続・「立憲主義」は現行憲法では成り立たない
- 2017/07/19
- 19:21
続・「立憲主義」は現行憲法では成り立たない

副題:我が国の「国の形」とは違う、異文化・異民族アメリカ人が書いた「憲法」が憲法の座に鎮座しているのが現状。そういう構造では立憲主義が成り立たないのである。
・本編は、以下の論考の続編である。とは言え、主張内容は同じである(笑)
2016/11/29投稿:
「立憲主義」は現行憲法では成り立たない
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-553.html
・表題にある括弧付き「立憲主義」との表記は、約2年前あたりから、所謂「護憲派」が使用し始めた、単なる「護憲」の言い換えとしての「立憲主義」との言葉(*1)と本来的意味の立憲主義を区分する為である。
憲法議論の邪魔をして改憲を阻止するとの、所謂「護憲派」の基本戦術には、様々な仕掛けが組み込まれており、上記した「立憲主義」との言葉の定義捻じ曲げも、その仕掛けの1つである。そういう認識がないと、憲法議論は出口のない迷宮へと落とし込まれ、議論が進まない。そして、結果として憲法議論が進まず、「改憲を阻止する」との彼等の術中に嵌ってしまうのである。
現行憲法は、マッカーサー3原則に基づきGHQスタッフが1週間から10日程度で作成したGHQ草案に基づいていることは、再三にわたり論証してきた史実である。(*2)
この史実に対してさえ、「現行憲法は押し付け憲法ではない」とのスローガンをぶつけてきている。
「押し付け憲法である」との証明をするのに多くの労力を費やすことになるので、肝心な憲法の中身の議論に入れない事態に陥る。この手の仕掛けが近年も続いている。
そんな訳で、今回も、繰り返して「仕掛け」の解除をするものである。
ご存じの通り、現行憲法の原典は英文であるのだが、我々日本人が使っている「日本国憲法」(*3)との語句は、英文では「THE CONSTITUTION OF JAPAN」(*4)である。
「CONSTITUTION」との英単語の訳語は「憲法」だけではない。
「CONSTITUTION」を英和辞典で調べると、「構成」「構造」「体質」「気質」「性質」「政体」「国体」「制定(すること)」「憲法」等々の訳語が出てくる。
また、「CONSTITUTION」を英々辞典で調べると、「the system of laws and basic principles that a state, a country or an organization is governed by(国家または組織の統治の基本原則及びその法体系)」とあり、和訳の「構成」「構造」「体質」「気質」等々と整合する概念が提示される。
難しい言葉が並ぶが、要するに「CONSTITUTION」とは「国の形」のことなのである。
先の大戦の敗戦国である我が国は、特殊な状態にあるのだが、そうではない国々であるアメリカやフランスの「CONSTITUTION」を見ると、それら憲法は法体系の中で実体法としての役割・性格を持つのと同時に、その国の「国の形」「国家の理念」が書かれていることがわかるだろう。
伊藤博文が大日本帝国憲法編纂の為に訪欧した際に、ドイツ(当時はプロイセン)の法学者ルドルフ・フォン・グナイストは、憲法の法文のみに注目することを諌める言葉を残している。(*5)「憲法とは精神である、国家の能力である。」とし、「日本の今日迄の君民の実体や風俗人情や歴史」に基づき日本の憲法は編纂されるべきものだと、19世紀プロイセンの学者らしく辛辣ながら的確な言葉を述べている。
憲法自体が実体法であることは自明であるので、逆に「実体法のみ」だとする認識を諌めたものだと解している。
「CONSTITUTION」との英単語の訳語「構成」「構造」「体質」「気質」「性質」「政体」「国体」「制定(すること)」「憲法」等々を見れば、ルドルフ・フォン・グナイストが指摘した「歴史と文化と生活実態の集積に基づいた「国の形」を憲法は具備すべき」との考え方の提示は、130余年を経た今日も色褪せてはいない。
ところが、この様な認識を認めたがらないのが所謂「護憲派」である。
彼等は、立憲主義の本来的構造を認めず、その構図をネジ曲げたものを「立憲主義」だと言っているのである。
<本来的立憲主義の構造>
「歴史と文化と生活実態の集積に基づいた「国の形」を成文化した憲法」
=(憲法の精神・憲法の規定)
↓
統治権行使権者が憲法に基づき統治を行う。
<括弧付「立憲主義」の構造>
現行憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)ありき
↓
現行憲法に基づき統治権行使権者(内閣総理大臣)は統治を行え
(意味:現行憲法を改憲するんじゃねぇ~よ!)
本来的な立憲主義は、その国の国民が続けてきた生活・慣れ親しんだ正邪判断を基準とした憲法の精神・憲法の規定に基づき統治権行使権者が統治を行うものであり、それが、その国の民の幸福を増進するものだ。
逆に言えば、中世欧州絶対王政の様な、統治権行使権者の恣意的な統治、身勝手な統治は許されず、憲法の精神・憲法の規定から逸脱する勝手な専横・専制はアカンのじゃ、ということである。
ポイントは、「憲法の精神・憲法の規定」にある。
憲法の精神・憲法の規定がその国の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた「国の形」に合致しているからこそ、「憲法の精神・憲法の規定」に基づき統治が執行されることで国民生活に齟齬が発生しないので、民の幸福が担保されるのである。
この事を分かり易く言えば、我々日本人の歴史と生活実態の集積とは違う、例えばイスラム世界の歴史・生活実態の集積に基づく「憲法」を我々日本人が統治ルールとしたとするならば、我々は全然幸福ではなく、違和感持ちまくり状態となるのである。
ごく最近のニュースなのだが、41歳の日本人男性と28歳の日本人女性によるドバイの海岸での「婚外性交渉」が、イスラム法に基づき有罪とされた事件があった。(*6)
興が乗ってしまったのであろうが、なにもUAEの海岸で事に及ぶこともあるまい。
我が国の場合、この様な行為が発覚した場合は、奥さんからのこっ酷い仕打ちが待っていることになるのであろうだが、国家が刑法で罰する対象ではない。
「婚外性交渉を国家が刑法で裁く罪」としているのは、イスラム文化だからだ。
我が国にイスラム文化に基づく法を適用していたら、永井荷風の「墨東奇談」は存在し得ない。また、古典落語には艶笑小噺があり、その中には、女将さんが間男を引っぱり込む話(*7)もある。この様な場合、その成敗は旦那にまかされ私的なものとなるのだが、笑いの種にもする文化である。
ドバイでの話や落語の話ならば笑っていられるが、同じイスラム法で深刻な問題も発生している。(*8)ドバイでレイプ被害を訴えたノルウェー人女性が、このイスラム法で逆に婚外性交渉で有罪判決を受けた事例である。
この様な「被害女性が有罪」との「判決」は、我々日本文化の中で暮らしている日本人が理解するのは困難であり、同様、西欧文明圏の欧米も理解できないものとして、この「判決」を批判している。
主権国家というのは、そういうもので、各国は、各国の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた、各国の「国の形」があるのである。
そろそろ結論へと進むが、我が国には、我が国の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた我が国の形があるのだが、戦後の我が国は、我が国とは異なる歴史・文明を背景とするアメリカ人の手による現行憲法が「憲法の座」に鎮座ましましており、物事を突き詰めると、我々の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた正邪判断基準とは違った「基準」が法的に適用され、様々な齟齬が生じているということだ。
要するに立憲主義の基礎たる「憲法」自体が立憲主義の要件を満たしておらず、立憲主義が成り立たないということだ。
イスラム文明圏のイスラム法は、明らかに我々日本文明と違っており、齟齬が多々発生するのでわかり易いが、幸か不幸か、西欧文明と我が国日本文明は、多くの共通点を持っているので、多くの場合は齟齬が顕在化していない。しかし、それも程度問題であり、定性的には異文化のものが「憲法の座」に座っていることに違いはないということだ。
そういう構造では立憲主義が成り立たないのであるが、現行憲法を残置させたい所謂「護憲派」は、それではマズイので、定義を捻じ曲げた「立憲主義」なる新造語=別概念を提示し始めているのである。
異文明アメリカ人の世界観で創作された「現行憲法」を基準点とした「立憲主義」とのマヤカシではなく、我が国の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた我が国の形に合致した憲法へと改憲し、本来的な立憲主義の遂行により、我々日本人の幸福を増進させるべきだと考えている。
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【文末脚注】
(*1):括弧付き「立憲主義」についての論評
2015/08/04投稿:
【コラム】国会前での新表現「立憲主義」の虚構
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-174.html
2016/11/27投稿:
定義捻じ曲げ「立憲主義」の笑止千万
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-551.html
(*2):現行憲法は、マッカーサー3原則に基づきGHQスタッフが1週間から10日程度で作成したGHQ草案に基づいている
<マッカーサー3原則>
2016/07/29投稿:
(資料編)マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-467.html
2016/07/30投稿:
(解説編1)資料・マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-468.html
2016/07/31投稿:
(解説編2)資料・マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
2016/08/01投稿:
(解説編3)資料・マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-470.html
<憲法第1条関係時系列>
2017/03/02投稿:
(資料編)続&続々・憲法1条に混入している共和制の罠
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-618.html
<マッカーサー3原則の第2原則は前文と9条に>
2017/05/20投稿:
(資料編)憲法前文の登場・9条の登場と変遷
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-674.html
(*3):現行憲法の名称(e-govより)
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html
(*4):現行憲法の英文名(官邸HPより)
THE CONSTITUTION OF JAPAN
http://japan.kantei.go.jp/constitution_and_government/frame_01.html
(*5):憲法の法文のみに注目することを諌める言葉
伊藤博文は憲法編纂の為に明治15年(1882年)3月4日横浜から欧州に向けて出発し、翌年8月4日に戻るまでの約1年半の間、ドイツやイギリス等を訪問した。
ドイツ(当時はプロイセン)の法学者ルドルフ・フォン・グナイストを訪問した伊藤博文が憲法編纂のために「参考になる材料」を要請したところ、ルドルフ・フォン・グナイストは以下の様に答えたと記録されている。
【それは遠方から独逸を目標にお出でくださったのは感謝の至りだが、憲法は法文ではない。精神である、国家の能力である。
余は独逸人であり、かつ欧州人である。欧州各国の事は一通り知って居る、独逸の事は最も能く知って居る、が遺憾ながら日本国の事は知って居ない。
それも研究したら解るだろうが、先ず余から日本の事をお尋ね致そう、日本国の今日迄の君民の実体且は風俗人情、其の他過去の歴史を明瞭に説明して貰いたい。それに就て考えて、御参考になる事は申し述べても宜い。
それを申し上げるけれども、確か夫が貴君の御参考になるか如何か、憲法編纂の根拠になるか如何かは余に於て自信はない。」
<尚、同資料には【尾佐竹猛「日本憲政史」日本評論社1930年338ページ】との引用元脚注があるが、当方はその引用元原著までは辿り着いていない>
(*6):イスラム法適用例その1
HuffPost Japan
投稿日: 2017年07月18日 11時40分 JST 更新: 2017年07月18日 18時57分 JST
見出し:◆ドバイのビーチで婚外性交渉の疑い、日本人男女に有罪判決
http://www.huffingtonpost.jp/2017/07/17/japanese-duo-arrested-in-dubai_n_17512890.html
記事本文:○アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで日本人カップルが「婚外性交渉」の罪に問われている。地元の英字紙ガルフ・ニュースが伝えた。
○事件は3月、ドバイ有数のビーチ、アルサフーハで発生した。非番の警察官が、ビーチに停められていた車の中で性交渉をしている日本人カップルを見つけ、通報したという。
○日本人カップルは41歳の男性と28歳の女性。取り調べに対して2人は、酒に酔って腹部に痛みを感じたため、服を脱いだと話しているという。
○しかし、2人は婚外の相手との性交渉と飲酒の罪に問われ、裁判所は執行猶予付きで禁固1カ月などとする有罪判決を言い渡し、強制送還とした。2人は上訴しており、上級審は9月に開かれる予定だという。
○UAEではシャリーア(イスラム法)に基づいた刑法が適用されるため、外国人であっても配偶者以外と性交渉することに対して、厳しい規制がある。
○2016年には2人のイギリス人男性にレイプされたと訴える25歳のイギリス人女性旅行者が、配偶者以外と性交渉した「婚外性交渉の罪」に問われ逮捕された。2013年にはノルウェー人の女性が、強姦されたと訴えたところ、16カ月の禁錮刑を言い渡されたが、後に恩赦を受けた。
<引用終わり>
(*7):古典落語の艶笑話(間男話)
「風呂敷間男」: http://rakugo.xyz/koten-vol49/
「紙入れ」 : http://rakugo.xyz/koten-vol48/
(*8):イスラム法適用例その2
産経ニュース 2013.8.4 18:00更新
http://www.sankei.com/world/news/130804/wor1308040035-n1.html
見出し:◆ドバイでレイプ被害を訴えたノルウェー人女性 逆に婚外性交渉で有罪に イスラム法では当然?!
記事本文(抜粋)○同僚から受けた婦女暴行の被害を告訴したら、配偶者以外と性交渉を持った罪で罰せられた-。そんな悪夢のような事態が、アラブ首長国連邦のドバイで現実となった。被害を訴えたのは、ドバイに出張中だったノルウェー人の女性(24)。シャリーア(イスラム法)に基づく厳格な国内法が適用された結果(中略)
○婦女暴行の実行犯が婚外の性交渉などで禁錮1年1月の有罪判決だったのに対し、(中略)実行犯を上回る禁錮1年4月を言い渡されたことから、欧米メディアが一斉に批判。ノルウェーのアイデ外相が「人権や正義に関する基本的な認識に反する全く受け入れられない判断だ」と憤りをあらわにした。
○CNNによると、結婚前の男女が同室で宿泊でき、許可制のバーでなら飲酒も可能だが、当局が厳しい摘発を行わないだけで、明確な違法行為に当たる。
○中でも婦女暴行は、被害者が告訴すれば、問答無用で婚外性行為の罪に問われる“ブーメラン現象”が過去にも問題となっており、欧米メディアによると、2008年にはオーストラリア出身の女性、10年にも英国の女性が禁錮刑を受けたという。
○また、婦女暴行の立証には、実行犯による自白か、少なくとも成人男性4人の証言が必要。密室や集団での犯行に証人を見つけるのは困難で、自白を期待できるわけもなく、被害者が告訴しても婚外の性行為だけが立証され、罰を受ける例も多いという。
○こうした法の運用は、前時代的で公平性に欠けるとの国際的な批判も根強いが、イスラム法を源流にした価値観を西洋の目線で切り捨てることへの違和感もあり、欧米諸国も強力な圧力をかけにくい現状があるようだ。(中略)ドバイには「彼らの法制度がある」と批判を控えており、自身の体験を公表することで、制度に違いがあるとの「認識を広げたい」と語っている。
<抜粋引用終わり>
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副題:我が国の「国の形」とは違う、異文化・異民族アメリカ人が書いた「憲法」が憲法の座に鎮座しているのが現状。そういう構造では立憲主義が成り立たないのである。
・本編は、以下の論考の続編である。とは言え、主張内容は同じである(笑)
2016/11/29投稿:
「立憲主義」は現行憲法では成り立たない
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-553.html
・表題にある括弧付き「立憲主義」との表記は、約2年前あたりから、所謂「護憲派」が使用し始めた、単なる「護憲」の言い換えとしての「立憲主義」との言葉(*1)と本来的意味の立憲主義を区分する為である。
憲法議論の邪魔をして改憲を阻止するとの、所謂「護憲派」の基本戦術には、様々な仕掛けが組み込まれており、上記した「立憲主義」との言葉の定義捻じ曲げも、その仕掛けの1つである。そういう認識がないと、憲法議論は出口のない迷宮へと落とし込まれ、議論が進まない。そして、結果として憲法議論が進まず、「改憲を阻止する」との彼等の術中に嵌ってしまうのである。
現行憲法は、マッカーサー3原則に基づきGHQスタッフが1週間から10日程度で作成したGHQ草案に基づいていることは、再三にわたり論証してきた史実である。(*2)
この史実に対してさえ、「現行憲法は押し付け憲法ではない」とのスローガンをぶつけてきている。
「押し付け憲法である」との証明をするのに多くの労力を費やすことになるので、肝心な憲法の中身の議論に入れない事態に陥る。この手の仕掛けが近年も続いている。
そんな訳で、今回も、繰り返して「仕掛け」の解除をするものである。
ご存じの通り、現行憲法の原典は英文であるのだが、我々日本人が使っている「日本国憲法」(*3)との語句は、英文では「THE CONSTITUTION OF JAPAN」(*4)である。
「CONSTITUTION」との英単語の訳語は「憲法」だけではない。
「CONSTITUTION」を英和辞典で調べると、「構成」「構造」「体質」「気質」「性質」「政体」「国体」「制定(すること)」「憲法」等々の訳語が出てくる。
また、「CONSTITUTION」を英々辞典で調べると、「the system of laws and basic principles that a state, a country or an organization is governed by(国家または組織の統治の基本原則及びその法体系)」とあり、和訳の「構成」「構造」「体質」「気質」等々と整合する概念が提示される。
難しい言葉が並ぶが、要するに「CONSTITUTION」とは「国の形」のことなのである。
先の大戦の敗戦国である我が国は、特殊な状態にあるのだが、そうではない国々であるアメリカやフランスの「CONSTITUTION」を見ると、それら憲法は法体系の中で実体法としての役割・性格を持つのと同時に、その国の「国の形」「国家の理念」が書かれていることがわかるだろう。
伊藤博文が大日本帝国憲法編纂の為に訪欧した際に、ドイツ(当時はプロイセン)の法学者ルドルフ・フォン・グナイストは、憲法の法文のみに注目することを諌める言葉を残している。(*5)「憲法とは精神である、国家の能力である。」とし、「日本の今日迄の君民の実体や風俗人情や歴史」に基づき日本の憲法は編纂されるべきものだと、19世紀プロイセンの学者らしく辛辣ながら的確な言葉を述べている。
憲法自体が実体法であることは自明であるので、逆に「実体法のみ」だとする認識を諌めたものだと解している。
「CONSTITUTION」との英単語の訳語「構成」「構造」「体質」「気質」「性質」「政体」「国体」「制定(すること)」「憲法」等々を見れば、ルドルフ・フォン・グナイストが指摘した「歴史と文化と生活実態の集積に基づいた「国の形」を憲法は具備すべき」との考え方の提示は、130余年を経た今日も色褪せてはいない。
ところが、この様な認識を認めたがらないのが所謂「護憲派」である。
彼等は、立憲主義の本来的構造を認めず、その構図をネジ曲げたものを「立憲主義」だと言っているのである。
<本来的立憲主義の構造>
「歴史と文化と生活実態の集積に基づいた「国の形」を成文化した憲法」
=(憲法の精神・憲法の規定)
↓
統治権行使権者が憲法に基づき統治を行う。
<括弧付「立憲主義」の構造>
現行憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)ありき
↓
現行憲法に基づき統治権行使権者(内閣総理大臣)は統治を行え
(意味:現行憲法を改憲するんじゃねぇ~よ!)
本来的な立憲主義は、その国の国民が続けてきた生活・慣れ親しんだ正邪判断を基準とした憲法の精神・憲法の規定に基づき統治権行使権者が統治を行うものであり、それが、その国の民の幸福を増進するものだ。
逆に言えば、中世欧州絶対王政の様な、統治権行使権者の恣意的な統治、身勝手な統治は許されず、憲法の精神・憲法の規定から逸脱する勝手な専横・専制はアカンのじゃ、ということである。
ポイントは、「憲法の精神・憲法の規定」にある。
憲法の精神・憲法の規定がその国の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた「国の形」に合致しているからこそ、「憲法の精神・憲法の規定」に基づき統治が執行されることで国民生活に齟齬が発生しないので、民の幸福が担保されるのである。
この事を分かり易く言えば、我々日本人の歴史と生活実態の集積とは違う、例えばイスラム世界の歴史・生活実態の集積に基づく「憲法」を我々日本人が統治ルールとしたとするならば、我々は全然幸福ではなく、違和感持ちまくり状態となるのである。
ごく最近のニュースなのだが、41歳の日本人男性と28歳の日本人女性によるドバイの海岸での「婚外性交渉」が、イスラム法に基づき有罪とされた事件があった。(*6)
興が乗ってしまったのであろうが、なにもUAEの海岸で事に及ぶこともあるまい。
我が国の場合、この様な行為が発覚した場合は、奥さんからのこっ酷い仕打ちが待っていることになるのであろうだが、国家が刑法で罰する対象ではない。
「婚外性交渉を国家が刑法で裁く罪」としているのは、イスラム文化だからだ。
我が国にイスラム文化に基づく法を適用していたら、永井荷風の「墨東奇談」は存在し得ない。また、古典落語には艶笑小噺があり、その中には、女将さんが間男を引っぱり込む話(*7)もある。この様な場合、その成敗は旦那にまかされ私的なものとなるのだが、笑いの種にもする文化である。
ドバイでの話や落語の話ならば笑っていられるが、同じイスラム法で深刻な問題も発生している。(*8)ドバイでレイプ被害を訴えたノルウェー人女性が、このイスラム法で逆に婚外性交渉で有罪判決を受けた事例である。
この様な「被害女性が有罪」との「判決」は、我々日本文化の中で暮らしている日本人が理解するのは困難であり、同様、西欧文明圏の欧米も理解できないものとして、この「判決」を批判している。
主権国家というのは、そういうもので、各国は、各国の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた、各国の「国の形」があるのである。
そろそろ結論へと進むが、我が国には、我が国の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた我が国の形があるのだが、戦後の我が国は、我が国とは異なる歴史・文明を背景とするアメリカ人の手による現行憲法が「憲法の座」に鎮座ましましており、物事を突き詰めると、我々の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた正邪判断基準とは違った「基準」が法的に適用され、様々な齟齬が生じているということだ。
要するに立憲主義の基礎たる「憲法」自体が立憲主義の要件を満たしておらず、立憲主義が成り立たないということだ。
イスラム文明圏のイスラム法は、明らかに我々日本文明と違っており、齟齬が多々発生するのでわかり易いが、幸か不幸か、西欧文明と我が国日本文明は、多くの共通点を持っているので、多くの場合は齟齬が顕在化していない。しかし、それも程度問題であり、定性的には異文化のものが「憲法の座」に座っていることに違いはないということだ。
そういう構造では立憲主義が成り立たないのであるが、現行憲法を残置させたい所謂「護憲派」は、それではマズイので、定義を捻じ曲げた「立憲主義」なる新造語=別概念を提示し始めているのである。
異文明アメリカ人の世界観で創作された「現行憲法」を基準点とした「立憲主義」とのマヤカシではなく、我が国の歴史と文化と生活実態の集積に基づいた我が国の形に合致した憲法へと改憲し、本来的な立憲主義の遂行により、我々日本人の幸福を増進させるべきだと考えている。
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【文末脚注】
(*1):括弧付き「立憲主義」についての論評
2015/08/04投稿:
【コラム】国会前での新表現「立憲主義」の虚構
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-174.html
2016/11/27投稿:
定義捻じ曲げ「立憲主義」の笑止千万
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-551.html
(*2):現行憲法は、マッカーサー3原則に基づきGHQスタッフが1週間から10日程度で作成したGHQ草案に基づいている
<マッカーサー3原則>
2016/07/29投稿:
(資料編)マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-467.html
2016/07/30投稿:
(解説編1)資料・マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-468.html
2016/07/31投稿:
(解説編2)資料・マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
2016/08/01投稿:
(解説編3)資料・マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-470.html
<憲法第1条関係時系列>
2017/03/02投稿:
(資料編)続&続々・憲法1条に混入している共和制の罠
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-618.html
<マッカーサー3原則の第2原則は前文と9条に>
2017/05/20投稿:
(資料編)憲法前文の登場・9条の登場と変遷
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-674.html
(*3):現行憲法の名称(e-govより)
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html
(*4):現行憲法の英文名(官邸HPより)
THE CONSTITUTION OF JAPAN
http://japan.kantei.go.jp/constitution_and_government/frame_01.html
(*5):憲法の法文のみに注目することを諌める言葉
伊藤博文は憲法編纂の為に明治15年(1882年)3月4日横浜から欧州に向けて出発し、翌年8月4日に戻るまでの約1年半の間、ドイツやイギリス等を訪問した。
ドイツ(当時はプロイセン)の法学者ルドルフ・フォン・グナイストを訪問した伊藤博文が憲法編纂のために「参考になる材料」を要請したところ、ルドルフ・フォン・グナイストは以下の様に答えたと記録されている。
【それは遠方から独逸を目標にお出でくださったのは感謝の至りだが、憲法は法文ではない。精神である、国家の能力である。
余は独逸人であり、かつ欧州人である。欧州各国の事は一通り知って居る、独逸の事は最も能く知って居る、が遺憾ながら日本国の事は知って居ない。
それも研究したら解るだろうが、先ず余から日本の事をお尋ね致そう、日本国の今日迄の君民の実体且は風俗人情、其の他過去の歴史を明瞭に説明して貰いたい。それに就て考えて、御参考になる事は申し述べても宜い。
それを申し上げるけれども、確か夫が貴君の御参考になるか如何か、憲法編纂の根拠になるか如何かは余に於て自信はない。」
<尚、同資料には【尾佐竹猛「日本憲政史」日本評論社1930年338ページ】との引用元脚注があるが、当方はその引用元原著までは辿り着いていない>
(*6):イスラム法適用例その1
HuffPost Japan
投稿日: 2017年07月18日 11時40分 JST 更新: 2017年07月18日 18時57分 JST
見出し:◆ドバイのビーチで婚外性交渉の疑い、日本人男女に有罪判決
http://www.huffingtonpost.jp/2017/07/17/japanese-duo-arrested-in-dubai_n_17512890.html
記事本文:○アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで日本人カップルが「婚外性交渉」の罪に問われている。地元の英字紙ガルフ・ニュースが伝えた。
○事件は3月、ドバイ有数のビーチ、アルサフーハで発生した。非番の警察官が、ビーチに停められていた車の中で性交渉をしている日本人カップルを見つけ、通報したという。
○日本人カップルは41歳の男性と28歳の女性。取り調べに対して2人は、酒に酔って腹部に痛みを感じたため、服を脱いだと話しているという。
○しかし、2人は婚外の相手との性交渉と飲酒の罪に問われ、裁判所は執行猶予付きで禁固1カ月などとする有罪判決を言い渡し、強制送還とした。2人は上訴しており、上級審は9月に開かれる予定だという。
○UAEではシャリーア(イスラム法)に基づいた刑法が適用されるため、外国人であっても配偶者以外と性交渉することに対して、厳しい規制がある。
○2016年には2人のイギリス人男性にレイプされたと訴える25歳のイギリス人女性旅行者が、配偶者以外と性交渉した「婚外性交渉の罪」に問われ逮捕された。2013年にはノルウェー人の女性が、強姦されたと訴えたところ、16カ月の禁錮刑を言い渡されたが、後に恩赦を受けた。
<引用終わり>
(*7):古典落語の艶笑話(間男話)
「風呂敷間男」: http://rakugo.xyz/koten-vol49/
「紙入れ」 : http://rakugo.xyz/koten-vol48/
(*8):イスラム法適用例その2
産経ニュース 2013.8.4 18:00更新
http://www.sankei.com/world/news/130804/wor1308040035-n1.html
見出し:◆ドバイでレイプ被害を訴えたノルウェー人女性 逆に婚外性交渉で有罪に イスラム法では当然?!
記事本文(抜粋)○同僚から受けた婦女暴行の被害を告訴したら、配偶者以外と性交渉を持った罪で罰せられた-。そんな悪夢のような事態が、アラブ首長国連邦のドバイで現実となった。被害を訴えたのは、ドバイに出張中だったノルウェー人の女性(24)。シャリーア(イスラム法)に基づく厳格な国内法が適用された結果(中略)
○婦女暴行の実行犯が婚外の性交渉などで禁錮1年1月の有罪判決だったのに対し、(中略)実行犯を上回る禁錮1年4月を言い渡されたことから、欧米メディアが一斉に批判。ノルウェーのアイデ外相が「人権や正義に関する基本的な認識に反する全く受け入れられない判断だ」と憤りをあらわにした。
○CNNによると、結婚前の男女が同室で宿泊でき、許可制のバーでなら飲酒も可能だが、当局が厳しい摘発を行わないだけで、明確な違法行為に当たる。
○中でも婦女暴行は、被害者が告訴すれば、問答無用で婚外性行為の罪に問われる“ブーメラン現象”が過去にも問題となっており、欧米メディアによると、2008年にはオーストラリア出身の女性、10年にも英国の女性が禁錮刑を受けたという。
○また、婦女暴行の立証には、実行犯による自白か、少なくとも成人男性4人の証言が必要。密室や集団での犯行に証人を見つけるのは困難で、自白を期待できるわけもなく、被害者が告訴しても婚外の性行為だけが立証され、罰を受ける例も多いという。
○こうした法の運用は、前時代的で公平性に欠けるとの国際的な批判も根強いが、イスラム法を源流にした価値観を西洋の目線で切り捨てることへの違和感もあり、欧米諸国も強力な圧力をかけにくい現状があるようだ。(中略)ドバイには「彼らの法制度がある」と批判を控えており、自身の体験を公表することで、制度に違いがあるとの「認識を広げたい」と語っている。
<抜粋引用終わり>
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