憲法議論3・日本の国家元首
- 2017/05/29
- 18:15
憲法議論3・日本の国家元首
<憲法議論をはじめよう4>

副題:天皇を日本の元首だと認めたくない方々が、色々と理屈を並べていますが、日本の元首は天皇です。
イギリスの国家元首は、エリザベス女王。
アメリカの国家元首は大統領で、いまはドナルド・トランプ。
フランスの国家元首も大統領。つい先日の5月16日に任期満了したフランソワ・オランド大統領の後継は、同国大統領選で選ばれたのがエマニュエル・マクロン。
彼が現在のフランスの元首である。
イギリスの正式国名は、日本語では「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」とし、同国母国語の英語では「the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」と長ったらしいので、UK= United Kingdomと略して使うのが一般的だ。
「連合王国」とある様に、イギリスはエリザベス女王を元首とする王国である。
アメリカの正式国名は、日本語では「アメリカ合衆国」。英語では「United States of America」である。こちらも、USAと略される。
アメリカの国体は、50の州(State)からなる連邦共和国=United Statesであるので、素直に訳せば「合「州」国」になるのだが、我々の先人は、その国家形態から「合衆国」との日本語にしたものだ。
フランスの正式国名は、日本語では「フランス共和国」。同国母国語の仏語では「République française」、英語では「French Republic」である。
仏語と英語では順番が逆になっているが、これは仏語ではよくあることで、例えば、バット=VATと通称している付加価値税(Value Added Tax)は仏語ではTAV(taxe sur la valeur ajoutée)となる様に順番が逆になっている。何れであっても「共和国制のフランス」という意味だ。
アメリカとフランスは同じ「共和国制」の国だが、アメリカは州が集合して国家を作っている「連邦制」で、フランスは「単一国家」である。
連邦制の共和国としては、アメリカの他にドイツ連邦共和国、スイス連邦などがある。
単一国家の共和国としては、フランスの他に、イタリア共和国などがある。
共和国の場合、連邦制でも単一国家でも、その元首は、基本的には、その国の大統領である。そして、多くの場合、その国の行政を統括する政治的な統治権行使権は大統領にある。
ドイツの場合は、連邦共和国なのだが、大統領にはなく首相にあるとの特殊な事例となっているし、スイスも独特な元首・行政統治権行使権制度になっている。(*1)
一方、最初に例示したイギリスは、「王国」である。
世界約200ヶ国のうち、一番多いのは「共和国」であるが、「王国」も結構多い。
欧州では、イギリスの他にはスペイン王国、オランダ王国、ベルギー王国、デンマーク王国、スウェーデン王国、ノルウェー王国がある。
北欧の、スウェーデン、ノルウェーは王国であるが、スカンジナビア3国の1つフィンランドは、今は共和国である。フィンランドはロシアの隣国という地理的に不幸な地にあり、20世紀初頭のロシア革命の余波でフィンランド王国は、フィンランド共和国となっている。
もう1つの3国としては、ベネルックス3国がある。オランダ、ベルギー、ルクセンブルグの3国のことである。上記した様にオランダ、ベルギーは王国である。残るルクセンブルクは日本語での正式名は「ルクセンブルグ大公国」であり、王国と同じ「君主制」の国である。要するに、君主が「王(King)」なのか諸侯の「大公(Grand Duke)」なのかの違いであり、君主制であることに変わりはない。
アジアでは、タイ、ブータン、カンボジア、ブルネシ、マレーシアが王国である。
これらのうち、タイ、ブータン、カンボジアは日本語の正式国名に「王国」とつくが、ブルネイは「ブルネイ・ダルサラーム国」、マレーシアはそのまま「マレーシア」と、「王国」とはつかない。
ブルネイは、サルタン(スルターン)が納める国で、サルタンとはイスラム圏での君主の称号の一種である。アラビア語の「権力」、「権威」を意味する。
マレーシアも同様にサルタンが納める国であるが、マレーシアの場合は、各州のサルタンの互選による「選挙王制」である、互選により選ばれ、任期5年の国王となる制度であるが、各州サルタンの輪番で国王を選ぶ運用をしているそうだ。
「サルタンの互選」とのやり方は後述するアラブ首長国連邦のやり方に似ているし、「輪番制の国家元首」とのやり方はスイスの国家元首に似ている。
欧州やアジアの王国・君主制国家は基本的には立憲君主制との民主主義体制なのだが、中近東の王国の君主制は、絶対王政が主流である。
石油産出する湾岸諸国の殆どが王国である。
サウジアラビア王国、アラブ首長国連邦、カタール国、バーレーン王国、オマーン国、クウェート国などである。これらの国については以前各国概要を論評している(*2)ので、詳しくは、そちらを参照いただきたい。
これらの中東の国々の国家元首は、その国の王様である。サウジアレビア王国の様なケースは分かり易いのだが、アラブ首長国連邦(UAE)の場合はちょっと分かり難い。
同国憲法ではUAEの国家元首は「大統領」になっているのである。
UAEは、国名でお分かりの様に「首長国」であり、その連邦である。
「首長国」の「首長」とは、イスラム圏の君主の称号の1つである「首長(エミル)」が君主の国という意味である。UAEは、君主国としては珍しく連邦制であるが、その7つの首長国のうちの「アブダビ首長国」と「ドバイ首長国」の2ヶ国が他を圧倒している。
上記した様にUAEの国家元首は「大統領」ということになっているのだが、その実態は、アブダビ首長国の首長が大統領を世襲し、ドバイ首相国の首長が副大統領兼首相を世襲しているので、他の湾岸諸国の王国と同じだと考えて良い。
この様に、中近東の王国の君主制は、絶対王政が主流であり、欧州やアジアの王国・君主制国家は立憲君主制との民主主義体制とは大きく違っている。
要するに、国家名や、その国の政治制度で大統領がいるとかの表面的なものではなく、実態を以て、考察する必要があるということだ。
例えば、民主主義の人民による共和国を名乗っている「朝鮮民主主義人民共和国」北朝鮮も、国名ではなく実態で評価すべき事例の1つだということだ。(*3)
中東湾岸諸国は絶対王政なのだが、実際に行ってみると、豊富なオイルマネーで中東の王様達は、絶対王政下で国民を不必要な程に優遇し、中世欧州の絶対王政が農奴(国民)を過酷に扱ったのとは真逆の状態にある。
「絶対王政」とのキーワードから想起される「国民を過酷な状態にする極悪体制」とのイメージとは真逆な世界が現在の中東湾岸諸国には存在している。
我々は、何故、「絶対王政」との単語から直ぐに中世欧州をイメージし、それを「悪い」とイメージしてしまうのかというと、「戦後「民主主義」教育」で、その様に教わっているからである。(*4)
そういう固定観念から脱し、素直に現実・実態を見ることが重要である。
原則や論理的帰結としては、そうなのであるが、それは難しいことでもある。
現在の中東湾岸諸国のオイルマネーが溢れた状態で暮らす国民を傍から見て、その物質的豊かさや労働しなくても生きていける環境等は、日本人の当方から見て、けして良いものには見えない。
むしろ、人間を堕落させるぬるま湯にさえ感じるのである。
それは、当方が日本文明を、その正邪判断の基に置いているからであることは頭ではわかっていながら、その様に感じることを否定できないのである。
さて、話を国家元首に戻すが、その前に、主権概念のオサライをしておこう。
現在の我国では、現行憲法の建て付けが「なんでもかんでも国民主権」で書かれており、その弊害で「主権」との言葉は「国民主権=主権在民」でしかないとの観念が見られる。
これは、帝国憲法の建て付けが「なんでもかんでも天皇大権」で書かれているのと同じ現象である。
帝国憲法の実態は、その条文から、議会制民主主義であるのだが、簡文法であり、憲政の常道との慣習部分を同時に踏まえて実態を理解しないと、誤解が発生するのである。あたかも民主主義的に選任された「大統領」との名前の国家元首がいる国だとUAEを見てしまうのと同じ誤解である。
そういう誤解が発生しない様に、先ずは、主権概念には以下の3つがあることを再度、明示しておく。
主権1):統治権。国民及び領土を統治する国家の権力
主権2):国際県警での国家主権概念。国家が他国からの干渉を受けずに独自の意思決定を行う権利。自己決定権、自衛権、交戦権等の国際関係上の国家主権。
主権3):政治決定権・投票権・選出権等の国家の政治を最終的に決定する権利。国民主権。
そして、民主主義国の場合は、選挙等の主権3)の行使の結果、選出された人物に主権1)のうちの行政権の行使権が委ねられるとの政治体制になっているのである。
この3つの主権概念を、共和国、王国等に当てはめ、それらの分類の国々が誰を国家元首にしているのかをまとめると概ね以下の様になる。
尚、細かくは各国で差異があり、また議論があるとことなので、分類が沢山になり過ぎ、かえってわからなくなることにならない様に、代表的なものに絞り、その概要を記していることを予めご承知おき願いたい。
また、対外的国家主権である主権2)は国家間の概念なので、共和国とか王国の様な国家体制とは無関係に、総ての主権国家自体が持つものであることから、記載は省略してある。
○フランス・イタリア等単一国家共和国
主権1):国民国家である共和国国家体制
主権1)行政権行使権:大統領
国家元首:大統領
主権3):国民
○アメリカの場合(連邦制共和国)
主権1):連邦を形成する各州及び連邦国家体制
主権1)行政権行使権:大統領
国家元首:大統領
主権3):国民
○ドイツの特殊なケース(連邦制共和国)
主権1):連邦を形成する各州及び連邦国家体制
主権1)行政権行使権:首相
国家元首:大統領(議会選挙で選出される。儀礼的立場である)
主権3):国民
○イギリス等の立憲君主制王国
主権1):君主(イギリスの場合エリザベス女王)
主権1)行政権行使権:首相
国家元首:君主
主権3):国民
○中東湾岸諸国の絶対王政王国
主権1):君主(王、首長等)
主権1)行政権行使権:君主
国家元首:君主
主権3):君主
簡単にまとめると以上である。
異論ある方は、コメント欄にてご意見いただければ幸である。
さて、ここで一番最初に副題に書いたことを思い出していただきたい。
<副題再記載>、
副題:天皇を日本の元首だと認めたくない方々が、色々と理屈を並べていますが、日本の元首は天皇です。
<再記載終わり>
我国の政治体制は、イギリスと同様の立憲君主制である。
従い、上記まとめの形式では、我が国の場合は以下の様になる。
○日本
主権1):天皇
主権1)行政権行使権:首相
国家元首:天皇
主権3):国民
上記副題で書いた通り、戦後日本には、「天皇を日本の元首だと認めたくない方々」がおり、話を歪めているので、「日本の国家元首は天皇」との話をすると違和感を持つ方が存在しているであろうが、それこそが「固定観念」である。
「戦後「民主主義」教育」では、我国元首が天皇であるとは教わらず、「なんでもかんでも国民主権」と教わっているかである。(*4)
そういう固定観念から脱し、素直に現実・実態を見ることが重要である。
現行憲法は「なんでもかんでも国民主権」との建て付けで書かれているのであるが、その現行憲法の条文には、以下の様な条文があり、それら条文規定に則って天皇の統治権の行政権行使権を総理大臣に委ねていることを見れば、我国が立憲君主制であり、天皇が国家元首であるとの構造になっていることは明らかだ。
<現行憲法第43条、第67条、第6条、第68条、第7条・五)(*5)
①:総選挙の実施(第43条)<主権3)の行使>
↓
②:首班指名(第67条)<主権3)行使結果の集約>
第67条:内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
↓
③:天皇による総理任命<主権1)行使権を委ねる>
第6条:天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
↓
④:内閣総理大臣による組閣(国務大臣の任命)<主権1)行使権委譲の一環>
第68条:内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
↓
⑤:天皇による国務大臣の認証<主権1)統治権者による認証>
第7条五:国務大臣(中略)を認証すること。
第67条の国会の指名に基づき、天皇が総理を任命することが憲法に規定されているのは、統治権者が持つ主権1)の行使権を主権3)の行使結果に応じて委譲するとの規定である。
立憲君主国イギリスでは、首班指名以外は我国と同じである。
イギリス下院(我国衆議院に相当)選挙での第一党の党首がバッキンガム宮殿を訪れ、元首エリザベス女王から統治権行使権を委ねられて、初めてイギリス首相となるのである。
国務大臣の認証も、天皇により行われることが憲法第7条で規定されている。
認証をするのは天皇なのだが、我国には「天皇を日本の元首だと認めたくない方々」がおり、マスコミでは「皇居での認証式」との「場所」を報道している。(*6)
認証するのは元首である天皇だと事実を薄めたいのであろうが、この様に、憲法第6条及び第7条規定では、天皇は「国事行為」との名称の元首行為をする規定になっているのである。
これが事実である。
今回の視点での議論提示は以上である。憲法議論の一助になれば幸である。
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【文末脚注】
(*1):スイスの特殊な政治形態・国家元首
2015/11/01投稿:
【コラム】スイス・直接民主制
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-250.html
(*2):中東絶対王政
2015/10/22投稿:
【コラム】基礎知識「中東」について2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-239.html
(*3):民主主義の人民による共和国
2017/03/17投稿:
北朝鮮「金王朝」との皮肉
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-630.html
(*4):「戦後「民主主義」教育」での歴史教育の弊害の一例
2016/12/03投稿:
「権力vs民衆」との設定
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-555.html
(*5);現行憲法条文の紹介(各条文の第2項等は記載省略した)
①:総選挙の実施:第43条
両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
②:首班指名:第67条
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
③:天皇による総理任命:第6条
天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
④:内閣総理大臣による組閣(国務大臣の任命)第68条
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
⑤:天皇による国務大臣の認証:第7条五
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
<以下略>
(*6):認証するのは天皇との事実を薄め、「皇居」との場所を「報道」するマスコミ
2015/10/10投稿:
【コラム】「皇居での認証式」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-229.html
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<憲法議論をはじめよう4>


副題:天皇を日本の元首だと認めたくない方々が、色々と理屈を並べていますが、日本の元首は天皇です。
イギリスの国家元首は、エリザベス女王。
アメリカの国家元首は大統領で、いまはドナルド・トランプ。
フランスの国家元首も大統領。つい先日の5月16日に任期満了したフランソワ・オランド大統領の後継は、同国大統領選で選ばれたのがエマニュエル・マクロン。
彼が現在のフランスの元首である。
イギリスの正式国名は、日本語では「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」とし、同国母国語の英語では「the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」と長ったらしいので、UK= United Kingdomと略して使うのが一般的だ。
「連合王国」とある様に、イギリスはエリザベス女王を元首とする王国である。
アメリカの正式国名は、日本語では「アメリカ合衆国」。英語では「United States of America」である。こちらも、USAと略される。
アメリカの国体は、50の州(State)からなる連邦共和国=United Statesであるので、素直に訳せば「合「州」国」になるのだが、我々の先人は、その国家形態から「合衆国」との日本語にしたものだ。
フランスの正式国名は、日本語では「フランス共和国」。同国母国語の仏語では「République française」、英語では「French Republic」である。
仏語と英語では順番が逆になっているが、これは仏語ではよくあることで、例えば、バット=VATと通称している付加価値税(Value Added Tax)は仏語ではTAV(taxe sur la valeur ajoutée)となる様に順番が逆になっている。何れであっても「共和国制のフランス」という意味だ。
アメリカとフランスは同じ「共和国制」の国だが、アメリカは州が集合して国家を作っている「連邦制」で、フランスは「単一国家」である。
連邦制の共和国としては、アメリカの他にドイツ連邦共和国、スイス連邦などがある。
単一国家の共和国としては、フランスの他に、イタリア共和国などがある。
共和国の場合、連邦制でも単一国家でも、その元首は、基本的には、その国の大統領である。そして、多くの場合、その国の行政を統括する政治的な統治権行使権は大統領にある。
ドイツの場合は、連邦共和国なのだが、大統領にはなく首相にあるとの特殊な事例となっているし、スイスも独特な元首・行政統治権行使権制度になっている。(*1)
一方、最初に例示したイギリスは、「王国」である。
世界約200ヶ国のうち、一番多いのは「共和国」であるが、「王国」も結構多い。
欧州では、イギリスの他にはスペイン王国、オランダ王国、ベルギー王国、デンマーク王国、スウェーデン王国、ノルウェー王国がある。
北欧の、スウェーデン、ノルウェーは王国であるが、スカンジナビア3国の1つフィンランドは、今は共和国である。フィンランドはロシアの隣国という地理的に不幸な地にあり、20世紀初頭のロシア革命の余波でフィンランド王国は、フィンランド共和国となっている。
もう1つの3国としては、ベネルックス3国がある。オランダ、ベルギー、ルクセンブルグの3国のことである。上記した様にオランダ、ベルギーは王国である。残るルクセンブルクは日本語での正式名は「ルクセンブルグ大公国」であり、王国と同じ「君主制」の国である。要するに、君主が「王(King)」なのか諸侯の「大公(Grand Duke)」なのかの違いであり、君主制であることに変わりはない。
アジアでは、タイ、ブータン、カンボジア、ブルネシ、マレーシアが王国である。
これらのうち、タイ、ブータン、カンボジアは日本語の正式国名に「王国」とつくが、ブルネイは「ブルネイ・ダルサラーム国」、マレーシアはそのまま「マレーシア」と、「王国」とはつかない。
ブルネイは、サルタン(スルターン)が納める国で、サルタンとはイスラム圏での君主の称号の一種である。アラビア語の「権力」、「権威」を意味する。
マレーシアも同様にサルタンが納める国であるが、マレーシアの場合は、各州のサルタンの互選による「選挙王制」である、互選により選ばれ、任期5年の国王となる制度であるが、各州サルタンの輪番で国王を選ぶ運用をしているそうだ。
「サルタンの互選」とのやり方は後述するアラブ首長国連邦のやり方に似ているし、「輪番制の国家元首」とのやり方はスイスの国家元首に似ている。
欧州やアジアの王国・君主制国家は基本的には立憲君主制との民主主義体制なのだが、中近東の王国の君主制は、絶対王政が主流である。
石油産出する湾岸諸国の殆どが王国である。
サウジアラビア王国、アラブ首長国連邦、カタール国、バーレーン王国、オマーン国、クウェート国などである。これらの国については以前各国概要を論評している(*2)ので、詳しくは、そちらを参照いただきたい。
これらの中東の国々の国家元首は、その国の王様である。サウジアレビア王国の様なケースは分かり易いのだが、アラブ首長国連邦(UAE)の場合はちょっと分かり難い。
同国憲法ではUAEの国家元首は「大統領」になっているのである。
UAEは、国名でお分かりの様に「首長国」であり、その連邦である。
「首長国」の「首長」とは、イスラム圏の君主の称号の1つである「首長(エミル)」が君主の国という意味である。UAEは、君主国としては珍しく連邦制であるが、その7つの首長国のうちの「アブダビ首長国」と「ドバイ首長国」の2ヶ国が他を圧倒している。
上記した様にUAEの国家元首は「大統領」ということになっているのだが、その実態は、アブダビ首長国の首長が大統領を世襲し、ドバイ首相国の首長が副大統領兼首相を世襲しているので、他の湾岸諸国の王国と同じだと考えて良い。
この様に、中近東の王国の君主制は、絶対王政が主流であり、欧州やアジアの王国・君主制国家は立憲君主制との民主主義体制とは大きく違っている。
要するに、国家名や、その国の政治制度で大統領がいるとかの表面的なものではなく、実態を以て、考察する必要があるということだ。
例えば、民主主義の人民による共和国を名乗っている「朝鮮民主主義人民共和国」北朝鮮も、国名ではなく実態で評価すべき事例の1つだということだ。(*3)
中東湾岸諸国は絶対王政なのだが、実際に行ってみると、豊富なオイルマネーで中東の王様達は、絶対王政下で国民を不必要な程に優遇し、中世欧州の絶対王政が農奴(国民)を過酷に扱ったのとは真逆の状態にある。
「絶対王政」とのキーワードから想起される「国民を過酷な状態にする極悪体制」とのイメージとは真逆な世界が現在の中東湾岸諸国には存在している。
我々は、何故、「絶対王政」との単語から直ぐに中世欧州をイメージし、それを「悪い」とイメージしてしまうのかというと、「戦後「民主主義」教育」で、その様に教わっているからである。(*4)
そういう固定観念から脱し、素直に現実・実態を見ることが重要である。
原則や論理的帰結としては、そうなのであるが、それは難しいことでもある。
現在の中東湾岸諸国のオイルマネーが溢れた状態で暮らす国民を傍から見て、その物質的豊かさや労働しなくても生きていける環境等は、日本人の当方から見て、けして良いものには見えない。
むしろ、人間を堕落させるぬるま湯にさえ感じるのである。
それは、当方が日本文明を、その正邪判断の基に置いているからであることは頭ではわかっていながら、その様に感じることを否定できないのである。
さて、話を国家元首に戻すが、その前に、主権概念のオサライをしておこう。
現在の我国では、現行憲法の建て付けが「なんでもかんでも国民主権」で書かれており、その弊害で「主権」との言葉は「国民主権=主権在民」でしかないとの観念が見られる。
これは、帝国憲法の建て付けが「なんでもかんでも天皇大権」で書かれているのと同じ現象である。
帝国憲法の実態は、その条文から、議会制民主主義であるのだが、簡文法であり、憲政の常道との慣習部分を同時に踏まえて実態を理解しないと、誤解が発生するのである。あたかも民主主義的に選任された「大統領」との名前の国家元首がいる国だとUAEを見てしまうのと同じ誤解である。
そういう誤解が発生しない様に、先ずは、主権概念には以下の3つがあることを再度、明示しておく。
主権1):統治権。国民及び領土を統治する国家の権力
主権2):国際県警での国家主権概念。国家が他国からの干渉を受けずに独自の意思決定を行う権利。自己決定権、自衛権、交戦権等の国際関係上の国家主権。
主権3):政治決定権・投票権・選出権等の国家の政治を最終的に決定する権利。国民主権。
そして、民主主義国の場合は、選挙等の主権3)の行使の結果、選出された人物に主権1)のうちの行政権の行使権が委ねられるとの政治体制になっているのである。
この3つの主権概念を、共和国、王国等に当てはめ、それらの分類の国々が誰を国家元首にしているのかをまとめると概ね以下の様になる。
尚、細かくは各国で差異があり、また議論があるとことなので、分類が沢山になり過ぎ、かえってわからなくなることにならない様に、代表的なものに絞り、その概要を記していることを予めご承知おき願いたい。
また、対外的国家主権である主権2)は国家間の概念なので、共和国とか王国の様な国家体制とは無関係に、総ての主権国家自体が持つものであることから、記載は省略してある。
○フランス・イタリア等単一国家共和国
主権1):国民国家である共和国国家体制
主権1)行政権行使権:大統領
国家元首:大統領
主権3):国民
○アメリカの場合(連邦制共和国)
主権1):連邦を形成する各州及び連邦国家体制
主権1)行政権行使権:大統領
国家元首:大統領
主権3):国民
○ドイツの特殊なケース(連邦制共和国)
主権1):連邦を形成する各州及び連邦国家体制
主権1)行政権行使権:首相
国家元首:大統領(議会選挙で選出される。儀礼的立場である)
主権3):国民
○イギリス等の立憲君主制王国
主権1):君主(イギリスの場合エリザベス女王)
主権1)行政権行使権:首相
国家元首:君主
主権3):国民
○中東湾岸諸国の絶対王政王国
主権1):君主(王、首長等)
主権1)行政権行使権:君主
国家元首:君主
主権3):君主
簡単にまとめると以上である。
異論ある方は、コメント欄にてご意見いただければ幸である。
さて、ここで一番最初に副題に書いたことを思い出していただきたい。
<副題再記載>、
副題:天皇を日本の元首だと認めたくない方々が、色々と理屈を並べていますが、日本の元首は天皇です。
<再記載終わり>
我国の政治体制は、イギリスと同様の立憲君主制である。
従い、上記まとめの形式では、我が国の場合は以下の様になる。
○日本
主権1):天皇
主権1)行政権行使権:首相
国家元首:天皇
主権3):国民
上記副題で書いた通り、戦後日本には、「天皇を日本の元首だと認めたくない方々」がおり、話を歪めているので、「日本の国家元首は天皇」との話をすると違和感を持つ方が存在しているであろうが、それこそが「固定観念」である。
「戦後「民主主義」教育」では、我国元首が天皇であるとは教わらず、「なんでもかんでも国民主権」と教わっているかである。(*4)
そういう固定観念から脱し、素直に現実・実態を見ることが重要である。
現行憲法は「なんでもかんでも国民主権」との建て付けで書かれているのであるが、その現行憲法の条文には、以下の様な条文があり、それら条文規定に則って天皇の統治権の行政権行使権を総理大臣に委ねていることを見れば、我国が立憲君主制であり、天皇が国家元首であるとの構造になっていることは明らかだ。
<現行憲法第43条、第67条、第6条、第68条、第7条・五)(*5)
①:総選挙の実施(第43条)<主権3)の行使>
↓
②:首班指名(第67条)<主権3)行使結果の集約>
第67条:内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
↓
③:天皇による総理任命<主権1)行使権を委ねる>
第6条:天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
↓
④:内閣総理大臣による組閣(国務大臣の任命)<主権1)行使権委譲の一環>
第68条:内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
↓
⑤:天皇による国務大臣の認証<主権1)統治権者による認証>
第7条五:国務大臣(中略)を認証すること。
第67条の国会の指名に基づき、天皇が総理を任命することが憲法に規定されているのは、統治権者が持つ主権1)の行使権を主権3)の行使結果に応じて委譲するとの規定である。
立憲君主国イギリスでは、首班指名以外は我国と同じである。
イギリス下院(我国衆議院に相当)選挙での第一党の党首がバッキンガム宮殿を訪れ、元首エリザベス女王から統治権行使権を委ねられて、初めてイギリス首相となるのである。
国務大臣の認証も、天皇により行われることが憲法第7条で規定されている。
認証をするのは天皇なのだが、我国には「天皇を日本の元首だと認めたくない方々」がおり、マスコミでは「皇居での認証式」との「場所」を報道している。(*6)
認証するのは元首である天皇だと事実を薄めたいのであろうが、この様に、憲法第6条及び第7条規定では、天皇は「国事行為」との名称の元首行為をする規定になっているのである。
これが事実である。
今回の視点での議論提示は以上である。憲法議論の一助になれば幸である。
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【文末脚注】
(*1):スイスの特殊な政治形態・国家元首
2015/11/01投稿:
【コラム】スイス・直接民主制
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-250.html
(*2):中東絶対王政
2015/10/22投稿:
【コラム】基礎知識「中東」について2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-239.html
(*3):民主主義の人民による共和国
2017/03/17投稿:
北朝鮮「金王朝」との皮肉
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-630.html
(*4):「戦後「民主主義」教育」での歴史教育の弊害の一例
2016/12/03投稿:
「権力vs民衆」との設定
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-555.html
(*5);現行憲法条文の紹介(各条文の第2項等は記載省略した)
①:総選挙の実施:第43条
両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
②:首班指名:第67条
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
③:天皇による総理任命:第6条
天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
④:内閣総理大臣による組閣(国務大臣の任命)第68条
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
⑤:天皇による国務大臣の認証:第7条五
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
<以下略>
(*6):認証するのは天皇との事実を薄め、「皇居」との場所を「報道」するマスコミ
2015/10/10投稿:
【コラム】「皇居での認証式」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-229.html



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