NEO(非戦闘員退避作戦)2・1975/Saigon
- 2017/04/26
- 19:59
NEO(非戦闘員退避作戦)2・1975/Saigon

副題:法的未整備状態を解消しても「憲法の制約」との無用な壁がある。1975年サイゴン陥落の再現はやめてくれ。
前回は、米国政府文書(*1)を示し、それに基づき、米国国務省が管轄するNEO(非戦闘員退避作戦)に関して、主に法的側面を視点に考察・論評した。
また、我国が米国と締結している日米安保条約のガイドラインを外務省HPより引用して、我国の在外邦人保護と米国のNEOの関係性を示し、この様な体制が可能となった「戦争法案」などとウソのレッテルを貼られた法的未整備状態解消に関して述べた。
それらを大筋でまとめると、以下の様になる。
・米国のNEOの対象は、基本的には米国市民=アメリカ人である。
・米国NEOの規定では、特定の第3国の国民も対象とすることが出来る
・日米ガイドラインで我国は米国と相互補完的に救援活動及び避難民への対応のための措置、非戦闘員を退避させるための活動を行う指針となっている。
・国民保護法や一昨年夏の安保法制の整備等でガイドライン見直し時(*2)に比して、我国の法的未整備状態は解消されつつある(*3)が、未だに「憲法の制約」が残置されている。
・朝鮮半島有事の際の米国NEOの避難対象者として、在韓邦人は特定の第3国人として対象になる様に安倍政権は交渉し、合意されたと解される。
・韓国の一般国民は「特定」されていない場合はNEOの対象者ではない。
前回の法的関係は日米両国政府が公開している文書に基づき考察したが、今回は、佐藤正久議員の指摘を記載している夕刊フジの記事を題材に考察する。今回は、前回の様な一次資料に基づく考察ではなく、夕刊フジとの不確定情報を含んだものを題材にしての考察となるので、多分に推論が中心となるが、その点については予めご承知置き願いたい。
題材にする佐藤正久参議院議員の指摘が記載されている記事(本稿(*4)にURLリンク)とは、前回の文末脚注で紹介した夕刊フジのことである。適宜、それを抜粋引用しながら話を進める。
同記事の最初の部分を先ず引用する。
<記事の最初の部分を引用>
今後、韓国に滞在する米国の民間人に対する「非戦闘員退避行動」(NEO)が実行されれば、緊張度は最高レベルに達する。第2次朝鮮戦争が勃発した場合、韓国から100万人規模の避難民が日本に押し寄せるとみられる。在韓邦人の救出も急務となるが、日本は対応できるのか。
<引用終わり>
同記事の最初の部分は、佐藤正久議員の発言ではなく、夕刊フジの記者による文章だと推定される。その理由は、因果関係が逆だからである。
正確には、「浮足立った韓国人の間で混乱状態が生じる可能性が高い」である。
お読みいただければ分かる通り、米国民間人が韓国外に退避するNEOの実施は、緊張状態が高まったからであり、NEOの実施で緊張状態が高まるのではない。
因果関係が逆になってしまう文章になっているのは理由がある。
朝鮮半島情勢の「緊張状態」の本来的意味は、「武力事態の発生可能性の高まり」を言うのであり、その旨を、引用部分の直前で記事は記載しているのだが、夕刊フジの記者は、後段に出てくる佐藤議員の発言の前提となっている「浮足立った韓国人の間で混乱状態が生じる可能性が高い」という意味の「緊張状態」を混同して使っており、因果関係が逆になる記載となっている。この点はご注意いただきたい。
佐藤議員が言う様に、米国政府がNEOを実施した場合、韓国人の国民性から、それを見た韓国人が浮足立つことを想定することは妥当であるが、誤解を生む記述である。
次の「韓国から100万人規模の避難民が日本に押し寄せるとみられる」との記事の一文の「100万人規模」の内訳は、同記事の後段で、以下の様に夕刊フジの記者は書いている。
<記事より抜粋引用>
○現在の在韓外国人は約200万人とされる。内訳は、中国人が約100万人、米国人が約20万人、ベトナム人が約14万人、タイ人が約8万人、フィリピン人が約5万人で、日本人は旅行者や出張者を含めて約6万人だ。
<引用終わり>
暗算が早い人はわかるであろうが、国別の人数を示した数値を全部足しても200万人にはならない。全部で約153万人である。
・記事に登場する在韓外国人数
中 国 人 :約100万人
米 国 人 :約 20万人
ベトナム人 :約14万人
タイ人 :約 8万人
フィリピン人:約 5万人
日 本 人 :約 6万人
- - - - - - -
合 計 :約153万人
「約200万人」との合計値に合わせると、他に約40数万人もの他の国の国民が韓国内にいることになるのだが、この種明かしとしては、この部分の更に後段で佐藤議員が語った概数が「約200万人」であることから、その内訳を夕刊フジの記者が調べ、わかる範囲で具体的国名を書いたからだと想定される。
実際の内訳や総数は、この概数とは違うであろうことが類推されるので、あまり細部に拘る必要がない数値だと思われる。何れであっても、かなりの多人数であることだけは確かである。
佐藤議員の様な「その道のプロ」は、米軍のNEOでは、米国民以外の韓国人及び第3国の国民は、基本的に対象外、対象とする場合は、その特定が必要との規定になっていることは承知の上で言っていると推定されるので、佐藤議員が言いたいことは、人数の多寡とか、韓国人が国を捨てて日本に来るとかの話ではなく、我国側の体制についてである。
事実、佐藤議員の発言として同記事の後段に記載されたものは以下の様になっている。
<記事中佐藤議員の発言とされる部分及びその関連部分の後段部>
(付番は引用者による)
①佐藤氏は、朝鮮半島や日本が描かれた東アジアの地図を指さしながら、「半島有事が起きれば、約200万人の在韓外国人の大半は一斉に日本に向かってくるだろう。朝鮮戦争(1950〜53年)と同じように、韓国人もドッと逃げてくるはずだ。ただ、残念ながら、日本の受け入れ体制は十分ではない」と話した。
②佐藤氏は「自衛隊に在籍していたころ、朝鮮半島有事を想定した演習を何度も経験したが、避難民の受け入れは非常に難しかった」と語った。
③また、安全保障関連法が成立したことで、自衛隊による在外邦人の救出が可能になった。だが、現実には難しい壁が立ちはだかる。在外邦人を救出できる要件が厳しいからだ。
④要件とは、(1)当該外国の警察権が維持されており、戦闘行為が行われることがないと認められること(2)自衛隊の武器使用を含む保護措置についての当該外国の同意(3)当該外国との連携・協力が見込まれること−だ。
⑤佐藤氏は「この要件を韓国に当てはめると、かなりハードルが高く、現状では邦人の救出は難しいだろう。憲法9条が最大の足かせとなっている。『憲法を改正しなければ、守るべき命も守れない』という現実を改めて受け止めるべきだ」と語っている。
<引用終わり>
上記引用のうち、①の部分は、避難民の数などの話が「話の枕」「導入部」であり、佐藤議員が言いたいことは、①の後半の「残念ながら、日本の受け入れ体制は十分ではない」であることがわかる部分である。
これに続き、佐藤議員の発言とされる②、③の部分で、受入体制が十分でないことを補完する話となっている。②では、過去の自衛隊での演習時に「避難民の受け入れは非常に難しかった」との経験を語っている。「演習」と言うと、シュミレーションゲームの様に飛行機や戦車がドンパチすることをイメージするであろうが、そうではない。
朝鮮半島からの退避演習で、自衛隊として有効な手段を取ろうとすると、それは「憲法の制約で不可」との判定を受ける、との内容を言っているのである。
これに関しては③の前段部分で「安全保障関連法が成立したことで、自衛隊による在外邦人の救出が可能になった」との、昔の演習で経験したであろう「憲法の制約」や「関連法規の未整備状態」が解消しつつあることを述べていることでわかるであろう。
そして、解消しつつあるが、未だに「憲法の制約」で、文民退避に有効な手段が取れないとの現実を指摘している。
それは、③の後段部分での記述「現実には難しい壁が立ちはだかる。在外邦人を救出できる要件が厳しいからだ。」となっている。
④では、③で出てきた「要件」を以下の様に具体的に書いてある。
<上記④の「要件」の具体的記載引用>
(1)当該外国の警察権が維持されており、戦闘行為が行われることがないと認められること
(2)自衛隊の武器使用を含む保護措置についての当該外国の同意
(3)当該外国との連携・協力が見込まれること
<引用終わり>
このうち、(1)は、世界標準で言えば非常識である。危険地帯の警察権が維持されてない方がもっと危険であり、そういう危険地帯の取り残されている日本人がいるのに、それを救いに行けない、との要件である。こういう世界標準とは異なる真逆の要件になってしまう理由は、現行憲法の前文+9条の内容が、「日本人に武器を持たすと他国を侵略し始める」との日本悪玉論に基づいているからだ(*5)。
こんな本末転倒の「要件」となっているのは、我国国会での反日本人勢力野党の存在が原因だ。
次の(2)及び(3)は、原則的であり妥当な要件であるのだが、「朝鮮半島有事」とのケースでは、「同意を得る当該外国が韓国」であることが、この要件を「難しい要件」としているものである。
この様な事態の原因は、韓国の小中華思想や捏造歴史での歪んだ世界観にあるのだが、その論評はここでは行わない。
むしろ、韓国内に取り残された我々と同じ日本人が生命の危機にある状態で、同意をしない韓国の存在を以て、仕方ないとして、国民を見捨てる様では我国は国家とは言えない。この点については以前論評している(*6)ので、そちらを御一読いただきたい。
これら3つの要件は、(1)は「憲法の制約」の問題であり、(2)及び(3)は、韓国という、凝り固まった小中華思想及び捏造歴史での歪んだ世界観を持つ国が原因の問題である。
引用記事の最後の⑤の部分で、佐藤議員は結論を以下の様に言っている。
・この要件を韓国に当てはめると、かなりハードルが高く、現状では邦人の救出は難しいだろう。
・憲法9条が最大の足かせとなっている。
・『憲法を改正しなければ、守るべき命も守れない』という現実を改めて受け止めるべきだ
佐藤議員の言う結論は、真っ当であり、すんなりと同意できる結論である。
一方、ハードルがかなり高くなっている原因のうち、当該国が韓国であるとの問題に関しては結論部分では触れていない。
多分、それを言ってしまうと、本質である邦人保護ではない部分でノイジーマイノリティが騒ぐからであろう。それはリスク対策としては正しい判断である。
本来目的である在韓邦人の保護・退避を阻害する様なことを敢えて言っていないと解釈する。
この記事は、「NEOが実施された場合」を前提にしているが、そういう事態が発生することは望ましくない。とは言え「望ましくない未来を想定しない」との発想は、リスクマネジメントの視点(*7)では、もっともやってはいけない事である。
NEOが韓国で実施された場合は、「浮足立った韓国人の間で混乱状態が生じる可能性が高い」との想定から、その際に発生する初期的リスクを考察したので、それを記述しておく。
<民間航空機での脱出の際のリスク>
・ソウル近隣の金浦空港、仁川空港の場合、北朝鮮の長距離砲の射程内だと想定されるので、空港機能が麻痺するリスクがある。
それは、実際に砲撃が行われ、空港施設が物理的に破壊される場合だけではなく、空港職員の逃亡等、運営者不在による機能不全の可能性も想定される。
大韓航空やアジアナ航空の航空機が退避民を乗せて日本に到着した際に、ピストン輸送することが想定されるが、果たして大韓航空のパイロット等のクルーが韓国に戻り退避便を運航することに同意するのかどうか、とのリスクも想定しておくべきであろう。
・金浦、仁川以外の民間空港の多くは、ソウルから離れすぎている。釜山市・金海空港、大邱市・大邱国際空港等は地図上では数百Kmは離れており、陸路での移動は事実上不可能であろう。一番近い民間国際空港(軍民両用)は忠清北道の青洲国際空港であろうが、それでもソウルから100km近くあり、陸路での移動は平時の数倍の時間がかかると想定され、何よりも、同空港の滑走路は2,743mであり、大型旅客機の発着に適した3,000mより短いこともあり、主要な脱出ルートとするには難があると想定される。
<民間フェリー等の海路での脱出の際のリスク>
・韓国発の民間フェリーの定期航路があるのは、韓国-日本航路の場合は、釜山港と下関、対馬、大阪等の航路と、日本海側の韓国・東海市と境港を結ぶ航路であるが、釜山はソウルから400km以上も離れており、東海市もソウルから100km以上の陸路移動が必要で、事実上移動不可能となろう。
・韓国-中国航路には、仁川港-大連、天津等の航路があるが、仁川港は北朝鮮に近すぎ、仁川空港と同様の理由で機能不全に陥るリスクが想定される。
・黄海側の平沢港から山東省に向かう航路があり、平沢港はソウルから約70km。平沢港より南には群山港があるが、ソウルからの距離は平沢港より遠くなることになる。平沢港、群山港のフェリー航路は中国行なので、黄海を北上する航路となる。民間人退避の場合、この航路を選択するのは在韓中国人であろうと想定されるが、黄海への北上をせずに、南下して日本に向かうとしても、それはそれで収容施設等の別の問題が発生することから、日本人退避者がこの航路を選択することはないと思われる。
<外国政府チャーター便・軍用機等での脱出>
・空港機能が維持されているのなら可能だが、空港機能が維持される保証はない。一方、ソウル以南の在韓米軍基地であれば、空港機能は維持されると想定される。
・米軍基地等の米軍施設を利用した脱出であっても、相当な混乱が想定される。米韓連合司令部公式HP資料及び英文Wikiで言及がある1975年のサイゴン陥落に伴うNEOの状態を思い起こせば、朝鮮半島有事の際のNEOにあっては、相当な混乱が予想される。
・1975年サイゴン脱出に関しては、当時の映像記録が残されている。現地米国大使館に殺到する南ベトナムの群集や、殺到した民衆を大使館に入れない為に、正門を閉ざし小銃を構える海兵隊員や、退避対象者を大使館内の引き入れる様子や、ヘリコピターで沖合にいる米空母に退避する様子や、米空母内に収容不能となったヘリを海に投棄する様子が映像として残っている。
当時生まれていなかった若い世代の方は、以下を一度ご覧いただきたい。
戦争地域からの退避とは、こういうものなのである。
<YouTube動画>
1)War in Vietnam - Saigon evacuation
https://www.youtube.com/watch?v=3AiyFF9qOls
2)Fall of Saigon 1975
https://www.youtube.com/watch?v=IdR2Iktffaw
この様な事態に遭遇したくないと思うのは当方だけではあるまい。
我々と同じ日本人が、あの地で、この様な目にあっている時、「憲法の制約」との思考停止で何もしないなどという選択はしたくないと思うのである。
以上である。
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【文末脚注】
(*1):米国政府文書
詳しくは、前回の文末脚注に提示したが、今回は一番分かり易い、米韓連合司令部の公式HPにある資料のURLを参考の為に紹介する。
<NEO資料(PDF)>
http://www.2id.korea.army.mil/soldiers/pdf/NEO_101_Brief_English.pdf
<米陸軍第2歩兵師団/米韓連合司令部公式HPのNEOのページ>
http://www.2id.korea.army.mil/soldiers/neo.asp
(*2):所謂「日米ガイドライン」の見直し版は、前回文末脚注に提示した通りだが、その内の「非戦闘員を退避させるための活動」部分を参考の為に紹介する。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/kyoryoku.html
<抜粋引用>
(ハ)非戦闘員を退避させるための活動
○日本国民又は米国国民である非戦闘員を第三国から安全な地域に退避させる必要が生じる場合には、日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有する。日米両国政府は、各々が適切であると判断する場合には、各々の有する能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送及び施設の使用に係るものを含め、これらの非戦闘員の退避に関して、計画に際して調整し、また、実施に際して協力する。日本国民又は米国国民以外の非戦闘員について同様の必要が生じる場合には、日米両国が、各々の基準に従って、第三国の国民に対して退避に係る援助を行うことを検討することもある。
<引用終わり>
(*3):法的未整備状態の解消努力
国民の安全を確保する為の法的未整備解消の過程で、民進党(当時は民主党を名乗っていた)や共産党や朝日新聞等の反日本人勢力は、これらの法案に対して「人権を制限する有事法制ハンターーイ」とか「戦争法案ハンターーイ」とかの偽看板を貼り付け、あたかも、これら法制が成立すると「危険」だとの真逆のことをいっていたことは、記憶されていることであろう。これら法制は日本人の生命のリスクの軽減を目的にしてものなのに、それに反対しているのだから、あの反対キャンパーンは、日本人の命など二の次、三の次だとするもので、民進党や共産党や朝日新聞等の反日本人勢力には、強い違和感を持つのである。
(*4):佐藤正久議員のNEOに関する指摘記事
前回の文末脚注(*1)にある夕刊フジの記事のこと。
gooニュース 04月20日 17:05
https://news.goo.ne.jp/article/fuji/politics/fuji-plt1704200004.html
見出し:◆第2次朝鮮戦争勃発なら日本に難民100万人 北工作員紛れ込む可能性も…ヒゲの隊長「受け入れ体制不十分」
(リンク切れの場合は、前回の文末脚注の引用を参照願いたい)
(*5):現行憲法は日本悪玉論・日本人狂人説で書かれている。
2015/11/21投稿:
「日本人に武器を持たせると他国を侵略する」との濡れ衣
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-270.html
上記の他、タグ【憲法9条】での考察・分析は多数。
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-category-3.html
(*6):当該国、韓国の不同意に関する話
2017/04/22投稿:
続々・「朝鮮半島ニュース」ア・ラ・カルト
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-654.html
2015/10/27投稿:
【コラム】朝鮮半島北半部
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-245.html
(*7):リスクマネジメントの視点
2017/04/19投稿:
リスクマネジメント
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-651.html
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副題:法的未整備状態を解消しても「憲法の制約」との無用な壁がある。1975年サイゴン陥落の再現はやめてくれ。
前回は、米国政府文書(*1)を示し、それに基づき、米国国務省が管轄するNEO(非戦闘員退避作戦)に関して、主に法的側面を視点に考察・論評した。
また、我国が米国と締結している日米安保条約のガイドラインを外務省HPより引用して、我国の在外邦人保護と米国のNEOの関係性を示し、この様な体制が可能となった「戦争法案」などとウソのレッテルを貼られた法的未整備状態解消に関して述べた。
それらを大筋でまとめると、以下の様になる。
・米国のNEOの対象は、基本的には米国市民=アメリカ人である。
・米国NEOの規定では、特定の第3国の国民も対象とすることが出来る
・日米ガイドラインで我国は米国と相互補完的に救援活動及び避難民への対応のための措置、非戦闘員を退避させるための活動を行う指針となっている。
・国民保護法や一昨年夏の安保法制の整備等でガイドライン見直し時(*2)に比して、我国の法的未整備状態は解消されつつある(*3)が、未だに「憲法の制約」が残置されている。
・朝鮮半島有事の際の米国NEOの避難対象者として、在韓邦人は特定の第3国人として対象になる様に安倍政権は交渉し、合意されたと解される。
・韓国の一般国民は「特定」されていない場合はNEOの対象者ではない。
前回の法的関係は日米両国政府が公開している文書に基づき考察したが、今回は、佐藤正久議員の指摘を記載している夕刊フジの記事を題材に考察する。今回は、前回の様な一次資料に基づく考察ではなく、夕刊フジとの不確定情報を含んだものを題材にしての考察となるので、多分に推論が中心となるが、その点については予めご承知置き願いたい。
題材にする佐藤正久参議院議員の指摘が記載されている記事(本稿(*4)にURLリンク)とは、前回の文末脚注で紹介した夕刊フジのことである。適宜、それを抜粋引用しながら話を進める。
同記事の最初の部分を先ず引用する。
<記事の最初の部分を引用>
今後、韓国に滞在する米国の民間人に対する「非戦闘員退避行動」(NEO)が実行されれば、緊張度は最高レベルに達する。第2次朝鮮戦争が勃発した場合、韓国から100万人規模の避難民が日本に押し寄せるとみられる。在韓邦人の救出も急務となるが、日本は対応できるのか。
<引用終わり>
同記事の最初の部分は、佐藤正久議員の発言ではなく、夕刊フジの記者による文章だと推定される。その理由は、因果関係が逆だからである。
正確には、「浮足立った韓国人の間で混乱状態が生じる可能性が高い」である。
お読みいただければ分かる通り、米国民間人が韓国外に退避するNEOの実施は、緊張状態が高まったからであり、NEOの実施で緊張状態が高まるのではない。
因果関係が逆になってしまう文章になっているのは理由がある。
朝鮮半島情勢の「緊張状態」の本来的意味は、「武力事態の発生可能性の高まり」を言うのであり、その旨を、引用部分の直前で記事は記載しているのだが、夕刊フジの記者は、後段に出てくる佐藤議員の発言の前提となっている「浮足立った韓国人の間で混乱状態が生じる可能性が高い」という意味の「緊張状態」を混同して使っており、因果関係が逆になる記載となっている。この点はご注意いただきたい。
佐藤議員が言う様に、米国政府がNEOを実施した場合、韓国人の国民性から、それを見た韓国人が浮足立つことを想定することは妥当であるが、誤解を生む記述である。
次の「韓国から100万人規模の避難民が日本に押し寄せるとみられる」との記事の一文の「100万人規模」の内訳は、同記事の後段で、以下の様に夕刊フジの記者は書いている。
<記事より抜粋引用>
○現在の在韓外国人は約200万人とされる。内訳は、中国人が約100万人、米国人が約20万人、ベトナム人が約14万人、タイ人が約8万人、フィリピン人が約5万人で、日本人は旅行者や出張者を含めて約6万人だ。
<引用終わり>
暗算が早い人はわかるであろうが、国別の人数を示した数値を全部足しても200万人にはならない。全部で約153万人である。
・記事に登場する在韓外国人数
中 国 人 :約100万人
米 国 人 :約 20万人
ベトナム人 :約14万人
タイ人 :約 8万人
フィリピン人:約 5万人
日 本 人 :約 6万人
- - - - - - -
合 計 :約153万人
「約200万人」との合計値に合わせると、他に約40数万人もの他の国の国民が韓国内にいることになるのだが、この種明かしとしては、この部分の更に後段で佐藤議員が語った概数が「約200万人」であることから、その内訳を夕刊フジの記者が調べ、わかる範囲で具体的国名を書いたからだと想定される。
実際の内訳や総数は、この概数とは違うであろうことが類推されるので、あまり細部に拘る必要がない数値だと思われる。何れであっても、かなりの多人数であることだけは確かである。
佐藤議員の様な「その道のプロ」は、米軍のNEOでは、米国民以外の韓国人及び第3国の国民は、基本的に対象外、対象とする場合は、その特定が必要との規定になっていることは承知の上で言っていると推定されるので、佐藤議員が言いたいことは、人数の多寡とか、韓国人が国を捨てて日本に来るとかの話ではなく、我国側の体制についてである。
事実、佐藤議員の発言として同記事の後段に記載されたものは以下の様になっている。
<記事中佐藤議員の発言とされる部分及びその関連部分の後段部>
(付番は引用者による)
①佐藤氏は、朝鮮半島や日本が描かれた東アジアの地図を指さしながら、「半島有事が起きれば、約200万人の在韓外国人の大半は一斉に日本に向かってくるだろう。朝鮮戦争(1950〜53年)と同じように、韓国人もドッと逃げてくるはずだ。ただ、残念ながら、日本の受け入れ体制は十分ではない」と話した。
②佐藤氏は「自衛隊に在籍していたころ、朝鮮半島有事を想定した演習を何度も経験したが、避難民の受け入れは非常に難しかった」と語った。
③また、安全保障関連法が成立したことで、自衛隊による在外邦人の救出が可能になった。だが、現実には難しい壁が立ちはだかる。在外邦人を救出できる要件が厳しいからだ。
④要件とは、(1)当該外国の警察権が維持されており、戦闘行為が行われることがないと認められること(2)自衛隊の武器使用を含む保護措置についての当該外国の同意(3)当該外国との連携・協力が見込まれること−だ。
⑤佐藤氏は「この要件を韓国に当てはめると、かなりハードルが高く、現状では邦人の救出は難しいだろう。憲法9条が最大の足かせとなっている。『憲法を改正しなければ、守るべき命も守れない』という現実を改めて受け止めるべきだ」と語っている。
<引用終わり>
上記引用のうち、①の部分は、避難民の数などの話が「話の枕」「導入部」であり、佐藤議員が言いたいことは、①の後半の「残念ながら、日本の受け入れ体制は十分ではない」であることがわかる部分である。
これに続き、佐藤議員の発言とされる②、③の部分で、受入体制が十分でないことを補完する話となっている。②では、過去の自衛隊での演習時に「避難民の受け入れは非常に難しかった」との経験を語っている。「演習」と言うと、シュミレーションゲームの様に飛行機や戦車がドンパチすることをイメージするであろうが、そうではない。
朝鮮半島からの退避演習で、自衛隊として有効な手段を取ろうとすると、それは「憲法の制約で不可」との判定を受ける、との内容を言っているのである。
これに関しては③の前段部分で「安全保障関連法が成立したことで、自衛隊による在外邦人の救出が可能になった」との、昔の演習で経験したであろう「憲法の制約」や「関連法規の未整備状態」が解消しつつあることを述べていることでわかるであろう。
そして、解消しつつあるが、未だに「憲法の制約」で、文民退避に有効な手段が取れないとの現実を指摘している。
それは、③の後段部分での記述「現実には難しい壁が立ちはだかる。在外邦人を救出できる要件が厳しいからだ。」となっている。
④では、③で出てきた「要件」を以下の様に具体的に書いてある。
<上記④の「要件」の具体的記載引用>
(1)当該外国の警察権が維持されており、戦闘行為が行われることがないと認められること
(2)自衛隊の武器使用を含む保護措置についての当該外国の同意
(3)当該外国との連携・協力が見込まれること
<引用終わり>
このうち、(1)は、世界標準で言えば非常識である。危険地帯の警察権が維持されてない方がもっと危険であり、そういう危険地帯の取り残されている日本人がいるのに、それを救いに行けない、との要件である。こういう世界標準とは異なる真逆の要件になってしまう理由は、現行憲法の前文+9条の内容が、「日本人に武器を持たすと他国を侵略し始める」との日本悪玉論に基づいているからだ(*5)。
こんな本末転倒の「要件」となっているのは、我国国会での反日本人勢力野党の存在が原因だ。
次の(2)及び(3)は、原則的であり妥当な要件であるのだが、「朝鮮半島有事」とのケースでは、「同意を得る当該外国が韓国」であることが、この要件を「難しい要件」としているものである。
この様な事態の原因は、韓国の小中華思想や捏造歴史での歪んだ世界観にあるのだが、その論評はここでは行わない。
むしろ、韓国内に取り残された我々と同じ日本人が生命の危機にある状態で、同意をしない韓国の存在を以て、仕方ないとして、国民を見捨てる様では我国は国家とは言えない。この点については以前論評している(*6)ので、そちらを御一読いただきたい。
これら3つの要件は、(1)は「憲法の制約」の問題であり、(2)及び(3)は、韓国という、凝り固まった小中華思想及び捏造歴史での歪んだ世界観を持つ国が原因の問題である。
引用記事の最後の⑤の部分で、佐藤議員は結論を以下の様に言っている。
・この要件を韓国に当てはめると、かなりハードルが高く、現状では邦人の救出は難しいだろう。
・憲法9条が最大の足かせとなっている。
・『憲法を改正しなければ、守るべき命も守れない』という現実を改めて受け止めるべきだ
佐藤議員の言う結論は、真っ当であり、すんなりと同意できる結論である。
一方、ハードルがかなり高くなっている原因のうち、当該国が韓国であるとの問題に関しては結論部分では触れていない。
多分、それを言ってしまうと、本質である邦人保護ではない部分でノイジーマイノリティが騒ぐからであろう。それはリスク対策としては正しい判断である。
本来目的である在韓邦人の保護・退避を阻害する様なことを敢えて言っていないと解釈する。
この記事は、「NEOが実施された場合」を前提にしているが、そういう事態が発生することは望ましくない。とは言え「望ましくない未来を想定しない」との発想は、リスクマネジメントの視点(*7)では、もっともやってはいけない事である。
NEOが韓国で実施された場合は、「浮足立った韓国人の間で混乱状態が生じる可能性が高い」との想定から、その際に発生する初期的リスクを考察したので、それを記述しておく。
<民間航空機での脱出の際のリスク>
・ソウル近隣の金浦空港、仁川空港の場合、北朝鮮の長距離砲の射程内だと想定されるので、空港機能が麻痺するリスクがある。
それは、実際に砲撃が行われ、空港施設が物理的に破壊される場合だけではなく、空港職員の逃亡等、運営者不在による機能不全の可能性も想定される。
大韓航空やアジアナ航空の航空機が退避民を乗せて日本に到着した際に、ピストン輸送することが想定されるが、果たして大韓航空のパイロット等のクルーが韓国に戻り退避便を運航することに同意するのかどうか、とのリスクも想定しておくべきであろう。
・金浦、仁川以外の民間空港の多くは、ソウルから離れすぎている。釜山市・金海空港、大邱市・大邱国際空港等は地図上では数百Kmは離れており、陸路での移動は事実上不可能であろう。一番近い民間国際空港(軍民両用)は忠清北道の青洲国際空港であろうが、それでもソウルから100km近くあり、陸路での移動は平時の数倍の時間がかかると想定され、何よりも、同空港の滑走路は2,743mであり、大型旅客機の発着に適した3,000mより短いこともあり、主要な脱出ルートとするには難があると想定される。
<民間フェリー等の海路での脱出の際のリスク>
・韓国発の民間フェリーの定期航路があるのは、韓国-日本航路の場合は、釜山港と下関、対馬、大阪等の航路と、日本海側の韓国・東海市と境港を結ぶ航路であるが、釜山はソウルから400km以上も離れており、東海市もソウルから100km以上の陸路移動が必要で、事実上移動不可能となろう。
・韓国-中国航路には、仁川港-大連、天津等の航路があるが、仁川港は北朝鮮に近すぎ、仁川空港と同様の理由で機能不全に陥るリスクが想定される。
・黄海側の平沢港から山東省に向かう航路があり、平沢港はソウルから約70km。平沢港より南には群山港があるが、ソウルからの距離は平沢港より遠くなることになる。平沢港、群山港のフェリー航路は中国行なので、黄海を北上する航路となる。民間人退避の場合、この航路を選択するのは在韓中国人であろうと想定されるが、黄海への北上をせずに、南下して日本に向かうとしても、それはそれで収容施設等の別の問題が発生することから、日本人退避者がこの航路を選択することはないと思われる。
<外国政府チャーター便・軍用機等での脱出>
・空港機能が維持されているのなら可能だが、空港機能が維持される保証はない。一方、ソウル以南の在韓米軍基地であれば、空港機能は維持されると想定される。
・米軍基地等の米軍施設を利用した脱出であっても、相当な混乱が想定される。米韓連合司令部公式HP資料及び英文Wikiで言及がある1975年のサイゴン陥落に伴うNEOの状態を思い起こせば、朝鮮半島有事の際のNEOにあっては、相当な混乱が予想される。
・1975年サイゴン脱出に関しては、当時の映像記録が残されている。現地米国大使館に殺到する南ベトナムの群集や、殺到した民衆を大使館に入れない為に、正門を閉ざし小銃を構える海兵隊員や、退避対象者を大使館内の引き入れる様子や、ヘリコピターで沖合にいる米空母に退避する様子や、米空母内に収容不能となったヘリを海に投棄する様子が映像として残っている。
当時生まれていなかった若い世代の方は、以下を一度ご覧いただきたい。
戦争地域からの退避とは、こういうものなのである。
<YouTube動画>
1)War in Vietnam - Saigon evacuation
https://www.youtube.com/watch?v=3AiyFF9qOls
2)Fall of Saigon 1975
https://www.youtube.com/watch?v=IdR2Iktffaw
この様な事態に遭遇したくないと思うのは当方だけではあるまい。
我々と同じ日本人が、あの地で、この様な目にあっている時、「憲法の制約」との思考停止で何もしないなどという選択はしたくないと思うのである。
以上である。
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【文末脚注】
(*1):米国政府文書
詳しくは、前回の文末脚注に提示したが、今回は一番分かり易い、米韓連合司令部の公式HPにある資料のURLを参考の為に紹介する。
<NEO資料(PDF)>
http://www.2id.korea.army.mil/soldiers/pdf/NEO_101_Brief_English.pdf
<米陸軍第2歩兵師団/米韓連合司令部公式HPのNEOのページ>
http://www.2id.korea.army.mil/soldiers/neo.asp
(*2):所謂「日米ガイドライン」の見直し版は、前回文末脚注に提示した通りだが、その内の「非戦闘員を退避させるための活動」部分を参考の為に紹介する。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/kyoryoku.html
<抜粋引用>
(ハ)非戦闘員を退避させるための活動
○日本国民又は米国国民である非戦闘員を第三国から安全な地域に退避させる必要が生じる場合には、日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有する。日米両国政府は、各々が適切であると判断する場合には、各々の有する能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送及び施設の使用に係るものを含め、これらの非戦闘員の退避に関して、計画に際して調整し、また、実施に際して協力する。日本国民又は米国国民以外の非戦闘員について同様の必要が生じる場合には、日米両国が、各々の基準に従って、第三国の国民に対して退避に係る援助を行うことを検討することもある。
<引用終わり>
(*3):法的未整備状態の解消努力
国民の安全を確保する為の法的未整備解消の過程で、民進党(当時は民主党を名乗っていた)や共産党や朝日新聞等の反日本人勢力は、これらの法案に対して「人権を制限する有事法制ハンターーイ」とか「戦争法案ハンターーイ」とかの偽看板を貼り付け、あたかも、これら法制が成立すると「危険」だとの真逆のことをいっていたことは、記憶されていることであろう。これら法制は日本人の生命のリスクの軽減を目的にしてものなのに、それに反対しているのだから、あの反対キャンパーンは、日本人の命など二の次、三の次だとするもので、民進党や共産党や朝日新聞等の反日本人勢力には、強い違和感を持つのである。
(*4):佐藤正久議員のNEOに関する指摘記事
前回の文末脚注(*1)にある夕刊フジの記事のこと。
gooニュース 04月20日 17:05
https://news.goo.ne.jp/article/fuji/politics/fuji-plt1704200004.html
見出し:◆第2次朝鮮戦争勃発なら日本に難民100万人 北工作員紛れ込む可能性も…ヒゲの隊長「受け入れ体制不十分」
(リンク切れの場合は、前回の文末脚注の引用を参照願いたい)
(*5):現行憲法は日本悪玉論・日本人狂人説で書かれている。
2015/11/21投稿:
「日本人に武器を持たせると他国を侵略する」との濡れ衣
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-270.html
上記の他、タグ【憲法9条】での考察・分析は多数。
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-category-3.html
(*6):当該国、韓国の不同意に関する話
2017/04/22投稿:
続々・「朝鮮半島ニュース」ア・ラ・カルト
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-654.html
2015/10/27投稿:
【コラム】朝鮮半島北半部
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-245.html
(*7):リスクマネジメントの視点
2017/04/19投稿:
リスクマネジメント
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-651.html



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