(資料編)憲法前文の登場・9条の登場と変遷
- 2017/05/20
- 18:50
(資料編)憲法前文の登場・9条の登場と変遷

副題:現行憲法制定過程の時系列史料。いつ前文と9条が登場したのか、9条はどの様に変遷したのか
現行憲法には前文があるが、帝国憲法にはない。
帝国憲法には「戦争の放棄」との条文はない。アメリカ憲法にも、そんな条文はない。
現行憲法前文及び第9条の条文に至る、現行憲法制定過程の各時点での条文案の変遷を「資料編」として残しておく。
1)帝国憲法
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-395.html
・前文:なし(明治天皇の告文・勅語がある(*1))
・現行憲法9条に該当するものなし
↓
<1945年(昭和20年)10月憲法改正指示>
↓
2)11月14日美濃部達吉博士憲法問題調査委員会資料(*2)
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/01/039b/039btx.html
・現行憲法9条に該当するものなし
↓
<1946年(昭和21年)>
↓
3)1月4日:松本私案「憲法改正私案」
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/02/058c/058ctx.html
・現行憲法9条に該当するものなし
↓
4)2月2日:「憲法改正要領」(甲案)(乙案は陽の目を見ず。)
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/02/067a/067atx.html
・現行憲法9条に該当するものなし
↓
5)2月3日(4日):マッカーサー3原則(*3)
ここで初めて交戦権否定・非武装との現行憲法9条と同じ条文案が登場する。
マッカーサー3原則のうちの2番目の原則が現行憲法9条の始祖である。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/072/072_002l.html
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
・日本は基本的国家主権である交戦権を放棄=国家主権としての戦争は撤廃される。
・紛争解決の手段としての戦争のみならず、自身を守る自衛の為の自衛戦争も放棄する。
・今や世界を席巻する「より高い理想」を当てにして日本は自身の防衛と防護を、それに委ねます。
・日本は陸軍、海軍、または空軍を持つことは今後一切許可されない。
・また、どんな「日本軍」にも交戦権が与えられることは金輪際ない。
↓
6)2月X日(4日以降12日以前):GHQ原案(*4)
マッカーサー原則に則り、GHQが最初にまとめた憲法案。
ここで初めて「前文」という形式が登場する。また、この原案の第1条は、後の憲法9条である。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/147/147tx.html
・国家の主権としての戦争は廃止される。
・威嚇、又は軍事力の使用は、他のいかなる国との紛争を解決する手段として、永遠に放棄されている。
・陸軍、海軍、空軍、または、その他の戦争を遂行する能力はけして認めらない。そして、国家には戦争をする権利は与えられない。
↓
7)2月13日:GHQ草案(*5)
上記4)2月2日の「憲法改正要領」(松本案・甲案)を2月8日にGHQに提出し、この日、2月13日に、その回答をGHQから得る目的でGHQを訪問した。
吉田茂、松本、白洲の諸氏は、そこで松本案の拒否とGHQ草案を渡された。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/076a_e/076a_etx.html
GHQ草案の後の9条となる国家主権否定・非武装・交戦権否定の条文は、上記GHQ原案と同文である。
日本政府は、22日の閣議においてGHQ草案の事実上の受け入れを決定し、26日の閣議においてGHQ草案に沿った新しい憲法草案を起草することを決定した。
↓
<これ以降、GHQ草案をベースにした案作成となる>
↓
8)「3月2日案」(3月4日GHQに提出)
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/088/088tx.html
第二章 戦争ノ廃止
第九条 戦争ヲ国権ノ発動ト認メ武力ノ威嚇又ハ行使ヲ他国トノ間ノ争議ノ解決ノ具トスルコトハ永久ニ之ヲ廃止ス。
陸海空軍其ノ他ノ戦力ノ保持及国ノ交戦権ハ之ヲ認メズ。
↓
9)「3月5日案」
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/091/091tx.html
第二章 戦争ノ放棄
第九条 国家ノ主権ニ於テ行フ戦争及武力ノ威嚇又ハ行使ヲ他国トノ間ノ争議ノ解決ノ具トスルコトハ永久ニ之ヲ放棄ス。
陸海空軍其ノ他ノ戦力ノ保持ハ之ヲ許サス。国ノ交戦権ハ之ヲ認メズ。
↓
10)6月20日:「帝国憲法改正案」
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/04/117/117tx.html
第二章 戦争の抛棄
第九条 国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。
陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。
↓
11)11月3日:日本国憲法公布、翌1947年(昭和22年)5月3日施行(*6)
第二章 戦争の放棄
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
以上、国立国会図書館所蔵の第一級の一次資料を時系列で示した。
ご覧の様に、非武装・主権制限・交戦権否定の第9条の登場はマッカーサー3原則から、前文の登場はGHQ原案から、とのことを確認できたと思う。
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【文末脚注】
(*1):帝国憲法に前文はない。あるのは明治天皇の国文・勅語
2015/01/23投稿:
3.大日本帝国憲法の告文・憲法発布勅語と日本国憲法の比較 3-1大日本帝国憲法 告文
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-7.html
(*2):美濃部意見書 1945年11月8日
松本から、とくに「全般的な理論」の提供、「理想的な改正案」の作成を依頼された美濃部達吉が、1945(昭和20)年11月14日の第三回総会に提出した文書。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/01/039b/039btx.html
<以下に、美濃部博士の基本姿勢の部分と「軍」「兵役」に関する部分を抜粋引用する。原文は旧仮名・カタカナで書かれているので、読み易い様にカタカナをひらがな化して現代文にしてある。注目すべき内容であるので、注目をお願いする。>
第一 憲法改正の基本問題
一、憲法の改正は憲法の特定の条項の修正、削除又は追加に留めるべきか、又は、その全部改正、即ち、全部に亙る新憲法の制定に及ぶものとするべきか。
もしも、現在の政治上の必要(占領下での改憲要請)に応ずる為ならば、特定の条項の改正を以て足るとすべきであるが、果たして、その必要性があるのか否かは疑問である。
新日本を建設し、民心を一新する為には、むしろ、其の全部改正に著手することもあるのではないか。
二、憲法の改正には、降伏の結果として、現在の状態()占領時主権喪失期)を基礎とするのか、又は、将来国家の独立を回復することを期して、独立国たることを基礎とすべきか。
しかし、現在の状態を基礎としたならば、陸海軍、外交、戒厳、兵役に関する(帝国憲法の)第11、12、13、14、20、32の各除を削除する必要があるとともに、第1条には「日本帝国は連合国の指揮を受けて 天皇これを統治する」というが如きの趣旨に修正する必要がある。
むしろ現在の状態は(原文:一時的ノ変態トシテ考慮ノ外ニ置キ)=(一時的な特殊な状態だと考慮対象外とし、)独立国としての日本の憲法とすべきではないか。
(第一略)
第三 天皇の権
天皇の権に関する項で考慮を要すべきものには、陸海軍等に関する前掲諸条の他に左の各条がある。(各条略)
第四 臣民の権利義務
一、臣民の義務に関しては兵役、納税の如き、個々の義務を列記することを改め、包括的に「臣民はこの憲法及び法律に服従する義務を負う」という様な趣旨の規定を設定するほうが良い。
二、臣民の権利に関しても包括的に、「臣民は法律に依ることなく、その自由及び権利を侵害されることはない」という趣旨の一箇条を設けること。
三、法律を以てしても侵すことがない自由及び権利(基本的人権のこと)に付いては、別に、その規定を設定すること。
<以下略>
(*3):マッカーサー3原則の第2原則(9条の始祖)(付番は引用者)
2016/07/31投稿:
(解説編2)資料・マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/072/072_002l.html
原則Ⅱ-1:
①War as a sovereign right of the nation is abolished
(日本は基本的国家主権である交戦権を放棄=国家主権としての戦争は撤廃される。)
②Japan renounces it as an instrumentality for settling its disputes and even for preserving its own security.
(紛争解決の手段としての戦争のみならず、自身を守る自衛の為の自衛戦争も放棄する。)
③It relies upon the higher ideals which are now stirring the world for its defense and its protection.
(今や世界を席巻する「より高い理想」を当てにして日本は自身の防衛と防護を、それに委ねます。)
原則Ⅱ-2:
①No Japanese Army, Navy or Air Force will ever be authorized
(日本は陸軍、海軍、または空軍を持つことは今後一切許可されない。)
②and no rights of belligerency will ever be conferred upon any Japanese force.
(また、どんな「日本軍」にも交戦権が与えられることは金輪際ない。)
(*4):GHQ原案(9条)
国立国会図書館HP資料:GHQ原案
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/147/147tx.html
占領軍GHQがまとめた憲法原案なので、英文である。
資料テキストには日付データは見当たらないが、前後関係から便宜的に次のGHQ草案の前日の2月12日と表記している。ここで初めて憲法に「前文」との形式が登場する。また、9条となる条文案は、この原案では第1条となっている。
<9条原案部分の抜粋引用>
○ARTICLE I(第1条)=後の9条(付番は引用者)
①:War as a sovereign right of the nation is abolished.
(国家の主権としての戦争は廃止される。)
②:The threat or use of force is forever renounced as a means for settling disputes with any other nation.
(威嚇、又は軍事力の使用は、他のいかなる国との紛争を解決する手段として、永遠に放棄されている。)
③:No Army, Navy, Air Force, or other war potential will ever be authorized and no rights of belligerency will ever be conferred upon the state.
(陸軍、海軍、空軍、または、その他の戦争を遂行する能力はけして認めらない。そして、国家には戦争をする権利は与えられない。)
(*5):GHQ草案 1946年2月13日(9条)
国立国会図書館HP資料:GHQ草案 1946年2月13日
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/076a_e/076a_etx.html
<9条原案部分の抜粋引用>
GHQ草案の英文は、上記(*4)のGHQ原案と同一である。
○CHAPTER II Renunciation of War (第2章・戦争の放棄)
Article VIII.(第8条=後の9条(付番は引用者))
①:War as a sovereign right of nation is abolished.
②:The threat or use of force is forever renounced as a means for settling disputes with any other nation.
②:No army, navy, air force, or other war potential will ever be authorized and no rights of belligerency will ever be conferred upon the State.
(*6):現行憲法(9条)
官邸HP:THE CONSTITUTION OF JAPAN
http://japan.kantei.go.jp/constitution_and_government/frame_01.html
CHAPTER II(第2章)RENUNCIATION OF WAR(戦争の放棄)
Article 9.(第9条)
①:Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order, the Japanese people forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or use of force as means of settling international disputes.
(日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。)
②:In order to accomplish the aim of the preceding paragraph, land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained. The right of belligerency of the state will not be recognized.
(前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。)
【ご参考】(前文の変遷(「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分)
上記(*4):GHQ原案(「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分)
国立国会図書館HP資料:GHQ原案
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/147/147tx.html
【 have determined to rely for their security and survival upon the justice and good faith of the peace-loving peoples of the world.】
上記(*5):GHQ草案(「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分)
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/076a_e/076a_etx.html
【we have determined to rely for our security and survival upon the justice and good faith of the peace-loving peoples of the world.】
上記(*6):現行憲法(「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分)
http://japan.kantei.go.jp/constitution_and_government/frame_01.html
【we have determined to preserve our security and existence, trusting in the justice and faith of the peace-loving peoples of the world.】
GHQ原案とGHQ草案及び現行憲法の「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分を注目いただきたい。
GHQ原案は、「their security」とGHQアメリカ人が書いているので、日本の憲法なのに、日本人を「their」と表現している。これがGHQ草案になると「our security」となっている。現行憲法でも「our security」である。
GHQ原案及びGHQ草案では、日本人の「security and survival」(安全と生存(命))を「justice and good faith of the peace-loving peoples of the world」(世界の平和を愛する人々の正義と善意)に「rely」(依存する、頼る)であったが、現行憲法では、「preserve our security and existence, trusting」にマイルドな表現になっている。
「security and survival」(安全と生存(命))が「security and existence」(安全と生存(暮らし))になっている。
また、「rely~upon」(依存する、頼る)が、「preserve ~, trusting」(維持することを信じて)となっている。表現がマイルドになっているが、主旨としての、「日本人には自己決定権はない」、「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」に変わりはない。
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副題:現行憲法制定過程の時系列史料。いつ前文と9条が登場したのか、9条はどの様に変遷したのか
現行憲法には前文があるが、帝国憲法にはない。
帝国憲法には「戦争の放棄」との条文はない。アメリカ憲法にも、そんな条文はない。
現行憲法前文及び第9条の条文に至る、現行憲法制定過程の各時点での条文案の変遷を「資料編」として残しておく。
1)帝国憲法
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-395.html
・前文:なし(明治天皇の告文・勅語がある(*1))
・現行憲法9条に該当するものなし
↓
<1945年(昭和20年)10月憲法改正指示>
↓
2)11月14日美濃部達吉博士憲法問題調査委員会資料(*2)
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/01/039b/039btx.html
・現行憲法9条に該当するものなし
↓
<1946年(昭和21年)>
↓
3)1月4日:松本私案「憲法改正私案」
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/02/058c/058ctx.html
・現行憲法9条に該当するものなし
↓
4)2月2日:「憲法改正要領」(甲案)(乙案は陽の目を見ず。)
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/02/067a/067atx.html
・現行憲法9条に該当するものなし
↓
5)2月3日(4日):マッカーサー3原則(*3)
ここで初めて交戦権否定・非武装との現行憲法9条と同じ条文案が登場する。
マッカーサー3原則のうちの2番目の原則が現行憲法9条の始祖である。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/072/072_002l.html
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
・日本は基本的国家主権である交戦権を放棄=国家主権としての戦争は撤廃される。
・紛争解決の手段としての戦争のみならず、自身を守る自衛の為の自衛戦争も放棄する。
・今や世界を席巻する「より高い理想」を当てにして日本は自身の防衛と防護を、それに委ねます。
・日本は陸軍、海軍、または空軍を持つことは今後一切許可されない。
・また、どんな「日本軍」にも交戦権が与えられることは金輪際ない。
↓
6)2月X日(4日以降12日以前):GHQ原案(*4)
マッカーサー原則に則り、GHQが最初にまとめた憲法案。
ここで初めて「前文」という形式が登場する。また、この原案の第1条は、後の憲法9条である。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/147/147tx.html
・国家の主権としての戦争は廃止される。
・威嚇、又は軍事力の使用は、他のいかなる国との紛争を解決する手段として、永遠に放棄されている。
・陸軍、海軍、空軍、または、その他の戦争を遂行する能力はけして認めらない。そして、国家には戦争をする権利は与えられない。
↓
7)2月13日:GHQ草案(*5)
上記4)2月2日の「憲法改正要領」(松本案・甲案)を2月8日にGHQに提出し、この日、2月13日に、その回答をGHQから得る目的でGHQを訪問した。
吉田茂、松本、白洲の諸氏は、そこで松本案の拒否とGHQ草案を渡された。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/076a_e/076a_etx.html
GHQ草案の後の9条となる国家主権否定・非武装・交戦権否定の条文は、上記GHQ原案と同文である。
日本政府は、22日の閣議においてGHQ草案の事実上の受け入れを決定し、26日の閣議においてGHQ草案に沿った新しい憲法草案を起草することを決定した。
↓
<これ以降、GHQ草案をベースにした案作成となる>
↓
8)「3月2日案」(3月4日GHQに提出)
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/088/088tx.html
第二章 戦争ノ廃止
第九条 戦争ヲ国権ノ発動ト認メ武力ノ威嚇又ハ行使ヲ他国トノ間ノ争議ノ解決ノ具トスルコトハ永久ニ之ヲ廃止ス。
陸海空軍其ノ他ノ戦力ノ保持及国ノ交戦権ハ之ヲ認メズ。
↓
9)「3月5日案」
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/091/091tx.html
第二章 戦争ノ放棄
第九条 国家ノ主権ニ於テ行フ戦争及武力ノ威嚇又ハ行使ヲ他国トノ間ノ争議ノ解決ノ具トスルコトハ永久ニ之ヲ放棄ス。
陸海空軍其ノ他ノ戦力ノ保持ハ之ヲ許サス。国ノ交戦権ハ之ヲ認メズ。
↓
10)6月20日:「帝国憲法改正案」
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/04/117/117tx.html
第二章 戦争の抛棄
第九条 国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。
陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。
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11)11月3日:日本国憲法公布、翌1947年(昭和22年)5月3日施行(*6)
第二章 戦争の放棄
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
以上、国立国会図書館所蔵の第一級の一次資料を時系列で示した。
ご覧の様に、非武装・主権制限・交戦権否定の第9条の登場はマッカーサー3原則から、前文の登場はGHQ原案から、とのことを確認できたと思う。
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【文末脚注】
(*1):帝国憲法に前文はない。あるのは明治天皇の国文・勅語
2015/01/23投稿:
3.大日本帝国憲法の告文・憲法発布勅語と日本国憲法の比較 3-1大日本帝国憲法 告文
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-7.html
(*2):美濃部意見書 1945年11月8日
松本から、とくに「全般的な理論」の提供、「理想的な改正案」の作成を依頼された美濃部達吉が、1945(昭和20)年11月14日の第三回総会に提出した文書。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/01/039b/039btx.html
<以下に、美濃部博士の基本姿勢の部分と「軍」「兵役」に関する部分を抜粋引用する。原文は旧仮名・カタカナで書かれているので、読み易い様にカタカナをひらがな化して現代文にしてある。注目すべき内容であるので、注目をお願いする。>
第一 憲法改正の基本問題
一、憲法の改正は憲法の特定の条項の修正、削除又は追加に留めるべきか、又は、その全部改正、即ち、全部に亙る新憲法の制定に及ぶものとするべきか。
もしも、現在の政治上の必要(占領下での改憲要請)に応ずる為ならば、特定の条項の改正を以て足るとすべきであるが、果たして、その必要性があるのか否かは疑問である。
新日本を建設し、民心を一新する為には、むしろ、其の全部改正に著手することもあるのではないか。
二、憲法の改正には、降伏の結果として、現在の状態()占領時主権喪失期)を基礎とするのか、又は、将来国家の独立を回復することを期して、独立国たることを基礎とすべきか。
しかし、現在の状態を基礎としたならば、陸海軍、外交、戒厳、兵役に関する(帝国憲法の)第11、12、13、14、20、32の各除を削除する必要があるとともに、第1条には「日本帝国は連合国の指揮を受けて 天皇これを統治する」というが如きの趣旨に修正する必要がある。
むしろ現在の状態は(原文:一時的ノ変態トシテ考慮ノ外ニ置キ)=(一時的な特殊な状態だと考慮対象外とし、)独立国としての日本の憲法とすべきではないか。
(第一略)
第三 天皇の権
天皇の権に関する項で考慮を要すべきものには、陸海軍等に関する前掲諸条の他に左の各条がある。(各条略)
第四 臣民の権利義務
一、臣民の義務に関しては兵役、納税の如き、個々の義務を列記することを改め、包括的に「臣民はこの憲法及び法律に服従する義務を負う」という様な趣旨の規定を設定するほうが良い。
二、臣民の権利に関しても包括的に、「臣民は法律に依ることなく、その自由及び権利を侵害されることはない」という趣旨の一箇条を設けること。
三、法律を以てしても侵すことがない自由及び権利(基本的人権のこと)に付いては、別に、その規定を設定すること。
<以下略>
(*3):マッカーサー3原則の第2原則(9条の始祖)(付番は引用者)
2016/07/31投稿:
(解説編2)資料・マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/072/072_002l.html
原則Ⅱ-1:
①War as a sovereign right of the nation is abolished
(日本は基本的国家主権である交戦権を放棄=国家主権としての戦争は撤廃される。)
②Japan renounces it as an instrumentality for settling its disputes and even for preserving its own security.
(紛争解決の手段としての戦争のみならず、自身を守る自衛の為の自衛戦争も放棄する。)
③It relies upon the higher ideals which are now stirring the world for its defense and its protection.
(今や世界を席巻する「より高い理想」を当てにして日本は自身の防衛と防護を、それに委ねます。)
原則Ⅱ-2:
①No Japanese Army, Navy or Air Force will ever be authorized
(日本は陸軍、海軍、または空軍を持つことは今後一切許可されない。)
②and no rights of belligerency will ever be conferred upon any Japanese force.
(また、どんな「日本軍」にも交戦権が与えられることは金輪際ない。)
(*4):GHQ原案(9条)
国立国会図書館HP資料:GHQ原案
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/147/147tx.html
占領軍GHQがまとめた憲法原案なので、英文である。
資料テキストには日付データは見当たらないが、前後関係から便宜的に次のGHQ草案の前日の2月12日と表記している。ここで初めて憲法に「前文」との形式が登場する。また、9条となる条文案は、この原案では第1条となっている。
<9条原案部分の抜粋引用>
○ARTICLE I(第1条)=後の9条(付番は引用者)
①:War as a sovereign right of the nation is abolished.
(国家の主権としての戦争は廃止される。)
②:The threat or use of force is forever renounced as a means for settling disputes with any other nation.
(威嚇、又は軍事力の使用は、他のいかなる国との紛争を解決する手段として、永遠に放棄されている。)
③:No Army, Navy, Air Force, or other war potential will ever be authorized and no rights of belligerency will ever be conferred upon the state.
(陸軍、海軍、空軍、または、その他の戦争を遂行する能力はけして認めらない。そして、国家には戦争をする権利は与えられない。)
(*5):GHQ草案 1946年2月13日(9条)
国立国会図書館HP資料:GHQ草案 1946年2月13日
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/076a_e/076a_etx.html
<9条原案部分の抜粋引用>
GHQ草案の英文は、上記(*4)のGHQ原案と同一である。
○CHAPTER II Renunciation of War (第2章・戦争の放棄)
Article VIII.(第8条=後の9条(付番は引用者))
①:War as a sovereign right of nation is abolished.
②:The threat or use of force is forever renounced as a means for settling disputes with any other nation.
②:No army, navy, air force, or other war potential will ever be authorized and no rights of belligerency will ever be conferred upon the State.
(*6):現行憲法(9条)
官邸HP:THE CONSTITUTION OF JAPAN
http://japan.kantei.go.jp/constitution_and_government/frame_01.html
CHAPTER II(第2章)RENUNCIATION OF WAR(戦争の放棄)
Article 9.(第9条)
①:Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order, the Japanese people forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or use of force as means of settling international disputes.
(日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。)
②:In order to accomplish the aim of the preceding paragraph, land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained. The right of belligerency of the state will not be recognized.
(前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。)
【ご参考】(前文の変遷(「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分)
上記(*4):GHQ原案(「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分)
国立国会図書館HP資料:GHQ原案
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/147/147tx.html
【 have determined to rely for their security and survival upon the justice and good faith of the peace-loving peoples of the world.】
上記(*5):GHQ草案(「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分)
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/076a_e/076a_etx.html
【we have determined to rely for our security and survival upon the justice and good faith of the peace-loving peoples of the world.】
上記(*6):現行憲法(「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分)
http://japan.kantei.go.jp/constitution_and_government/frame_01.html
【we have determined to preserve our security and existence, trusting in the justice and faith of the peace-loving peoples of the world.】
GHQ原案とGHQ草案及び現行憲法の「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」との部分を注目いただきたい。
GHQ原案は、「their security」とGHQアメリカ人が書いているので、日本の憲法なのに、日本人を「their」と表現している。これがGHQ草案になると「our security」となっている。現行憲法でも「our security」である。
GHQ原案及びGHQ草案では、日本人の「security and survival」(安全と生存(命))を「justice and good faith of the peace-loving peoples of the world」(世界の平和を愛する人々の正義と善意)に「rely」(依存する、頼る)であったが、現行憲法では、「preserve our security and existence, trusting」にマイルドな表現になっている。
「security and survival」(安全と生存(命))が「security and existence」(安全と生存(暮らし))になっている。
また、「rely~upon」(依存する、頼る)が、「preserve ~, trusting」(維持することを信じて)となっている。表現がマイルドになっているが、主旨としての、「日本人には自己決定権はない」、「平和を愛する諸国民に生殺与奪を委ねる」に変わりはない。



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