日本維新の会の「9条「条文イメージ」」に苦笑する・呪縛の永続化
- 2022/05/20
- 22:34
日本維新の会の「9条「条文イメージ」」に苦笑する・呪縛の永続化
副題:9条と自衛隊。その矛盾する存在は両方とも占領下主権喪失期に「12歳の子供」によって作られたもの。それを改憲後の憲法条文で固定化するのは愚策。
今回の題材は産経新聞が報じた「◆維新が9条改憲条文案を発表 「自衛隊保持」を明記
」との記事(*1)である。
現行憲法9条の問題点は、あの条文を素直に読めば我が国は非武装でなければならないのだが、現実世界ではそんな話は成り立たないという点である。
↓
<現行憲法・第2章・第9条>
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
同第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
<引用終わり>
第2項には、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とあるのだから「素直に読めば我が国は非武装でなければならない」となるものである。(*2)実際、現行憲法の基本コンセプトとなったマッカーサー3原則の第2原則には「自衛戦争も認めない」旨の記載がある。
その一方、現実世界では国家が自存自立する為には、その国民・主権・領土を保全し続けることが必須であり、それを軍事力なしで達成することはほぼ不可能である。
実際、1950年6月25日未明に金日成・北朝鮮が南侵して朝鮮戦争が始まると、朝鮮半島及び日本列島の防衛責任を負うマッカーサーは、自身が押し付けた非武装「憲法」など無視して警察予備隊(自衛隊の前身)との武装組織を編成させ再武装させたのである。(*3)
これが、現在も「憲法議論」の度に浮上する「非武装憲法と自衛隊」という相矛盾する状態が存在する経緯である。
要するに、12歳の少年程度の知見しかないアメリカの大男の不見識さが憲法9条問題の原初なのである。
占領期が終わり、主権を回復した1952年4月28日時点でも朝鮮半島では朝鮮戦争が続いていた。朝鮮戦争の停戦協定が締結されたのは、その1年3ヶ月後の1953年7月27日である。
因みに停戦協定の調印者は金日成(朝鮮人民軍最高司令官)及び彭徳懐(中国人民志願軍司令官)とアメリカのM.W.クラーク国連軍司令部総司令官である。韓国の李承晩は停戦協定を不服として調印式に参加していない。実に李承晩らしい短慮な行動である。
占領期は終わったのだが、先の大戦以前は我が国併合地であった朝鮮半島では米ソ東西冷戦構造のマグマが噴出しており、戦争が実際勃発し継続中であった訳だ。
この様な状態では「憲法に合わせて非武装化」は無理であり、同様、実情に合わせての「憲法改正」も無理であったのである。
憲法改正反対派が仕掛け続けた改憲議論タブー論が継続可能だったのは、我が国が長い間、平和を享受できたからである。
我々一般国民が憲法の構造的欠陥に無関心でも日々の暮らしには何も影響がなかった。
そういう状態は、日米安保条約に基づく在日アメリカ軍によって担保されていた。
米ソ東西冷戦構造は奇しくも我が国の国民を蚊帳の外にして在日米軍が担った。
勿論、ソ連正面の北海道は自衛隊が配備され頑張っていた。
在日米軍は北海道にまともな基地を持たず青森の三沢が最前線基地だったのは、ソ連との直接対決が核戦争勃発リスクであったからであるが、「在日米軍なき日本列島」では被侵略リスクは桁違いに大きいことは衆目の一致するところである。
その一方、自衛隊と在日米軍という我々日本人を守っている存在がお嫌いなnoisy minorityは「非武装中立」=自衛隊解体と日米安保廃止を声高に叫んでいた。
その際のnoisy minorityは「憲法違反の存在である自衛隊」なる主客逆転した屁理屈(*4)を述べており、それを今も続けている。
12歳の少年程度の知見しかないアメリカの大男の不見識さ生んだ憲法9条と自衛隊との相反する存在に対して、先人は現行憲法を「解釈」することで凌いだ。
なかなかに苦しい言い分だが、それでやってきたのが事実である。
しかし、現行憲法9条が残置されたままではnoisy minorityが「憲法違反の存在である自衛隊」なる神学論争を続ける余地があり、不毛な話が続くであろう。
国民の命、平和・安寧の確保に不安が生じていなかった事が、この不毛な話が生きながらえた背景だと考えている。
自民党が改憲案を提示したのは2012年4月のことである。
それ以降、何処の党も具体的な改憲草案を出したことはない。
今回、維新の会が9条だけとは言え「具体的な条文案」を示したことは画期的なことだと思う。
また、産経新聞が先日報じた維新の会の今夏の参議院選公約案(*5)では、①男系継承を重視する、②9条への自衛隊明記、③緊急事態条項の創設など同意できる項目を提示している。
ところが、今回の「9条への自衛隊明記」の具体的条文案を記事で読んだのだが、案の定のズッコケであった。オリジナリティがない追従でしかないからだ。(*6)
冒頭で紹介した、見出し「◆維新が9条改憲条文案を発表 「自衛隊保持」を明記」の中から該当部分を以下に紹介する。
↓
<引用開始>
(前略)現行の条文は残したまま「9条の2」を新設し、「前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する」とした。(中略)
改憲の前提として、憲法の平和主義、戦争放棄の考え方は「堅持する」としている。集団的自衛権の行使など、現行の憲法解釈の枠組みも維持する。(中略)
「いわゆる加憲のような形になる」と述べ、現行の9条1項、2項はそのまま残す考え方を説明。「自衛隊を違憲と主張する政党や有識者がいる中で、憲法に自衛隊を位置づけ、そうした主張の根拠を解消する」と語った。
<引用終わり>
記事中に維新の会自身が「加憲」と言っているが、「加憲」とは公明党が随分前から言っている誤魔化し論法である。
「憲法を変えたら戦争になるぅ~!」なるくだらない煽動をしている政党や人物がいるが、その煽動に乗せられてしまうレベルの相手に対して「憲法9条は何も変えません。だから戦争になんかなりません。付け加えるだけです」との言い訳をする為のものでしかない。
以下に、維新の会の「加憲」後の想定条文を例示する。
↓
<例示開始>
○第9条:(現行条文と同じ)
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
同第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
○第9条の2:(維新の会案)
前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する。
<例示終わり>
お読みいただければ分かると思うが、「前条の範囲内」の定義が先ず不明である。
また条文間の整合が取れているのかというと、かなり疑問である。
9条第2項の【陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。】をそのまま残し、第3項に【前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する。】との趣旨の条文を追加する「加憲」は、第9条の条文上の矛盾をそのまま新憲法に成文化するとの愚策でしかない。(*7)
維新の会には、憲法関係でもうちょと頑張っていただきたいものだ。
最後になるが、産経記事では、維新の会は「改憲の前提として、憲法の平和主義、戦争放棄の考え方は「堅持する」としている」なる記述がある。
しかし、維新の会は何を以て「憲法の平和主義」などと言っているのであろうか?
「左巻き教科書がそう書いてあるから」であろう。
左巻き教科書では「憲法前文の三原則」なる言い方で、そのうちの1つが「平和主義」だと言っているので、それを無批判に、そのまま採用しているとしか思えないのである。現行憲法の前文を読めば、その「平和主義」とは、「「世界平和を日本から守る為に日本は「平和を愛する諸国民」の指示に従え」「軍隊を持つと日本は戦争を始めるので陸海空軍その他の戦力を保持させない」という内容である。(*8)
維新の会の議員・党員・支持者の皆さんは、是非とも先入観なしで現行憲法の前文をお読みいただきたい。
そんな時間がないと言うのなら、以下の以前の論考だけでも目を通していただきたい、
↓
<現行憲法の「平和主義」の正体>
2017/05/19投稿:
憲法議論1・前文の「平和主義」
<憲法議論をはじめよう2>
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-673.html
令和の時代の改憲とは、占領下にマッカーサーによって押し付けられた歪んだ「平和主義」の現行憲法を破棄して、日本人自身による日本人の為の平和主義を宣言するものだと当方は考えているので、かっこいいスローガンなどではなく、その中身が大切だと考えているものである。
今回は以上である。
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【文末脚注】
(*1):今回の題材の産経新聞記事
↓
産経新聞 2022/5/18 16:52
見出し:◆維新が9条改憲条文案を発表 「自衛隊保持」を明記
https://www.sankei.com/article/20220518-GTFCMGKNUJIUBNQU4WFY6VY2UM/
記事:○日本維新の会は18日、憲法9条に自衛隊を明記する「条文イメージ」を発表した。現行の条文は残したまま「9条の2」を新設し、「前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する」とした。
○維新は夏の参院選公約にも憲法への自衛隊明記を掲げる方針。具体的な条文案を示すことで、衆参両院の憲法審査会を含め、改正論議の活性化につなげたい考えだ。
○改憲の前提として、憲法の平和主義、戦争放棄の考え方は「堅持する」としている。集団的自衛権の行使など、現行の憲法解釈の枠組みも維持する。
○藤田文武幹事長は18日の記者会見で「いわゆる加憲のような形になる」と述べ、現行の9条1項、2項はそのまま残す考え方を説明。「自衛隊を違憲と主張する政党や有識者がいる中で、憲法に自衛隊を位置づけ、そうした主張の根拠を解消する」と語った。
<引用終わり>
(*2):現行憲法第9条第2項には、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とあるのだから「素直に読めば我が国は非武装でなければならない」となるものである。実際、現行憲法の基本コンセプトとなったマッカーサー3原則の第2原則には「自衛戦争も認めない」旨の記載がある。
↓
2017/06/30投稿:
憲法議論7・現行憲法9条Q&A
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-705.html
<マッカーサー3原則>
2016/07/29投稿:
(資料編)マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-467.html
◆第2原則:非武装規定・前文+9条
2016/07/31投稿:
(解説編2)マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
【ご参考】(押し付け憲法)
2017/05/20投稿:
(資料編)憲法前文の登場・9条の登場と変遷
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-674.html
(*3):1950年6月25日未明に金日成・北朝鮮が南侵して朝鮮戦争が始まると、朝鮮半島及び日本列島の防衛責任を負うマッカーサーは、自身が押し付けた非武装「憲法」など無視して警察予備隊(自衛隊の前身)との武装組織を編成させ再武装させたのである。
↓
2015/06/22投稿:
【憲法9条】占領時主権喪失期の憲法制定と再武装
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-135.html
(*4):「憲法違反の存在である自衛隊」なる主客逆転した屁理屈
↓
2017/05/25投稿:
憲法議論2・憲法9条・議論の出発点
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-677.html
(*5):維新の会の今夏の参議院選公約案
↓
産経新聞 2022/5/12 15:44
見出し:◆〈独自〉維新の参院選公約案が判明 9条に自衛隊明記、大阪を副首都に
https://www.sankei.com/article/20220512-H6LLNA5S6ZNGLIJ7ZSPZXSAR7Q/
記事:○日本維新の会の夏の参院選公約案が12日、判明した。皇室の在り方に関しては、例外なく維持されてきた男系継承を重視する考えを打ち出した。憲法改正をめぐっては9条への自衛隊明記、緊急事態条項の創設を訴えた。自民党の長期政権を支えてきた保守票を取り込みたい考えだ。
○公約案では皇族数の減少が懸念されている皇室に関して、古来より男系継承が維持されてきた重みを踏まえ、「旧宮家の男系男子の皇族との養子縁組を可能とするために皇室典範の改正を行う」と明記した。
○新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などに伴い、改正の必要性が相次ぎ指摘されている憲法への対応も手厚くする。「9条については、平和主義・戦争放棄を堅持した上で、自衛隊を明記する」とした上で、「他国による武力攻撃、感染症の蔓延(まんえん)などの緊急事態に対応するための緊急事態条項を憲法に創設する」と記した。
○政権を目指す「責任政党」として、安全保障上の脅威に現実的に対応する考えも示した。防衛費を国内総生産(GDP)比2%まで増額し、「積極防衛能力」の整備を図ると訴え、「ロシアが核兵器による威嚇という暴挙に出てきた深刻な事態を直視し、核共有を含む拡大抑止に関する議論を開始する」とした。
○一方、かねて重視してきた国会や統治機構の改革に引き続き取り組む姿勢を強調し、「首都・副首都法を制定し、大阪・関西を首都機能のバックアップを担う拠点とすることにより、二極型国家を実現する」と訴えた。
○国会議員に月額100万円が支給される「文書通信交通滞在費(調査研究広報滞在費)」については、他党に先駆けて問題点を指摘した経緯もあり、徹底的な改革の実現を強調した。
<引用終わり>
(*6):今回の「9条への自衛隊明記」の具体的条文案を記事で読んだのだが、案の定のズッコケであった。オリジナリティがない追従でしかないからだ。
↓
2018/03/17投稿:
自民党改憲推進本部・9条改正7案を提示
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-884.html
2018/03/24投稿:
自民党憲法改正推進本部・新9条案絞り込み
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-889.html
(*7):9条第2項の【陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。】をそのまま残し、第3項に【前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する。】との趣旨の条文を追加する「加憲」は、第9条の条文上の矛盾をそのまま新憲法に成文化するとの愚策でしかない。
↓
2017/06/03投稿:
憲法議論4・憲法議論を進めよう
<憲法議論をはじめよう5>ダメダメな加憲論を考察する。
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-685.html
【ご参考】(公明党の「加憲」)
2016/12/23投稿:
憲法審査会2-2・衆議院2016/11/17
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-568.html
(*8):左巻き教科書では「憲法前文の三原則」なる言い方で、そのうちの1つが「平和主義」だと言っているので、それを無批判に、そのまま採用しているとしか思えないのである。現行憲法の前文を読めば、その「平和主義」とは、「「世界平和を日本から守る為に日本は「平和を愛する諸国民」の指示に従え」「軍隊を持つと日本は戦争を始めるので陸海空軍その他の戦力を保持させない」という内容である。
↓
2015/11/20投稿:
【憲法9条】「平和憲法」との偽看板
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-269.html
2015/11/21投稿:
【憲法9条】「日本人に武器を持たせると他国を侵略する」との濡れ衣
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-270.html
2017/05/18投稿:
憲法議論をはじめよう
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-672.html
2017/05/19投稿:
憲法議論1・前文の「平和主義」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-673.html
2019/01/29投稿:
改憲をしたくない人達が言う「平和主義」との欺瞞
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1100.html
2022/03/27投稿:
憲法9条は制定当時から無理筋・軸足が「平和を愛する諸国民」にある
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1633.html
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副題:9条と自衛隊。その矛盾する存在は両方とも占領下主権喪失期に「12歳の子供」によって作られたもの。それを改憲後の憲法条文で固定化するのは愚策。
今回の題材は産経新聞が報じた「◆維新が9条改憲条文案を発表 「自衛隊保持」を明記
」との記事(*1)である。
現行憲法9条の問題点
現行憲法9条の問題点は、あの条文を素直に読めば我が国は非武装でなければならないのだが、現実世界ではそんな話は成り立たないという点である。
↓
<現行憲法・第2章・第9条>
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
同第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
<引用終わり>
第2項には、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とあるのだから「素直に読めば我が国は非武装でなければならない」となるものである。(*2)実際、現行憲法の基本コンセプトとなったマッカーサー3原則の第2原則には「自衛戦争も認めない」旨の記載がある。
その一方、現実世界では国家が自存自立する為には、その国民・主権・領土を保全し続けることが必須であり、それを軍事力なしで達成することはほぼ不可能である。
実際、1950年6月25日未明に金日成・北朝鮮が南侵して朝鮮戦争が始まると、朝鮮半島及び日本列島の防衛責任を負うマッカーサーは、自身が押し付けた非武装「憲法」など無視して警察予備隊(自衛隊の前身)との武装組織を編成させ再武装させたのである。(*3)
これが、現在も「憲法議論」の度に浮上する「非武装憲法と自衛隊」という相矛盾する状態が存在する経緯である。
要するに、12歳の少年程度の知見しかないアメリカの大男の不見識さが憲法9条問題の原初なのである。
占領期が終わり、主権を回復した1952年4月28日時点でも朝鮮半島では朝鮮戦争が続いていた。朝鮮戦争の停戦協定が締結されたのは、その1年3ヶ月後の1953年7月27日である。
因みに停戦協定の調印者は金日成(朝鮮人民軍最高司令官)及び彭徳懐(中国人民志願軍司令官)とアメリカのM.W.クラーク国連軍司令部総司令官である。韓国の李承晩は停戦協定を不服として調印式に参加していない。実に李承晩らしい短慮な行動である。
占領期は終わったのだが、先の大戦以前は我が国併合地であった朝鮮半島では米ソ東西冷戦構造のマグマが噴出しており、戦争が実際勃発し継続中であった訳だ。
この様な状態では「憲法に合わせて非武装化」は無理であり、同様、実情に合わせての「憲法改正」も無理であったのである。
憲法議論をしなくても安全だった僥倖が神学論争を放置した
憲法改正反対派が仕掛け続けた改憲議論タブー論が継続可能だったのは、我が国が長い間、平和を享受できたからである。
我々一般国民が憲法の構造的欠陥に無関心でも日々の暮らしには何も影響がなかった。
そういう状態は、日米安保条約に基づく在日アメリカ軍によって担保されていた。
米ソ東西冷戦構造は奇しくも我が国の国民を蚊帳の外にして在日米軍が担った。
勿論、ソ連正面の北海道は自衛隊が配備され頑張っていた。
在日米軍は北海道にまともな基地を持たず青森の三沢が最前線基地だったのは、ソ連との直接対決が核戦争勃発リスクであったからであるが、「在日米軍なき日本列島」では被侵略リスクは桁違いに大きいことは衆目の一致するところである。
その一方、自衛隊と在日米軍という我々日本人を守っている存在がお嫌いなnoisy minorityは「非武装中立」=自衛隊解体と日米安保廃止を声高に叫んでいた。
その際のnoisy minorityは「憲法違反の存在である自衛隊」なる主客逆転した屁理屈(*4)を述べており、それを今も続けている。
12歳の少年程度の知見しかないアメリカの大男の不見識さ生んだ憲法9条と自衛隊との相反する存在に対して、先人は現行憲法を「解釈」することで凌いだ。
なかなかに苦しい言い分だが、それでやってきたのが事実である。
しかし、現行憲法9条が残置されたままではnoisy minorityが「憲法違反の存在である自衛隊」なる神学論争を続ける余地があり、不毛な話が続くであろう。
国民の命、平和・安寧の確保に不安が生じていなかった事が、この不毛な話が生きながらえた背景だと考えている。
維新の「9条改憲条文案」の中身は呪縛の永続化でしかない
自民党が改憲案を提示したのは2012年4月のことである。
それ以降、何処の党も具体的な改憲草案を出したことはない。
今回、維新の会が9条だけとは言え「具体的な条文案」を示したことは画期的なことだと思う。
また、産経新聞が先日報じた維新の会の今夏の参議院選公約案(*5)では、①男系継承を重視する、②9条への自衛隊明記、③緊急事態条項の創設など同意できる項目を提示している。
ところが、今回の「9条への自衛隊明記」の具体的条文案を記事で読んだのだが、案の定のズッコケであった。オリジナリティがない追従でしかないからだ。(*6)
冒頭で紹介した、見出し「◆維新が9条改憲条文案を発表 「自衛隊保持」を明記」の中から該当部分を以下に紹介する。
↓
<引用開始>
(前略)現行の条文は残したまま「9条の2」を新設し、「前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する」とした。(中略)
改憲の前提として、憲法の平和主義、戦争放棄の考え方は「堅持する」としている。集団的自衛権の行使など、現行の憲法解釈の枠組みも維持する。(中略)
「いわゆる加憲のような形になる」と述べ、現行の9条1項、2項はそのまま残す考え方を説明。「自衛隊を違憲と主張する政党や有識者がいる中で、憲法に自衛隊を位置づけ、そうした主張の根拠を解消する」と語った。
<引用終わり>
記事中に維新の会自身が「加憲」と言っているが、「加憲」とは公明党が随分前から言っている誤魔化し論法である。
「憲法を変えたら戦争になるぅ~!」なるくだらない煽動をしている政党や人物がいるが、その煽動に乗せられてしまうレベルの相手に対して「憲法9条は何も変えません。だから戦争になんかなりません。付け加えるだけです」との言い訳をする為のものでしかない。
以下に、維新の会の「加憲」後の想定条文を例示する。
↓
<例示開始>
○第9条:(現行条文と同じ)
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
同第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
○第9条の2:(維新の会案)
前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する。
<例示終わり>
お読みいただければ分かると思うが、「前条の範囲内」の定義が先ず不明である。
また条文間の整合が取れているのかというと、かなり疑問である。
9条第2項の【陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。】をそのまま残し、第3項に【前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する。】との趣旨の条文を追加する「加憲」は、第9条の条文上の矛盾をそのまま新憲法に成文化するとの愚策でしかない。(*7)
維新の会には、憲法関係でもうちょと頑張っていただきたいものだ。
維新の会は「憲法の平和主義」の意味を分かっているのか?
最後になるが、産経記事では、維新の会は「改憲の前提として、憲法の平和主義、戦争放棄の考え方は「堅持する」としている」なる記述がある。
しかし、維新の会は何を以て「憲法の平和主義」などと言っているのであろうか?
「左巻き教科書がそう書いてあるから」であろう。
左巻き教科書では「憲法前文の三原則」なる言い方で、そのうちの1つが「平和主義」だと言っているので、それを無批判に、そのまま採用しているとしか思えないのである。現行憲法の前文を読めば、その「平和主義」とは、「「世界平和を日本から守る為に日本は「平和を愛する諸国民」の指示に従え」「軍隊を持つと日本は戦争を始めるので陸海空軍その他の戦力を保持させない」という内容である。(*8)
維新の会の議員・党員・支持者の皆さんは、是非とも先入観なしで現行憲法の前文をお読みいただきたい。
そんな時間がないと言うのなら、以下の以前の論考だけでも目を通していただきたい、
↓
<現行憲法の「平和主義」の正体>
2017/05/19投稿:
憲法議論1・前文の「平和主義」
<憲法議論をはじめよう2>
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-673.html
令和の時代の改憲とは、占領下にマッカーサーによって押し付けられた歪んだ「平和主義」の現行憲法を破棄して、日本人自身による日本人の為の平和主義を宣言するものだと当方は考えているので、かっこいいスローガンなどではなく、その中身が大切だと考えているものである。
今回は以上である。
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【文末脚注】
(*1):今回の題材の産経新聞記事
↓
産経新聞 2022/5/18 16:52
見出し:◆維新が9条改憲条文案を発表 「自衛隊保持」を明記
https://www.sankei.com/article/20220518-GTFCMGKNUJIUBNQU4WFY6VY2UM/
記事:○日本維新の会は18日、憲法9条に自衛隊を明記する「条文イメージ」を発表した。現行の条文は残したまま「9条の2」を新設し、「前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する」とした。
○維新は夏の参院選公約にも憲法への自衛隊明記を掲げる方針。具体的な条文案を示すことで、衆参両院の憲法審査会を含め、改正論議の活性化につなげたい考えだ。
○改憲の前提として、憲法の平和主義、戦争放棄の考え方は「堅持する」としている。集団的自衛権の行使など、現行の憲法解釈の枠組みも維持する。
○藤田文武幹事長は18日の記者会見で「いわゆる加憲のような形になる」と述べ、現行の9条1項、2項はそのまま残す考え方を説明。「自衛隊を違憲と主張する政党や有識者がいる中で、憲法に自衛隊を位置づけ、そうした主張の根拠を解消する」と語った。
<引用終わり>
(*2):現行憲法第9条第2項には、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とあるのだから「素直に読めば我が国は非武装でなければならない」となるものである。実際、現行憲法の基本コンセプトとなったマッカーサー3原則の第2原則には「自衛戦争も認めない」旨の記載がある。
↓
2017/06/30投稿:
憲法議論7・現行憲法9条Q&A
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-705.html
<マッカーサー3原則>
2016/07/29投稿:
(資料編)マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-467.html
◆第2原則:非武装規定・前文+9条
2016/07/31投稿:
(解説編2)マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
【ご参考】(押し付け憲法)
2017/05/20投稿:
(資料編)憲法前文の登場・9条の登場と変遷
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-674.html
(*3):1950年6月25日未明に金日成・北朝鮮が南侵して朝鮮戦争が始まると、朝鮮半島及び日本列島の防衛責任を負うマッカーサーは、自身が押し付けた非武装「憲法」など無視して警察予備隊(自衛隊の前身)との武装組織を編成させ再武装させたのである。
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2015/06/22投稿:
【憲法9条】占領時主権喪失期の憲法制定と再武装
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-135.html
(*4):「憲法違反の存在である自衛隊」なる主客逆転した屁理屈
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2017/05/25投稿:
憲法議論2・憲法9条・議論の出発点
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-677.html
(*5):維新の会の今夏の参議院選公約案
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産経新聞 2022/5/12 15:44
見出し:◆〈独自〉維新の参院選公約案が判明 9条に自衛隊明記、大阪を副首都に
https://www.sankei.com/article/20220512-H6LLNA5S6ZNGLIJ7ZSPZXSAR7Q/
記事:○日本維新の会の夏の参院選公約案が12日、判明した。皇室の在り方に関しては、例外なく維持されてきた男系継承を重視する考えを打ち出した。憲法改正をめぐっては9条への自衛隊明記、緊急事態条項の創設を訴えた。自民党の長期政権を支えてきた保守票を取り込みたい考えだ。
○公約案では皇族数の減少が懸念されている皇室に関して、古来より男系継承が維持されてきた重みを踏まえ、「旧宮家の男系男子の皇族との養子縁組を可能とするために皇室典範の改正を行う」と明記した。
○新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などに伴い、改正の必要性が相次ぎ指摘されている憲法への対応も手厚くする。「9条については、平和主義・戦争放棄を堅持した上で、自衛隊を明記する」とした上で、「他国による武力攻撃、感染症の蔓延(まんえん)などの緊急事態に対応するための緊急事態条項を憲法に創設する」と記した。
○政権を目指す「責任政党」として、安全保障上の脅威に現実的に対応する考えも示した。防衛費を国内総生産(GDP)比2%まで増額し、「積極防衛能力」の整備を図ると訴え、「ロシアが核兵器による威嚇という暴挙に出てきた深刻な事態を直視し、核共有を含む拡大抑止に関する議論を開始する」とした。
○一方、かねて重視してきた国会や統治機構の改革に引き続き取り組む姿勢を強調し、「首都・副首都法を制定し、大阪・関西を首都機能のバックアップを担う拠点とすることにより、二極型国家を実現する」と訴えた。
○国会議員に月額100万円が支給される「文書通信交通滞在費(調査研究広報滞在費)」については、他党に先駆けて問題点を指摘した経緯もあり、徹底的な改革の実現を強調した。
<引用終わり>
(*6):今回の「9条への自衛隊明記」の具体的条文案を記事で読んだのだが、案の定のズッコケであった。オリジナリティがない追従でしかないからだ。
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2018/03/17投稿:
自民党改憲推進本部・9条改正7案を提示
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-884.html
2018/03/24投稿:
自民党憲法改正推進本部・新9条案絞り込み
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-889.html
(*7):9条第2項の【陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。】をそのまま残し、第3項に【前条の範囲内で、法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織としての自衛隊を保持する。】との趣旨の条文を追加する「加憲」は、第9条の条文上の矛盾をそのまま新憲法に成文化するとの愚策でしかない。
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2017/06/03投稿:
憲法議論4・憲法議論を進めよう
<憲法議論をはじめよう5>ダメダメな加憲論を考察する。
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-685.html
【ご参考】(公明党の「加憲」)
2016/12/23投稿:
憲法審査会2-2・衆議院2016/11/17
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-568.html
(*8):左巻き教科書では「憲法前文の三原則」なる言い方で、そのうちの1つが「平和主義」だと言っているので、それを無批判に、そのまま採用しているとしか思えないのである。現行憲法の前文を読めば、その「平和主義」とは、「「世界平和を日本から守る為に日本は「平和を愛する諸国民」の指示に従え」「軍隊を持つと日本は戦争を始めるので陸海空軍その他の戦力を保持させない」という内容である。
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2015/11/20投稿:
【憲法9条】「平和憲法」との偽看板
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-269.html
2015/11/21投稿:
【憲法9条】「日本人に武器を持たせると他国を侵略する」との濡れ衣
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-270.html
2017/05/18投稿:
憲法議論をはじめよう
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-672.html
2017/05/19投稿:
憲法議論1・前文の「平和主義」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-673.html
2019/01/29投稿:
改憲をしたくない人達が言う「平和主義」との欺瞞
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1100.html
2022/03/27投稿:
憲法9条は制定当時から無理筋・軸足が「平和を愛する諸国民」にある
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1633.html
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