【コラム】3度目の核被爆を防ぐために
- 2016/02/27
- 00:38
【コラム】3度目の核被爆を防ぐために

1945年8月6日、広島は人類史上初となる原爆を投下され、非戦闘員である女・子供が悲惨な最期を遂げた。その3日後の8月9日、今度は長崎に原爆が投下された。
その日、ソ連は、日ソ不可侵条約を一方的に破棄して、満州・朝鮮半島、樺太・千島への侵略を開始して、日本軍守備隊はおろか非戦闘員である女・子供を踏み躙り、女性の尊厳を大きく毀損する暴虐を繰り返した。
1945年8月の悲劇のうち、今回は核被爆を取り上げる。
現在、核兵器を所有している、或いは所有が疑われる国会は次の9ヶ国であると言われている。
アメリカ、ソ連、中国、イギリス、フランスの国連常任理事国5ヶ国と、インド、パキスタンの南アジアでの対立国、それと北朝鮮及びイスラエルの合計9ヶ国だと言われている。
核兵器(戦略核)とは、1発でも都市上空で爆発すると、そこに住む10万人単位、100万人単位の人々が殺戮・死傷させられる威力を持つもので、戦勝国クラブの国連常任理事国は、自分達以外の国が核兵器を持つことを拒み、阻止することを目的に戦後体制を構築した。
しかしながら、それはあまりにも独善的かつ特権的であり、その様な体制を批准しない国のうち、インド、パキスタンは核を保有するに至っている。
1989年以前の東西冷戦時には、米ソは互いに核兵器を持ち、がっぷり四つ状態で、相手が撃てば、こっちも撃つぞとの対峙構造にあった。
この様な敵対対峙状態ではあったが、1945年8月9日の長崎以降、人類は一度も核兵器の実戦使用をしていない。
何故、敵対対峙状態にありながら、核兵器の使用には至らなかったのかと言うと、米ソ両国ともに、片方が核兵器を使えば、受けたもう一方が報復の為にやはり核兵器を使用し、結局は最終的には双方が核兵器を受け、互いが完全破壊し合うことになるとの悲劇的結末を迎えるとの理解から、どちらも核兵器を使わないとの状態があったからである。
この様な状態を「相互破壊確証戦略」と言い、理論上、核兵器を保有する2ヶ国間では核戦争を含む全面戦争は発生しないことになる。そして、その理論は現実の歴史でも、その様に作用して、1945年8月9日の長崎以降、人類は一度も核兵器の実戦使用をしていない。
この相互破壊確証戦略が成り立つのは、「核兵器を保有する2ヶ国間」であることが基本である。片方が核兵器を保有し、もう一方が核兵器を保有していない場合には、この相互破壊確証戦略は成り立たない。
成り立たないので、核武装を推進する国が出てくるのだが、その結果がインド・パキスタンの核保有である。非同盟諸国の旗頭であるインドは、他国に頼ることが出来ない立場であり、自国で核開発・核保有をして生き残りにかけたのである。
インドは地政学的には半島国家であり、大陸と隣接する中国を相手にする時には、他の海洋国家との連携がなければ負ける運命にある。ところが、それを米国に求めることは難しく、核保有+その後の連携先を模索する立場であった。
インドが核保有に至ると、インドと敵対対峙関係にあるパキスタンも核保有を選択し、現在に至っている。
一方、我が国の場合は、日米安保条約に基づく「核の傘」の理屈のもと、近隣の中国・北朝鮮が核保有に至っていても、核保有の議論には至っていない。これは知っての通り、我が国の場合は国家の平和・安全を確保する通常の「陸海空その他の戦力」さえも保持したらアカンとの「憲法9条」があり、ましてや核保有を検討することさえタブーとする歪んだ言論空間があるからである。
その様な特殊事情下で我が国が現在選択している近隣国核兵器からの安全確保策は以下の2つである。
1)日米安保条約に基づく「核の傘」。米国の核兵器に依拠する相互破壊確証戦略。
2)イージス艦SM-3迎撃ミサイル他による弾道弾防衛装備。
上記のうち、2)は「BMD」と呼ばれるものである。
BMDとは「Ballistic Missile Defense」の頭文字をとったもので「Ballistic Missile」=弾道ミサイル、「Defense」=防衛のことである。
核兵器(戦略核)の投射手段は3種類あると言われている。
1つ目は、長距離戦略爆撃機による空中投下方法である。
広島・長崎の原爆は、当時の最先端戦略爆撃機B-29に原爆を搭載して目標上空で投下する方法で行われた。その後、米空軍はB-47、B-52等のジェット戦略爆撃機へと使用機を発展させ、現在はステルス戦略爆撃機B-2にて、この投射手段を確保している。
2つ目は、弾道ミサイルである。
ロケットに核弾頭を搭載して、目標に向けて発射するもので、その始祖はドイツのV-2にある。北朝鮮や中国の核は弾道ミサイルにより投射される方式である。
射程距離により、ICBM・大陸間弾道弾、IRBM・中距離弾道弾等があるが、何れにしろ、自国領土に到達する射程距離があるミサイルを近隣国が持つという状態は国防リスクである。
3つ目は、戦略原潜に搭載され、水中から発射されるSLBMである。
これは、発見され難い水中との位置にひそみ、もし万が一自国領土が核攻撃を受けた場合には報復攻撃をする為の装備である。爆撃機及び弾道弾は陸上に配備するもので、先制攻撃で全滅させられ、反撃能力が削がれた場合には相互破壊確証戦略が成り立たないことになるので、例え本国が全滅しても報復攻撃が可能とすることで、相手側からの核攻撃を防止することが目的のものである。
これら核兵器投射方法のうち、戦略爆撃機に関しては、従来の迎撃体制の充実で対処するのだが、弾道ミサイルに関しては、現在はイージス艦搭載のSM-3迎撃ミサイル及びパトリオットPAC-3迎撃ミサイルでの防衛をしている。
これは科学技術の進展により可能となったもので、この様な高価なシステムを導入出来るのは日米等の一部先進国だけである。BMD技術が開発される前は、弾道ミサイルは防げない投射手段であったのである。
その為に、弾道ミサイルを互いに持つ場合は、相互破壊確証戦略にて「撃たせない・撃たない」との対応しかなかったのである。
相互破壊確証戦略が成り立つのは、双方が核を保有している場合であり、片方だけが核を保有している場合は、持っていない方は圧倒的に不利になる。このことは前述した通りだ。、インド・パキスタンが核保有に至ったのは、中国→インド→パキスタンとの近隣国核保有の連鎖による。この連鎖は自国生き残りの視点からは当然の動きである。
一方、イスラエルの場合は、中東地域に於ける核保有の連鎖の出発点となることが望ましくないと米国からの制限を受けている立場にある。
その様な状態で、当時のイラク・フセインが原子力発電所建設を開始した。
産油国イラクがわざわざ原子力発電所を建設するのは、発電目的ではなく、核兵器開発が主目的であった。イスラエルはイラクの原子力発電所建設=核保有を看過せず、戦闘機を飛ばして発電所を破壊してしまう。
つまり「相手が核を持ったら核を保有する」との段階に至る前の段階で相手側の意図を挫くことをしたのである。イラクの発電所破壊に際しては、無断でサウジ上空を経てイラクに至っており、当時、イスラエルに対する非難は相当なものがあったのだが、後年、湾岸戦争でのイラクは、非核・通常弾頭のスカッドミサイルをイスラエルに何発も発射しており、イスラエルが自国存続・防衛の為に座して近隣国の核保有を待つ様な愚行をしなかったことは注目に値すると評価している。
この様な歴史から見ると、弾道ミサイルから自国を、自国民を守る有効な手段は、以下の3点であることがわかる。
1)相互破壊確証戦略で以て、自国への核攻撃を防ぐ。
イギリス、フランスが戦略核搭載原潜を運用しているのは、この方法からである。また、インドが対中国で、パキスタンが対インドで核を保有しているのも、この方法を採用しているからである。
2)BMDシステムを構築・保持して弾道ミサイル防御を固める。
現在の我が国は、この方式を採用している数少ない国である。
3)近隣国に核を保有させない、或いは、核使用の兆候があれば、その策源地である対峙国を叩き無力化させる。
イスラエルの事前予防攻撃や1956年2月29日我が国国会答弁での策源地攻撃自衛論がこれである。
我が国の場合、核被爆を防止する方法として、我が国も核を保有して防ぐとの1)の方法を選択していない。また、1956年当時に「理屈」として可能としたものの、それを実行する能力を持つ様な航空機やミサイルを保持していないので、単なるお題目レベルにあるのが現実だ。この経緯には憲法9条の軛が当然の様に大きく影響している。
その点については以下にて論評済である。
2015/04/05投稿:
【コラム】憲法9条「解釈」の弊害について(資料として)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-72.html
2015/04/06投稿:
【コラム2】憲法9条「解釈」の弊害について2(資料として)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-73.html
2015/04/10投稿:
【コラム】国会答弁で多用される「必要最小限」から見る世紀の捻じれ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-77.html
その為に、1)の代理実行者を米国とした日米安保「核の傘」と2)の方法を採用している。どの方法を選択するのかは、その国の事情によるが、我が国が選択している2)の方法には2つの問題点がある。その1つには「巨額な予算が必要」との問題がある。それに耐えられない国は、2)を選択出来ず、別の方法を選択することになる。
その弱点たる「巨額な予算が必要」を突っつく記事があったので紹介する。
東京新聞:2016年2月23日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016022302000119.html?ref=rank
見出し:ミサイル防衛費1.5倍超 政府想定超え累計1兆5800億円
本文:北朝鮮の脅威に備えた弾道ミサイル防衛(BMD)に関し、政府が整備を始めた二〇〇四年度以降、想定を上回る規模の予算を投じていることが防衛省への取材で分かった。一六年度予算案を含めると、十三年間のBMD関連費用は累計で約一兆五千八百億円。北朝鮮が人工衛星と主張する事実上の長距離弾道ミサイル発射を受け、安倍政権は新たなミサイル迎撃システムの配備検討を表明したが、導入すればさらに費用が膨らむことになる。 (横山大輔)
○政府は〇八年四月の国会答弁で、BMD整備費を全体で「八千億円から一兆円程度を要する」と説明していた。約一兆五千八百億円という累計額は既に一・五~二倍に達する。
○現在のBMDは、海上自衛隊のイージス艦四隻に搭載したSM3ミサイルと、全国に三十四基を展開する地上配備型のPAC3ミサイルの二段構えで弾道ミサイルを迎撃する。
○BMDは「スパイラル開発」と呼ばれ、順次能力向上を図る手法で開発が進むため、数が増えなくても費用が上乗せされる。実際、高性能レーダーなどの関連装備費や日米共同の開発費も加わり、毎年度数百億~一千億円超の予算がかかっている。特に安倍政権ではBMDの強化を打ち出し、SM3搭載イージス艦を八隻体制に増強することを決定。一五、一六年度のBMD関連費は単年度でそれぞれ二千億円を超えた。
○北朝鮮の事実上のミサイル発射を受け、さらに配備を検討するのは、米軍の地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」。迎撃高度がSM3とPAC3の間で、導入すれば三段構えの体制になる。費用は米政府との協議次第だが、少なくとも数千億円との指摘がある。製造元の米ロッキード・マーチン社によると、アラブ首長国連邦に二基売却する概算契約は約二十億ドル(二千三百億円)だった。
○菅義偉(すがよしひで)官房長官は、北朝鮮による弾道ミサイル発射前は「国民の安心・安全のための対応策はしっかりと整えた」と強調したが、発射後は「国民を守るため検討を加速する」と新システム導入に意欲を示した。
◆際限なく競争続く
○元航空自衛隊空将補でNPO法人「国際地政学研究所」の林吉永事務局長の話 弾道ミサイル防衛能力を向上させれば、相手はさらにかいくぐるミサイルを開発する。巨費を投じ新システムを導入しても「穴」は出る。際限ない競争が果てしなく続き、歯止めが利かない「安全保障のジレンマ」に陥る。安倍政権は安全保障関連法の議論で米国との「同盟強化」をあれほど強調しながら、日本を狙う弾道ミサイルに米軍とどう迎撃体制を組むか全く説明していない。国民に知らせず、巨額の予算を投じることは許されない。
○<高高度防衛ミサイル(THAAD)> 米軍がミサイル防衛(MD)の一環として運用する地上配備型迎撃ミサイル。弾道ミサイルが大気圏外を飛んでいる間に迎撃し損なった場合に備え、大気圏内に再突入してくる高度150キロほどとされる段階で撃ち落とすとしている。PAC3も地上配備型だが、着弾直前の高度十数キロで使われる。
<引用終わり>
長々と引用したが、ここで言われていることは1つだけである。
「金がかかる」とだけしか言っていない。
じゃぁ、どーする?
従来の議論では、ここから急旋回して予算・国家財政問題へと話の方向が変わり、どうやって3度目の核被爆を防ぐのか、との本論からは外れていく。
本コラムでは外れない(笑)
本論のままに続けると、我が国が採用しているBMDには金銭的問題の他にある、もう1つの問題としては、BMDで幾ら弾道ミサイルを迎撃しても、相手側は無傷なままで、また繰り返し弾道ミサイルを撃つ能力を保持し続けるとの問題だ。
金がかかる割には防御効果が100%ではなく、かつ、相手側は無傷のままとの弱点を持つ。
その様な構造なので、他の外国の事例でのイギリス、フランスの両国はSLBM搭載戦略原潜を持ち、相互破壊確証戦略を採用している。
両国とも4隻の戦略原潜を持ち、ローテーションでこのうちの少なくとも1隻が何処かの水中に潜み、365日24時間体制で報復体制を確立し、以て、誰からも核を撃たれない体制を作っている。(撃たれたら撃ち返す体制を作り、以て撃たれない体制としている)
引用した新聞記事の視点である「費用の問題」で考えれば、費用対効果としてはBMD体制よりもSLBM体制の方が、効果が高いのである。
我が国が核武装に踏み切れないのは、この様な費用対効果の問題ではなく、政治的問題であるからだ。なのに、そういう問題には触れずに、BMDに費用がかかり過ぎるとの記事の可笑しさは、そもそもの視点である「3度目の核被爆を防ぐために」の視点がまったくないからである。
現状の我が国は、近隣2ヶ国の中国・北朝鮮が核弾頭搭載弾道ミサイルを運用中との状態である。それに対して、我が国は核はおろか、策源地に対する自衛権行使能力もない状態なのである。頼みの綱は米軍の核の傘とBMD体制だけである。
これで大丈夫なのか? との素直な疑念を持つことは健全な事だと考えている。
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1945年8月6日、広島は人類史上初となる原爆を投下され、非戦闘員である女・子供が悲惨な最期を遂げた。その3日後の8月9日、今度は長崎に原爆が投下された。
その日、ソ連は、日ソ不可侵条約を一方的に破棄して、満州・朝鮮半島、樺太・千島への侵略を開始して、日本軍守備隊はおろか非戦闘員である女・子供を踏み躙り、女性の尊厳を大きく毀損する暴虐を繰り返した。
1945年8月の悲劇のうち、今回は核被爆を取り上げる。
現在、核兵器を所有している、或いは所有が疑われる国会は次の9ヶ国であると言われている。
アメリカ、ソ連、中国、イギリス、フランスの国連常任理事国5ヶ国と、インド、パキスタンの南アジアでの対立国、それと北朝鮮及びイスラエルの合計9ヶ国だと言われている。
核兵器(戦略核)とは、1発でも都市上空で爆発すると、そこに住む10万人単位、100万人単位の人々が殺戮・死傷させられる威力を持つもので、戦勝国クラブの国連常任理事国は、自分達以外の国が核兵器を持つことを拒み、阻止することを目的に戦後体制を構築した。
しかしながら、それはあまりにも独善的かつ特権的であり、その様な体制を批准しない国のうち、インド、パキスタンは核を保有するに至っている。
1989年以前の東西冷戦時には、米ソは互いに核兵器を持ち、がっぷり四つ状態で、相手が撃てば、こっちも撃つぞとの対峙構造にあった。
この様な敵対対峙状態ではあったが、1945年8月9日の長崎以降、人類は一度も核兵器の実戦使用をしていない。
何故、敵対対峙状態にありながら、核兵器の使用には至らなかったのかと言うと、米ソ両国ともに、片方が核兵器を使えば、受けたもう一方が報復の為にやはり核兵器を使用し、結局は最終的には双方が核兵器を受け、互いが完全破壊し合うことになるとの悲劇的結末を迎えるとの理解から、どちらも核兵器を使わないとの状態があったからである。
この様な状態を「相互破壊確証戦略」と言い、理論上、核兵器を保有する2ヶ国間では核戦争を含む全面戦争は発生しないことになる。そして、その理論は現実の歴史でも、その様に作用して、1945年8月9日の長崎以降、人類は一度も核兵器の実戦使用をしていない。
この相互破壊確証戦略が成り立つのは、「核兵器を保有する2ヶ国間」であることが基本である。片方が核兵器を保有し、もう一方が核兵器を保有していない場合には、この相互破壊確証戦略は成り立たない。
成り立たないので、核武装を推進する国が出てくるのだが、その結果がインド・パキスタンの核保有である。非同盟諸国の旗頭であるインドは、他国に頼ることが出来ない立場であり、自国で核開発・核保有をして生き残りにかけたのである。
インドは地政学的には半島国家であり、大陸と隣接する中国を相手にする時には、他の海洋国家との連携がなければ負ける運命にある。ところが、それを米国に求めることは難しく、核保有+その後の連携先を模索する立場であった。
インドが核保有に至ると、インドと敵対対峙関係にあるパキスタンも核保有を選択し、現在に至っている。
一方、我が国の場合は、日米安保条約に基づく「核の傘」の理屈のもと、近隣の中国・北朝鮮が核保有に至っていても、核保有の議論には至っていない。これは知っての通り、我が国の場合は国家の平和・安全を確保する通常の「陸海空その他の戦力」さえも保持したらアカンとの「憲法9条」があり、ましてや核保有を検討することさえタブーとする歪んだ言論空間があるからである。
その様な特殊事情下で我が国が現在選択している近隣国核兵器からの安全確保策は以下の2つである。
1)日米安保条約に基づく「核の傘」。米国の核兵器に依拠する相互破壊確証戦略。
2)イージス艦SM-3迎撃ミサイル他による弾道弾防衛装備。
上記のうち、2)は「BMD」と呼ばれるものである。
BMDとは「Ballistic Missile Defense」の頭文字をとったもので「Ballistic Missile」=弾道ミサイル、「Defense」=防衛のことである。
核兵器(戦略核)の投射手段は3種類あると言われている。
1つ目は、長距離戦略爆撃機による空中投下方法である。
広島・長崎の原爆は、当時の最先端戦略爆撃機B-29に原爆を搭載して目標上空で投下する方法で行われた。その後、米空軍はB-47、B-52等のジェット戦略爆撃機へと使用機を発展させ、現在はステルス戦略爆撃機B-2にて、この投射手段を確保している。
2つ目は、弾道ミサイルである。
ロケットに核弾頭を搭載して、目標に向けて発射するもので、その始祖はドイツのV-2にある。北朝鮮や中国の核は弾道ミサイルにより投射される方式である。
射程距離により、ICBM・大陸間弾道弾、IRBM・中距離弾道弾等があるが、何れにしろ、自国領土に到達する射程距離があるミサイルを近隣国が持つという状態は国防リスクである。
3つ目は、戦略原潜に搭載され、水中から発射されるSLBMである。
これは、発見され難い水中との位置にひそみ、もし万が一自国領土が核攻撃を受けた場合には報復攻撃をする為の装備である。爆撃機及び弾道弾は陸上に配備するもので、先制攻撃で全滅させられ、反撃能力が削がれた場合には相互破壊確証戦略が成り立たないことになるので、例え本国が全滅しても報復攻撃が可能とすることで、相手側からの核攻撃を防止することが目的のものである。
これら核兵器投射方法のうち、戦略爆撃機に関しては、従来の迎撃体制の充実で対処するのだが、弾道ミサイルに関しては、現在はイージス艦搭載のSM-3迎撃ミサイル及びパトリオットPAC-3迎撃ミサイルでの防衛をしている。
これは科学技術の進展により可能となったもので、この様な高価なシステムを導入出来るのは日米等の一部先進国だけである。BMD技術が開発される前は、弾道ミサイルは防げない投射手段であったのである。
その為に、弾道ミサイルを互いに持つ場合は、相互破壊確証戦略にて「撃たせない・撃たない」との対応しかなかったのである。
相互破壊確証戦略が成り立つのは、双方が核を保有している場合であり、片方だけが核を保有している場合は、持っていない方は圧倒的に不利になる。このことは前述した通りだ。、インド・パキスタンが核保有に至ったのは、中国→インド→パキスタンとの近隣国核保有の連鎖による。この連鎖は自国生き残りの視点からは当然の動きである。
一方、イスラエルの場合は、中東地域に於ける核保有の連鎖の出発点となることが望ましくないと米国からの制限を受けている立場にある。
その様な状態で、当時のイラク・フセインが原子力発電所建設を開始した。
産油国イラクがわざわざ原子力発電所を建設するのは、発電目的ではなく、核兵器開発が主目的であった。イスラエルはイラクの原子力発電所建設=核保有を看過せず、戦闘機を飛ばして発電所を破壊してしまう。
つまり「相手が核を持ったら核を保有する」との段階に至る前の段階で相手側の意図を挫くことをしたのである。イラクの発電所破壊に際しては、無断でサウジ上空を経てイラクに至っており、当時、イスラエルに対する非難は相当なものがあったのだが、後年、湾岸戦争でのイラクは、非核・通常弾頭のスカッドミサイルをイスラエルに何発も発射しており、イスラエルが自国存続・防衛の為に座して近隣国の核保有を待つ様な愚行をしなかったことは注目に値すると評価している。
この様な歴史から見ると、弾道ミサイルから自国を、自国民を守る有効な手段は、以下の3点であることがわかる。
1)相互破壊確証戦略で以て、自国への核攻撃を防ぐ。
イギリス、フランスが戦略核搭載原潜を運用しているのは、この方法からである。また、インドが対中国で、パキスタンが対インドで核を保有しているのも、この方法を採用しているからである。
2)BMDシステムを構築・保持して弾道ミサイル防御を固める。
現在の我が国は、この方式を採用している数少ない国である。
3)近隣国に核を保有させない、或いは、核使用の兆候があれば、その策源地である対峙国を叩き無力化させる。
イスラエルの事前予防攻撃や1956年2月29日我が国国会答弁での策源地攻撃自衛論がこれである。
我が国の場合、核被爆を防止する方法として、我が国も核を保有して防ぐとの1)の方法を選択していない。また、1956年当時に「理屈」として可能としたものの、それを実行する能力を持つ様な航空機やミサイルを保持していないので、単なるお題目レベルにあるのが現実だ。この経緯には憲法9条の軛が当然の様に大きく影響している。
その点については以下にて論評済である。
2015/04/05投稿:
【コラム】憲法9条「解釈」の弊害について(資料として)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-72.html
2015/04/06投稿:
【コラム2】憲法9条「解釈」の弊害について2(資料として)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-73.html
2015/04/10投稿:
【コラム】国会答弁で多用される「必要最小限」から見る世紀の捻じれ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-77.html
その為に、1)の代理実行者を米国とした日米安保「核の傘」と2)の方法を採用している。どの方法を選択するのかは、その国の事情によるが、我が国が選択している2)の方法には2つの問題点がある。その1つには「巨額な予算が必要」との問題がある。それに耐えられない国は、2)を選択出来ず、別の方法を選択することになる。
その弱点たる「巨額な予算が必要」を突っつく記事があったので紹介する。
東京新聞:2016年2月23日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016022302000119.html?ref=rank
見出し:ミサイル防衛費1.5倍超 政府想定超え累計1兆5800億円
本文:北朝鮮の脅威に備えた弾道ミサイル防衛(BMD)に関し、政府が整備を始めた二〇〇四年度以降、想定を上回る規模の予算を投じていることが防衛省への取材で分かった。一六年度予算案を含めると、十三年間のBMD関連費用は累計で約一兆五千八百億円。北朝鮮が人工衛星と主張する事実上の長距離弾道ミサイル発射を受け、安倍政権は新たなミサイル迎撃システムの配備検討を表明したが、導入すればさらに費用が膨らむことになる。 (横山大輔)
○政府は〇八年四月の国会答弁で、BMD整備費を全体で「八千億円から一兆円程度を要する」と説明していた。約一兆五千八百億円という累計額は既に一・五~二倍に達する。
○現在のBMDは、海上自衛隊のイージス艦四隻に搭載したSM3ミサイルと、全国に三十四基を展開する地上配備型のPAC3ミサイルの二段構えで弾道ミサイルを迎撃する。
○BMDは「スパイラル開発」と呼ばれ、順次能力向上を図る手法で開発が進むため、数が増えなくても費用が上乗せされる。実際、高性能レーダーなどの関連装備費や日米共同の開発費も加わり、毎年度数百億~一千億円超の予算がかかっている。特に安倍政権ではBMDの強化を打ち出し、SM3搭載イージス艦を八隻体制に増強することを決定。一五、一六年度のBMD関連費は単年度でそれぞれ二千億円を超えた。
○北朝鮮の事実上のミサイル発射を受け、さらに配備を検討するのは、米軍の地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」。迎撃高度がSM3とPAC3の間で、導入すれば三段構えの体制になる。費用は米政府との協議次第だが、少なくとも数千億円との指摘がある。製造元の米ロッキード・マーチン社によると、アラブ首長国連邦に二基売却する概算契約は約二十億ドル(二千三百億円)だった。
○菅義偉(すがよしひで)官房長官は、北朝鮮による弾道ミサイル発射前は「国民の安心・安全のための対応策はしっかりと整えた」と強調したが、発射後は「国民を守るため検討を加速する」と新システム導入に意欲を示した。
◆際限なく競争続く
○元航空自衛隊空将補でNPO法人「国際地政学研究所」の林吉永事務局長の話 弾道ミサイル防衛能力を向上させれば、相手はさらにかいくぐるミサイルを開発する。巨費を投じ新システムを導入しても「穴」は出る。際限ない競争が果てしなく続き、歯止めが利かない「安全保障のジレンマ」に陥る。安倍政権は安全保障関連法の議論で米国との「同盟強化」をあれほど強調しながら、日本を狙う弾道ミサイルに米軍とどう迎撃体制を組むか全く説明していない。国民に知らせず、巨額の予算を投じることは許されない。
○<高高度防衛ミサイル(THAAD)> 米軍がミサイル防衛(MD)の一環として運用する地上配備型迎撃ミサイル。弾道ミサイルが大気圏外を飛んでいる間に迎撃し損なった場合に備え、大気圏内に再突入してくる高度150キロほどとされる段階で撃ち落とすとしている。PAC3も地上配備型だが、着弾直前の高度十数キロで使われる。
<引用終わり>
長々と引用したが、ここで言われていることは1つだけである。
「金がかかる」とだけしか言っていない。
じゃぁ、どーする?
従来の議論では、ここから急旋回して予算・国家財政問題へと話の方向が変わり、どうやって3度目の核被爆を防ぐのか、との本論からは外れていく。
本コラムでは外れない(笑)
本論のままに続けると、我が国が採用しているBMDには金銭的問題の他にある、もう1つの問題としては、BMDで幾ら弾道ミサイルを迎撃しても、相手側は無傷なままで、また繰り返し弾道ミサイルを撃つ能力を保持し続けるとの問題だ。
金がかかる割には防御効果が100%ではなく、かつ、相手側は無傷のままとの弱点を持つ。
その様な構造なので、他の外国の事例でのイギリス、フランスの両国はSLBM搭載戦略原潜を持ち、相互破壊確証戦略を採用している。
両国とも4隻の戦略原潜を持ち、ローテーションでこのうちの少なくとも1隻が何処かの水中に潜み、365日24時間体制で報復体制を確立し、以て、誰からも核を撃たれない体制を作っている。(撃たれたら撃ち返す体制を作り、以て撃たれない体制としている)
引用した新聞記事の視点である「費用の問題」で考えれば、費用対効果としてはBMD体制よりもSLBM体制の方が、効果が高いのである。
我が国が核武装に踏み切れないのは、この様な費用対効果の問題ではなく、政治的問題であるからだ。なのに、そういう問題には触れずに、BMDに費用がかかり過ぎるとの記事の可笑しさは、そもそもの視点である「3度目の核被爆を防ぐために」の視点がまったくないからである。
現状の我が国は、近隣2ヶ国の中国・北朝鮮が核弾頭搭載弾道ミサイルを運用中との状態である。それに対して、我が国は核はおろか、策源地に対する自衛権行使能力もない状態なのである。頼みの綱は米軍の核の傘とBMD体制だけである。
これで大丈夫なのか? との素直な疑念を持つことは健全な事だと考えている。



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