装備品を見て韓国のドクトリンを推定する(前編)
- 2017/06/14
- 20:49
装備品を見て韓国のドクトリンを推定する(前編)

副題:韓国が「主敵は日本」と考えているなら辻褄が合う装備である。なんというオバカな発想か。「白頭山計画」の悪影響であろう。
国家は、自国民を守る為に軍事力(軍隊)を持ち、その自衛権は国際的に認められた国権である。当たり前過ぎる話なのだが、我が国には現行憲法9条があり、この世界各国の「当たり前」が禁じられている特異な状態にある。
占領時主権喪失期に我が国を武装解除するとのマッカーサーの方針(*1)に則り作成された憲法9条の歪みにより、我が国は「自衛隊は憲法にある「陸海空その他の戦力」には該当しない」との「解釈」で現実問題をしのいできた。
自衛権の範疇にある自衛隊は違うのだという理屈である。その理屈に応じて、我が国のドクトリンは「専守防衛」との歪んだ姿となり、あたかもPower Projection能力(*2)は自衛の為には必要がないが如きの机上の空論がまかり通り、現在の自衛隊の装備は「専守防衛」のドクトリンそのままであり、抑止力に不安が残るものとなっている。
我が国の場合は、有事の際に国民や国土に一定程度の損害が出ることを最初から想定するとの主客転倒した問題があっても、憲法の制約に則り制定された「専守防衛」のドクトリンにバカ正直に則った防衛装備としているのが実情だ。
一方、他の国々は、どの様なドクトリンに基づき「国防」を考えているのかとの疑問に答えるのは、実は結構難しい。中国などが典型例なのだが、口では綺麗事を言いながら、行動では、それと真逆のことを平気でやっている様な二枚舌を使う。
国際社会では、程度の差はあるものの、この様な事例は多々見られる。
むしろ、我が国の様な、明示しているドクトリンと実際の意図が一致している方が少ないと言って良いだろう。
◇ちょっと話は脇に逸れるが、我々の個人生活に於いて、我々は自分がやりたい事に必要な道具を入手して使用している事を思い出して欲しい。
我々は日常的に行っている普通の行動として、例えば庭がある人は庭の水撒きにホースを購入するが、マンション住まいの人は水撒きホースは無用なので購入することはない。
同様、子供が何人もいて、年老いた両親がいる様な方は、多人数が乗れるミニバンを自動車購入時に選択せざるを得ないが、夫婦二人きりなら、ツーシーターのスポーツタイプの車も選択可能だ。
都会では、一戸建てであっても複数台数を駐車できる様なスペースを確保することは簡単ではなく、月極め駐車場の代金も高く、現実的に複数台の自家用車を所有することは難しいので、いくらカーマニアでも6人以上が同時に移動するシーンが多い場合は、「乗りたい車」を諦め、ミニバンを選択せざるを得ないことになる。
この様に、「家族が多いのでミニバン」との現実的選択をする方が、ある程度多く存在しているので、ミニバン所有者は家族が多いのであろうとの推定が成り立つので、どの様な車に乗っているかで、所有者のアウトラインが分かったりする。
◇この推定方法は、軍事の世界でも同様に使用できる。
軍事に関しては、国家存立に深く関係しているので、情報開示が制限される性格を必然的に持つ。東西冷戦時のソ連・鉄のカーテンと称された、極端に情報開示を制限した事例などが、その典型例である。
そこで、「○○国の装備品を見て、○○国のドクトリンを推定する」(*3)との手法が用いられてきた。
「鉄のカーテン」の旧ソ連を相手に分析する手法として、ソ連の記念日に行われる「軍事パレード」に出てくる新鋭戦闘機や今までなかった装備などを見て分析するのが通例だった時代がある。それら新装備品を見て、ソ連のドクトリンの他に、有事の際の戦略・戦術等を推定し、その対策を考え、対抗装備を新開発するのに役立てていた。
◇この手法は今も有効なのだが、この手法が適用し難いのが韓国である。
朝鮮半島南半部に位置する韓国の軍事状況は、38度線の北に北朝鮮という同族ながら1950年に侵略してきた国があり、朝鮮戦争は形式的にはまだ終了しておらず「停戦中」であるとの大きな特徴がある。
韓国にとって、北朝鮮と対峙し、その侵攻を防ぐのが国家存立・国防の第一優先順位であることは、軍事知識がなくても、常識的にわかることであるのだが、その装備を見ると、「優先順位を間違えてないか」との疑問を持つに至る。
◇韓国の地政学的宿命
韓国は、我が国の様に陸地で国境線を接する敵対国を持たないのとは違い、東西冷戦時の東西ドイツの様に、開戦が即時に陸上戦闘となる地政学的宿命を持つ。
我が国の場合は島国であり、我が国領土に敵対国が侵攻してくる場合は、必ず海上を船舶や航空機で越えてくることになるので、防空と渡洋侵攻船舶に対する防衛に力点が置かれてきた。
そういう地政学的特徴に応じて、我が国は防空能力保持の為に、防空装備の中心となる戦闘機の選定には、常に米軍の最新鋭戦闘機を導入してきたし、渡洋侵攻に関しては、東西冷戦時には渡洋侵攻能力があったのは旧ソ連だけだったので、陸上自衛隊の唯一の機甲師団は北海道に集中配備されてきたのである。
また、渡洋侵攻に関しては、敵対国が海上機動中に侵攻を阻止することを目的に、対艦ミサイルの搭載を優先した対艦戦闘機のF-1及びF-2の両戦闘機を国産してきた。
韓国の航空戦力に関しては、防空も勿論重要なのだが、陸続きなので、侵攻してくる北朝鮮戦車集団に対峙する味方陸上部隊への近接航空支援が重要なミッションとしてあり、迎撃戦闘機に専門化出来る我が国と違い、対地攻撃能力を持つ戦闘機を装備する必要性がある。
北朝鮮の戦車保有量は凄まじく、旧式ながら脅威である。航空戦の場合は、旧式機との性能差は、そのままワンサイドゲームとなるが、陸上戦の戦車の場合、昼間の戦闘では、量が個別性能を凌駕するケースは稀ではなく、旧式戦車であっても大きな脅威となる。
現在の北朝鮮の戦車保有量は5000両(世界第4位)であるが、韓国は、その約半分の2600両(世界第9位)と韓国は量的には劣勢である。(*4)
一方、防空に関しては、北朝鮮の航空勢力は弱体であり、60数年前の朝鮮戦争での主力戦闘機だった亜音速機のMiG-15がいまだに現役装備であり、他にも1960年代機のMiG-21やMiG-23が飛んでいる姿が見られる「博物館状態」である様に、まったくの旧式装備だらけなのが北朝鮮空軍である。
MiG-15に相当する西側戦闘機はF-86セイバーである。F-86は1964年東京五輪の時に、東京上空に五色の輪をスモークで描いた機体であり、長く使っていた航空自衛隊でも、今から30数年以上も前に全機退役している。同様、MiG-21に相当するF-104が航空自衛隊の実戦配備状態から退役したのは1986年であり、同様、約30年前にはお役御免になっている。
北朝鮮空軍で唯一性能的に韓国空軍に対抗できると看做される装備はMiG-29であるが、その保有数は30機程度と言われており、まともな「戦力」にはなっていない。
◇韓国軍の個別装備の可笑しさ
陸上で敵対国と対峙する韓国の陸空の体制と島国日本の陸空の違いの概要はこんなものである。
韓国軍が陸上装備品に力を入れる方針自体に違和感はないのだが、その個別装備品に関しては不思議な違和感がある。
韓国陸軍は、朝鮮戦争で侵攻してくる北朝鮮軍のT-34戦車にこっ酷く蹂躙された経験があり、対戦車戦闘を重視している。
地上戦に於いては、究極的には「戦車に対抗できるのは戦車だけ」であることから、韓国軍は戦車を大量保有してきた。世界第4位5000両の北朝鮮の保有量には大きく劣るが、韓国軍の戦車保有量2600両は世界第9位であり、あの国土面積に我が国の戦車保有量700両の約4倍弱もの戦車を装備している。
韓国陸軍は、ずっとアメリカ戦車を装備してきたが、経済発展に伴い、自国に合った戦車の導入に踏み切った。
韓国の自称「国産戦車」K1戦車は、ソウルオリンピック開催の1988年に装備化した戦車で、戦車開発の経験が皆無の韓国は、手堅くアメリカの戦車メーカーに設計依頼したもので、それなりに評価を得ていた装備である。
ところが、1990年に日本が120mm砲搭載の90式戦車を制式化すると、K1の搭載砲が105mm砲であることが気に入らなかった様で、K1戦車の車体に120mm砲を搭載したK1A1戦車を開発した。もともと105mm砲搭載を前提に設計されていたK1に過大な120mm砲を搭載したのでバランスが崩れ、実用兵器としては使い物にならないものとなったとの経緯がある。
そもそも、K1戦車は、北朝鮮の戦車に対しては105mm砲で充分だ、とのコンセプトで開発がスタートし、アメリカ企業の設計も105mm砲搭載を前提に設計している。それなのに無理に120mm砲を搭載するのは、120mm砲搭載の90式戦車が登場したからだと推定している。
韓国軍の個別装備品に関しての不思議な違和感の最初の実例がこれである。
それなりの好評価を得ていた、せっかくのK1戦車に早々と見切りをつけ、バランスを崩したK1A1やK2に移行した事例である。
K1A1戦車が「使い物にならない」実例としては、YouTube動画等で、普通ならば問題にならない程低い障害物を乗り越えられずにいる戦車の動画(*5)を見た方もいると思うが、あれが設計コンセプトを無視してバランスを崩したK1A1の性能なのである。
120mm砲を無理に搭載したK1A1では、実用性がないとして韓国は、自国で設計・製造するとして120mm搭載のK2新戦車の開発に乗り出す。開発理由に関しては、一応は米国戦車M48パットンの老朽化に伴う後継だとの理屈を言っているのであるが、M48パットンは105mmk砲搭載戦車である。それなのに、105mm砲搭載のK1ではなく、120mm砲搭載のK2新戦車を新規開発することを選定した理由は、韓国陸軍の目が北朝鮮よりも日本に向いているからではないかと推定される。
この様なトンチンカンな経緯で、1995年に開発を開始したK2戦車も、結果はまったくにダメダメである。開発開始から22年後の2017年現在、いまだに量産化の目処も立っていない。
その間、我が国は、90式戦車制式化後20年の2010年には、同じく120mm砲搭載の10式戦車を制式化しており、61式、74式、90式、10式と着実に国産戦車の開発と配備を続けている。
それなのに、陸戦重視の韓国では、この有様である。国家存立の基盤となる戦車の更新を国産に拘って遅延させる事は危険であるのだが、未だにK2に拘り続けている。
どうやら、「イルボンに出来てウリに出来ない訳がない」との根拠なき見栄が根底にある様である。
戦車に関しては、東西冷戦が終わり、脅威が格段に低下したドイツでは自国防衛の為に配備していた世界一流戦車であるレオパルドⅡ戦車を多数退役させ、それらを中古戦車市場で安価に販売している。
自国生産に拘らない国々は、性能一流かつ安価なドイツの中古レオパルドⅡ戦車を導入している。それら合理的な装備調達方針に比べ韓国は、奇妙な拘りが強すぎると思う。
前述した「見栄」の他に、妄想的「国家存立戦略・白頭山計画」(*6)の悪影響が表出しているのであろう。
◇韓国空軍の個別装備品に関しても、同様の不思議な違和感がある。
先述した様に、北朝鮮空軍の戦力は空戦に関しては「ないに等しい」状態であるにも関わらず、韓国空軍には対北朝鮮戦に必要以上の装備がある。
韓国空軍の戦闘用航空機は全部で513機(*7)であるが、ステルス以前の西側の代表的戦闘機であるF-16を単座C型・複座D型合わせて169機保有しており、北朝鮮相手には充分過ぎる質と量がある。
これに加え、旧式のF-4EファントムⅡ71機及びF-5タイガーⅡ194機の合計265機があり、これらだけでも北朝鮮の旧式機には対抗可能なのではないかと思われる装備量である。
因みに、我が国の戦闘用航空機保有量は、F-15J F-2 F-4EJの合計395機(*8)、対韓国比77%しかない。内訳はF-15J/DJ201機、F-2A/B92機、F-4EJ及びF-4EJ改102機であり、質的には勝っているので、一応は安心できる。
韓国空軍に対して不思議な違和感を持つのは、北朝鮮相手にはオーバースペックのF-15Kを59機も保有していることである。
F-15Kは我が国が装備する主力戦闘機F-15Jが制空戦闘機であるのに対して、F-15Kは戦闘爆撃機であるので、近接支援目的なのかと思ったのだが、もし、近接支援目的ならば、わざわざF-15の様な高性能・高価格の機体である必然性はなく、どうやらこれも「イルボンが持っているからウリも装備するニダ」のレベルでの導入なのではないかと思えて仕方がない。
「○○が持っているから」との理屈は、東西冷戦時に、ソ連が新兵器を登場させると、それを凌駕する新兵器をアメリカが開発したのと同じである。逆もまた同じで、アメリカが超音速機F-100を開発すれば、ソ連も負けじと初の超音速機MiG-19を開発した。
この様な「対抗」は、ある程度は納得できるのだが、それは、その前提に「対抗すべき相手である」との認識が存在して成り立つ話であることから、「韓国は日本に対抗する」とのい意識があると推定することになる。
やはり、「白頭山計画」が意識の根底にあるのではないかと思われる。
韓国空軍は、この様な「対抗意識」を持っており、それは「戦闘機の国産」という別の面でも発揮されている。
我が国は1970年代には、超音速支援戦闘機三菱F-1を開発して実践配備しているのだが、韓国は、F-16をあんなに沢山保有しているのに、F-16よりも性能が落ちるFA-50ゴールデンイーグル機をF-16開発メーカーに設計させ、「国産戦闘機」を開発したと称している。
これも、「イルボンに出来てウリに出来ない訳がない」との根拠なき見栄が根底にある様である。
◇韓国海軍装備にみる不必要な「対抗意識」
韓国の陸空の装備品に関してはこんなものなのだが、もっとも奇妙なのが韓国海軍の装備である。対峙する相手である北朝鮮の海軍力は、空軍以上に弱体であるのに、彼等は外洋艦隊を目指している様だ。
我が国は、海洋国家として長い歴史があり、戦前、南洋諸島は我が国の委託統治領であり、現在は、我が国のEEZの面積は世界有数の広さがあることから、外洋艦隊が必要であり、外洋艦隊を保有し続けているので、それが普通の海軍だとの印象があると思うが、多くの国々は、外洋艦隊を待たず、自国領海近辺中心の沿岸海軍としての装備をしている。
これは、各国の領海・EEZの広さと相関関係がある。
では、韓国のEEZはどの程度なのかとEEZの世界地図(*8)を見ると極めて狭いことがわかる。
<長くなったので、項を分けて続けます>
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【文末脚注】
(*1):我が国を武装解除するとのマッカーサーの方針
2015/06/21投稿:
【憲法9条】マッカーサー3原則を読む
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-134.html
(*2):Power Projection能力とは直訳すると「戦力投射能力」。現状の「専守防衛」ドクトリンでは、飛んでくるミサイルを防ぐだけ、海を渡ってくる爆撃機や強襲揚陸艦を阻止するだけで、我が国に仇なす相手の本拠地はずっと無傷であり、相手側の日本侵攻意図を諦めさせるPower Projection能力がないので、「長期必負ドクトリン」となっている。
2017/03/22投稿:
Power Projection能力
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-633.html
(*3):「○○国の装備品を見て、○○国のドクトリンを推定する」
2017/06/01投稿:
中国人の空母の見方
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-683.html
(*4):戦車保有数データ(かなり大雑把であるが保有量比較には有効)
北朝鮮5,025両(世界第4位)、韓国2,654両(世界第9位)
http://www.globalfirepower.com/armor-tanks-total.asp
参考:日本700両(世界第28位)
(*5):バランスを崩した設計の為に低い障害物さえ乗り越えられない韓国K1A1戦車
YouTube動画:韓国陸軍K1A1戦車 段差に撃破されるwww
https://www.youtube.com/watch?v=0Q4y6lk7pIk
僅か2分程の短い動画であるが、0:43辺りと1:22辺りの2回、障害物を乗り越えようと兆銭しているが、何れもダメな様子がご覧いただける。
(*6):無謀な妄想「白頭山計画」。周辺国に喧嘩を売りまくる内容を「国家存立戦略」に据えていることの悪影響
2017/06/13投稿:
「白頭山計画」・実現性なき稀有壮大な妄想
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-692.html
(*7):韓国空軍の戦闘用機種内訳
<Wiki「大韓民国空軍」から抜粋引用>
・F-15Kストライクイーグル:59機
・F-16C/D及びKF-16C/D:169機
(頭に「K」がついているのはノックダウン生産機のこと)
・F-4EファントムⅡ:71機
(後継機としてF-35Aを40機予定)
・F-5E/FタイガーII:194機
・FA-50(韓国国産戦闘機):20機
上記合計:513機
(*7):平成28年(2016年)「防衛白書」のデータ
http://flyteam.jp/news/article/66909
F-15J/DJ:201機
F-2A/B:92機
F-4EJ及びF-4EJ改:102機
(後継機としてF-35Aを42機調達中)
上記合計395機
(*8):EEZの世界地図
http://4.bp.blogspot.com/-3CPb5VYW3iw/T3kLITE6rpI/AAAAAAAAHv8/IgLW4ZjXpkE/s1600/EEZ_map_LifeCycleTheory.jpg
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副題:韓国が「主敵は日本」と考えているなら辻褄が合う装備である。なんというオバカな発想か。「白頭山計画」の悪影響であろう。
国家は、自国民を守る為に軍事力(軍隊)を持ち、その自衛権は国際的に認められた国権である。当たり前過ぎる話なのだが、我が国には現行憲法9条があり、この世界各国の「当たり前」が禁じられている特異な状態にある。
占領時主権喪失期に我が国を武装解除するとのマッカーサーの方針(*1)に則り作成された憲法9条の歪みにより、我が国は「自衛隊は憲法にある「陸海空その他の戦力」には該当しない」との「解釈」で現実問題をしのいできた。
自衛権の範疇にある自衛隊は違うのだという理屈である。その理屈に応じて、我が国のドクトリンは「専守防衛」との歪んだ姿となり、あたかもPower Projection能力(*2)は自衛の為には必要がないが如きの机上の空論がまかり通り、現在の自衛隊の装備は「専守防衛」のドクトリンそのままであり、抑止力に不安が残るものとなっている。
我が国の場合は、有事の際に国民や国土に一定程度の損害が出ることを最初から想定するとの主客転倒した問題があっても、憲法の制約に則り制定された「専守防衛」のドクトリンにバカ正直に則った防衛装備としているのが実情だ。
一方、他の国々は、どの様なドクトリンに基づき「国防」を考えているのかとの疑問に答えるのは、実は結構難しい。中国などが典型例なのだが、口では綺麗事を言いながら、行動では、それと真逆のことを平気でやっている様な二枚舌を使う。
国際社会では、程度の差はあるものの、この様な事例は多々見られる。
むしろ、我が国の様な、明示しているドクトリンと実際の意図が一致している方が少ないと言って良いだろう。
◇ちょっと話は脇に逸れるが、我々の個人生活に於いて、我々は自分がやりたい事に必要な道具を入手して使用している事を思い出して欲しい。
我々は日常的に行っている普通の行動として、例えば庭がある人は庭の水撒きにホースを購入するが、マンション住まいの人は水撒きホースは無用なので購入することはない。
同様、子供が何人もいて、年老いた両親がいる様な方は、多人数が乗れるミニバンを自動車購入時に選択せざるを得ないが、夫婦二人きりなら、ツーシーターのスポーツタイプの車も選択可能だ。
都会では、一戸建てであっても複数台数を駐車できる様なスペースを確保することは簡単ではなく、月極め駐車場の代金も高く、現実的に複数台の自家用車を所有することは難しいので、いくらカーマニアでも6人以上が同時に移動するシーンが多い場合は、「乗りたい車」を諦め、ミニバンを選択せざるを得ないことになる。
この様に、「家族が多いのでミニバン」との現実的選択をする方が、ある程度多く存在しているので、ミニバン所有者は家族が多いのであろうとの推定が成り立つので、どの様な車に乗っているかで、所有者のアウトラインが分かったりする。
◇この推定方法は、軍事の世界でも同様に使用できる。
軍事に関しては、国家存立に深く関係しているので、情報開示が制限される性格を必然的に持つ。東西冷戦時のソ連・鉄のカーテンと称された、極端に情報開示を制限した事例などが、その典型例である。
そこで、「○○国の装備品を見て、○○国のドクトリンを推定する」(*3)との手法が用いられてきた。
「鉄のカーテン」の旧ソ連を相手に分析する手法として、ソ連の記念日に行われる「軍事パレード」に出てくる新鋭戦闘機や今までなかった装備などを見て分析するのが通例だった時代がある。それら新装備品を見て、ソ連のドクトリンの他に、有事の際の戦略・戦術等を推定し、その対策を考え、対抗装備を新開発するのに役立てていた。
◇この手法は今も有効なのだが、この手法が適用し難いのが韓国である。
朝鮮半島南半部に位置する韓国の軍事状況は、38度線の北に北朝鮮という同族ながら1950年に侵略してきた国があり、朝鮮戦争は形式的にはまだ終了しておらず「停戦中」であるとの大きな特徴がある。
韓国にとって、北朝鮮と対峙し、その侵攻を防ぐのが国家存立・国防の第一優先順位であることは、軍事知識がなくても、常識的にわかることであるのだが、その装備を見ると、「優先順位を間違えてないか」との疑問を持つに至る。
◇韓国の地政学的宿命
韓国は、我が国の様に陸地で国境線を接する敵対国を持たないのとは違い、東西冷戦時の東西ドイツの様に、開戦が即時に陸上戦闘となる地政学的宿命を持つ。
我が国の場合は島国であり、我が国領土に敵対国が侵攻してくる場合は、必ず海上を船舶や航空機で越えてくることになるので、防空と渡洋侵攻船舶に対する防衛に力点が置かれてきた。
そういう地政学的特徴に応じて、我が国は防空能力保持の為に、防空装備の中心となる戦闘機の選定には、常に米軍の最新鋭戦闘機を導入してきたし、渡洋侵攻に関しては、東西冷戦時には渡洋侵攻能力があったのは旧ソ連だけだったので、陸上自衛隊の唯一の機甲師団は北海道に集中配備されてきたのである。
また、渡洋侵攻に関しては、敵対国が海上機動中に侵攻を阻止することを目的に、対艦ミサイルの搭載を優先した対艦戦闘機のF-1及びF-2の両戦闘機を国産してきた。
韓国の航空戦力に関しては、防空も勿論重要なのだが、陸続きなので、侵攻してくる北朝鮮戦車集団に対峙する味方陸上部隊への近接航空支援が重要なミッションとしてあり、迎撃戦闘機に専門化出来る我が国と違い、対地攻撃能力を持つ戦闘機を装備する必要性がある。
北朝鮮の戦車保有量は凄まじく、旧式ながら脅威である。航空戦の場合は、旧式機との性能差は、そのままワンサイドゲームとなるが、陸上戦の戦車の場合、昼間の戦闘では、量が個別性能を凌駕するケースは稀ではなく、旧式戦車であっても大きな脅威となる。
現在の北朝鮮の戦車保有量は5000両(世界第4位)であるが、韓国は、その約半分の2600両(世界第9位)と韓国は量的には劣勢である。(*4)
一方、防空に関しては、北朝鮮の航空勢力は弱体であり、60数年前の朝鮮戦争での主力戦闘機だった亜音速機のMiG-15がいまだに現役装備であり、他にも1960年代機のMiG-21やMiG-23が飛んでいる姿が見られる「博物館状態」である様に、まったくの旧式装備だらけなのが北朝鮮空軍である。
MiG-15に相当する西側戦闘機はF-86セイバーである。F-86は1964年東京五輪の時に、東京上空に五色の輪をスモークで描いた機体であり、長く使っていた航空自衛隊でも、今から30数年以上も前に全機退役している。同様、MiG-21に相当するF-104が航空自衛隊の実戦配備状態から退役したのは1986年であり、同様、約30年前にはお役御免になっている。
北朝鮮空軍で唯一性能的に韓国空軍に対抗できると看做される装備はMiG-29であるが、その保有数は30機程度と言われており、まともな「戦力」にはなっていない。
◇韓国軍の個別装備の可笑しさ
陸上で敵対国と対峙する韓国の陸空の体制と島国日本の陸空の違いの概要はこんなものである。
韓国軍が陸上装備品に力を入れる方針自体に違和感はないのだが、その個別装備品に関しては不思議な違和感がある。
韓国陸軍は、朝鮮戦争で侵攻してくる北朝鮮軍のT-34戦車にこっ酷く蹂躙された経験があり、対戦車戦闘を重視している。
地上戦に於いては、究極的には「戦車に対抗できるのは戦車だけ」であることから、韓国軍は戦車を大量保有してきた。世界第4位5000両の北朝鮮の保有量には大きく劣るが、韓国軍の戦車保有量2600両は世界第9位であり、あの国土面積に我が国の戦車保有量700両の約4倍弱もの戦車を装備している。
韓国陸軍は、ずっとアメリカ戦車を装備してきたが、経済発展に伴い、自国に合った戦車の導入に踏み切った。
韓国の自称「国産戦車」K1戦車は、ソウルオリンピック開催の1988年に装備化した戦車で、戦車開発の経験が皆無の韓国は、手堅くアメリカの戦車メーカーに設計依頼したもので、それなりに評価を得ていた装備である。
ところが、1990年に日本が120mm砲搭載の90式戦車を制式化すると、K1の搭載砲が105mm砲であることが気に入らなかった様で、K1戦車の車体に120mm砲を搭載したK1A1戦車を開発した。もともと105mm砲搭載を前提に設計されていたK1に過大な120mm砲を搭載したのでバランスが崩れ、実用兵器としては使い物にならないものとなったとの経緯がある。
そもそも、K1戦車は、北朝鮮の戦車に対しては105mm砲で充分だ、とのコンセプトで開発がスタートし、アメリカ企業の設計も105mm砲搭載を前提に設計している。それなのに無理に120mm砲を搭載するのは、120mm砲搭載の90式戦車が登場したからだと推定している。
韓国軍の個別装備品に関しての不思議な違和感の最初の実例がこれである。
それなりの好評価を得ていた、せっかくのK1戦車に早々と見切りをつけ、バランスを崩したK1A1やK2に移行した事例である。
K1A1戦車が「使い物にならない」実例としては、YouTube動画等で、普通ならば問題にならない程低い障害物を乗り越えられずにいる戦車の動画(*5)を見た方もいると思うが、あれが設計コンセプトを無視してバランスを崩したK1A1の性能なのである。
120mm砲を無理に搭載したK1A1では、実用性がないとして韓国は、自国で設計・製造するとして120mm搭載のK2新戦車の開発に乗り出す。開発理由に関しては、一応は米国戦車M48パットンの老朽化に伴う後継だとの理屈を言っているのであるが、M48パットンは105mmk砲搭載戦車である。それなのに、105mm砲搭載のK1ではなく、120mm砲搭載のK2新戦車を新規開発することを選定した理由は、韓国陸軍の目が北朝鮮よりも日本に向いているからではないかと推定される。
この様なトンチンカンな経緯で、1995年に開発を開始したK2戦車も、結果はまったくにダメダメである。開発開始から22年後の2017年現在、いまだに量産化の目処も立っていない。
その間、我が国は、90式戦車制式化後20年の2010年には、同じく120mm砲搭載の10式戦車を制式化しており、61式、74式、90式、10式と着実に国産戦車の開発と配備を続けている。
それなのに、陸戦重視の韓国では、この有様である。国家存立の基盤となる戦車の更新を国産に拘って遅延させる事は危険であるのだが、未だにK2に拘り続けている。
どうやら、「イルボンに出来てウリに出来ない訳がない」との根拠なき見栄が根底にある様である。
戦車に関しては、東西冷戦が終わり、脅威が格段に低下したドイツでは自国防衛の為に配備していた世界一流戦車であるレオパルドⅡ戦車を多数退役させ、それらを中古戦車市場で安価に販売している。
自国生産に拘らない国々は、性能一流かつ安価なドイツの中古レオパルドⅡ戦車を導入している。それら合理的な装備調達方針に比べ韓国は、奇妙な拘りが強すぎると思う。
前述した「見栄」の他に、妄想的「国家存立戦略・白頭山計画」(*6)の悪影響が表出しているのであろう。
◇韓国空軍の個別装備品に関しても、同様の不思議な違和感がある。
先述した様に、北朝鮮空軍の戦力は空戦に関しては「ないに等しい」状態であるにも関わらず、韓国空軍には対北朝鮮戦に必要以上の装備がある。
韓国空軍の戦闘用航空機は全部で513機(*7)であるが、ステルス以前の西側の代表的戦闘機であるF-16を単座C型・複座D型合わせて169機保有しており、北朝鮮相手には充分過ぎる質と量がある。
これに加え、旧式のF-4EファントムⅡ71機及びF-5タイガーⅡ194機の合計265機があり、これらだけでも北朝鮮の旧式機には対抗可能なのではないかと思われる装備量である。
因みに、我が国の戦闘用航空機保有量は、F-15J F-2 F-4EJの合計395機(*8)、対韓国比77%しかない。内訳はF-15J/DJ201機、F-2A/B92機、F-4EJ及びF-4EJ改102機であり、質的には勝っているので、一応は安心できる。
韓国空軍に対して不思議な違和感を持つのは、北朝鮮相手にはオーバースペックのF-15Kを59機も保有していることである。
F-15Kは我が国が装備する主力戦闘機F-15Jが制空戦闘機であるのに対して、F-15Kは戦闘爆撃機であるので、近接支援目的なのかと思ったのだが、もし、近接支援目的ならば、わざわざF-15の様な高性能・高価格の機体である必然性はなく、どうやらこれも「イルボンが持っているからウリも装備するニダ」のレベルでの導入なのではないかと思えて仕方がない。
「○○が持っているから」との理屈は、東西冷戦時に、ソ連が新兵器を登場させると、それを凌駕する新兵器をアメリカが開発したのと同じである。逆もまた同じで、アメリカが超音速機F-100を開発すれば、ソ連も負けじと初の超音速機MiG-19を開発した。
この様な「対抗」は、ある程度は納得できるのだが、それは、その前提に「対抗すべき相手である」との認識が存在して成り立つ話であることから、「韓国は日本に対抗する」とのい意識があると推定することになる。
やはり、「白頭山計画」が意識の根底にあるのではないかと思われる。
韓国空軍は、この様な「対抗意識」を持っており、それは「戦闘機の国産」という別の面でも発揮されている。
我が国は1970年代には、超音速支援戦闘機三菱F-1を開発して実践配備しているのだが、韓国は、F-16をあんなに沢山保有しているのに、F-16よりも性能が落ちるFA-50ゴールデンイーグル機をF-16開発メーカーに設計させ、「国産戦闘機」を開発したと称している。
これも、「イルボンに出来てウリに出来ない訳がない」との根拠なき見栄が根底にある様である。
◇韓国海軍装備にみる不必要な「対抗意識」
韓国の陸空の装備品に関してはこんなものなのだが、もっとも奇妙なのが韓国海軍の装備である。対峙する相手である北朝鮮の海軍力は、空軍以上に弱体であるのに、彼等は外洋艦隊を目指している様だ。
我が国は、海洋国家として長い歴史があり、戦前、南洋諸島は我が国の委託統治領であり、現在は、我が国のEEZの面積は世界有数の広さがあることから、外洋艦隊が必要であり、外洋艦隊を保有し続けているので、それが普通の海軍だとの印象があると思うが、多くの国々は、外洋艦隊を待たず、自国領海近辺中心の沿岸海軍としての装備をしている。
これは、各国の領海・EEZの広さと相関関係がある。
では、韓国のEEZはどの程度なのかとEEZの世界地図(*8)を見ると極めて狭いことがわかる。
<長くなったので、項を分けて続けます>
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【文末脚注】
(*1):我が国を武装解除するとのマッカーサーの方針
2015/06/21投稿:
【憲法9条】マッカーサー3原則を読む
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-134.html
(*2):Power Projection能力とは直訳すると「戦力投射能力」。現状の「専守防衛」ドクトリンでは、飛んでくるミサイルを防ぐだけ、海を渡ってくる爆撃機や強襲揚陸艦を阻止するだけで、我が国に仇なす相手の本拠地はずっと無傷であり、相手側の日本侵攻意図を諦めさせるPower Projection能力がないので、「長期必負ドクトリン」となっている。
2017/03/22投稿:
Power Projection能力
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-633.html
(*3):「○○国の装備品を見て、○○国のドクトリンを推定する」
2017/06/01投稿:
中国人の空母の見方
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-683.html
(*4):戦車保有数データ(かなり大雑把であるが保有量比較には有効)
北朝鮮5,025両(世界第4位)、韓国2,654両(世界第9位)
http://www.globalfirepower.com/armor-tanks-total.asp
参考:日本700両(世界第28位)
(*5):バランスを崩した設計の為に低い障害物さえ乗り越えられない韓国K1A1戦車
YouTube動画:韓国陸軍K1A1戦車 段差に撃破されるwww
https://www.youtube.com/watch?v=0Q4y6lk7pIk
僅か2分程の短い動画であるが、0:43辺りと1:22辺りの2回、障害物を乗り越えようと兆銭しているが、何れもダメな様子がご覧いただける。
(*6):無謀な妄想「白頭山計画」。周辺国に喧嘩を売りまくる内容を「国家存立戦略」に据えていることの悪影響
2017/06/13投稿:
「白頭山計画」・実現性なき稀有壮大な妄想
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-692.html
(*7):韓国空軍の戦闘用機種内訳
<Wiki「大韓民国空軍」から抜粋引用>
・F-15Kストライクイーグル:59機
・F-16C/D及びKF-16C/D:169機
(頭に「K」がついているのはノックダウン生産機のこと)
・F-4EファントムⅡ:71機
(後継機としてF-35Aを40機予定)
・F-5E/FタイガーII:194機
・FA-50(韓国国産戦闘機):20機
上記合計:513機
(*7):平成28年(2016年)「防衛白書」のデータ
http://flyteam.jp/news/article/66909
F-15J/DJ:201機
F-2A/B:92機
F-4EJ及びF-4EJ改:102機
(後継機としてF-35Aを42機調達中)
上記合計395機
(*8):EEZの世界地図
http://4.bp.blogspot.com/-3CPb5VYW3iw/T3kLITE6rpI/AAAAAAAAHv8/IgLW4ZjXpkE/s1600/EEZ_map_LifeCycleTheory.jpg



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