2-2のオマケ・中華人民共和国憲法前文
- 2015/03/27
- 20:36
2-2のオマケ・中華人民共和国憲法前文

中華人民共和国憲法の前文を読む
憲法に前文を持つ国は多々あり、内容的には①憲法制定の由来を記したもの②憲法制定の趣旨や目的をうたったもの③憲法の理想や基本原則を宣言するものなどがある。
国家体制・思想・文化文明が我が国とは極めて異質な中国の同国憲法は参考にならないことから紹介していなかったが、本ブログの現状は、我が国憲法理解の為に帝国憲法・現行憲法の全部を読み、その中で帝国憲法の告文・憲法発布勅語、現行憲法の前文も既に読んでいる状態であり、異質の中国憲法の前文を読む準備は出来ていると考え今回紹介するものである。
尚、中国憲法前文の和訳を記事末尾に記載したが、無理して読まなくて良い。
真面目に読むと突っ込みたくなる箇所だらけで、かなり疲れるからだ(笑)。
必要な箇所は適宜引用するので、安心いただき度い。
1.中国憲法前文の構成概要。
記事末尾に和訳全分文を記載してあるが、かなり長い。大きくは12に区分されている。
先ず、歴史の口上を述べている(1)~(4)。
次に中国共産党の建国以降の「成果」を述べることに多くの文字数を使い(5)~(6)
社会主義革命闘争の継続を謳い上げ(7)
台湾は中華人民共和国の「神聖」な領土だと指摘し(8)
総ての組織体は中国共産党の指導下で動けと規定し(9)
漢民族とその他民族について言及する部分があり(10)
世界人民・世界諸国人民との関係性に言及する部分が続き(11)
最後に「全国の諸民族人民並びにすべての国家機関、武装力etc.」は憲法守れ(12)
と結んでいる。
2.歴史口上部分:整合性や連続性に頓着しない大胆な記述
歴史の口上部分(1)~(4)の部分は異常なほどの大胆な記述となっている。
最初「中国は」との言葉で始まり「中華人民共和国」との関係性には頓着していない。「細けェ~ことはイインダヨ」と言うことか?かなり粗雑である。
以下に(1)の部分を引用する。
<引用開始>
(1)中国は、世界でも最も古い歴史を持つ国家の一つである。中国の諸民族人民は、輝かしい文化を共同で作り上げており、また、栄えある革命の伝統を持っている。
<引用終わり>
いきなりこれである。
ユーラシア大陸の東端、支那の地での歴史総てが現在の中国共産党が支配する「国」の歴史であるとする他国の歴史定義とは異なり、王朝断絶を無視し、異民族支配無視する大胆な記述となっている。
国家歴史の概念を無視した乱暴なイメージだけでマルっと粗雑に決め付けているだけである。更にそれに続き「栄えある革命の伝統」との王朝交代易姓革命と人民蜂起の社会主義革命とをわざと混同した様な記載へと続いている。
この様な年代曖昧にした記載の次にいきなり(2)「1840年以降」とアヘン戦争の年へと飛ぶ。時代は清王朝(満州族王朝)の時代だが「清」との単語は出てこないし、それ以前の明も元も宋も隋も唐も出てこない。
アヘン戦争の次に出てくるのは(3)辛亥革命=孫文革命(1911年)である。
清を滅亡させた孫文革命を高く評価する記述として「封建帝制を廃止し、中華民国を創立した」との記述があるが、中華民国って中国共産党が内戦で戦った蒋介石国府軍が正統後継者の国で中華人民共和国とは違うでしょ。
その孫文革命(1911年)の次はいきなり(4)1949年「中華人民共和国を樹立した」となる。
1911年・明治44年からいきなり1949年・昭和24年である。
この間の世界史的大事件には一切触れられておらず、支那の地に於ける歴史的出来事にも一切触れられておらず、中国共産党自体への言及もない。
1914年~1918年:第一次世界大戦
1917年:ロシア革命
1921年:毛沢東中国共産党結党
1927年:この年の8月1日が人民解放軍の建軍記念日だと
1931年:満州事変/中華ソビエト共和国の建国宣言
1932年:満州国建国/第一次上海事変
1934年~1936年:長征(大逃亡)
1937年;盧溝橋事件・支那事変・第二次上海事変・南京攻略
1939年:ドイツのポ-ランド侵攻で第二次世界大戦始まる
1941年:大東亜戦争
1945年:日本敗戦
1946年:国共内戦
1949年:蒋介石台湾逃亡・中華人民共和国建国
1950年:朝鮮戦争
歴史口上の(4)1949年の部分には具体的な歴史的出来事は一切登場せず、美辞麗句を並べ、長期逃亡を長征と言い換えたのと同じセンスで「武装闘争」したかの様なイメージやまともな戦闘していないのに「抗日戦」で勝利したかの様な情緒的記述しかない。
現在の中国共産党が支那の地の人々を統治する正統性の根拠は、この憲法前文ではイメージ的記述しかない。
<引用開始>
(4)1949年、毛澤東主席を領袖とする中国共産党に導かれた中国の諸民族人民は、長期にわたる困難で曲折に富む武装闘争その他の形態の闘争を経て、ついに帝国主義、封建主義及び官僚資本主義の支配を覆し、新民主主義革命の偉大な勝利を勝ち取り、中華人民共和国を樹立した。この時から、中国人民は、国家の権力を掌握して、国家の主人公になった。
<引用終わり>
最後の行には「国民主権」の様な記述で歴史口上は終わっているが、実態は皆さんご存知の通り、国会に該当する「全人代」代表を選ぶ選挙に「中国人民」は直接投票出来る仕組みにはなっていない。
3.「Who」の定義が不明:誰のことかわからない大胆な不統一用語使用
中華人民共和国憲法前文に登場する「Who」にはいろいろあって誰のことを言っているのか理解不明だ。(「」内の語句が前文で用いられている「Who」である)
(1)に出てくる「中国の諸民族人民」は前後の文脈からは満州族・清、漢族・明、蒙古族・元などの異民族・他王朝の総てをひっくるめている様に読めるが、(2)に出来てくる清朝時代の「中国人民」とは現在の<中華人民共和国の国民>とは同一ではなく、誰のことなのか確定不能だし、その直後の「国家の独立、民族の解放」の民族とはどの民族なのかも不明である。
同様(3)の孫文革命時の「中国人民」も不明だ。孫文革命のスローガン「駆除韃虜、恢復中華」「満族駆逐、中華回復」とは「満州族・清王朝を打倒し中華(漢族)の国へと回復しよう」という意味だから、当時の狭義の「中国人民」とは漢族だ、満州族は打倒すべき敵だいうのが孫文革命のスローガンなのだから。また(3)の部分にある「辛亥革命は、封建帝制を廃止し、中華民国を創立した」との記述からも、ここでいう「中国人民」は漢族だと考えるのが妥当だと考えられる。
一方、辛亥革命成就後に唱えられた「五族共和」を時系列無視して当て嵌めればが、ここでの「中国人民」は漢・満・蒙・回(ウイグル)・蔵(チベット)の五族だとする可能性はあるかもしれないが、そんな読み方は非常識である(笑)。
次の1949年(4)の部分では「中国共産党に導かれた中国の諸民族人民」との表現があり、同じ部分では「中国人民は」との表現がある。ここでの「中国人民」は、これ以前の「中国人民」との整合性・同一性の有無は不明ながら、少なくとも(4)の部分内では「中国共産党指導下の中国の諸民族人民」が「中国人民」と定義していることはわかる。
尚、ここまで使われている「中国」との表現は国家のことではなく「支那の地」との地域のことだろうと推察出来る。
一方、ここまでの「中国人民」には「支那の地の人々」という意味と「中国共産党支配下国家の国民」という二つの意味があると推察される。難解だ(笑)。
更に続ける。(5)の部分で「中国人民及び中国人民解放軍は」との表現が出てくる。「中国人民解放軍」の唯一の登場場所である。
(6)の部分では「中国共産党が中国の各民族人民を指導し」「中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に」と二度も「中国の各民族人民」が登場している。「中国共産党指導下にある」との文脈で登場するのだが「中国人民」とは違う語句を使用している。
歴史口上の(1)~(4)の部分で使用されていた「諸民族人民」とも違う表現である。
中国語原文ではなく和訳文を使っているので、この差が原文ではどうなっているのかは不明ながら、同じ漢字文化もつ訳者が原文で同じ漢字使っていれば、敢えて違う漢字表現をするとは思えないので、この違いには注目している。
(7)の部分での「中国人民」との表現に対して、台湾を扱った(8)の部分では「台湾の同胞を含む全中国人民」との表現となっている。「全中国人民」と「全」の字が付されていることから「中国人民」には台湾を含まない様だ。
(9)の部分になると人民・民族の呼称はなく「労働者、農民及び知識分子」「中国共産党の統率的指導のもとで、各民主党派と各人民団体」「社会主義的勤労者、社会主義事業の建設者」「愛国者」「愛国統一戦線」等の組織体名称で他の部分とは違う記述になっている。
そして、次の(10)では民族問題を述べている。以下に部分全部を引用する。
<引用開始>
(10)中華人民共和国は、全国の諸民族人民が共同で作り上げ、統一した多民族国家である。平等、団結及び相互援助の社会主義的民族関係は、すでに確立しており、引き続き強化されるであろう。民族の団結を守る闘争の中では、大民族主義、主として大漢族主義に反対し、また、地方民族主義にも反対しなければならない。国家は、全力を尽くして全国諸民族の共同の繁栄を促進させる。
<引用終わり>
上記引用文見ると「諸民族人民」との表現に戻っていることがわかる。どうやら途中で出てきた「中国の各民族人民」とは「中国共産党指導下にある」「諸民族人民」のことの様だ。
この「諸民族人民」の共同での国家建設は「大漢族主義」ではなく「地方民族主義」でもないと言っているが、ではどんなビジョンでやるのか、との具体的方針は示されていない。現状に至るまでのチベットやウイグルでのニュース見ると「大漢族主義」そのものをやっている様に見える。
次の(11)では他国・世界との関係を述べているが「世界人民」「世界諸国人民」との2種類の語句が出てくる。この2種類の言葉は同概念なのか別概念なのかは不明だ。
前の部分にあった「中国人民」と「諸民族人民」との差異は「中国共産党指導下にある」か否かの違いだったので、その様な意味かと読み直しても前後の文脈からは、その様な概念の差異があるとは断定できなかった。
何れにせよ、言葉の定義が複雑怪奇かつ大胆・奔放であり訳が分らない。(笑)
同様、最後の(12)に於いても「中国の諸民族人民」と「全国の諸民族人民」との違う語句が出てきており、その違いがわからない状態である。
こんな用法では、中国憲法前文語句での「Who」は誰のことなのか良くわからない。
穿った見方をすれば、支那の地の周辺に覇権広げ「中国共産党指導下」に置く、世界諸国人民も「中国共産党指導下」に置く、との意志表明だとも読めてしまう。
以上で止める。内容自体に入る前の5W1H把握の読解段階で頭痛起きるのがこの前文である。我が国の現行憲法の前文も同様に酷いが、それは他人が書いたことが原因だが、中華人民共和国憲法前文の酷さは、国家定義なく、自国民の定義なく、歴史観なく、曖昧な概念のままの書き様にあると感じている。これは意図を隠す為の手法なのかもしれない。END
以下、論評ソースとして前文の全文を記載しておく。
<Fact>-ネットで拾った和訳-両括弧付数字は引用者が加筆
中華人民共和国憲法 前文
<1982年12月 4日 中華人民共和国第5期全国人民代表大会第5回会議採択 同日全国人民代表大会公告公布・同日施行>
(1)中国は、世界でも最も古い歴史を持つ国家の一つである。中国の諸民族人民は、輝かしい文化を共同で作り上げており、また、栄えある革命の伝統を持っている。
(2)1840年以降、封建的な中国は、次第に半植民地・半封建的な国家に変化した。中国人民は、国家の独立、民族の解放並びに民主と自由のために、戦友の屍を乗り越えて突き進む勇敢な闘いを続けてきた。
(3)20世紀に入って、中国には天地を覆すような偉大な歴史的変革が起こった。
1911年、孫中山先生の指導する辛亥革命は、封建帝制を廃止し、中華民国を創立した。しかし、帝国主義と封建主義に反対するという中国人民の歴史的任務は、まだ達成されなかった。
(4)1949年、毛澤東主席を領袖とする中国共産党に導かれた中国の諸民族人民は、長期にわたる困難で曲折に富む武装闘争その他の形態の闘争を経て、ついに帝国主義、封建主義及び官僚資本主義の支配を覆し、新民主主義革命の偉大な勝利を勝ち取り、中華人民共和国を樹立した。この時から、中国人民は、国家の権力を掌握して、国家の主人公になった。
(5)中華人民共和国の成立後、我が国の社会は新民主主義から社会主義への移行を一歩一歩実現していった。生産手段私有制の社会主義的改造が達成され、人が人を搾取する制度は消滅して、社会主義制度が確立した。そして、労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義独裁、すなわち、実質上のプロレタリアート独裁は、強固になり、発展した。中国人民及び中国人民解放軍は、帝国主義と覇権主義の侵略、破壊及び武力挑発に打ち勝ち、国家の独立と安全を守り、国防を強化した。経済建設では、大きな成果を収め、独立した、比較的整った社会主義の工業体系がほぼ出来上がり、農業生産も著しく高められた。教育、科学、文化等の事業は、大きな発展を遂げ、社会主義思想の教育では、顕著な成果を収めた。広範な人民の生活は、かなり改善された。
(6)中国の新民主主義革命の勝利と社会主義事業の成果は、中国共産党が中国の各民族人民を指導し、マルクス・レーニン主義及び毛澤東思想の導きの下に、真理を堅持し、誤りを是正し、多くの困難と危険に打ち勝って獲得したものである。我が国は、長期にわたり社会主義初級段階にある、国の根本的任務は、中国的特色を有する社会主義という道に沿って、力を集中して社会主義現代化の建設をする事にある。中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に、マルクス・レーニン主義、毛澤東思想、鄧小平理論及び"三つの代表"の重要思想に導かれて、人民民主独裁を堅持し、社会主義の道を堅持し、改革開放を堅持し、社会主義の各種制度を絶えず完備し、社会主義市場経済を発展させ、社会主義的民主主義を発展させ、社会主義的法制度を健全化し、自力更正及び刻苦奮闘につとめて、着実に工業、農業、国防及び科学技術の現代化を実現し、物質文明、政治文明および精神文明の調和のとれた発展を推進して、我が国を富強、民主的、かつ、文明的な社会主義国家として建設する。
(7)我が国では、搾取階級は、階級としては既に消滅したが、なお一定の範囲で階級闘争が長期にわたり存在する。中国人民は、我が国の社会主義制度を敵視し、破壊する国内外の敵対勢力及び敵対分子と闘争しなければならない。
(8)台湾は、中華人民共和国の神聖な領土の一部である。祖国統一の大業を成し遂げることは、台湾の同胞を含む全中国人民の神聖な責務である。
(9)社会主義の建設という大きな仕事は、労働者、農民及び知識分子に依拠し、団結できるすべての勢力を団結しなければならない。長期の革命と建設の過程において、中国共産党の統率的指導のもとで、各民主党派と各人民団体が参加し、社会主義的勤労者、社会主義事業の建設者、社会主義を擁護する愛国者および祖国統一を擁護する愛国者のすべてを含む、広範な愛国統一戦線が結成されたが、この統一戦線は引き続き強固になり発展して行くであろう。中国人民政治協商会議は、広範な代表性を持つ統一戦線の組織として、これまで重要な歴史的役割を果たしてきたが、今後、国家の政治生活、社会生活及び対外的な友好活動において、また、社会主義的現代化の建設を進め、国家の統一と団結を守る闘いにおいて、更にその重要な作用を発揮するであろう。中国共産党指導の下における多党協力及び政治協商制度は長期にわたり存在し、発展するであろう。
(10)中華人民共和国は、全国の諸民族人民が共同で作り上げ、統一した多民族国家である。平等、団結及び相互援助の社会主義的民族関係は、すでに確立しており、引き続き強化されるであろう。民族の団結を守る闘争の中では、大民族主義、主として大漢族主義に反対し、また、地方民族主義にも反対しなければならない。国家は、全力を尽くして全国諸民族の共同の繁栄を促進させる。
(11)中国の革命と建設の成果は世界人民の支持と切り離すことができない。中国の前途は、世界の前途と緊密につながっている。中国は、独立自主の対外政策を堅持し、主権と領土保全の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵及び平和共存の5原則を堅持して、諸国家との外交関係及び経済・文化交流を発展させる。また、帝国主義、覇権主義及び植民地主義に反対することを堅持し、世界諸国人民との団結を強化し、抑圧された民族及び発展途上国が民族の独立を勝ち取り、守り、民族経済を発展させる正義の闘争を支持して、世界平和を確保し、人類の進歩を促進するために努力する。
(12)この憲法は、中国の諸民族人民の奮闘の成果を法の形式で確認し、国家の基本となる制度及び任務を定めたものであり、最高の法的効力を持つ。全国の諸民族人民並びにすべての国家機関、武装力、政党、社会団体、企業及び事業組織は、いずれもこの憲法を活動の根本準則とし、かつ、この憲法の尊厳を守り、この憲法の実施を保障する責務を負わなければならない。
<引用終わり>
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憲法に前文を持つ国は多々あり、内容的には①憲法制定の由来を記したもの②憲法制定の趣旨や目的をうたったもの③憲法の理想や基本原則を宣言するものなどがある。
国家体制・思想・文化文明が我が国とは極めて異質な中国の同国憲法は参考にならないことから紹介していなかったが、本ブログの現状は、我が国憲法理解の為に帝国憲法・現行憲法の全部を読み、その中で帝国憲法の告文・憲法発布勅語、現行憲法の前文も既に読んでいる状態であり、異質の中国憲法の前文を読む準備は出来ていると考え今回紹介するものである。
尚、中国憲法前文の和訳を記事末尾に記載したが、無理して読まなくて良い。
真面目に読むと突っ込みたくなる箇所だらけで、かなり疲れるからだ(笑)。
必要な箇所は適宜引用するので、安心いただき度い。
1.中国憲法前文の構成概要。
記事末尾に和訳全分文を記載してあるが、かなり長い。大きくは12に区分されている。
先ず、歴史の口上を述べている(1)~(4)。
次に中国共産党の建国以降の「成果」を述べることに多くの文字数を使い(5)~(6)
社会主義革命闘争の継続を謳い上げ(7)
台湾は中華人民共和国の「神聖」な領土だと指摘し(8)
総ての組織体は中国共産党の指導下で動けと規定し(9)
漢民族とその他民族について言及する部分があり(10)
世界人民・世界諸国人民との関係性に言及する部分が続き(11)
最後に「全国の諸民族人民並びにすべての国家機関、武装力etc.」は憲法守れ(12)
と結んでいる。
2.歴史口上部分:整合性や連続性に頓着しない大胆な記述
歴史の口上部分(1)~(4)の部分は異常なほどの大胆な記述となっている。
最初「中国は」との言葉で始まり「中華人民共和国」との関係性には頓着していない。「細けェ~ことはイインダヨ」と言うことか?かなり粗雑である。
以下に(1)の部分を引用する。
<引用開始>
(1)中国は、世界でも最も古い歴史を持つ国家の一つである。中国の諸民族人民は、輝かしい文化を共同で作り上げており、また、栄えある革命の伝統を持っている。
<引用終わり>
いきなりこれである。
ユーラシア大陸の東端、支那の地での歴史総てが現在の中国共産党が支配する「国」の歴史であるとする他国の歴史定義とは異なり、王朝断絶を無視し、異民族支配無視する大胆な記述となっている。
国家歴史の概念を無視した乱暴なイメージだけでマルっと粗雑に決め付けているだけである。更にそれに続き「栄えある革命の伝統」との王朝交代易姓革命と人民蜂起の社会主義革命とをわざと混同した様な記載へと続いている。
この様な年代曖昧にした記載の次にいきなり(2)「1840年以降」とアヘン戦争の年へと飛ぶ。時代は清王朝(満州族王朝)の時代だが「清」との単語は出てこないし、それ以前の明も元も宋も隋も唐も出てこない。
アヘン戦争の次に出てくるのは(3)辛亥革命=孫文革命(1911年)である。
清を滅亡させた孫文革命を高く評価する記述として「封建帝制を廃止し、中華民国を創立した」との記述があるが、中華民国って中国共産党が内戦で戦った蒋介石国府軍が正統後継者の国で中華人民共和国とは違うでしょ。
その孫文革命(1911年)の次はいきなり(4)1949年「中華人民共和国を樹立した」となる。
1911年・明治44年からいきなり1949年・昭和24年である。
この間の世界史的大事件には一切触れられておらず、支那の地に於ける歴史的出来事にも一切触れられておらず、中国共産党自体への言及もない。
1914年~1918年:第一次世界大戦
1917年:ロシア革命
1921年:毛沢東中国共産党結党
1927年:この年の8月1日が人民解放軍の建軍記念日だと
1931年:満州事変/中華ソビエト共和国の建国宣言
1932年:満州国建国/第一次上海事変
1934年~1936年:長征(大逃亡)
1937年;盧溝橋事件・支那事変・第二次上海事変・南京攻略
1939年:ドイツのポ-ランド侵攻で第二次世界大戦始まる
1941年:大東亜戦争
1945年:日本敗戦
1946年:国共内戦
1949年:蒋介石台湾逃亡・中華人民共和国建国
1950年:朝鮮戦争
歴史口上の(4)1949年の部分には具体的な歴史的出来事は一切登場せず、美辞麗句を並べ、長期逃亡を長征と言い換えたのと同じセンスで「武装闘争」したかの様なイメージやまともな戦闘していないのに「抗日戦」で勝利したかの様な情緒的記述しかない。
現在の中国共産党が支那の地の人々を統治する正統性の根拠は、この憲法前文ではイメージ的記述しかない。
<引用開始>
(4)1949年、毛澤東主席を領袖とする中国共産党に導かれた中国の諸民族人民は、長期にわたる困難で曲折に富む武装闘争その他の形態の闘争を経て、ついに帝国主義、封建主義及び官僚資本主義の支配を覆し、新民主主義革命の偉大な勝利を勝ち取り、中華人民共和国を樹立した。この時から、中国人民は、国家の権力を掌握して、国家の主人公になった。
<引用終わり>
最後の行には「国民主権」の様な記述で歴史口上は終わっているが、実態は皆さんご存知の通り、国会に該当する「全人代」代表を選ぶ選挙に「中国人民」は直接投票出来る仕組みにはなっていない。
3.「Who」の定義が不明:誰のことかわからない大胆な不統一用語使用
中華人民共和国憲法前文に登場する「Who」にはいろいろあって誰のことを言っているのか理解不明だ。(「」内の語句が前文で用いられている「Who」である)
(1)に出てくる「中国の諸民族人民」は前後の文脈からは満州族・清、漢族・明、蒙古族・元などの異民族・他王朝の総てをひっくるめている様に読めるが、(2)に出来てくる清朝時代の「中国人民」とは現在の<中華人民共和国の国民>とは同一ではなく、誰のことなのか確定不能だし、その直後の「国家の独立、民族の解放」の民族とはどの民族なのかも不明である。
同様(3)の孫文革命時の「中国人民」も不明だ。孫文革命のスローガン「駆除韃虜、恢復中華」「満族駆逐、中華回復」とは「満州族・清王朝を打倒し中華(漢族)の国へと回復しよう」という意味だから、当時の狭義の「中国人民」とは漢族だ、満州族は打倒すべき敵だいうのが孫文革命のスローガンなのだから。また(3)の部分にある「辛亥革命は、封建帝制を廃止し、中華民国を創立した」との記述からも、ここでいう「中国人民」は漢族だと考えるのが妥当だと考えられる。
一方、辛亥革命成就後に唱えられた「五族共和」を時系列無視して当て嵌めればが、ここでの「中国人民」は漢・満・蒙・回(ウイグル)・蔵(チベット)の五族だとする可能性はあるかもしれないが、そんな読み方は非常識である(笑)。
次の1949年(4)の部分では「中国共産党に導かれた中国の諸民族人民」との表現があり、同じ部分では「中国人民は」との表現がある。ここでの「中国人民」は、これ以前の「中国人民」との整合性・同一性の有無は不明ながら、少なくとも(4)の部分内では「中国共産党指導下の中国の諸民族人民」が「中国人民」と定義していることはわかる。
尚、ここまで使われている「中国」との表現は国家のことではなく「支那の地」との地域のことだろうと推察出来る。
一方、ここまでの「中国人民」には「支那の地の人々」という意味と「中国共産党支配下国家の国民」という二つの意味があると推察される。難解だ(笑)。
更に続ける。(5)の部分で「中国人民及び中国人民解放軍は」との表現が出てくる。「中国人民解放軍」の唯一の登場場所である。
(6)の部分では「中国共産党が中国の各民族人民を指導し」「中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に」と二度も「中国の各民族人民」が登場している。「中国共産党指導下にある」との文脈で登場するのだが「中国人民」とは違う語句を使用している。
歴史口上の(1)~(4)の部分で使用されていた「諸民族人民」とも違う表現である。
中国語原文ではなく和訳文を使っているので、この差が原文ではどうなっているのかは不明ながら、同じ漢字文化もつ訳者が原文で同じ漢字使っていれば、敢えて違う漢字表現をするとは思えないので、この違いには注目している。
(7)の部分での「中国人民」との表現に対して、台湾を扱った(8)の部分では「台湾の同胞を含む全中国人民」との表現となっている。「全中国人民」と「全」の字が付されていることから「中国人民」には台湾を含まない様だ。
(9)の部分になると人民・民族の呼称はなく「労働者、農民及び知識分子」「中国共産党の統率的指導のもとで、各民主党派と各人民団体」「社会主義的勤労者、社会主義事業の建設者」「愛国者」「愛国統一戦線」等の組織体名称で他の部分とは違う記述になっている。
そして、次の(10)では民族問題を述べている。以下に部分全部を引用する。
<引用開始>
(10)中華人民共和国は、全国の諸民族人民が共同で作り上げ、統一した多民族国家である。平等、団結及び相互援助の社会主義的民族関係は、すでに確立しており、引き続き強化されるであろう。民族の団結を守る闘争の中では、大民族主義、主として大漢族主義に反対し、また、地方民族主義にも反対しなければならない。国家は、全力を尽くして全国諸民族の共同の繁栄を促進させる。
<引用終わり>
上記引用文見ると「諸民族人民」との表現に戻っていることがわかる。どうやら途中で出てきた「中国の各民族人民」とは「中国共産党指導下にある」「諸民族人民」のことの様だ。
この「諸民族人民」の共同での国家建設は「大漢族主義」ではなく「地方民族主義」でもないと言っているが、ではどんなビジョンでやるのか、との具体的方針は示されていない。現状に至るまでのチベットやウイグルでのニュース見ると「大漢族主義」そのものをやっている様に見える。
次の(11)では他国・世界との関係を述べているが「世界人民」「世界諸国人民」との2種類の語句が出てくる。この2種類の言葉は同概念なのか別概念なのかは不明だ。
前の部分にあった「中国人民」と「諸民族人民」との差異は「中国共産党指導下にある」か否かの違いだったので、その様な意味かと読み直しても前後の文脈からは、その様な概念の差異があるとは断定できなかった。
何れにせよ、言葉の定義が複雑怪奇かつ大胆・奔放であり訳が分らない。(笑)
同様、最後の(12)に於いても「中国の諸民族人民」と「全国の諸民族人民」との違う語句が出てきており、その違いがわからない状態である。
こんな用法では、中国憲法前文語句での「Who」は誰のことなのか良くわからない。
穿った見方をすれば、支那の地の周辺に覇権広げ「中国共産党指導下」に置く、世界諸国人民も「中国共産党指導下」に置く、との意志表明だとも読めてしまう。
以上で止める。内容自体に入る前の5W1H把握の読解段階で頭痛起きるのがこの前文である。我が国の現行憲法の前文も同様に酷いが、それは他人が書いたことが原因だが、中華人民共和国憲法前文の酷さは、国家定義なく、自国民の定義なく、歴史観なく、曖昧な概念のままの書き様にあると感じている。これは意図を隠す為の手法なのかもしれない。END
以下、論評ソースとして前文の全文を記載しておく。
<Fact>-ネットで拾った和訳-両括弧付数字は引用者が加筆
中華人民共和国憲法 前文
<1982年12月 4日 中華人民共和国第5期全国人民代表大会第5回会議採択 同日全国人民代表大会公告公布・同日施行>
(1)中国は、世界でも最も古い歴史を持つ国家の一つである。中国の諸民族人民は、輝かしい文化を共同で作り上げており、また、栄えある革命の伝統を持っている。
(2)1840年以降、封建的な中国は、次第に半植民地・半封建的な国家に変化した。中国人民は、国家の独立、民族の解放並びに民主と自由のために、戦友の屍を乗り越えて突き進む勇敢な闘いを続けてきた。
(3)20世紀に入って、中国には天地を覆すような偉大な歴史的変革が起こった。
1911年、孫中山先生の指導する辛亥革命は、封建帝制を廃止し、中華民国を創立した。しかし、帝国主義と封建主義に反対するという中国人民の歴史的任務は、まだ達成されなかった。
(4)1949年、毛澤東主席を領袖とする中国共産党に導かれた中国の諸民族人民は、長期にわたる困難で曲折に富む武装闘争その他の形態の闘争を経て、ついに帝国主義、封建主義及び官僚資本主義の支配を覆し、新民主主義革命の偉大な勝利を勝ち取り、中華人民共和国を樹立した。この時から、中国人民は、国家の権力を掌握して、国家の主人公になった。
(5)中華人民共和国の成立後、我が国の社会は新民主主義から社会主義への移行を一歩一歩実現していった。生産手段私有制の社会主義的改造が達成され、人が人を搾取する制度は消滅して、社会主義制度が確立した。そして、労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義独裁、すなわち、実質上のプロレタリアート独裁は、強固になり、発展した。中国人民及び中国人民解放軍は、帝国主義と覇権主義の侵略、破壊及び武力挑発に打ち勝ち、国家の独立と安全を守り、国防を強化した。経済建設では、大きな成果を収め、独立した、比較的整った社会主義の工業体系がほぼ出来上がり、農業生産も著しく高められた。教育、科学、文化等の事業は、大きな発展を遂げ、社会主義思想の教育では、顕著な成果を収めた。広範な人民の生活は、かなり改善された。
(6)中国の新民主主義革命の勝利と社会主義事業の成果は、中国共産党が中国の各民族人民を指導し、マルクス・レーニン主義及び毛澤東思想の導きの下に、真理を堅持し、誤りを是正し、多くの困難と危険に打ち勝って獲得したものである。我が国は、長期にわたり社会主義初級段階にある、国の根本的任務は、中国的特色を有する社会主義という道に沿って、力を集中して社会主義現代化の建設をする事にある。中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に、マルクス・レーニン主義、毛澤東思想、鄧小平理論及び"三つの代表"の重要思想に導かれて、人民民主独裁を堅持し、社会主義の道を堅持し、改革開放を堅持し、社会主義の各種制度を絶えず完備し、社会主義市場経済を発展させ、社会主義的民主主義を発展させ、社会主義的法制度を健全化し、自力更正及び刻苦奮闘につとめて、着実に工業、農業、国防及び科学技術の現代化を実現し、物質文明、政治文明および精神文明の調和のとれた発展を推進して、我が国を富強、民主的、かつ、文明的な社会主義国家として建設する。
(7)我が国では、搾取階級は、階級としては既に消滅したが、なお一定の範囲で階級闘争が長期にわたり存在する。中国人民は、我が国の社会主義制度を敵視し、破壊する国内外の敵対勢力及び敵対分子と闘争しなければならない。
(8)台湾は、中華人民共和国の神聖な領土の一部である。祖国統一の大業を成し遂げることは、台湾の同胞を含む全中国人民の神聖な責務である。
(9)社会主義の建設という大きな仕事は、労働者、農民及び知識分子に依拠し、団結できるすべての勢力を団結しなければならない。長期の革命と建設の過程において、中国共産党の統率的指導のもとで、各民主党派と各人民団体が参加し、社会主義的勤労者、社会主義事業の建設者、社会主義を擁護する愛国者および祖国統一を擁護する愛国者のすべてを含む、広範な愛国統一戦線が結成されたが、この統一戦線は引き続き強固になり発展して行くであろう。中国人民政治協商会議は、広範な代表性を持つ統一戦線の組織として、これまで重要な歴史的役割を果たしてきたが、今後、国家の政治生活、社会生活及び対外的な友好活動において、また、社会主義的現代化の建設を進め、国家の統一と団結を守る闘いにおいて、更にその重要な作用を発揮するであろう。中国共産党指導の下における多党協力及び政治協商制度は長期にわたり存在し、発展するであろう。
(10)中華人民共和国は、全国の諸民族人民が共同で作り上げ、統一した多民族国家である。平等、団結及び相互援助の社会主義的民族関係は、すでに確立しており、引き続き強化されるであろう。民族の団結を守る闘争の中では、大民族主義、主として大漢族主義に反対し、また、地方民族主義にも反対しなければならない。国家は、全力を尽くして全国諸民族の共同の繁栄を促進させる。
(11)中国の革命と建設の成果は世界人民の支持と切り離すことができない。中国の前途は、世界の前途と緊密につながっている。中国は、独立自主の対外政策を堅持し、主権と領土保全の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵及び平和共存の5原則を堅持して、諸国家との外交関係及び経済・文化交流を発展させる。また、帝国主義、覇権主義及び植民地主義に反対することを堅持し、世界諸国人民との団結を強化し、抑圧された民族及び発展途上国が民族の独立を勝ち取り、守り、民族経済を発展させる正義の闘争を支持して、世界平和を確保し、人類の進歩を促進するために努力する。
(12)この憲法は、中国の諸民族人民の奮闘の成果を法の形式で確認し、国家の基本となる制度及び任務を定めたものであり、最高の法的効力を持つ。全国の諸民族人民並びにすべての国家機関、武装力、政党、社会団体、企業及び事業組織は、いずれもこの憲法を活動の根本準則とし、かつ、この憲法の尊厳を守り、この憲法の実施を保障する責務を負わなければならない。
<引用終わり>
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