スウェーデンのNATO加盟・中立政策の終焉への雑感
副題:「非武装中立」なる詐欺話で、あたかも中立国であることが正義であるかの様な幻想が残っている様だが、現実世界はそんな甘美な夢では語れない。中立国の義務さえ知らず中立を述べるのは無責任である。
今回の題材は、スウェーデンのNATO加盟が実現化するであろうとのニュース(*1)である。
スウェーデンのNATO加盟申請は2022年5月に隣国フィンランドと共に行われていたものだが、両国のクルド人対策が甘いとの「理由」でNATO加盟国のトルコが加盟に反対していたが、同年3月末にはトルコ議会でフィンランドの加盟が認められ。その一方、トルコはスウェーデンの加盟に賛意を示さず、現在に至っているものだ。
今般、トルコ議会で賛成が得られれば、スウェーデンのNATO加盟が認められ、これによりスウェーデンは約180年続く中立政策を止め、NATOの一員となるものである。
フィンランドも中立国
2022年4月にフィンランドはNATOに加盟した。
それ以前のフィンランドは、ソ連・ロシアと国境を接するとの地理的条件下にあったことで、欧州戦線で第二次世界大戦が勃発した後の1939年11月にはソ連による侵攻(冬戦争)を受けており、領土を割譲させられるなどしたが独立を守り、大戦後の米ソ東西冷戦期は「ソ連と国境を接する国」としては「当時の最善策」であった「東西のどちらの陣営にも属さない中立国政策」を採用していた。
東側ソ連のワルシャワ機構軍の戦略は、有事勃発とともに大量の戦車を中核とした機甲部隊が西ドイツ以西になだれ込むもので、その最前線は東西ドイツの国境にあった。
つまり、フィンランドはソ連と国境を接しているとは言え、フィンランドの先のスカンジナビア半島を進んでも西側主力への突撃をはならないことから、主戦場ではないとの政治的地理的条件から、西側に付くことでソ連の制圧対象となるよりも中立国(中立&軍事的非同盟)となる方がリスクが少ないと見込まれたので中立国政策を選択したものだ。
一方のスウェーデンはフィンランドと国境を接するスカンジナビア半島の国である。地理的政治的にはソ連との間にはフィンランドというバッファがあること、また、19世紀中盤の1843年にイギリスとロシアの間が不穏となり紛争の兆候が出てきたことを切っ掛けに中立政策を宣言し、以降、先の大戦中も東西冷戦時も中立政策を維持してきた国である。
フィンランド・スウェーデンのNATO加盟申請
フィンランド・スウェーデン両国がNATO加盟申請をしたのは2022年5月である。
ロシアがウクライナに侵攻しのは2022年2月であることから、それが影響したのであろうと見られている。
ロシアと国境を接するフィンランドがウクライナを見て、「東西冷戦時とは状況が変わった」「このまま東西冷戦時の選択を続けるのは有効ではない」と考えるのは当然である。
フィンランドがNATO加盟申請することに違和感はない。
その一方、地理的にフィンランドというバッファがあるスウェーデンが、180年もの長きにわたる中立政策を止めて、一緒にNATO加盟の申請をしたことに対しては一瞬だが違和感を持ったものである。
とは言え、地理的条件を考えれば見直し得心が行った。
バルト海の要衝ゴトランド島はスウェーデン領である。
また、フィンランドだけがNATOに加盟した場合、地理的にスウェーデンが「中立国の義務」をロシアやNATOを相手に果たせるとは思えないことから、ウクライナ以降の情勢からフィンランドと同様の考えに至ってのであろうと推測できたのである。
地図を見れば、ロシア艦隊がバルト海を進んだ場合、スウェーデン以外の各国がNATO加盟国である状況では「中立国・スウェーデン」が独力で自国を守る立場になることから、ロシアから見ればターゲットになり易いという地理的条件が浮かび上がってくるのである。
中立国の義務
中立国の国際法上の定義をここで詳しく書いても長くなるだけで肝心な点がぼやけるので、一般的イメージに合致する「戦時中立国」の「中立国の義務」について述べることにする。
中立国の義務の原則は「交戦国双方に対して公平な態度をとる」ということである。
具体的には、①交戦国双方に対して自国領内に軍事基地を置かせない。また、軍事的移動経路として使わせない。 ②交戦国双方に対して戦争に使われる物資(船舶・武器・弾薬・資金他)を提供してはならない。などがある。
中立国の義務を果たした例としては、先の大戦でのラプラタ沖海戦で損傷したドイツ海軍のポケット戦艦「グラフ・シュペー」が寄港した中立国ウルグアイの例がある。
中立国の義務を定めたハーグ条約(海戦中立条約)では、24時間以内の寄港はOKとなっている。これは帆船時代からの慣習が基になっている海洋法の人道上の視点がハーグ条約に影響したものだと理解している。
一方、イギリスの巡洋艦2隻が同港の沖で待機しており、イギリス海軍は同港に空母を派遣してグラフ・シュペーを撃沈すべく行動していた。中立国ウルグアイはグラフ・シュペーに対して出港を求め、結局、グラフ・シュペーはイギリス艦隊に行く手を阻まれ自沈している。
もう1つの例としては、スイス上空での対ドイツ・対連合国双方に対する迎撃選である。
中立国の義務の1つに「軍事的移動経路として使わせない」があるが、パリなどの西欧中央部からイタリア半島への経路としてはスイス上空を通過するルートはが合理的なので、スイス上空を双方が飛ぶケースがあったことから、スイス空軍は、ドイツ・連合国双方に対して上空通過を許さない迎撃戦を挑んでいるのである。
スイスが武装中立をしている理由の一端がうかがい知れるエピソードであるが、その一方、その昔に我が国では「非武装中立」なる詐欺話が盛んに流布されていた。
社会党が言っていた「非武装中立」の本当の姿
今はなき社会党が、その昔に流布していた「非武装中立」の正体は、現行憲法の前文と9条(*2)を利用した詐欺話である。
社会党がいう「非武装」とは、現行憲法9条第2項の「…陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」との条文だけが根拠であり、「非武装であることにより発生するリスク」については何も言っていないものである。
社会党は同時に「自衛隊は違憲」とのキャンペーンも延々と続けていた。(*3)
社会党がいう「中立」とは、「日米安保破棄」の為の方便である.
日米安保条約とのアメリカとの軍事条約を締結していては「中立国」には成り得ないので、この様な言い方をしているものだ。
社会党は同時に、「米軍基地が日本にあると、それが攻撃対象になるぅ~」「周辺の民家などで被害が出るぅ~」などとのデマを盛に飛ばしていたことを思い出す。(*4)
社会党の末裔社民党の福島みずほは今も同じことを言っている。
要するに、自衛隊と安保条約との我が国防衛の二本柱を排除するのが目的の詐欺話である。
この様に社会党は「非武装中立」が「日本が戦争にならない最善の手法」であるかの様な虚偽を臆面もなく言っていたものである。
地政学上の経験則として「軍事的空白地帯がある時には必ずそこは周辺国からの浸透を受ける」というのがあるが、米ソ東西冷戦期に日本列島から米軍が撤退し非武装になった場合を考えれば、ウラジオストック辺りから何か望ましくない訪問者があると考えられるものだ。
因みにウラジオストックとは、ロシア語のヴラジ(支配する)+ヴォストーク(東)で「東方を征服せよ」が由来とされるものだとされている。
中立国が中立国として存在する為には、その義務として「自国領内に軍事基地を置かせない」があるが、米軍撤退後にソ連軍が駐留してきたら、その時点で中立国ではなくなるのである。
ソ連軍の駐留を拒否しようとしても「非武装」なのだから、何も出来ないのである。
そして、ソ連軍が駐留してきた日本列島に対して、米ソ冷戦期の米軍が、そのまま黙っている訳はない。
要するに「非武装中立」は、むしろ我が国を危険な状態へと誘導する危険なものなのである。
「非武装中立」国の事例
「非武装中立」の国がどの様な結末に陥ったのかという前例がある。
ベネルックス三国のうち、ドイツとフランスの間に挟まれたルクセンブルグとベルギーである。ルクセンブルグは非武装中立だが、ベルギーは非武装というよりも軽武装中立であった。
この両国は中立国であったにもかかわらず、第一次、第二次の両大戦でともにドイツによる侵攻・占領を受けているのである。
第二次世界大戦時のベルギーの事例は学ぶべき歴史だと考えている。
ベルギーはドイツとフランスとの間に位置しているが、フランスは第一次世界大戦での戦訓から、第二次世大戦前の段階でフランス・ドイツの国境線部に防壁要塞であるマジノ線を建設していた。
これに対して、フランスに侵攻するドイツは防御が相対的に弱いフランス・ベルギー国境線部分からのフランス侵攻策を実行しベルギーを蹂躙しているのである。
中立軽武装のベルギーは自分を守る術がなかったものである。
この様な経緯から学ぶべきことの最初は、重武装中立のスイスは中立を守ったことである。
NATOへの加盟申請をしているスウェーデンだが、重武装中立国として今までの長い期間平和を維持している。
次に学ぶべきことは、中立国だとの認証を得たとしても近隣国が傍若無人な振る舞いをすれば中立国だとしても国土・国民が蹂躙されてしまうということである。
2つの大戦での苦い経験から、第二次世界大戦後にルクセンブルグもベルギーも1949年のNATO発足時からNATOに加盟している。
「中立国は、その領土・領海・領空について交戦国による一切の侵犯から免れる」との建て付けは、時として傍若無人な周辺国によって反故にされるのが歴史の事実である。
最後に
スウェーデンのNATO加盟が実現化しそうだとのニュースを見て少々感想を述べたのだが、中立国政策が機能するかしないかは、結局は「戦争当事国側がそれを認める」ことが必須だということだと結論されると考えた。
戦争当事国の両方が「中立国だと認める」ことと「中立国の権利(交戦国による侵犯から免れる)」を尊重することが必須である。
つまり、戦争当事国のどちらか一方が「そんなこと知らんがな」となってしまっては、中立国は武力侵攻を受けることになる。
そして、その様な事態が起こった場合、中立国は自国を守る為に自らが武力事態に対処して侵攻国を排除しなければ、その独立を守れず、自国の平和は毀損される。
自身の地理的環境、同地域の政治的環境、軍事的環境との外部要因により、中立国政策は必ずしも自国の平和を守る策ではないということが分かったと思う。
表題に書いた通り、欧州では近隣国であるロシアによる武力行使から、中立政策の有効性はなくなり終焉へと向かっているのだと思う。
勿論、中南米などの地域では、まだ中立国政策が有効性を失っていない地域もあると思うが、欧州や東アジア地域では価値観を共有する国々での連携策の方が、有用性が高くなっていると感じる。
我が国の場合、周辺国には、当のロシアがあり、専制主義・中華帝国主義の中国があり、国際社会からの非難を受けながら核・弾道ミサイルの実験・配備を続けている北朝鮮があるのだから、非武装中立が如何に無責任な虚偽であるのかは分かると思う。
ところが、最近も言葉を代えただけの「中立論」が残っているのである。「等距離外交」とか「アジア共同体」などがそれである。
この様な詐欺話に騙されることなく現実世界をしっかりと見据え、我々日本人の命、平和・安寧を確保する政策を我が国政府が実施していることを確認し続けることが我々自身を守ることになると考える次第である。
しかし、安倍時代は本当に良かった。
今回は以上である。
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【文末脚注】
(*1):スウェーデンのNATO加盟が実現化するであろうとのニュース
↓
NHK NEWS WEB 2023年7月11日 12時13分
見出し:◆NATO スウェーデンの加盟へ大きく前進 トルコ“議会にはかる”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230711/k10014124891000.html記事:○スウェーデンのNATO=北大西洋条約機構への加盟についてトルコがなるべく早く議会にはかることで合意したことを受け、アメリカのバイデン大統領らは声明などを発表し、歓迎しました。今後、トルコ議会での批准の手続きがどれだけ早く進むかが注目されます。
○NATO首脳会議を翌日に控えた10日、リトアニアの首都ビリニュスでトルコのエルドアン大統領とスウェーデンのクリステション首相が会談し、エルドアン大統領はスウェーデンの加盟に向けてなるべく早くトルコ議会で批准の手続きを進めることに合意しました。
○会談後の会見でスウェーデンのクリステション首相は「われわれはスウェーデンのNATOへの正式加盟に向けて、非常に大きな一歩を踏み出すことができた」と述べて喜びの意を表しました。
○これについてアメリカのバイデン大統領は「スウェーデンをNATOの同盟国として迎えることを楽しみにしている」と歓迎する声明を発表しました。
○ドイツのベアボック外相も「スウェーデンのNATO加盟へトルコ議会での批准の道がようやく開けた」とSNSに投稿しました。
○一方、トルコのエルドアン大統領は「今後のプロセスはもちろん合意の履行を進めていくことだ」と述べ、スウェーデンに対しクルド人武装組織などを念頭に対策を着実に講じるよう重ねて求めていて、今後、トルコ議会での批准の手続きがどれだけ早く進むかが注目されます。
小見出し:◆松野官房長官「NATO加盟申請の決断を支持」
○松野官房長官は閣議の後の記者会見で「ロシアによるウクライナ侵略などにより、国際安全保障環境が厳しさを増す中、同志国間の連携がこれまで以上に重要になっているとの観点から、スウェーデンによるNATO加盟申請の決断を支持している」と述べました。
○その上で、岸田総理大臣がリトアニアで11日から開かれるNATOの首脳会議に出席することに触れ「日本とNATOの連携・協力を新たな高みに引きあげるべく、日NATOの協力文書を発表したい。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向け、NATOとの連携を一層強化していく」と述べました。
<引用終わり>
(*2):現行憲法の前文と9条
↓
2015/11/20投稿:
「平和憲法」との偽看板
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-269.html2017/05/19投稿:
憲法議論1・前文の「平和主義」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-673.html2022/03/27投稿:
憲法9条は制定当時から無理筋・軸足が「平和を愛する諸国民」にある
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1633.html(*3):社会党は同時に「自衛隊は違憲」とのキャンペーンも延々と続けていた。
↓
2017/05/25投稿:
憲法議論2・憲法9条・議論の出発点
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-677.html2017/06/30投稿:
憲法議論7・現行憲法9条Q&A
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-705.html(*4):社会党は同時に、「米軍基地が日本にあると、それが攻撃対象になるぅ~」「周辺の民家などで被害が出るぅ~」などとのデマを盛に飛ばしていたことを思い出す。社会党の末裔社民党の福島みずほは今も同じことを言っている。
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2017/04/06投稿:
昔ながらの印象操作の一例
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-641.html【ご参考】
2018/03/12 投稿:
所謂「護憲派」の印象操作
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