憲法議論6・緊急事態条項
- 2017/06/17
- 18:42
憲法議論6・緊急事態条項
<憲法議論をはじめよう7>

副題:現行憲法でなくなってしまった緊急事態条項。でも、フランスもドイツも憲法に緊急事態条項がある。
4つの重点事項が自民党・憲法改正推進本部の会合で出された。(*1)
今回は、その4つの重点項目のうちの1つ「緊急事態条項」をテーマとして、一緒に考えていきたい。
とは言え「緊急事態条項」と言われてもピンとこない方も多々いると思う。
「緊急事態条項」を一言で言えば、「緊急事態」が発生した時に、国民の安全を確保する為に一時的な特別な対応体制をとり、緊急事態に対処できる様にする法的規定のことである。
これをブッチャケて言えば、青信号の交差点は、普通はそのまま進めるが、救急車がサイレンを鳴らして赤色灯回しながら交差点に入ってきたら、それは「緊急事態」なので、そのまま進むのではなく、一旦停止や脇に車を寄せるなどの「緊急時対応」をして、救急車を先に行かせるルールのことである。
この様に、緊急時と普通の時(平時)では、対応の仕方を違えることが社会全体にとって合理的であることを多くの方が知っているのだが、それが「憲法の話」になるとピンとこなくなるのは、ある程度は仕方がないと思っている。
何故ならば、憲法の「緊急事態条項」の話になると、あたかもそれが「悪いモノ」だとする悪意の印象操作が溢れているからである。
Google検索でヒットする記事や「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」で「緊急事態条項」を調べると、そこには必ず「人権制限」という語句が登場する。
しかし、その「人権制限」とは、「青信号なのに進めない」というレベルの「制限」を、あたかも重大な人権制限の様に記述している。
救急車には、もしかしたら生死の境を彷徨う人が乗っているかもしれないので、一時的に救急車の通行を優先するルールである「緊急事態条項」と、青信号1回分の停止を「強制」させられる「人権制限」を天秤にかけ、そのどちらを優先させ、そのどちらを制限するのか、との軽重の比較概念で我々日本人は、そういうルールを許容しているのだが、「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」での「解説」には、そういう事は一切書いていない。
そんな「人権制限」だけを強調する片方の見方だけの言説が、これら「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」の「解説」には溢れているのだから、多くの方が誤解してしまうのは仕方がないと思っているのだ。
と言う事で、偏った認識から脱し、頭の自由を取戻し、「緊急事態条項」を虚心坦懐に一緒に考えていただきたい。
さて、最初に記した「緊急事態条項」の定義を分解して詳しく解説する。
<文章分解>
①「緊急事態」が発生した時に、
②国民の安全を確保する為に、
③一時的な特別な対応体制をとり、
④緊急事態に対処できる様にする法的規定のことである。
先ず、①の「「緊急事態」が発生した時に」の部分であるが、この重要ポイントは、「何が緊急事態に該当するのか」の定義が必要、ということだ。
憲法規定にするのだから個人的な緊急事態が対象にはならないし、また、時の総理大臣が勝手に緊急事態だと決めることも宜しくない。
こういうことなので、例えばフランスやドイツの憲法の緊急事態条項(*2)には、「緊急事態である」との宣言をする際の手続きが規定されていて、その規定には議会等の承認が必要だと規定されており、大統領や首相が勝手に緊急事態宣言をすることや公的必要性がない緊急事態宣言を防止する仕組みが存在している。
緊急事態条項は「「緊急事態」が発生した時に」発動するもので、普通の平時に於いては効力を発揮しない条項なので、「何が緊急事態に該当するのか」の定義が必要なのである。
次の②は「目的」である。
「②国民の安全を確保する為に」必要だと判断される場合に緊急事態条項が発動される。
もしも、緊急事態条項がない場合には、平時を基準に制定されている既存の法規定が緊急時にも適用されることになり、緊急時なのに、平時基準の法規定を適用して、かえって国民の安全を毀損してしまった事例がある、
そういう本末転倒に陥らない為に「緊急事態条項」があるのだ。
その本末転倒な話の事例とは、大震災の時に、海外から駆け付けた救難隊が連れてきた救難探査犬の入国に際して、平時基準の検疫法をそのまま適用して、「海外から来た犬は検疫の為に数週間留め置くことが法規定です」となってしまうのである。
緊急事には、緊急事に相応しい法適用が出来る仕組みがないと、「平時基準の法律が救難活動を妨害してしまう」との本末転倒が起こるのである。
③の「一時的な特別な体制をとり」とは「緊急時に限定した一時的な体制」のことを意味する。
先の救難探査犬の事例では、「平時基準の法規定の一時的停止=検疫法の留め置き規定の適用外とする」という緊急時の特別な対応が可能とする体制のことである。
一方、緊急時に於いて人命を優先して「なんでもかんでも超法規」となってしまっては法治主義は成り立たない。
緊急時対応の法規定を持つ=「特別な体制を一時的に認める」との法規定があることで、法治主義を守りながら緊急事態に対応することが可能となるのである。
因みに「超法規」とは「無法」と同じ意味を持つ言葉である。
ここでのポイントとしては「一時的な」にある。
緊急事態発生を契機に、従前の法規定を一挙に変えてしまうものではなくて、緊急事態が終息したら「特別な体制」は元に戻るのである。ここは重要なポイントである。
この様に、「緊急事態条項」とは、
「国民の安全を確保する為に」を目的に、
国会等の国民の代表が認めた「緊急事態」が発生した時に、
その緊急事態が終われば解除される「一時的な特別な体制」をとる、との法規定である。
ところが、現行憲法には、この緊急事態条項がないのである。
何故、現行の「日本国憲法」には緊急事態条項がないのかというと、それは、現行憲法では、日本人は生きていくことを保障されていない存在だからだ。(*3)
現行憲法にないものは、なにも緊急事態条項だけではない。
緊急事態条項以外にも「ない」ものが幾つもある。
ご存知の様に9条規定で、国防軍さえなく、交戦権がない。
前文では、生存に係わる自己決定権がないことを宣言させられている。
普通の国なら当然の様に持つ、生存に係わる自己決定権がないのだから、それを担保・保障する軍隊もなく、更には普通の国が当然の様に持つ国家主権である交戦権もない。
そうなっているのは、日本人は生きていくこと保障されていない存在だからだ。
そういう基本的位置付けなので、緊急事態が起こっても現行憲法では、それへの対応をする事は想定されていないので、普通の国が当然の様に持つ緊急事態条項も削除されてしまったのだ。
憲法第9条に書いてあることは、非武装であり、自衛戦争資格の剥奪である。
普通の国ならあり得ない武装解除状態の永続である非武装規定や、当然あってしかるべき正当防衛権も剥奪するとの規定は、前文にある「自己決定権の放棄」を土台にしているものだ。「自己の生存を他者に委ねる」との前文での宣言からすれば、自分を守る為の資格・権利である交戦権は不要だし、自分を守る手段である軍隊も不要だとの文脈となるのである。この文脈と同じ文脈で「日本人には国家としての緊急事態対処など不必要」との建て付けになっているので、現行憲法には緊急事態条項が「ない」のである。
この様に、占領軍GHQに「なくされてしまったもの」との問題が現行憲法には存在しており、緊急事態条項も、そのうちの1つなのである。
現行憲法には緊急事態条項がないのであるが、一方、諸外国には緊急事態条項がある。
詳しくは、文末脚注(*2)で提示してある通りだ。
以前、偏向番組の「報道ステーション」が緊急事態条項を、あたかも危険な条項だとの悪質なる印象操作特集(*4)をした。
「ワイマール憲法の緊急事態条項がヒットラーの独裁を生んだ」との大嘘は、戦後10年目のドイツ憲法の改正で、ドイツ(当時は西ドイツ)は緊急事態条項を憲法に明示している事実からは明らかである。
こういう偏向サヨクマスコミの大嘘に騙されることなく、「緊急時には緊急時対応が必要」「緊急時が終わったら元に戻す」との当たり前の法規定の必要性について、考えていただきたい。
参考に、緊急事態条項の条文案を文末脚注(*5)に掲載しているので、興味あれば、ご一読いただきたい。
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【文末脚注】
(*1):自民党・憲法改正推進本部6月6日会合の要約
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-689.html
1)いつまでにやるのか?(When)
・「遅くとも年内をめどに党の改憲案をまとめる方針」
2)どの様な方向性か?(Why)
・「最終的に国民投票において成立することを考えれば、抽象的に議論していても、憲法改正についての議論が進まない。具体的な案を出すことによって国民の理解は深まり、正しい判断を求めることができる」
3)どの様な内容か?(What)
・①:憲法9条の従来の政府解釈を動かさないで自衛隊を憲法に位置付ける
・②:高等教育含む教育の無償化
・③:緊急事態条項の創設
・④:一票の格差・合区解消などの選挙制度
4)その他の方針
・「安倍晋三総裁の思いを踏まえながら今までの議論も大切に、さらにはこれからの議論も活発に行って党の案をまとめてまいりたい」
<要約終わり>
(*2):ドイツ憲法(ドイツ基本法)フランス憲法には緊急事態条項がある。
2017/06/16投稿:
(資料編)各国の緊急事態条項
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-695.html
※資料編では我が国と比肩し得るG7主要国、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカ、イギリスの各国憲法の「緊急事態条項」を紹介している。
また、オマケとして大日本帝国憲法及びワイマール憲法の緊急事態条項も参考紹介している。尚、ワイマール憲法の緊急事態条項に関しては、詳しくは以下を参照願いたい。
2016/03/21投稿:
【コラム】資料編:ワイマール憲法第48条全文和訳
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-367.html
(*3):「現行憲法では、日本人は生きていくことを保障されていない存在」
1)<生存に係わる自己決定権がない>
*現行憲法前文第二段落前半
日本国民は,恒久の平和を念願し,人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって,<<平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。>>
↓
「われらの安全と生存を保持しようと決意した」とは、主語である「日本国民」の「安全・生存」を事である。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とは、「日本国民」の「安全・生存」を委ねる相手は「諸国民」である他者だと宣言しているのである。
要するに、日本人は自身の安全と生存=生きるか死ぬかを自身で決めるのではなく、「平和を愛する諸国民」と称する他者に委ねると宣言しているのである。
これは、自己決定権の放棄宣言に他ならない。
2)<生存を保障する自己防衛の為の軍隊がない>
*現行憲法第9条
日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。
同第2項 前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。
↓
憲法9条の第1項についても書くべき事は沢山あるが、今回の本論からは外れるので今回は割愛する。要するに、日本は一切の武力行使をしない旨の規定である。
そして、第2項では、それを「達するため」「陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない」と武装解除・非武装規定となっているのである。
勿論、現実は、一国を武装解除状態のまま放置し得ない。
この武装解除・非武装規定を考案したマッカーサー自身が、朝鮮戦争勃発時に、警察予備隊(自衛隊)の創生を我が国に指令し再武装させている。
この憲法条文と現実の乖離を「解釈」で埋めているのが我が国の実態だ。
3)<自己生存の為の国家主権である交戦権もない>
*現行憲法第9条(上記の通り「国の交戦権は,これを認めない。」の部分)
↓
「国の交戦権」とは、普通の国が当然の様に持つ、国家が自存自立する為に行う自衛戦争を戦う権利のことで、国家主権の一部である。
(*4):「ワイマール憲法の緊急事態条項がヒットラーの独裁を生んだ」との大嘘。偏向番組「報道ステーション」の悪質なる印象操作特集
2016/03/20投稿:
【コラム】報ステ「ワイマール憲法」の笑止千万
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-366.html
(報道ステーションの大嘘については、タグ「緊急事態条項」の以下URLの最初の7投稿にて論考している。上記は、そのシリーズの最初の投稿である。)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-category-9.html
(*5):緊急事態条項の条文案
<自民党改憲草案の問題点を修正した当方の私案>
本ブログの本来目的の結果として提示した【日本国憲法改正私案α版】
2015年08月13日投稿:
*(4/5)第6章・司法、第7章・財政、第8章・地方自治、第9章・緊急事態
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-186.html
<第9章 緊急事態>
○第105条:緊急事態の宣言
第6条に於ける勅命による緊急事態宣言或いは内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより緊急事態の宣言を発することができる。
同第2項 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
同第3項 内閣総理大臣または勅命により任命された者は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
同第4項 勅命により任命された者は、任命後内閣総理大臣が緊急事態対応可能な状態で存在確認され任務引き継いだ場合、または前項規定で緊急事態終了した場合には、その任を解かれる。
同第5項 第2項及び第3項後段の国会の承認については、第68条第2項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
○第106条:緊急事態の宣言の効果
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣または勅命により任命された者は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
同第2項 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
同第3項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第18条、第22条、第23条、第25条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
同第4項 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
<注:第106条第3項の引用条文は以下の通り>
第18条→自民党案第14条:平等権・法の下の平等
第22条→同第18条:身体の拘束及び苦役からの自由
第23条→同第19条:思想・信条の自由
第25条→同第21条:表現の自由
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<憲法議論をはじめよう7>


副題:現行憲法でなくなってしまった緊急事態条項。でも、フランスもドイツも憲法に緊急事態条項がある。
4つの重点事項が自民党・憲法改正推進本部の会合で出された。(*1)
今回は、その4つの重点項目のうちの1つ「緊急事態条項」をテーマとして、一緒に考えていきたい。
とは言え「緊急事態条項」と言われてもピンとこない方も多々いると思う。
「緊急事態条項」を一言で言えば、「緊急事態」が発生した時に、国民の安全を確保する為に一時的な特別な対応体制をとり、緊急事態に対処できる様にする法的規定のことである。
これをブッチャケて言えば、青信号の交差点は、普通はそのまま進めるが、救急車がサイレンを鳴らして赤色灯回しながら交差点に入ってきたら、それは「緊急事態」なので、そのまま進むのではなく、一旦停止や脇に車を寄せるなどの「緊急時対応」をして、救急車を先に行かせるルールのことである。
この様に、緊急時と普通の時(平時)では、対応の仕方を違えることが社会全体にとって合理的であることを多くの方が知っているのだが、それが「憲法の話」になるとピンとこなくなるのは、ある程度は仕方がないと思っている。
何故ならば、憲法の「緊急事態条項」の話になると、あたかもそれが「悪いモノ」だとする悪意の印象操作が溢れているからである。
Google検索でヒットする記事や「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」で「緊急事態条項」を調べると、そこには必ず「人権制限」という語句が登場する。
しかし、その「人権制限」とは、「青信号なのに進めない」というレベルの「制限」を、あたかも重大な人権制限の様に記述している。
救急車には、もしかしたら生死の境を彷徨う人が乗っているかもしれないので、一時的に救急車の通行を優先するルールである「緊急事態条項」と、青信号1回分の停止を「強制」させられる「人権制限」を天秤にかけ、そのどちらを優先させ、そのどちらを制限するのか、との軽重の比較概念で我々日本人は、そういうルールを許容しているのだが、「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」での「解説」には、そういう事は一切書いていない。
そんな「人権制限」だけを強調する片方の見方だけの言説が、これら「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」の「解説」には溢れているのだから、多くの方が誤解してしまうのは仕方がないと思っているのだ。
と言う事で、偏った認識から脱し、頭の自由を取戻し、「緊急事態条項」を虚心坦懐に一緒に考えていただきたい。
さて、最初に記した「緊急事態条項」の定義を分解して詳しく解説する。
<文章分解>
①「緊急事態」が発生した時に、
②国民の安全を確保する為に、
③一時的な特別な対応体制をとり、
④緊急事態に対処できる様にする法的規定のことである。
先ず、①の「「緊急事態」が発生した時に」の部分であるが、この重要ポイントは、「何が緊急事態に該当するのか」の定義が必要、ということだ。
憲法規定にするのだから個人的な緊急事態が対象にはならないし、また、時の総理大臣が勝手に緊急事態だと決めることも宜しくない。
こういうことなので、例えばフランスやドイツの憲法の緊急事態条項(*2)には、「緊急事態である」との宣言をする際の手続きが規定されていて、その規定には議会等の承認が必要だと規定されており、大統領や首相が勝手に緊急事態宣言をすることや公的必要性がない緊急事態宣言を防止する仕組みが存在している。
緊急事態条項は「「緊急事態」が発生した時に」発動するもので、普通の平時に於いては効力を発揮しない条項なので、「何が緊急事態に該当するのか」の定義が必要なのである。
次の②は「目的」である。
「②国民の安全を確保する為に」必要だと判断される場合に緊急事態条項が発動される。
もしも、緊急事態条項がない場合には、平時を基準に制定されている既存の法規定が緊急時にも適用されることになり、緊急時なのに、平時基準の法規定を適用して、かえって国民の安全を毀損してしまった事例がある、
そういう本末転倒に陥らない為に「緊急事態条項」があるのだ。
その本末転倒な話の事例とは、大震災の時に、海外から駆け付けた救難隊が連れてきた救難探査犬の入国に際して、平時基準の検疫法をそのまま適用して、「海外から来た犬は検疫の為に数週間留め置くことが法規定です」となってしまうのである。
緊急事には、緊急事に相応しい法適用が出来る仕組みがないと、「平時基準の法律が救難活動を妨害してしまう」との本末転倒が起こるのである。
③の「一時的な特別な体制をとり」とは「緊急時に限定した一時的な体制」のことを意味する。
先の救難探査犬の事例では、「平時基準の法規定の一時的停止=検疫法の留め置き規定の適用外とする」という緊急時の特別な対応が可能とする体制のことである。
一方、緊急時に於いて人命を優先して「なんでもかんでも超法規」となってしまっては法治主義は成り立たない。
緊急時対応の法規定を持つ=「特別な体制を一時的に認める」との法規定があることで、法治主義を守りながら緊急事態に対応することが可能となるのである。
因みに「超法規」とは「無法」と同じ意味を持つ言葉である。
ここでのポイントとしては「一時的な」にある。
緊急事態発生を契機に、従前の法規定を一挙に変えてしまうものではなくて、緊急事態が終息したら「特別な体制」は元に戻るのである。ここは重要なポイントである。
この様に、「緊急事態条項」とは、
「国民の安全を確保する為に」を目的に、
国会等の国民の代表が認めた「緊急事態」が発生した時に、
その緊急事態が終われば解除される「一時的な特別な体制」をとる、との法規定である。
ところが、現行憲法には、この緊急事態条項がないのである。
何故、現行の「日本国憲法」には緊急事態条項がないのかというと、それは、現行憲法では、日本人は生きていくことを保障されていない存在だからだ。(*3)
現行憲法にないものは、なにも緊急事態条項だけではない。
緊急事態条項以外にも「ない」ものが幾つもある。
ご存知の様に9条規定で、国防軍さえなく、交戦権がない。
前文では、生存に係わる自己決定権がないことを宣言させられている。
普通の国なら当然の様に持つ、生存に係わる自己決定権がないのだから、それを担保・保障する軍隊もなく、更には普通の国が当然の様に持つ国家主権である交戦権もない。
そうなっているのは、日本人は生きていくこと保障されていない存在だからだ。
そういう基本的位置付けなので、緊急事態が起こっても現行憲法では、それへの対応をする事は想定されていないので、普通の国が当然の様に持つ緊急事態条項も削除されてしまったのだ。
憲法第9条に書いてあることは、非武装であり、自衛戦争資格の剥奪である。
普通の国ならあり得ない武装解除状態の永続である非武装規定や、当然あってしかるべき正当防衛権も剥奪するとの規定は、前文にある「自己決定権の放棄」を土台にしているものだ。「自己の生存を他者に委ねる」との前文での宣言からすれば、自分を守る為の資格・権利である交戦権は不要だし、自分を守る手段である軍隊も不要だとの文脈となるのである。この文脈と同じ文脈で「日本人には国家としての緊急事態対処など不必要」との建て付けになっているので、現行憲法には緊急事態条項が「ない」のである。
この様に、占領軍GHQに「なくされてしまったもの」との問題が現行憲法には存在しており、緊急事態条項も、そのうちの1つなのである。
現行憲法には緊急事態条項がないのであるが、一方、諸外国には緊急事態条項がある。
詳しくは、文末脚注(*2)で提示してある通りだ。
以前、偏向番組の「報道ステーション」が緊急事態条項を、あたかも危険な条項だとの悪質なる印象操作特集(*4)をした。
「ワイマール憲法の緊急事態条項がヒットラーの独裁を生んだ」との大嘘は、戦後10年目のドイツ憲法の改正で、ドイツ(当時は西ドイツ)は緊急事態条項を憲法に明示している事実からは明らかである。
こういう偏向サヨクマスコミの大嘘に騙されることなく、「緊急時には緊急時対応が必要」「緊急時が終わったら元に戻す」との当たり前の法規定の必要性について、考えていただきたい。
参考に、緊急事態条項の条文案を文末脚注(*5)に掲載しているので、興味あれば、ご一読いただきたい。
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【文末脚注】
(*1):自民党・憲法改正推進本部6月6日会合の要約
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-689.html
1)いつまでにやるのか?(When)
・「遅くとも年内をめどに党の改憲案をまとめる方針」
2)どの様な方向性か?(Why)
・「最終的に国民投票において成立することを考えれば、抽象的に議論していても、憲法改正についての議論が進まない。具体的な案を出すことによって国民の理解は深まり、正しい判断を求めることができる」
3)どの様な内容か?(What)
・①:憲法9条の従来の政府解釈を動かさないで自衛隊を憲法に位置付ける
・②:高等教育含む教育の無償化
・③:緊急事態条項の創設
・④:一票の格差・合区解消などの選挙制度
4)その他の方針
・「安倍晋三総裁の思いを踏まえながら今までの議論も大切に、さらにはこれからの議論も活発に行って党の案をまとめてまいりたい」
<要約終わり>
(*2):ドイツ憲法(ドイツ基本法)フランス憲法には緊急事態条項がある。
2017/06/16投稿:
(資料編)各国の緊急事態条項
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-695.html
※資料編では我が国と比肩し得るG7主要国、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカ、イギリスの各国憲法の「緊急事態条項」を紹介している。
また、オマケとして大日本帝国憲法及びワイマール憲法の緊急事態条項も参考紹介している。尚、ワイマール憲法の緊急事態条項に関しては、詳しくは以下を参照願いたい。
2016/03/21投稿:
【コラム】資料編:ワイマール憲法第48条全文和訳
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-367.html
(*3):「現行憲法では、日本人は生きていくことを保障されていない存在」
1)<生存に係わる自己決定権がない>
*現行憲法前文第二段落前半
日本国民は,恒久の平和を念願し,人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって,<<平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。>>
↓
「われらの安全と生存を保持しようと決意した」とは、主語である「日本国民」の「安全・生存」を事である。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とは、「日本国民」の「安全・生存」を委ねる相手は「諸国民」である他者だと宣言しているのである。
要するに、日本人は自身の安全と生存=生きるか死ぬかを自身で決めるのではなく、「平和を愛する諸国民」と称する他者に委ねると宣言しているのである。
これは、自己決定権の放棄宣言に他ならない。
2)<生存を保障する自己防衛の為の軍隊がない>
*現行憲法第9条
日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。
同第2項 前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。
↓
憲法9条の第1項についても書くべき事は沢山あるが、今回の本論からは外れるので今回は割愛する。要するに、日本は一切の武力行使をしない旨の規定である。
そして、第2項では、それを「達するため」「陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない」と武装解除・非武装規定となっているのである。
勿論、現実は、一国を武装解除状態のまま放置し得ない。
この武装解除・非武装規定を考案したマッカーサー自身が、朝鮮戦争勃発時に、警察予備隊(自衛隊)の創生を我が国に指令し再武装させている。
この憲法条文と現実の乖離を「解釈」で埋めているのが我が国の実態だ。
3)<自己生存の為の国家主権である交戦権もない>
*現行憲法第9条(上記の通り「国の交戦権は,これを認めない。」の部分)
↓
「国の交戦権」とは、普通の国が当然の様に持つ、国家が自存自立する為に行う自衛戦争を戦う権利のことで、国家主権の一部である。
(*4):「ワイマール憲法の緊急事態条項がヒットラーの独裁を生んだ」との大嘘。偏向番組「報道ステーション」の悪質なる印象操作特集
2016/03/20投稿:
【コラム】報ステ「ワイマール憲法」の笑止千万
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-366.html
(報道ステーションの大嘘については、タグ「緊急事態条項」の以下URLの最初の7投稿にて論考している。上記は、そのシリーズの最初の投稿である。)
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(*5):緊急事態条項の条文案
<自民党改憲草案の問題点を修正した当方の私案>
本ブログの本来目的の結果として提示した【日本国憲法改正私案α版】
2015年08月13日投稿:
*(4/5)第6章・司法、第7章・財政、第8章・地方自治、第9章・緊急事態
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-186.html
<第9章 緊急事態>
○第105条:緊急事態の宣言
第6条に於ける勅命による緊急事態宣言或いは内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより緊急事態の宣言を発することができる。
同第2項 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
同第3項 内閣総理大臣または勅命により任命された者は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
同第4項 勅命により任命された者は、任命後内閣総理大臣が緊急事態対応可能な状態で存在確認され任務引き継いだ場合、または前項規定で緊急事態終了した場合には、その任を解かれる。
同第5項 第2項及び第3項後段の国会の承認については、第68条第2項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
○第106条:緊急事態の宣言の効果
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣または勅命により任命された者は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
同第2項 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
同第3項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第18条、第22条、第23条、第25条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
同第4項 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
<注:第106条第3項の引用条文は以下の通り>
第18条→自民党案第14条:平等権・法の下の平等
第22条→同第18条:身体の拘束及び苦役からの自由
第23条→同第19条:思想・信条の自由
第25条→同第21条:表現の自由



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