先制的自衛権・自衛的先制攻撃
- 2017/03/21
- 20:05
先制的自衛権・自衛的先制攻撃

副題:3度目の核被爆を防ぐために2017その2
我が国の防衛問題論議に関しては、虚偽を含む雑音が蔓延するのが「いつものパターン」であることから、表題を話題に入る前に、【我が国が「先制的自衛権」を持つ】ことを先ず、明示しておきたい。
我が国は「先制的自衛権」として「誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まる」(自衛的先制攻撃は自衛権の範疇)との政府見解が61年前の1956年2月29日に出され、それが現在も有効であり、【策源地への防衛攻撃は可能】なのである。
この政府見解は、「【文末脚注】(*1)」に一次資料である当該答弁の国会議事録のURL及び、その部分の抜粋を掲示しているので、それで確認いただきたい。
【我が国が「先制的自衛権」を持つ】ことに関して議論の余地はないのである。
この事を平易に言えば「弾道ミサイルが我が国に着弾した後じゃないと防衛できない」などという話は、まともな防衛議論を阻害する目的の雑音でしかない、ということだ。
そして、こういう雑音を発する側の特徴は、「日本人の生命を護る」との根本の視点が欠落していることだ。
同様、現実問題として、弾道ミサイルが我が国近隣国から発車された場合、数分から十数分程度の極めて短い時間で我が国に着弾するのだから、雑音側が発する「ミサイルが発射される前の敵基地攻撃は違法」なる言説も、「日本人の生命を護る」との根本の視点が欠落している雑音なのである。
この様な政府見解があり、法理的には「可能」なのだが、では、それを実行できる能力が我が国にあるのか、というと我が国の防衛装備では事実上不可能なのである。(*2)
我が国が持つ戦闘機や潜水艦から発射する対地ミサイルの射程距離は、約200km程度しかなく、北朝鮮のミサイル基地の200km以内に近寄らないと対地ミサイルは届かないのである。そこまで近接する軍事行動を自衛隊に要求することは、自衛隊の飛行機や潜水艦が帰還出来ないリスクが高く、作戦としても非現実的であり、事実上実行は不可能なのである。
北朝鮮のミサイル基地が日本海側にあれば、もの凄く低い確率で理屈上の作戦は可能かもしれないが、今般の秋田県沖EEZ内に着弾した4発同時発射ミサイルが発射されたのは、黄海側の中朝国境近くであり、そこへの近接は中国の存在からも不可能事である。(*3)
この様な初期的認識に基づき、副題である「3度目の核被爆を防ぐために」我々一般国民は、どの様な視点を、現段階で持っていることが望ましいのかを考察したのが本論評である。
「憲法違反をするぐらいなら核被爆して死んでも良い」などという特殊な性癖を、我々日本国民の大多数が持っているとは考えていない。少なくとも、当方は、そんな特殊なマゾヒズムなんぞ、まっぴらごめん、オ・コ・ト・ワ・リである。
ところが、民進党(民主党からの党名変更政党で民主党そのもの)の枝野などは、憲法規定に則り、防衛活動は日本人が餓死した後にやるべきだと国会質疑で発言しているのである。(*4)
本論評では、この様な「雑音」を考慮対象にすること自体が「日本人の命を蔑ろにする行為」だと考えている。
さて、テーマである「3度目の核被爆を防ぐために」を現実化する為の手段として、我が国は外交を真っ先に選択している。
ところが、北朝鮮に関しては、6か国協議(*5)との「場」での交渉を通じて努力をしてきたのだが、結局は無力であり、北朝鮮は2003年8月から始まった6ヶ国協議との「場」を「時間稼ぎ」に利用しただけで、2006年10月には最初の核実験を実施している。その約半年後の2007年3月の第6回協議を最後に6ヶ国協議は開催されていない。
6ヶ国協議が開催されなくなって以降も、我が国は、声名や国連等を通じて北朝鮮に対して、我が国近隣への弾道ミサイル発射及び核実験をやめる様に働きかけているが、北朝鮮がやめる訳もなく、今や6回目の核実験(*6)の兆候があり、弾道ミサイルの発射は、つい10日程前に行われ、今も続いている。(*7)
北朝鮮の核開発が顕在化したのは、今から約25年前のことである。
北朝鮮が最初にNPT脱退を表明したのは1993年3月のことであり、翌年の1994年5月には、黒鉛減速炉からの核燃料棒抜き取りに着手し、この様な違反行為に対してIAEAが実施した対北朝鮮制裁に「反発」するとの名目で北朝鮮はIAEAからの脱退も表明する事態となった。
これを受け、その年1994年の6月に米国民主党大統領ビル・クリントンは、事態収拾の特使として同民主党元大統領ジミー・カーターを北朝鮮に送り、金日成との会談を行った。
この会談で北朝鮮はNPT脱退の発効を一時中断したが、その見返りに米国は北朝鮮に、1)原爆の材料となる核物質生成が抑制される軽水炉を提供する(実施は米国ではなく、日米韓の3ヶ国出資のKEDOが実施)、2)軽水炉完成までの間、年間50万トンの重油を北朝鮮に供与するとした。
しかしながら、カーター・金日成会談(1994年6月15日)の直後の7月8日に金日成は何故か急死し、北朝鮮は、見返りである重油供給を「美味しくいただき」ながら、結局はウラン濃縮などの核開発を進めていたのであった。
どうやら、朝鮮半島では「国家間の約束」との概念はない様で、「約束をした人」がいなくなれば、「国家間の約束」は反故にされるのが「普通」だと考えている様だ。
北朝鮮の協約違反に対して、KEDO軽水炉の建設が中止になり、重油の供給も中止になったのだが、それまでで一息ついた北朝鮮は、2005年2月に核兵器保有宣言をし、その後、2017年の現在に至る迄に5回の核実験と何回もの弾道ミサイル発射を続けている。
要するに、外交努力だけでは、北朝鮮は核開発を中止しないことが明らかになっているのである。
約25年前から顕在化した「北朝鮮の核問題」は外交では阻止出来なかったというのが歴史的事実である。
そういう事実からすれば、今になって「外交努力を」と言ってしまう人物は、事実認識が出来ていない愚鈍か、或いは、意図的に外交努力以外の方策の存在を国民に認知させたくない人物であると類推される。
その様な人物は、前述した「雑音」を発する「日本人の命を蔑ろにする行為」をしてしまう人物と同類なのである。
それでは、いったい何を以て、「3度目の核被爆を防ぎ」「我々日本人の生命を護る」のか?
答えは、既に昨年2月に以下のコラムにて言及済である。とは言え、以下のURLで示した「3つの方法」は、純軍事的なもので、そのうちの1つは国際的に「違法」だとされている例が含まれている。これは、議論をする過程で論じる対象としたかったのだが、当時は無反応だったので、それ以上は詳しく述べていない。
2016/02/27投稿:
【コラム】3度目の核被爆を防ぐために
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-345.html
このURLで示した「3つの方法」とは、以下の3点である。
<引用開始>
1)相互破壊確証戦略で以て、自国への核攻撃を防ぐ。
イギリス、フランスが戦略核搭載原潜を運用しているのは、この方法からである。また、インドが対中国で、パキスタンが対インドで核を保有しているのも、この方法を採用しているからである。
2)BMDシステムを構築・保持して弾道ミサイル防御を固める。
現在の我が国は、この方式を採用している数少ない国である。
3)近隣国に核を保有させない、或いは、核使用の兆候があれば、その策源地である対峙国を叩き無力化させる。
イスラエルの事前予防攻撃や1956年2月29日我が国国会答弁での策源地攻撃自衛論がこれである。
<引用終わり>
このうち、国際的に「違法」だとされている例とは、1981年6月7日のイスラエルによるイラク原子力発電所への予防攻撃である。(*8)
国連安保理は、イラクからの苦情申し立てを受けて、6月19日に、国連安保理決議487 (United Nations Security Council resolution 487)にて、イスラエルは非難されることになった。一方、当のイスラエルにとっては「蛙の面にナントカ」状態であり、自国安全保障上必要だったとの姿勢を崩していない。イスラエルの行為は、違法とされる「予防的先制攻撃」に該当し、自衛権として認められている「自衛的先制攻撃ではない」とされたものである。
「予防的先制攻撃」を違法化しないと、どんな屁理屈でも先制攻撃が可能となってしまうとの問題があるので、この考え方自体には正当性がある。
一方、何が「予防的先制攻撃」で何が「自衛的先制攻撃」なのかの明確な基準は、実は存在していない。それ故に明確な「発射されたか」「発射されていないか」とのケース分けで説明されることが多い。しかしながら、先述した様に、発射されてしまえば、弾道ミサイルは、我が国に数分から十数分程度の極めて短い時間で着弾することから、政府見解(*9)では「ミサイルに 燃料を注入し始めて準備行為を始めた」段階から「予防的先制攻撃」に該当しなくなるとしている。
この見解を示したのは2003年(平成15年)1月当時の石破防衛相であるが、その時点では、北朝鮮のミサイルが液体燃料型であり、一定程度の妥当性があったのだが、あれから既に10数年が経過して、北朝鮮の弾道ミサイルは燃料注入作業が不要な固体燃料型になったとみられることから、「準備段階」とは何になるのか、は現時点であらためて議論すべき点である。
当方としては、攻撃の意思を表明している状況下で、「ミサイルが移動車両に搭載された時点」とするのが軍事上は妥当なのではないかと考えている。
イスラエルのイラク原発攻撃に関しては「予防的先制攻撃」だと当時の国際社会からは評価されダメだとされたのが、我が国の場合は、国連安保理から批判される様な先制攻撃を実行するとは考えらない。我が国は法治による世界秩序の維持を国際社会に訴えている立場であり、それと矛盾する行動はとらないからである。
しかし、そればかりを優先していると、「発射されてから」となり、結局は、何人かの日本人が被害にあってからでしか対応が不可能との状態となる。
これでは本末転倒である。
こういう法理、即ち、自衛的先制攻撃は可能だが、早すぎると国際社会が判断した場合には「予防的先制攻撃」だと看做されるリスクがある、そして、遅すぎると国民の生命が脅かされるリスクが増大するとの、現実でのギリギリの線は何処なのか?との議論をすべき状況にあると思うのだが如何だろう?
国会では、民進党等の野党が、火のない所に盛んに煙を立てて騒いでおり、我々日本人の生命に係る問題に関しての議論がまったくなされていない。
こんなことで良いとは思えないのだが、我が国では防衛議論は忌避され、虚偽を含む雑音が蔓延するのが「いつものパターン」である。困ったものだ。
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(*1):国会議事録
昭和31年2月29日・第24回国会内閣委員会・鳩山一郎総理大臣答弁(代読)
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/024/0388/02402290388015a.html
<引用開始>
船田国務大臣:石橋委員の御質問に対しまして、十分総理大臣と話し合いをいたしまして、政府を代表して総理大臣から答弁申し上げることでございますが、ただいま委員長から御報告のありましたような事情でございますので、その答弁の要旨をここに私から申し上げます。
○わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。昨年私が答弁したのは、普通の場合、つまり他に防御の手段があるにもかかわらず、侵略国の領域内の基地をたたくことが防御上便宜であるというだけの場合を予想し、そういう場合に安易にその基地を攻撃するのは、自衛の範囲には入らないだろうという趣旨で申したのであります。この点防衛庁長官と答弁に食い違いはないものと思います。
○以上が政府を代表して、総理大臣からの本問題についての答弁でございます。どうぞよろしく御了承をお願いいたしたいと思います。
<引用終わり>
国会答弁なので、いろいろと述べていることから、文書にすると長いのだが、肝心な部分は次の部分である。
↓
【誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。】
(*2):【策源地への防衛攻撃は可能】なのだが、それを実行する装備はない。
2016/02/29投稿:
【コラム】1956年2月29日国会答弁
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-347.html
(*3):北朝鮮のミサイル発射基地
北朝鮮の弾道ミサイルのノドンミサイル、テポドンミサイルとは、「「蘆洞(ノドン)」から発車されたミサイル」「大浦洞(テポドン)から発射されたミサイル」という意味の通称である。現在の同地北朝鮮での地名は舞水端里(ムスダンニ)なので、ミサイル名「ムスダン」も、そこからきている。
舞水端里(ムスダンニ)=蘆洞(ノドン)及び大浦洞(テポドン)は、日本海側沿岸にあるが、現在の主力ミサイル基地である東倉里(トンチャンニ)は黄海側沿岸の中朝国境付近にある。また、北朝鮮の弾道ミサイルは、従来のサイロ発射型から車両搭載型に進化しており、弾道ミサイル発射可能場所を特定するには、偵察衛星等での不断の監視が必須となっている。
(*4):民主党(当時)枝野の2015年3月3日の国会質疑での発言
2015/03/04投稿:
【コラム】民主党・枝野の国会発言「日本が餓死するまで何もするな」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-42.html
(*5):6ヶ国協議
北朝鮮の核開発問題の解決のための会議。6ヶ国とは、北朝鮮、韓国、アメリカ、日本、中国、ロシア。2003年1月の北朝鮮NPT脱退(2回目)を受け、2003年8月に第1回目協議が開催された。最後は、北朝鮮が最初の核実験をした2006年10月の約半年後の2007年3月に第6回協議が開催されたが、結局は北朝鮮の核開発は続行され、協議目的はまったく達成されなかった。
(*6):北朝鮮の6度目の核実験の兆候
北朝鮮は2005年2月に核兵器保有宣言をし、過去、5回の核実験をしたとされている。
①:2006年10月、②:2009年5月、③:2013年2月、④:2016年1月(北朝鮮は「水爆実験に成功」と発表)、⑤:2016年9月。
そして、現在、6度目の核実験を実施する旨の「報道」がある。
(*7):北朝鮮の弾道ミサイル発射は頻発しており、その総てを記載することは無駄。Wiki検索すれば良い。ここで紹介するのは、今年2017年になってから発射実績である。
・2017年2月12日:弾道ミサイルを黄海側沿岸・東倉里から日本海に向け発射。飛行距離約500km。
・2017年3月6日:弾道ミサイル4発を東倉里から日本海に向けて発射。飛行距離約1000km。
3発が秋田県男鹿半島沖約300kmの我が国EEZ内に着弾。残り1発は石川県能登半島沖約200kmに着弾。朝鮮中央通信は、「在日アメリカ軍を攻撃する部隊がミサイルの発射訓練を行った」と発表。また、新ロケットエンジンの燃焼試験成功も発表している。
(*8):イスラエルのイラク原発予防攻撃
1981年6月7日、イスラエル空軍がイラクの原発を攻撃した。
産油国であるイラクが原子力発電所を建設する目的は、当時、核保有が噂されていたイスラエルへの対抗だとされ、フセイン率いるイラクが核兵器を持つ危険性があるとして、イスラエルは「先制的自衛権行使」を名目にイラクに先制攻撃を行ったもの。
これに対して、国連安保理は、イラクからの苦情申し立てを受けて、6月19日に、国連安保理決議487 (United Nations Security Council resolution 487)にて、イスラエルは非難されることになった。一方、当のイスラエルにとっては「蛙の面にナントカ」状態であり、自国安全保障上必要だったとの姿勢を崩していない。
(*9):2003年(平成15 年)1月24日衆議院予算委員会答弁
<石破茂防衛庁長官(当時)答弁>
「東京を火の海にしてやる灰燼に帰してやると言い、[ミサイルに] 燃料を注入し始めて準備行為を始めた、まさしく[ミサイルが] 屹立したという場合は、[攻撃の] 着手にあたる。
[その状況では] 法理上[ミサイル基地に対して攻撃できること] になる。
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副題:3度目の核被爆を防ぐために2017その2
我が国の防衛問題論議に関しては、虚偽を含む雑音が蔓延するのが「いつものパターン」であることから、表題を話題に入る前に、【我が国が「先制的自衛権」を持つ】ことを先ず、明示しておきたい。
我が国は「先制的自衛権」として「誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まる」(自衛的先制攻撃は自衛権の範疇)との政府見解が61年前の1956年2月29日に出され、それが現在も有効であり、【策源地への防衛攻撃は可能】なのである。
この政府見解は、「【文末脚注】(*1)」に一次資料である当該答弁の国会議事録のURL及び、その部分の抜粋を掲示しているので、それで確認いただきたい。
【我が国が「先制的自衛権」を持つ】ことに関して議論の余地はないのである。
この事を平易に言えば「弾道ミサイルが我が国に着弾した後じゃないと防衛できない」などという話は、まともな防衛議論を阻害する目的の雑音でしかない、ということだ。
そして、こういう雑音を発する側の特徴は、「日本人の生命を護る」との根本の視点が欠落していることだ。
同様、現実問題として、弾道ミサイルが我が国近隣国から発車された場合、数分から十数分程度の極めて短い時間で我が国に着弾するのだから、雑音側が発する「ミサイルが発射される前の敵基地攻撃は違法」なる言説も、「日本人の生命を護る」との根本の視点が欠落している雑音なのである。
この様な政府見解があり、法理的には「可能」なのだが、では、それを実行できる能力が我が国にあるのか、というと我が国の防衛装備では事実上不可能なのである。(*2)
我が国が持つ戦闘機や潜水艦から発射する対地ミサイルの射程距離は、約200km程度しかなく、北朝鮮のミサイル基地の200km以内に近寄らないと対地ミサイルは届かないのである。そこまで近接する軍事行動を自衛隊に要求することは、自衛隊の飛行機や潜水艦が帰還出来ないリスクが高く、作戦としても非現実的であり、事実上実行は不可能なのである。
北朝鮮のミサイル基地が日本海側にあれば、もの凄く低い確率で理屈上の作戦は可能かもしれないが、今般の秋田県沖EEZ内に着弾した4発同時発射ミサイルが発射されたのは、黄海側の中朝国境近くであり、そこへの近接は中国の存在からも不可能事である。(*3)
この様な初期的認識に基づき、副題である「3度目の核被爆を防ぐために」我々一般国民は、どの様な視点を、現段階で持っていることが望ましいのかを考察したのが本論評である。
「憲法違反をするぐらいなら核被爆して死んでも良い」などという特殊な性癖を、我々日本国民の大多数が持っているとは考えていない。少なくとも、当方は、そんな特殊なマゾヒズムなんぞ、まっぴらごめん、オ・コ・ト・ワ・リである。
ところが、民進党(民主党からの党名変更政党で民主党そのもの)の枝野などは、憲法規定に則り、防衛活動は日本人が餓死した後にやるべきだと国会質疑で発言しているのである。(*4)
本論評では、この様な「雑音」を考慮対象にすること自体が「日本人の命を蔑ろにする行為」だと考えている。
さて、テーマである「3度目の核被爆を防ぐために」を現実化する為の手段として、我が国は外交を真っ先に選択している。
ところが、北朝鮮に関しては、6か国協議(*5)との「場」での交渉を通じて努力をしてきたのだが、結局は無力であり、北朝鮮は2003年8月から始まった6ヶ国協議との「場」を「時間稼ぎ」に利用しただけで、2006年10月には最初の核実験を実施している。その約半年後の2007年3月の第6回協議を最後に6ヶ国協議は開催されていない。
6ヶ国協議が開催されなくなって以降も、我が国は、声名や国連等を通じて北朝鮮に対して、我が国近隣への弾道ミサイル発射及び核実験をやめる様に働きかけているが、北朝鮮がやめる訳もなく、今や6回目の核実験(*6)の兆候があり、弾道ミサイルの発射は、つい10日程前に行われ、今も続いている。(*7)
北朝鮮の核開発が顕在化したのは、今から約25年前のことである。
北朝鮮が最初にNPT脱退を表明したのは1993年3月のことであり、翌年の1994年5月には、黒鉛減速炉からの核燃料棒抜き取りに着手し、この様な違反行為に対してIAEAが実施した対北朝鮮制裁に「反発」するとの名目で北朝鮮はIAEAからの脱退も表明する事態となった。
これを受け、その年1994年の6月に米国民主党大統領ビル・クリントンは、事態収拾の特使として同民主党元大統領ジミー・カーターを北朝鮮に送り、金日成との会談を行った。
この会談で北朝鮮はNPT脱退の発効を一時中断したが、その見返りに米国は北朝鮮に、1)原爆の材料となる核物質生成が抑制される軽水炉を提供する(実施は米国ではなく、日米韓の3ヶ国出資のKEDOが実施)、2)軽水炉完成までの間、年間50万トンの重油を北朝鮮に供与するとした。
しかしながら、カーター・金日成会談(1994年6月15日)の直後の7月8日に金日成は何故か急死し、北朝鮮は、見返りである重油供給を「美味しくいただき」ながら、結局はウラン濃縮などの核開発を進めていたのであった。
どうやら、朝鮮半島では「国家間の約束」との概念はない様で、「約束をした人」がいなくなれば、「国家間の約束」は反故にされるのが「普通」だと考えている様だ。
北朝鮮の協約違反に対して、KEDO軽水炉の建設が中止になり、重油の供給も中止になったのだが、それまでで一息ついた北朝鮮は、2005年2月に核兵器保有宣言をし、その後、2017年の現在に至る迄に5回の核実験と何回もの弾道ミサイル発射を続けている。
要するに、外交努力だけでは、北朝鮮は核開発を中止しないことが明らかになっているのである。
約25年前から顕在化した「北朝鮮の核問題」は外交では阻止出来なかったというのが歴史的事実である。
そういう事実からすれば、今になって「外交努力を」と言ってしまう人物は、事実認識が出来ていない愚鈍か、或いは、意図的に外交努力以外の方策の存在を国民に認知させたくない人物であると類推される。
その様な人物は、前述した「雑音」を発する「日本人の命を蔑ろにする行為」をしてしまう人物と同類なのである。
それでは、いったい何を以て、「3度目の核被爆を防ぎ」「我々日本人の生命を護る」のか?
答えは、既に昨年2月に以下のコラムにて言及済である。とは言え、以下のURLで示した「3つの方法」は、純軍事的なもので、そのうちの1つは国際的に「違法」だとされている例が含まれている。これは、議論をする過程で論じる対象としたかったのだが、当時は無反応だったので、それ以上は詳しく述べていない。
2016/02/27投稿:
【コラム】3度目の核被爆を防ぐために
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-345.html
このURLで示した「3つの方法」とは、以下の3点である。
<引用開始>
1)相互破壊確証戦略で以て、自国への核攻撃を防ぐ。
イギリス、フランスが戦略核搭載原潜を運用しているのは、この方法からである。また、インドが対中国で、パキスタンが対インドで核を保有しているのも、この方法を採用しているからである。
2)BMDシステムを構築・保持して弾道ミサイル防御を固める。
現在の我が国は、この方式を採用している数少ない国である。
3)近隣国に核を保有させない、或いは、核使用の兆候があれば、その策源地である対峙国を叩き無力化させる。
イスラエルの事前予防攻撃や1956年2月29日我が国国会答弁での策源地攻撃自衛論がこれである。
<引用終わり>
このうち、国際的に「違法」だとされている例とは、1981年6月7日のイスラエルによるイラク原子力発電所への予防攻撃である。(*8)
国連安保理は、イラクからの苦情申し立てを受けて、6月19日に、国連安保理決議487 (United Nations Security Council resolution 487)にて、イスラエルは非難されることになった。一方、当のイスラエルにとっては「蛙の面にナントカ」状態であり、自国安全保障上必要だったとの姿勢を崩していない。イスラエルの行為は、違法とされる「予防的先制攻撃」に該当し、自衛権として認められている「自衛的先制攻撃ではない」とされたものである。
「予防的先制攻撃」を違法化しないと、どんな屁理屈でも先制攻撃が可能となってしまうとの問題があるので、この考え方自体には正当性がある。
一方、何が「予防的先制攻撃」で何が「自衛的先制攻撃」なのかの明確な基準は、実は存在していない。それ故に明確な「発射されたか」「発射されていないか」とのケース分けで説明されることが多い。しかしながら、先述した様に、発射されてしまえば、弾道ミサイルは、我が国に数分から十数分程度の極めて短い時間で着弾することから、政府見解(*9)では「ミサイルに 燃料を注入し始めて準備行為を始めた」段階から「予防的先制攻撃」に該当しなくなるとしている。
この見解を示したのは2003年(平成15年)1月当時の石破防衛相であるが、その時点では、北朝鮮のミサイルが液体燃料型であり、一定程度の妥当性があったのだが、あれから既に10数年が経過して、北朝鮮の弾道ミサイルは燃料注入作業が不要な固体燃料型になったとみられることから、「準備段階」とは何になるのか、は現時点であらためて議論すべき点である。
当方としては、攻撃の意思を表明している状況下で、「ミサイルが移動車両に搭載された時点」とするのが軍事上は妥当なのではないかと考えている。
イスラエルのイラク原発攻撃に関しては「予防的先制攻撃」だと当時の国際社会からは評価されダメだとされたのが、我が国の場合は、国連安保理から批判される様な先制攻撃を実行するとは考えらない。我が国は法治による世界秩序の維持を国際社会に訴えている立場であり、それと矛盾する行動はとらないからである。
しかし、そればかりを優先していると、「発射されてから」となり、結局は、何人かの日本人が被害にあってからでしか対応が不可能との状態となる。
これでは本末転倒である。
こういう法理、即ち、自衛的先制攻撃は可能だが、早すぎると国際社会が判断した場合には「予防的先制攻撃」だと看做されるリスクがある、そして、遅すぎると国民の生命が脅かされるリスクが増大するとの、現実でのギリギリの線は何処なのか?との議論をすべき状況にあると思うのだが如何だろう?
国会では、民進党等の野党が、火のない所に盛んに煙を立てて騒いでおり、我々日本人の生命に係る問題に関しての議論がまったくなされていない。
こんなことで良いとは思えないのだが、我が国では防衛議論は忌避され、虚偽を含む雑音が蔓延するのが「いつものパターン」である。困ったものだ。



(*1):国会議事録
昭和31年2月29日・第24回国会内閣委員会・鳩山一郎総理大臣答弁(代読)
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/024/0388/02402290388015a.html
<引用開始>
船田国務大臣:石橋委員の御質問に対しまして、十分総理大臣と話し合いをいたしまして、政府を代表して総理大臣から答弁申し上げることでございますが、ただいま委員長から御報告のありましたような事情でございますので、その答弁の要旨をここに私から申し上げます。
○わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。昨年私が答弁したのは、普通の場合、つまり他に防御の手段があるにもかかわらず、侵略国の領域内の基地をたたくことが防御上便宜であるというだけの場合を予想し、そういう場合に安易にその基地を攻撃するのは、自衛の範囲には入らないだろうという趣旨で申したのであります。この点防衛庁長官と答弁に食い違いはないものと思います。
○以上が政府を代表して、総理大臣からの本問題についての答弁でございます。どうぞよろしく御了承をお願いいたしたいと思います。
<引用終わり>
国会答弁なので、いろいろと述べていることから、文書にすると長いのだが、肝心な部分は次の部分である。
↓
【誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。】
(*2):【策源地への防衛攻撃は可能】なのだが、それを実行する装備はない。
2016/02/29投稿:
【コラム】1956年2月29日国会答弁
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-347.html
(*3):北朝鮮のミサイル発射基地
北朝鮮の弾道ミサイルのノドンミサイル、テポドンミサイルとは、「「蘆洞(ノドン)」から発車されたミサイル」「大浦洞(テポドン)から発射されたミサイル」という意味の通称である。現在の同地北朝鮮での地名は舞水端里(ムスダンニ)なので、ミサイル名「ムスダン」も、そこからきている。
舞水端里(ムスダンニ)=蘆洞(ノドン)及び大浦洞(テポドン)は、日本海側沿岸にあるが、現在の主力ミサイル基地である東倉里(トンチャンニ)は黄海側沿岸の中朝国境付近にある。また、北朝鮮の弾道ミサイルは、従来のサイロ発射型から車両搭載型に進化しており、弾道ミサイル発射可能場所を特定するには、偵察衛星等での不断の監視が必須となっている。
(*4):民主党(当時)枝野の2015年3月3日の国会質疑での発言
2015/03/04投稿:
【コラム】民主党・枝野の国会発言「日本が餓死するまで何もするな」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-42.html
(*5):6ヶ国協議
北朝鮮の核開発問題の解決のための会議。6ヶ国とは、北朝鮮、韓国、アメリカ、日本、中国、ロシア。2003年1月の北朝鮮NPT脱退(2回目)を受け、2003年8月に第1回目協議が開催された。最後は、北朝鮮が最初の核実験をした2006年10月の約半年後の2007年3月に第6回協議が開催されたが、結局は北朝鮮の核開発は続行され、協議目的はまったく達成されなかった。
(*6):北朝鮮の6度目の核実験の兆候
北朝鮮は2005年2月に核兵器保有宣言をし、過去、5回の核実験をしたとされている。
①:2006年10月、②:2009年5月、③:2013年2月、④:2016年1月(北朝鮮は「水爆実験に成功」と発表)、⑤:2016年9月。
そして、現在、6度目の核実験を実施する旨の「報道」がある。
(*7):北朝鮮の弾道ミサイル発射は頻発しており、その総てを記載することは無駄。Wiki検索すれば良い。ここで紹介するのは、今年2017年になってから発射実績である。
・2017年2月12日:弾道ミサイルを黄海側沿岸・東倉里から日本海に向け発射。飛行距離約500km。
・2017年3月6日:弾道ミサイル4発を東倉里から日本海に向けて発射。飛行距離約1000km。
3発が秋田県男鹿半島沖約300kmの我が国EEZ内に着弾。残り1発は石川県能登半島沖約200kmに着弾。朝鮮中央通信は、「在日アメリカ軍を攻撃する部隊がミサイルの発射訓練を行った」と発表。また、新ロケットエンジンの燃焼試験成功も発表している。
(*8):イスラエルのイラク原発予防攻撃
1981年6月7日、イスラエル空軍がイラクの原発を攻撃した。
産油国であるイラクが原子力発電所を建設する目的は、当時、核保有が噂されていたイスラエルへの対抗だとされ、フセイン率いるイラクが核兵器を持つ危険性があるとして、イスラエルは「先制的自衛権行使」を名目にイラクに先制攻撃を行ったもの。
これに対して、国連安保理は、イラクからの苦情申し立てを受けて、6月19日に、国連安保理決議487 (United Nations Security Council resolution 487)にて、イスラエルは非難されることになった。一方、当のイスラエルにとっては「蛙の面にナントカ」状態であり、自国安全保障上必要だったとの姿勢を崩していない。
(*9):2003年(平成15 年)1月24日衆議院予算委員会答弁
<石破茂防衛庁長官(当時)答弁>
「東京を火の海にしてやる灰燼に帰してやると言い、[ミサイルに] 燃料を注入し始めて準備行為を始めた、まさしく[ミサイルが] 屹立したという場合は、[攻撃の] 着手にあたる。
[その状況では] 法理上[ミサイル基地に対して攻撃できること] になる。



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