのである。
我が国自体、「国際平和のための国際的努力への寄与(米、EU等との協調)」とのキーワードから読み取れる様に、我が国は、欧米諸国との協調路線を堅持しており、欧米諸国と敵対してまで独自路線をとる程の問題なのかと言えば、そうではない。ここら辺は、正に政治的判断である。
ミャンマーは、世界の平和・安寧に悪影響を及ぼしている国ではないのだが、残念ながら、以前は、そういう対象になってしまっていた。
この様な世界情勢の中で、我が国は、我々日本人が持つ文明・伝統・生活習慣の集積に基づく正邪判断により、どの様な外交姿勢を示すのかは重要な課題なのである。
現在の安倍政権の外交に関しては、当方視点からは、100点満点を超える動きをしていると評価している。評価の基準は、実際の国際関係の大局・長期ビジョンである
話を戻す。ミャンマーの様な事例とは違い、世界に悪い影響を与えている組織や国や人物は存在しており、そういう対象が、望ましくない活動を継続できない様にすることは、世界の平和・安寧の維持には必要だ。
国家で言えば、北朝鮮のやっていることなど言語道断。核兵器と弾道ミサイルで我が国をはじめ他国を脅して利益を得ようとしているチンピラそのものである。
また世界には、自分の利益の為には他者を顧みない無法な犯罪集団がいる。
ここで言う「利益」とは、何も金銭的利益だけではない。ファナティックな思想・信条を推進することも、それら集団の利益のうちである。
そういう一部の考え方を他者に押し付ける集団の活動が活発化すると、世界の平和・安寧は脅かされる。具体的には、マフィア、ヤクザ、麻薬組織等の犯罪集団やISISの様な狂信的集団だ。
長くなったので今回は、ここ迄とする。
最後に一言だけ述べるが、国際政治・国際経済・国際的仕組み等は複雑で、それへの理解が足りないと、所謂「サヨク」側が常用する「国際関係を隠した論調」に騙されるし、所謂「保守」が安易に「鎖国」とか「断交」とか言っている様だが、現実はそんな単純なものではないのである。
【文末脚注】
(*1):基軸通貨米ドルとハードカレンシーのユーロ、円、ポンド
2016/09/20投稿:通貨のお話1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-504.html
2016/09/22投稿:通貨のお話2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-505.html
【ご参考】
2017/02/10投稿:最近の通貨のお話1-人民元SDR
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-601.html
(*2):ルーズベルトの失政
「フーバー回顧録」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-category-11.html
【ご参考】
OFAC規制のSDNリスト対象者確認ページ
Search OFAC's Sanctions Lists Including the SDN List
https://sanctionssearch.ofac.treas.gov/
※対象検索ページである。
パラメータ欄が色々あるが、「Country」で「Japan」を選び検索すると、日本関係でブラックリストに掲載されている個人・法人等が出てくる。
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副題:国力の両輪は軍事力と経済力。経済力は経済力自体でパワーがあり、けして、「軍事力を支える経済力」だけではない。一方、経済力だけでは、その真のパワーを発揮しない。
アメリカの「OFAC規制」との言葉を聞いたことがあるだろうか?
「OFAC規制」とは「OFAC=Office of Foreign Asset Control=アメリカ財務省・外国資産管理局」が担当・執行する規制のことである。
どの様な規制なのかというと、先ず、その対象はアメリカの国家安全保障を脅かす相手である。アメリカにとって好ましくない国や組織や個人をブラックリストに登録して、そういう相手のアメリカ国内にある資産を凍結するという方法で、それら好ましくない相手に対抗。兵糧攻めをする規制である。
「資産凍結」とは、分かり易く言うと、自分の銀行預金なのだけれど銀行からの引き出しが出来なくなる措置などである。
預金がなくても「ドル送金の停止」という方法で資産凍結=兵糧攻めが出来る。
詳しくは後段で説明する。
「好ましくない国や組織や個人をブラックリストに登録」するのたが、この規制での「ブラックリスト」は「SDNリスト」と言う。SDNとは「Specially Designated Nationals and blocked Persons」(特別に指定された国及びブロックされた人物)の略で、要するに、アメリカが指定した、要注意国、要注意人物・組織等リストのことである。
このブラックリストに記載されると、どうゆう事が起こるのかというと、「資産凍結対象」となり、事実上、海外送金=国際間の資金移動が出来なくなる。
この「OFAC規制」を守る責任を負うのが、アメリカの銀行とアメリカ国内にある外国銀行のアメリカ支店などである。これら銀行は、預金預入者や送金依頼者がブラックリストに該当するか否かを確認する義務を負い、また、送金の場合は、依頼者のみならず、送金先がブラックリスト該当者か否かの確認をする義務を負っている。
「OFAC規制」の概要としては、こんなもんである。
「なんだ、規制を守る責任を負うのは、アメリカの銀行や、アメリカに支店を持つ大手銀行だけじゃないか、実効性あるのかよ」と、タカをくくっていると痛い目に合う。
何故なら、ドルやユーロや円などの、国際的に通用する通貨を国際間送金する場合の仕組みとしては、結局は「アメリカの銀行」が介在することになるので、事実上、そこで送金がストップすることになるからである。
ちょっと難しいが、この点を説明しよう。
銀行送金の場合、現金である紙幣や貨幣が物理的に移動するのではなく、情報が行き来して決済が行われる。国内の場合は、中央銀行=日銀が決済の中心に位置する。その例を少々述べる。
北海道の熊太郎さんが、大阪の蛸八さんに10万円送金する場合、紙幣を封筒に詰めて郵便局から現金書留で送る方法もあるが、今や一般的ではないので、情報が行き来するだけの銀行振込の事例を述べる。
熊太郎さんが、自分の北海道銀行の口座から、大阪の池田泉州銀行にある蛸八さんの口座に送金するとしよう。
北海道での熊太郎さんの手続きも、大阪での蛸八さんの手続きでも「紙幣の様な物理的なお金の移動」はない。あるのは、熊太郎さんの口座から10万円少なくなり、蛸八さんの口座の残高が10万円多くなったとの「情報」だけである。
熊太郎さんと蛸八さんの間での金銭のやり取りは、これで御仕舞であるが、決済をした北海道銀行と池田泉州銀行の間では、まだお金の残高がバランスしていない。
この状態は、送金側では、北海道銀行+10万円・熊太郎さん△10万円との銀行と預金者の関係があり、同時に受領者側の銀行と預金者の間で、蛸八さん+10万円・池田泉州銀行△10万円の関係が存在している状態である。
このうち、熊太郎さんと蛸八さんの間では話は終わっており、各口座持ち主と銀行の間では口座残高の増減で話が終わっている状態だが、北海道銀行と池田泉州銀行の間では、まだバランスしていない状態である。
この銀行間のバランスは、中央銀行で処理・調整される。
これら銀行は、総て日銀に自分の口座を持っており、その日一日の銀行間の送金・受領等の貸し借りを精算し、その差額が日銀内の各銀行口座に移動するのである。
こういうシステムの中で、北海道銀行と池田泉州銀行間の資金も決済されるのである。
仮に、その日一日にあった取引が熊太郎・蛸八間送金だけだった場合、日銀の北海道銀行の口座から日銀の池田泉州銀行の口座に10万円が移動し、その日の決済が無事終了する、との段取である。
国内の場合は、その国の中央銀行が決済の軸の役割を担うのだが、これが国際間送金の場合はちょっと違っている。「世界中央銀行」の様な統一した決済組織は存在していないのである。
それでは、どの様に国際送金の決済をしているのかというと、通貨毎に、決済機能を有する銀行があり、そこが国内送金に於ける中央銀行(日銀)の役割を担っているのである。
世界に於ける基軸通貨は米ドル。それに準じる国際的に通用する通貨(ハードカレンシー)としてユーロ、円、ポンドである。通貨に関しての基礎知識は以前論評している(*1)ので、興味あれば、そちらをご覧いただくとして、今回は通貨為替の話はしない。
国際決済機能を有する銀行のことを「コルレス銀行」と言い、ネットで調べると以下の様な銀行名を知ることが出来る。とは言え、細かくは、そうそう簡単で単純な話ではないので、注意が必要なのだが、今回の話題を理解する上での基礎知識としては、この程度で取り敢えずは充分である。
・米ドル=シティバンク 及び JPモルガン・チェース
・ユーロ=ドイツ銀行
・日本円=東京銀行 → 今は三菱東京UFJ銀行
・ポンド=香港上海銀行(イギリスの銀行。中国の銀行ではない。)
国内の送金決済が、自国通貨にて自国の中央銀行で行われるのと違い、国際決済の場合は、円をドルにする等の通貨為替があり、その上で、上記したコルレス銀行を通じて送金決済が行われる。この様に、国内の送金決済と違っている点は、通貨為替があること、決済の軸となるのが主要通貨国の主要銀行であることの2点である。
何を言いたいのかというと、先述した「結局は「アメリカの銀行」が介在することになり、ブラックリストに載ると送金がストップしてしまう」仕組みの説明である。
例えば、日本から米ドルを、ミャンマーに住む水島さんのプチャラオ銀行の口座に送金する場合、送金依頼を受けた日本の銀行は、「コルレス契約」をしているアメリカの銀行に「ミャンマーのプチャラオ銀行の水島の口座に××US$を送れ」との情報が送られ、それを受けたアメリカの銀行がプチャラオ銀行と「コルレス契約」をしていれば、そこに送って送金完了となる仕組みである。
この様に、日本-ミャンマー間の国際決済なのだが、仕組み上、「アメリカの銀行」を介して行う必要があり、そこに至った段階で、その「アメリカの銀行」がブラックリストとの照合を行い、該当すれば、そこでストップするとの構造なのである。
実際、2012年の当時のオバマ大統領がミャンマーを訪問して、経済制裁を解除する旨を表明する前は、ミャンマー向け送金は色々と面倒臭いものがあった。
「日本-ミャンマー間送金であっても、米ドル送金だからアメリカの銀行が介在するのであって日本からユーロを送ればアメリカの規制に引っ掛からないのでは?」そう考えた方は「慣れている方」かもしれないが、実際は「基軸通貨が米ドル」なのである。
「日本円→ユーロ」との為替取引は、形式的には「日本円→基軸通貨米ドル→ユーロ」との構造なので、結局は、「米ドルの存在=アメリカの銀行=ブラックリストとの照合」との網に引っ掛かるのである。
ブラックリストに載ってしまうと、事実上、国際決済の場から締め出され、兵糧攻め状態となる、との仕組みは、こういう国際通貨制度という基盤の上に成り立っているのである。これが原則である。
勿論、原則から外れる話は存在するし、また、「世界は腹黒い」ので「抜け穴」もある。
だからこそ、北朝鮮が国連制裁対象になっても中国等を介在して物資の交流は途絶えていない。それと同じ様に、ブラックリストに記載されても、「裏の世界」の資金流通までは止まらない。しかし、そんな話をしているのではない。真っ当な世界での話である。
真っ当な世界では、アメリカの「OFAC規制」に反したと認定された銀行は生き残れない。
それ故に、我国の銀行は、ブラックリストに記載されている相手への送金依頼を最初から受け付けていない。ブラックリスト(SDNリスト)と言っても、一般の人々には何のことか分からないので、我国の銀行の場合は、送金依頼を受け付けられないケースとして以下の様な注意書きをしている。
<注意書きの事例>
※(引用元銀行に配慮して一部改変しているが趣旨は変わらず)
○送金先の所在地・関係国・関係地等に、・イラン、・スーダン共和国、・キューバ、・北朝鮮、・シリア、・クリミア地域が含まれている場合
○米国政府により特定されている、・テロリスト、・麻薬取引者、・大量破壊兵器取引者、・多国籍犯罪組織など
<事例終わり>
銀行側にしてみたら、これらの送金をして、「OFAC規制」に反したと認定されれば、基軸通貨米ドルに係る銀行業務が出来なくなるのであり、それは倒産を意味する。
これが基軸通貨国の国力である。
以前から、国力の代表的両輪は軍事力と経済力にあると述べている通り、軍事的な大国が、必ずしも世界をリードしていない状態の理由がここにあることがわかるだろう。
経済力は経済力自体でパワーがあり、けして、「軍事力を支える経済力」だけではないのである。
一方、誤解しないでいただきたいのは、経済力だけでは、その真のパワーを発揮しない。
だからこそ、国力の「両輪」だと述べているのである。
現在の世界は、ルーズベルトの失政(*2)で先の大戦後の共産主義国ソ連の拡大が起こったが、これは日英仏独等の列強の没落であり、共産主義国ソ連の急拡大により、戦後の米ソ東西冷戦構造に陥ったが、ソ連の没落により、アメリカ一人勝ち状態となったのだが、その過程でソ連からの離反を目的に優遇した中共が、それに乗じて肥大化し、今は、支那文明が西欧文明型世界秩序に兆戦をしている状態だ。
現代の世界の構造からは、軍事のみならず、経済力が独自の国家パワーとして存在しており、これを使わない手はないと、有形無形の世界の仕組みが存在している。
リストに何を載せるのかは、アメリカの胸先三寸である。しかし、これに逆らうには相当な覚悟が必要だ。
具体的な事例としては、送金が困難だった民主化前のミャンマーがある。
ミャンマーは、2012年のオバマ訪問以前は、制裁対象国として長らく封鎖状態にあった。
その際は、幾つかのミャンマー組織や企業が、このブラックリストに掲載されていて、ミャンマーの大手銀行自体が記載されていた。我国の視点では、必ずしもミャンマーは「悪い国」ではないのだが、リストに記載されていることにより、経済開発援助も、それに伴うビジネスチャンスも活かせないという状態であった。
「アメリカの御意向」は必ずしも正しくはないことは知っての通りであるが、世界の仕組みとしてはこうなっているのである。
我が国自体、「国際平和のための国際的努力への寄与(米、EU等との協調)」とのキーワードから読み取れる様に、我が国は、欧米諸国との協調路線を堅持しており、欧米諸国と敵対してまで独自路線をとる程の問題なのかと言えば、そうではない。ここら辺は、正に政治的判断である。
ミャンマーは、世界の平和・安寧に悪影響を及ぼしている国ではないのだが、残念ながら、以前は、そういう対象になってしまっていた。
この様な世界情勢の中で、我が国は、我々日本人が持つ文明・伝統・生活習慣の集積に基づく正邪判断により、どの様な外交姿勢を示すのかは重要な課題なのである。
現在の安倍政権の外交に関しては、当方視点からは、100点満点を超える動きをしていると評価している。評価の基準は、実際の国際関係の大局・長期ビジョンである
話を戻す。ミャンマーの様な事例とは違い、世界に悪い影響を与えている組織や国や人物は存在しており、そういう対象が、望ましくない活動を継続できない様にすることは、世界の平和・安寧の維持には必要だ。
国家で言えば、北朝鮮のやっていることなど言語道断。核兵器と弾道ミサイルで我が国をはじめ他国を脅して利益を得ようとしているチンピラそのものである。
また世界には、自分の利益の為には他者を顧みない無法な犯罪集団がいる。
ここで言う「利益」とは、何も金銭的利益だけではない。ファナティックな思想・信条を推進することも、それら集団の利益のうちである。
そういう一部の考え方を他者に押し付ける集団の活動が活発化すると、世界の平和・安寧は脅かされる。具体的には、マフィア、ヤクザ、麻薬組織等の犯罪集団やISISの様な狂信的集団だ。
長くなったので今回は、ここ迄とする。
最後に一言だけ述べるが、国際政治・国際経済・国際的仕組み等は複雑で、それへの理解が足りないと、所謂「サヨク」側が常用する「国際関係を隠した論調」に騙されるし、所謂「保守」が安易に「鎖国」とか「断交」とか言っている様だが、現実はそんな単純なものではないのである。
【文末脚注】
(*1):基軸通貨米ドルとハードカレンシーのユーロ、円、ポンド
2016/09/20投稿:通貨のお話1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-504.html
2016/09/22投稿:通貨のお話2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-505.html
【ご参考】
2017/02/10投稿:最近の通貨のお話1-人民元SDR
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-601.html
(*2):ルーズベルトの失政
「フーバー回顧録」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-category-11.html
【ご参考】
OFAC規制のSDNリスト対象者確認ページ
Search OFAC's Sanctions Lists Including the SDN List
https://sanctionssearch.ofac.treas.gov/
※対象検索ページである。
パラメータ欄が色々あるが、「Country」で「Japan」を選び検索すると、日本関係でブラックリストに掲載されている個人・法人等が出てくる。



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