戦後我が国の国防方針6
- 2016/07/14
- 20:03
戦後我が国の国防方針6

統帥権・軍事・防衛その8<「国家安全保障戦略」を読む3>
タグ「憲法研究」にて続けている、統帥権・軍事・防衛に関する論評の8回目である。
前々回からは2013年12月17日に新たに閣議決定された指針である「国家安全保障戦略」についての論評をしている。「国家安全保障戦略」については、文書量が多量になることから、全文の引用・論評はしておらず、部分抜粋引用にて論評していることを予めご承知置き願いたい。
本論評は、憲法草案の「統帥権・軍事・防衛」に関する論評で、タグ【α版検証】で進めている【日本国憲法改正私案α版】に対する自己検証の中で「統帥権」の部分(自民党案・第72条「内閣総理は、大臣の職務」=私案α版・第80条「内閣総理大臣の職務」)に関する考察を深めることが目的の論評・考察である。
今回は、2013年「国家安全保障戦略」のⅣ「我が国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチ」の部分へ論評を進める。このⅣの部分が本戦略の主要部分である。
Ⅳ「我が国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチ」
ここでは短い前文式の概括があり、その次に中項目がならんでいる。
ローマ数字で表される大項目の次の階層には、アラビア数字で表される中項目があり、その下にまる括弧数字で表される個別項目があるとの構成は前項と同じであるが、前文式の概括で述べられていることは、今までのまとめ的にうまく書かれているので、先ず、それを全文引用する。
<引用開始>
○国家安全保障の確保のためには、まず我が国自身の能力とそれを発揮し得る基盤を強化するとともに、自らが果たすべき役割を着実に果たしつつ、状況の変化に応じ、自身の能力を適応させていくことが必要である。
○経済力及び技術力の強化に加え、外交力、防衛力等を強化し、国家安全保障上の我が国の強靭性を高めることは、アジア太平賞地域を始めとする国際社会の平和と安定につながるものである。これは、本戦略的アプローチの中核をなす。
○また、国家安全保障上の課題を克服し、目標を達成するためには、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、日米同盟を基軸としつつ、各国との協調関係を拡大・進化させるとともに、我が国が有する多様な資源を有効に活用し、総合的な施策を推進する必要がある。
○こうした観点から、外交政策及びのウエイ政策を中心とした我が国がとるべき戦略的アプローチを以下のとおり示す。
<引用終わり>
次に、中項目を掲げる。
1.我が国の能力・役割の強化・拡大
2.日米同盟の強化
3.国際社会の平和と安定のためのパートナーとの外交・安全の強化
4.国際社会の平和と安定のための国際的努力への積極的関与
5.地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力の強化
6.国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進
国際関係、パワーバランス、我が国の本当の姿、歴史・文化をご存じの方なら、この中項目の表題を見ただけで納得してしまう様な語句が並んでいることがわかるだろう。
先ず、「1.我が国の能力・役割の強化・拡大」と自身がやるべきこと、自身が今出来ることを掲げている。そして、「憲法の制約」との長年にわたる神学論争の結果、不充分な盾と皆無に近い矛しかない我が国防衛装備を補完し、普遍的価値観を共有するパートナーと戦略的に位置付けている米国との関係強化を「2.日米同盟の強化」で掲げ、それを基礎としている。
更に、国際社会の平和と安定を目的に、3.で「パートナーとの外交・安全の強化」を掲げ、4.で「国際的努力への積極的関与」を掲げている。
従来は、自国防衛のみが考慮対象であり、「国際社会の平和と安全」に関しては「憲法9条」を免罪符にホッカムリをして引き篭っていたのが我が国であるが、それでは国際安全保障のフリーライダーであり、その様な状態を続けていては、何時しか我が国を守る同盟を結べる相手国がいなくなるリスクがある。
その上で、「5.地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力の強化」との理念外交の方向性と「6.国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進」との我々国民側の理解が自国を守る為に必須だとしている。
しっかりとした芯を置き、それを広げる様に充実させる方向性が見てとれる。
それでは、各中項目の個別項目を見ながら読解を続けたい。
1.我が国の能力・役割の強化・拡大
(1)安定した国際環境創出のための外交強化
(2)我が国を守り抜く総合的な防衛体制の構築
(3)領域保全に関する取組の強化
(4)海洋安全保障の確保
(5)サイバーセキュリティーの強化
(6)国際テロ対策の強化
(7)情報機能の強化
(8)防衛装備・技術協力
(9)宇宙空間の安定的利用の確保及び安全保障分野での活用の推進
(10)技術力の強化
最初の1.は「自身がやるべきこと、自身が今出来ること」である。
その最初に「(1)安定した国際環境創出のための外交強化」と外交を掲げ、次に「(2)我が国を守り抜く総合的な防衛体制の構築」を掲げている。
実に真っ当な順番である。
国家安全保障の話をし始めると、直ぐに軍事の話になるのが通例だが、今回の「国家安全保障「戦略」」は戦略なのだから、先に外交、次に防衛・軍事との順番になっている。
戦争論の冒頭に「戦争とは相手にわが意志を強要するために行う力の行使である」と定義されているが、いきなり戦争に至るのではなく、その前段階で相手との外交があるのだから、この順番は当然のことであると解される。
「(1)安定した国際環境創出のための外交強化」の部分で出てくるキーワードを拾えば「脅威の出現を未然に防ぐ」「国際協調主義に基づく積極的平和主義」「我が国にとって望ましい国際秩序や安全保障環境」等が出てくる。
そして、「国際社会の潮流を分析する力がまず必要である」「受け身の対応ではなく」「国際社会の課題を主導的に設定」「能動的に我が国の国益を増進」との方針が書かれている。
これはリットン調査団が派遣されるに至る外交的エラーに対する反省からのものと解している。
その上で「我が国や我が国国民の有する様々な力や特性を効果的に活用し」「我が国の立場への支持を集める外交的な創造力及び交渉力が必要」とし、「ソフトパワーの強化」を掲げている。
最後に「外交の強化は、国家安全保障の確保を実現するために不可欠である。」と結んでおり、平和的・常識的な方針となっている。
いったい、これの何処が「アベは戦争をしたがっている」になってしてしまうのか?
次の「(2)我が国を守り抜く総合的な防衛体制の構築」で出てくるキーワードを拾う。
「国家安全保障の最終的な担保となるのが防衛力」「実効性の高い統合的な防衛力を効率に整備」「武力攻撃事態等から大規模自然災害に至るあらゆる事態にシームレスに対応」「各種事態の抑止・対処のための体制強化」。
これらキーワードもMOOTWを含む軍事組織の活動としては当たり前かつ妥当なものだ。
我が国だけが他国から劣後するとの歪んだ発想、即ち、「日本の防衛力は不十分なものにすべし・その際の日本人の安全平和は関係ない」との歪んだ発想とは違い、日本人の生命を守り、日本人の安全平和を守る為には当然のことが並んでいる。
この個別項目の最後の部分は、核抑止に関して以下の様に書かれている。
「核兵器に脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために、米国と緊密に連携していくとともに、併せて弾道ミサイル防衛や国民保護を含む我が国自身の取組により適切に対応する。」
核抑止力の方針とBMD及び在外邦人保護を含む国民保護の強化が挙げられていると解される。
これらの基本に続き、個別項目は、上記の(3)以降から、より具体的な事象毎の方針が掲げられている。内容は上記した個別項目の表題通りであった。
特徴的なのは、従来の「国防」とのくくりでは個別項目としては意識されてこなかった(8)防衛装備・技術協力、(9)宇宙空間の安定的利用の確保及び安全保障分野での活用の推進
(10)技術力の強化等が出てくるのが興味深い。
中項目2番目の「2.日米同盟の強化」の個別項目は以下の通りである。
(0)前文式概括
(1)幅広い分野における日米間の安全保障・防衛協力の更なる強化
(2)安定的な米軍プレゼンスの確保
最初に前文式の概括があるが、これは重要な部分であり、1ページ以上のスペースをとり記述されているのだが、言っていることは1つだけである。
「日米同盟を国家安全保障戦略の大きな柱の1つとする」とだけ書いてある。
これは現実的な選択である。
・非同盟自主防衛を選択するのが現実的か?
・世界200カ国の中で、何処の国と同盟するのが一番良いのか?
上記2つの質問に、実際の現実世界を踏まえて本気で回答をするのなら、米国との同盟を維持するのが、現状に於いて、日本人の平和と安全上、もっとも有益な選択であると当方も考えており、特に異論はない部分である。
「日米同盟を国家安全保障戦略の大きな柱の1つとする」と聞けば、「1957年・国防の基本方針と同じじゃないか」と反応する方が出てくるだろうが、それは早計と言うものだ。
ぶっちゃけて言えば、1957年版での日米同盟主軸論は、以下で読解・分析した様に、米軍が日本列島に到着する迄、中枢部占領を防ぐだけの盾の役割しか出来ないで、それ以外の反撃等に関しては総て米軍頼りとのものだった。
2016/04/17投稿:
戦後我が国の国防方針2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-387.html
2016/06/15投稿:
戦後我が国の国防方針3
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-435.html
一方、2013年・国家安全保障戦略で日米同盟主軸論は、核抑止力は米軍頼りのままであるが、米軍到着後は総て米軍任せとの姿勢からは脱却している。
とは言え、我が国国民の生命を守る為には、侵攻してくる国の策源地の無効化が絶対的に必要なのだが、憲法9条の制約で、反撃に関しての明示はない。
昭和31年2月29日国会答弁で「自衛的先制攻撃」は現行憲法でも可能との政府見解が出されているので、憲法解釈問題としては、問題化しないはずなのだが、自衛行為であっても「反撃」との文言までは踏み込めなかったのだと解している。
しかし、「戦争の最終目的は防御では達成できない。攻撃のないところには勝利はないからだ。防者が滅亡を免れようと思えば、防御によって得た勝利を活用して、反攻に出なくてはならない」とクラウゼヴィッツは言っている。矛を他国に委ね、自国民が生命のリスクにさらされる体制が戦後ずっと続いてきたのである。現行憲法の前文+第9条の宿痾そのものである。
やはり、現行憲法では、これが限界なのであろうか。
中項目の3番目は「3.国際社会の平和と安定のためのパートナーとの外交・安全の強化」であるが、この項目の個別項目は表題形式ではなく、文書形式となっている。
この文書形式の個別項目は、国名や地域名が並んでいるので、以下に各個別項目に登場する国名及び地域名等を紹介する。
(0)前文式概括
(1)韓国、オーストラリア、ASEAN諸国及びインド
(2)中国との関係(問題あるとの文脈で登場)
(3)北朝鮮問題
(4)東アジア地域の安全保障環境
(5)国際関係(APEC,EAS,ASEAN+3,ARF,拡大ASEAN国防相会議etc.)
(6)その他の国々(モンゴル、中央アジア諸国、南西アジア諸国、南米諸国etc.)
(7)国際社会の平和と安定・アジア太平洋地域外の諸国、
前述した様に、外交の強化がイの一番で掲げられているが、この部分は、その国別・地域別他の方針が書かれている。ここは、その内容よりも、我が国の「国家安全保障戦略」に具体的国名を出して「日本はこの様に貴国を重要視していますよ」と表明することに意義がある様に思われる。また、表題に現れていない国家名(例えばブラジル)も文章内に幾つも登場する。
4番目及び5番目の中項目の個別項目は以下のとおりである。個別の項目を列挙している部分である。4番目は主として国連を軸足にした構成であるが、5番目の個別項目名を見てもらえばわかる通り、先述した項目の詳細を繰り返すことになっている部分である。
尚、常任理事国入り・国連改革は4の(1)の中で明示されている。
4.国際社会の平和と安定のための国際的努力への積極的関与
(0)前文式概括
(1)国連外交の強化
(2)法の支配の強化
(3)軍縮・不拡散に係る国際努力の主導
(4)国際平和協力の推進
(5)国際テロ対策における国際協力の推進
5.地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力の強化
(0)前文式概括
(1)普遍的価値観の共有
(2)開発問題及び地球規模課題への対応と「人間の安全保障」の実現
(3)開発途上国の人材育成に対する協力
(4)自由貿易体制の維持・強化
(5)エネルギー・環境問題への対応
(6)人と人との交流の強化
最後の6番目は「6.国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進」との「国内問題」に関しての部分である。国内問題の中心は、実は「国民の理解」である。
そのことは、個別項目の最初に「(0)前文式概括」にて明示されている。
<(0)前文式概括引用開始>
国家安全保障を十全に確保するためには、外交力及び防衛力を中心とする能力の強化に加え、これらの能力が効果的に発揮されることを支える国内基盤を整備することが不可欠である。また、国家安全保障を達成するためには、国家安全保障政策に対する国際社会や国民の広範な理解を得ることが極めて重要であるとの観点をも踏まえ、以下の取り組みを進める。
<引用終わり>
「以下の取り組み」である個別項目は次の4項目である。
(1)防衛生産・技術基盤の維持・強化
(2)情報発信の強化
(3)社会的基盤の強化
(4)知的基盤の強化
<長くなったので項を分けます>
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統帥権・軍事・防衛その8<「国家安全保障戦略」を読む3>
タグ「憲法研究」にて続けている、統帥権・軍事・防衛に関する論評の8回目である。
前々回からは2013年12月17日に新たに閣議決定された指針である「国家安全保障戦略」についての論評をしている。「国家安全保障戦略」については、文書量が多量になることから、全文の引用・論評はしておらず、部分抜粋引用にて論評していることを予めご承知置き願いたい。
本論評は、憲法草案の「統帥権・軍事・防衛」に関する論評で、タグ【α版検証】で進めている【日本国憲法改正私案α版】に対する自己検証の中で「統帥権」の部分(自民党案・第72条「内閣総理は、大臣の職務」=私案α版・第80条「内閣総理大臣の職務」)に関する考察を深めることが目的の論評・考察である。
今回は、2013年「国家安全保障戦略」のⅣ「我が国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチ」の部分へ論評を進める。このⅣの部分が本戦略の主要部分である。
Ⅳ「我が国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチ」
ここでは短い前文式の概括があり、その次に中項目がならんでいる。
ローマ数字で表される大項目の次の階層には、アラビア数字で表される中項目があり、その下にまる括弧数字で表される個別項目があるとの構成は前項と同じであるが、前文式の概括で述べられていることは、今までのまとめ的にうまく書かれているので、先ず、それを全文引用する。
<引用開始>
○国家安全保障の確保のためには、まず我が国自身の能力とそれを発揮し得る基盤を強化するとともに、自らが果たすべき役割を着実に果たしつつ、状況の変化に応じ、自身の能力を適応させていくことが必要である。
○経済力及び技術力の強化に加え、外交力、防衛力等を強化し、国家安全保障上の我が国の強靭性を高めることは、アジア太平賞地域を始めとする国際社会の平和と安定につながるものである。これは、本戦略的アプローチの中核をなす。
○また、国家安全保障上の課題を克服し、目標を達成するためには、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、日米同盟を基軸としつつ、各国との協調関係を拡大・進化させるとともに、我が国が有する多様な資源を有効に活用し、総合的な施策を推進する必要がある。
○こうした観点から、外交政策及びのウエイ政策を中心とした我が国がとるべき戦略的アプローチを以下のとおり示す。
<引用終わり>
次に、中項目を掲げる。
1.我が国の能力・役割の強化・拡大
2.日米同盟の強化
3.国際社会の平和と安定のためのパートナーとの外交・安全の強化
4.国際社会の平和と安定のための国際的努力への積極的関与
5.地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力の強化
6.国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進
国際関係、パワーバランス、我が国の本当の姿、歴史・文化をご存じの方なら、この中項目の表題を見ただけで納得してしまう様な語句が並んでいることがわかるだろう。
先ず、「1.我が国の能力・役割の強化・拡大」と自身がやるべきこと、自身が今出来ることを掲げている。そして、「憲法の制約」との長年にわたる神学論争の結果、不充分な盾と皆無に近い矛しかない我が国防衛装備を補完し、普遍的価値観を共有するパートナーと戦略的に位置付けている米国との関係強化を「2.日米同盟の強化」で掲げ、それを基礎としている。
更に、国際社会の平和と安定を目的に、3.で「パートナーとの外交・安全の強化」を掲げ、4.で「国際的努力への積極的関与」を掲げている。
従来は、自国防衛のみが考慮対象であり、「国際社会の平和と安全」に関しては「憲法9条」を免罪符にホッカムリをして引き篭っていたのが我が国であるが、それでは国際安全保障のフリーライダーであり、その様な状態を続けていては、何時しか我が国を守る同盟を結べる相手国がいなくなるリスクがある。
その上で、「5.地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力の強化」との理念外交の方向性と「6.国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進」との我々国民側の理解が自国を守る為に必須だとしている。
しっかりとした芯を置き、それを広げる様に充実させる方向性が見てとれる。
それでは、各中項目の個別項目を見ながら読解を続けたい。
1.我が国の能力・役割の強化・拡大
(1)安定した国際環境創出のための外交強化
(2)我が国を守り抜く総合的な防衛体制の構築
(3)領域保全に関する取組の強化
(4)海洋安全保障の確保
(5)サイバーセキュリティーの強化
(6)国際テロ対策の強化
(7)情報機能の強化
(8)防衛装備・技術協力
(9)宇宙空間の安定的利用の確保及び安全保障分野での活用の推進
(10)技術力の強化
最初の1.は「自身がやるべきこと、自身が今出来ること」である。
その最初に「(1)安定した国際環境創出のための外交強化」と外交を掲げ、次に「(2)我が国を守り抜く総合的な防衛体制の構築」を掲げている。
実に真っ当な順番である。
国家安全保障の話をし始めると、直ぐに軍事の話になるのが通例だが、今回の「国家安全保障「戦略」」は戦略なのだから、先に外交、次に防衛・軍事との順番になっている。
戦争論の冒頭に「戦争とは相手にわが意志を強要するために行う力の行使である」と定義されているが、いきなり戦争に至るのではなく、その前段階で相手との外交があるのだから、この順番は当然のことであると解される。
「(1)安定した国際環境創出のための外交強化」の部分で出てくるキーワードを拾えば「脅威の出現を未然に防ぐ」「国際協調主義に基づく積極的平和主義」「我が国にとって望ましい国際秩序や安全保障環境」等が出てくる。
そして、「国際社会の潮流を分析する力がまず必要である」「受け身の対応ではなく」「国際社会の課題を主導的に設定」「能動的に我が国の国益を増進」との方針が書かれている。
これはリットン調査団が派遣されるに至る外交的エラーに対する反省からのものと解している。
その上で「我が国や我が国国民の有する様々な力や特性を効果的に活用し」「我が国の立場への支持を集める外交的な創造力及び交渉力が必要」とし、「ソフトパワーの強化」を掲げている。
最後に「外交の強化は、国家安全保障の確保を実現するために不可欠である。」と結んでおり、平和的・常識的な方針となっている。
いったい、これの何処が「アベは戦争をしたがっている」になってしてしまうのか?
次の「(2)我が国を守り抜く総合的な防衛体制の構築」で出てくるキーワードを拾う。
「国家安全保障の最終的な担保となるのが防衛力」「実効性の高い統合的な防衛力を効率に整備」「武力攻撃事態等から大規模自然災害に至るあらゆる事態にシームレスに対応」「各種事態の抑止・対処のための体制強化」。
これらキーワードもMOOTWを含む軍事組織の活動としては当たり前かつ妥当なものだ。
我が国だけが他国から劣後するとの歪んだ発想、即ち、「日本の防衛力は不十分なものにすべし・その際の日本人の安全平和は関係ない」との歪んだ発想とは違い、日本人の生命を守り、日本人の安全平和を守る為には当然のことが並んでいる。
この個別項目の最後の部分は、核抑止に関して以下の様に書かれている。
「核兵器に脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために、米国と緊密に連携していくとともに、併せて弾道ミサイル防衛や国民保護を含む我が国自身の取組により適切に対応する。」
核抑止力の方針とBMD及び在外邦人保護を含む国民保護の強化が挙げられていると解される。
これらの基本に続き、個別項目は、上記の(3)以降から、より具体的な事象毎の方針が掲げられている。内容は上記した個別項目の表題通りであった。
特徴的なのは、従来の「国防」とのくくりでは個別項目としては意識されてこなかった(8)防衛装備・技術協力、(9)宇宙空間の安定的利用の確保及び安全保障分野での活用の推進
(10)技術力の強化等が出てくるのが興味深い。
中項目2番目の「2.日米同盟の強化」の個別項目は以下の通りである。
(0)前文式概括
(1)幅広い分野における日米間の安全保障・防衛協力の更なる強化
(2)安定的な米軍プレゼンスの確保
最初に前文式の概括があるが、これは重要な部分であり、1ページ以上のスペースをとり記述されているのだが、言っていることは1つだけである。
「日米同盟を国家安全保障戦略の大きな柱の1つとする」とだけ書いてある。
これは現実的な選択である。
・非同盟自主防衛を選択するのが現実的か?
・世界200カ国の中で、何処の国と同盟するのが一番良いのか?
上記2つの質問に、実際の現実世界を踏まえて本気で回答をするのなら、米国との同盟を維持するのが、現状に於いて、日本人の平和と安全上、もっとも有益な選択であると当方も考えており、特に異論はない部分である。
「日米同盟を国家安全保障戦略の大きな柱の1つとする」と聞けば、「1957年・国防の基本方針と同じじゃないか」と反応する方が出てくるだろうが、それは早計と言うものだ。
ぶっちゃけて言えば、1957年版での日米同盟主軸論は、以下で読解・分析した様に、米軍が日本列島に到着する迄、中枢部占領を防ぐだけの盾の役割しか出来ないで、それ以外の反撃等に関しては総て米軍頼りとのものだった。
2016/04/17投稿:
戦後我が国の国防方針2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-387.html
2016/06/15投稿:
戦後我が国の国防方針3
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-435.html
一方、2013年・国家安全保障戦略で日米同盟主軸論は、核抑止力は米軍頼りのままであるが、米軍到着後は総て米軍任せとの姿勢からは脱却している。
とは言え、我が国国民の生命を守る為には、侵攻してくる国の策源地の無効化が絶対的に必要なのだが、憲法9条の制約で、反撃に関しての明示はない。
昭和31年2月29日国会答弁で「自衛的先制攻撃」は現行憲法でも可能との政府見解が出されているので、憲法解釈問題としては、問題化しないはずなのだが、自衛行為であっても「反撃」との文言までは踏み込めなかったのだと解している。
しかし、「戦争の最終目的は防御では達成できない。攻撃のないところには勝利はないからだ。防者が滅亡を免れようと思えば、防御によって得た勝利を活用して、反攻に出なくてはならない」とクラウゼヴィッツは言っている。矛を他国に委ね、自国民が生命のリスクにさらされる体制が戦後ずっと続いてきたのである。現行憲法の前文+第9条の宿痾そのものである。
やはり、現行憲法では、これが限界なのであろうか。
中項目の3番目は「3.国際社会の平和と安定のためのパートナーとの外交・安全の強化」であるが、この項目の個別項目は表題形式ではなく、文書形式となっている。
この文書形式の個別項目は、国名や地域名が並んでいるので、以下に各個別項目に登場する国名及び地域名等を紹介する。
(0)前文式概括
(1)韓国、オーストラリア、ASEAN諸国及びインド
(2)中国との関係(問題あるとの文脈で登場)
(3)北朝鮮問題
(4)東アジア地域の安全保障環境
(5)国際関係(APEC,EAS,ASEAN+3,ARF,拡大ASEAN国防相会議etc.)
(6)その他の国々(モンゴル、中央アジア諸国、南西アジア諸国、南米諸国etc.)
(7)国際社会の平和と安定・アジア太平洋地域外の諸国、
前述した様に、外交の強化がイの一番で掲げられているが、この部分は、その国別・地域別他の方針が書かれている。ここは、その内容よりも、我が国の「国家安全保障戦略」に具体的国名を出して「日本はこの様に貴国を重要視していますよ」と表明することに意義がある様に思われる。また、表題に現れていない国家名(例えばブラジル)も文章内に幾つも登場する。
4番目及び5番目の中項目の個別項目は以下のとおりである。個別の項目を列挙している部分である。4番目は主として国連を軸足にした構成であるが、5番目の個別項目名を見てもらえばわかる通り、先述した項目の詳細を繰り返すことになっている部分である。
尚、常任理事国入り・国連改革は4の(1)の中で明示されている。
4.国際社会の平和と安定のための国際的努力への積極的関与
(0)前文式概括
(1)国連外交の強化
(2)法の支配の強化
(3)軍縮・不拡散に係る国際努力の主導
(4)国際平和協力の推進
(5)国際テロ対策における国際協力の推進
5.地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力の強化
(0)前文式概括
(1)普遍的価値観の共有
(2)開発問題及び地球規模課題への対応と「人間の安全保障」の実現
(3)開発途上国の人材育成に対する協力
(4)自由貿易体制の維持・強化
(5)エネルギー・環境問題への対応
(6)人と人との交流の強化
最後の6番目は「6.国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進」との「国内問題」に関しての部分である。国内問題の中心は、実は「国民の理解」である。
そのことは、個別項目の最初に「(0)前文式概括」にて明示されている。
<(0)前文式概括引用開始>
国家安全保障を十全に確保するためには、外交力及び防衛力を中心とする能力の強化に加え、これらの能力が効果的に発揮されることを支える国内基盤を整備することが不可欠である。また、国家安全保障を達成するためには、国家安全保障政策に対する国際社会や国民の広範な理解を得ることが極めて重要であるとの観点をも踏まえ、以下の取り組みを進める。
<引用終わり>
「以下の取り組み」である個別項目は次の4項目である。
(1)防衛生産・技術基盤の維持・強化
(2)情報発信の強化
(3)社会的基盤の強化
(4)知的基盤の強化
<長くなったので項を分けます>



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