防衛予算議論の本質は「国民を守る為に必要な予算」・対GDP比について
- 2022/04/28
- 22:42
防衛予算議論の本質は「国民を守る為に必要な予算」・対GDP比について
副題:経済的視点では概ね正しいのだが、防衛費の本質である「国民を守る為に必要な規模の予算」との大前提が脇に置かれている残念な記事
核保有国ロシアが非保有国ウクライナに武力侵攻してから約2ヵ月が経過した。
いまや、メディアを筆頭に反ロシアの声一色になっており、マンガ映画的な勧善懲悪路線の「報道」に乗せられている様にも感じる。
「「片方の目」だけで判断するのは危険」との原則からは、メディアが「報道」しない2014年3月のロシアによるクリミア半島併合に至る原因・コンテキストをもう一度振り返る必要があるだろうが、現状では誰も聞いてくれそうにない。精々がモスクワから見たウクライナの地政学的位置付け(*1)程度を述べる程度である。
ウクライナ情勢を我々日本人の命、平和・安寧の確保に軸足を置いて見ると幾つかの教訓がある。
今般のロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナの安全保障・武力事態抑止策が破綻したから起こったことである。ウクライナが採用してきたこれまでの安全保障・武力事態抑止策では、自国の安全・平和は守れないことが分かったと思う。
ウクライナの「非核政策」「専守防衛政策」及び「集団防衛体制への未加入・未締結」が武力事態の未然防止に効果がなかったことは誰の目にも明らかである。(*2)
同様、集団防衛体制がなく、かつ、対峙する国が核保有国である場合、紛争当事国以外の国々は軍事的に介入してこない。
当たり前である。自ら火中の栗を拾うリスクを負うことを避けるのは、自国を安全に保つ為には当たり前の考え方である。
そういう状態なので、以前、自称「平和勢力」が言っていた「話し合いで解決」とか「国際世論に訴えて戦争を回避」とか「日本を守る憲法9条」とかの総てが現実世界ではあり得ない戯言だということが分かったと思う。
それら戯言を言っていた連中は、ウクライナ情勢を見て「抵抗せずに降伏すれば命を失わなくて済む」などと別の戯言を言っているのだが、彼等は物事を真面目に考えていないので、2つの事柄で間違っている。
1つは、以前の論考でも指摘したことだが、武力事態が終息したからと言って命の保証はない。70数年前にロシア兵が8月15日以降の満州で非戦闘員の女・子供に対して行った暴虐を忘れてしまったかの様な虚偽を言っているものである。(*3)
もう1つは、降伏してしまったら交渉当事者の立場を失うという現実を隠している点である。
「話し合いで解決」するには侵略してくる相手に対して、その目的が達成出来ていない段階でしか交渉は出来ない。そういう現実を無視しているので、従前言っていた「話し合いで解決」との手段を自ら放棄してしまう「抵抗せずに降伏」なる愚策を平気で口にするのである。
この様な自称「平和勢力」の虚偽言説とは異なり、かなりまともな言説も最近は記事になっている様で、それはそれで良い傾向だとは思うのだが、それでも少なくない違和感を持った東洋経済の記事(*4)があるので、今回は、それを題材にする。
今回の題材の東洋経済の記事の表題は「◆日本の防衛費は「対GDP比2%」へ倍増できるのか 安全保障戦略と経済・金融・財政の深い関係」である。
大筋に於いて経済的視点では概ね正しいのだが、防衛費の本質である「国民を守る為に必要な規模の予算」との大前提が脇に置かれている記事であり、ちょっと残念である。
何処がどの様に残念なのかを述べていくことにする。
同記事は冒頭で、防衛費を「今後5年以内に2%以上へ引き上げるよう政府に要請」する動きを紹介し、「対GDP比2%以上」との数値に対して、「NATOの動きと関係がある」と紹介している。
防衛費に関心がない人達に「対GDP比2%以上」との数値を説明するには必要な解説である。
しかしながら、以下の様な解説では不充分であり、残念な点がある。
↓
<東洋経済記事から抜粋引用開始>
NATOは、ウクライナ侵攻やコロナ禍の前から、国防費の対GDP比2%目標を掲げていた。2014年のことだ。
当時、NATO加盟国であるEU諸国において国防費対GDP比は、平均で1.19%だった。それが、2019年には1.53%に上がった。(中略)
特に、強い印象を与えたのは、NATO加盟国のドイツとNATO非加盟国のスウェーデンである。ドイツは、健全財政路線を堅持しているが、2022年から国防費を対GDP比2%とすべく予算を組んだ。対GDP比でみると、2021年は1.49%だったところから2%にまで大幅に増額するという。
<引用終わり>
これの何処が「不充分」なのかと言うと、「何故、2014年にNATOは加盟各国の防衛費目標を「対GDP比2%」にしたのか」との背景が書かれていないからである。
そうなった理由は、先ず最初に2014年に何が起こったかを書くと、3月にロシアによるクリミア半島の併合があった。そして9月にはNATO軍の即応性・防衛能力の強化を目指した「NATOウェールズ首脳会合」(*5)が開催され、以前からあった「NATO指標」の「対GDP比2%」が未達の国々に対して「10年以内に同水準に向けて引き上げる」ことに合意している。尚、2014年9月時点のアメリカ大統領はオバマである。
要するに、ロシアによるクリミア併合をNATO側視点で見ると、それ以前は「平和の配当」により削減出来ていた防衛費を、やはり元に戻す必要があると判断された為に「NATO標準の2%」に戻すことを合意したものだ。
もう1つの「残念な点」とは、「対GDP比」の比率事例が不適切なところである。
上記した記事の引用では、①NATO平均で1.19%(時期の明記なし)が1.53%(2019年)に上昇したことと、②ドイツが1.49%(2021年)だった防衛費を「2%に大幅増額」するとの方針を表明しているとの2点が書かれているのだが、比較するレンヂが適切ではない。
この様に考えるのは、NATOとは、そもそもが先の大戦終了後に米ソ東西対立が露わになり、旧ソ連邦(及びその衛星国)との対峙点が欧州では東西ドイツ国境であることから、西側諸国がソ連邦に対抗する為に組織した軍事同盟である。
従い、1989年の実質的な米ソ東西冷戦の終焉と1992年のソ連邦崩壊の前と後では、全く様相が異なっており、NATO諸国の防衛費はその頃を境に大幅に減少しているものである。
これは、防衛費という予算の性格上当たり前の動きである。
因みに、NATO主要国のうちドイツの防衛費の対GNP比推移(*6)を紹介しておく。
戦後ドイツが再軍備したのは1955年(昭和55年)のことで、その際にドイツはドイツ憲法(ドイツ基本法)の改憲をしている(*7)。一方、防衛費の推移データは1960年から2019年までの60年間である。
1960年代の10年間のドイツの防衛費の対GNP比は、最小値3.45%(1969年)から最大値4.98%(1963年)の範囲で推移している。Rolling ‘60’sの時代である
1970年代の10年間は少し落ち着き、最小値3.01%(1979年)から最大値3.34%(1975年)の範囲で推移している。
1980年代の最後の年、1989年はベルリンの壁が崩壊した年であり、米ソ東西冷戦の終わりの始まりの年であるが、防衛費としては、その前年に策定されているので、まだ大きくは減少していない。1980年代の10年間の防衛費の対GNP比は、最小値2.57%(1989年)から最大値3.09%(1981年)の範囲で推移している。
大転換した1989年までの30年間の単純平均値は3.38%である。
(1960年代:4.08%、1970年代:3.16%、1980年代:2.91%)
ソ連邦が崩壊したのは1992年である。
その1990年代の10年間は、ソ連邦崩壊前の1990年が2.56%で最大値となっているもので、逆に崩壊後は1996年から1999年まで1.4%代で推移している。
1990年代の単純平均値は1.71%である。
1989年から1992年の転換期の4年間とその後の1993年からの4年間を比較すると以下の様な数値となる。
↓
<転換期4年間:単純平均2.26%>
1989年2.57%→1990年2.56%→1991年2.03%→1992年1.89%
<冷戦終了後4年間:単純平均1.58%>
1993年1.72%→1994年1.58%→1995年1.52%→1996年1.49%、
米ソ東西冷戦構造に終焉とは、ドイツにとっては軍事的脅威との外的要因が大きく減少したもので、国家国民を守る為に必要な予算である防衛費が、脅威の減少に伴い減少するのは当然の動きである。
防衛費の減少は政府支出の減少であり、これを当時は「平和の配当」と称された。
2000年代の10年間の防衛費の対GDP比は単純平均値で1.30%、2010年代の10年間の単純平均値は更に減少し1.21%となっているものである。
1960年から大転換した1989年までの30年間の単純平均値は3.38%なのだが、米ソ東西冷戦構造崩壊後の1990年から2019年までの30年間の単純平均値は1.41%と大きく減少している。
ところが、2014年のロシアによるクリミア併合により、対処すべき脅威度が増大したものであり、冷戦後の防衛費の減少が当然である様に、脅威の増大との外的要因の変化に応じてドイツが防衛費を増大させることも当然のことである。
そうであるにも関わらず、東洋経済の記事では、冷戦構造がなくなった後の少ない防衛費比率(2021年1.49%)と比較して「2%への増大」との書き方をしているものである。
米ソ東西冷戦時のソ連邦の脅威があった時代30年間のドイツの防衛費の対GDP比単純平均値は3.38%であることから考えれば、ロシアがクリミア半島に併合し、今年になってからウクライナへの軍事進攻を実行したことからは、NATO標準値2%への増額は、「必要だから増額する」という話であり、それ以外の何物でもない。
東洋経済の当該記事の後半は、我が国の防衛費を2%にすることの困難さについて述べているものである。
以下の部分などはまったくの正論であり、同意出来るものである。
↓
<引用開始>
わが国の財政状況を度外視してでも防衛費の規模を対GDP比2%にするということでは、わが国の安全保障は成り立たない。
そもそも、どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのかといったことも、きちんと検討しなければならない。
<引用終わり>
しかし、ここで言う「どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのか」との問い掛けへの答えもヒントも、これ以降には出てこない。
以降に出てくるのは財政状況の話ばかりである。
確かに防衛装備費と財政は今も昔も難しい問題である。
その昔、建艦競争で各国の財政を圧迫したことから、膨大な費用を要する主力艦の保有数を制限することで各国は支出に歯止めかける事を目的にワシントン条約として合意したのだが、その次のロンドン条約では我が国の場合、統帥権干犯との難癖を軍部からかけられ、それ以降の我が国の政治体制が歪んでしまったとの苦い経験がある。(*8)
難しい問題となってしまうのは、防衛費という予算の性格からの宿命だからである。
防衛費とは、国家・国民を防衛する事を可能にする為の費用であり、その主眼点は「我国を守る・国民を守る」にある。
防衛費に限らず、予算とは、そもそも、政策があり、その政策を実行・実現する為の「資源」であり、防衛予算に限らず、福祉予算、インフラ整備予算等の総ての予算は、政策実現の為の資源である。
防衛費の場合は、先ず、我が国の国民の平和・安寧を維持するとの大前提があり、その大前提を実現する為の国防方針があり、国防方針の実行・実現に必要な具体的国防政策があり、その国防政策を実行・実現する資源として予算が付されるのである。
ところが我が国の場合は、いくら必要であっても、従前は「「対GDP比1%」の岩盤規制」(*9)があり、「どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのか」を真剣に考えても1%以内へと足切りされてしまっていたのが実情だ。
今回の東洋経済の記事は、従前の逆「対GDP比1%」との防衛必要性を脇に置いた数値規制と同じ発想で「対GDP比2%」を論じているだけに思えて仕方がない。
何故なら、「対GDP比2%」の提言をしている自民党の部会長は防衛問題に造詣の深い小野寺五典議員であり、むしろ「どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのか」を考えた上で「1%の上限枠」がその様な本来的アプローチを妨げ台無しにしている点を踏まえての提言なのに、東洋経済の記事では「対GDP比2%」との数値と財政だけの論を展開しているので、その様に考える次第である。
残念に思ったのは、こういう理由からである。
繰り返しになるが、本来的アプローチとは、先ず、我が国の国民の平和・安寧を維持するとの大前提があり、その大前提を実現する為の国防方針があり、国防方針の実行・実現に必要な具体的国防政策があり、その国防政策を実行・実現する資源として、予算が要求されるものである。
勿論、財政を一切無視することはない。
結果として、対GDP比がドイツの2010年代中盤頃の1.25%に落ち着くかもしれない。
これは、本来的アプローチをした結果として出てくるもので、その内容が妥当であるかどうかを国会で論じて決定されるものである。
現在の様に、防衛費の総額が1%を超えた途端に、その中身ではなく「対GDP比1%を超えた軍国主義予算だぁ~」と思考停止してしまう事の方が問題である。
今回は以上である。
1日1回ポチっとな ↓
FC2 Blog Ranking 
【文末脚注】
(*1):モスクワから見たウクライナの地政学的位置付けを述べる。
↓
2022/02/28投稿:
ウクライナ情勢雑感1:地政学的視点
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1624.html
2022/03/03投稿:
ウクライナ情勢雑感3:ウクライナ侵攻後の着地点は?
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1626.html
(*2):ウクライナの「非核政策」「専守防衛政策」及び「集団防衛体制への未加入・未締結」が武力事態の未然防止に効果がなかったことは誰の目にも明らかである。
↓
2022/04/09投稿:
共産党・志位の舌先三寸の支離滅裂:ウクライナ情勢雑感9
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1637.html
(*3):戯言を言っていた連中は、ウクライナ情勢を見て「抵抗せずに降伏すれば命を失わなくて済む」などと別の戯言を言っているのだが、彼等は物事を真面目に考えていないので、2つの事柄で間違っている。1つは、以前の論考でも指摘したことだが、武力事態が終息したからと言って命の保証はない。70数年前にロシア兵が8月15日以降の満州で非戦闘員の女・子供に対して行った暴虐を忘れてしまったかの様な虚偽を言っているものである。
↓
2022/03/20投稿:
「降伏すれば命は安泰」なる虚偽。悲劇は戦争後も続く:ウクライナ情勢雑感7
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1631.html
(*4):東洋経済の記事
↓
東洋経済 2022/04/25 6:30
見出し:◆日本の防衛費は「対GDP比2%」へ倍増できるのか 安全保障戦略と経済・金融・財政の深い関係
https://toyokeizai.net/articles/-/584243
記事:○ロシアのウクライナ侵攻は、わが国の安全保障論議にも大きな衝撃を与えている。今夏の参院選挙後にも佳境を迎えると見込まれる、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の「防衛戦略3文書」の策定に向けた動きも、活発になっている。
○わが国の防衛関係費は、2022年度当初予算で5兆3145億円である。自民党の安全保障調査会を中心に、目下GDP(国内総生産)比が1%程度である防衛費を、今後5年以内に2%以上へ引き上げるよう、政府に要請しようとしている。
小見出し:◆防衛費倍増の動きはNATOと関係
○防衛費の対GDP比を2%以上に引き上げるとは、どういうことか。それは、ウクライナ支援で結束しているNATO(北大西洋条約機構)の動きと関係がある。
○NATOは、ウクライナ侵攻やコロナ禍の前から、国防費の対GDP比2%目標を掲げていた。2014年のことだ。当時、NATO加盟国であるEU諸国において国防費対GDP比は、平均で1.19%だった。それが、2019年には1.53%に上がった。
○加えて、今般のウクライナ侵攻を受けて、欧州域内に戦場を抱えることとなった結果、国防費増額を表明するNATO加盟国が次々と出てきた。
○特に、強い印象を与えたのは、NATO加盟国のドイツとNATO非加盟国のスウェーデンである。ドイツは、健全財政路線を堅持しているが、2022年から国防費を対GDP比2%とすべく予算を組んだ。対GDP比でみると、2021年は1.49%だったところから2%にまで大幅に増額するという。
○そして、福祉国家として知られるスウェーデンも、国防費を対GDP比で2%にすることを表明した。スウェーデンは、2015年以降コロナ禍の前まで、財政収支を黒字にし続けていた。
○このように、欧州諸国で国防費を対GDP比2%に増額する動きがあって、日本でも防衛費を対GDP比で2%にするよう求める政治的要求が強まっている。日本もそうしないと、NATO加盟国から冷ややかに見られるとの意見も出ている。
○日本の防衛関係費は、NATO基準の国防費とは定義が異なるので、単純に比較することはできない。NATO基準の国防費には、退役軍人への恩給費、PKO(国連平和維持活動)関連経費、海上保安庁予算などの安全保障に関連する経費も含まれている。
○それを踏まえて、日本の予算でNATO基準に直して計算すると、2021年度の金額は約6.9兆円、対GDP比で1.24%程度となる。対GDP比2%は11.2兆円であるから、あと4.3兆円増やさなければならなくなる。
https://toyokeizai.net/articles/-/584243?page=2
○国家予算で4.3兆円とは、どのぐらいの規模なのか。2022年度予算(一般会計と特別会計の純計)で、少子化対策費が4.4兆円、生活保護給付などに充てる生活扶助等社会福祉費が4.8兆円といったところである。それらの年間総額に匹敵するほどの規模の増額をしないと、対GDP比で2%には達しない。
○実はこれまで、防衛関係費は、財政健全化の犠牲になって削減されてきたのではなく、逆にその中でも優遇されて増えてきた。第3次安倍晋三内閣で、各歳出分野での予算編成方針を示す歳出の目安が「骨太方針2015」で設けられて以降、2022年度までの間に、防衛関係費は4000億円程度増えている。公共事業費は1000億円程度、文教及び科学振興費は640億円程度増えたが、それ以外の社会保障費以外の経費は、逆に合計して3000億円強減らされている。防衛費の増額は、ほかの経費の削減や効率化を行うことを通じて、実現してきた。
○対GDP比2%を実現するうえで、ほかの経費を減らしてでも防衛費を増やすという方針に、多くの国民が納得できるかが、問われよう。
小見出し:◆国債を増発して防衛費を増やせばいい?
○いや、そもそもほかの経費を減らしてでも防衛費を増やすという発想自体が、緊縮財政的な発想であって、そうではなく国債を増発して防衛費を増やせばよい、という見方もあろう。
○確かに、防衛装備品の中には、単なる消耗品ではなく、それなりに長い期間安全保障上の重要な役割を担うものもある。長期間にわたり国民に恩恵をもたらすものならば、その購入費を国債で賄えばよいと思うかもしれない。
○しかし、わが国を取り巻く安全保障環境がかつてないほど厳しい中で、ひとたび購入した防衛装備品が、長年にわたりそのまま安全保障上の効力を持ち続けるものは、年を追うごとに少なくなっていくだろう。5年や10年も経てば周辺国が強化する軍事力に比して陳腐化する装備品が続出することもありうる。そうなれば、短期間でさらに高度な防衛装備品を購入しなければならない。だから、国債で防衛費を賄うと、その恩恵を受ける期間はごく短期間にとどまるものの、その元利償還費の負担が長きにわたり国民に及ぶ羽目になる。
https://toyokeizai.net/articles/-/584243?page=3
○加えて、今般のロシアのウクライナ侵攻に直面して顕在化したのは、経済・金融・財政面で脆弱であると安全保障上の支障になる、ということである。侵攻したロシアに対して、先進各国がまずとったことは、経済制裁だった。経済制裁で対抗するということは、それだけ安全保障上でも経済基盤が重要であることを深く認識している証である。
○ロシアでは、先進各国の企業が撤退したことで、失業率がかなり高くなっている。金融面でも、ロシアの主要銀行が国際決済網から排除された。そして、財政面では、ロシア国債が事実上デフォルトしたも同然の状態となっている。
○安全保障は、軍備だけで成り立つものではなく、経済・金融・財政面での基盤がしっかりしていないと成り立たない。そうした基盤が脆弱だと、必要とされる抑止力や継戦能力を維持することもままならないことを、ウクライナ侵攻で痛感させられた。
○だから、わが国の財政状況を度外視してでも防衛費の規模を対GDP比2%にするということでは、わが国の安全保障は成り立たない。そもそも、どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのかといったことも、きちんと検討しなければならない。
○規模ありきで防衛力整備を進めると、有効でない防衛装備品を割高な値段で購入することを容易にしてしまう。また、装備品ばかりあっても人員配置も整わなければ、すぐに実用に供することはできない。それでは、国民の生命と財産を効果的に守ることができない。
○侵攻しようとする国は、侵攻される国が軍事面だけでなく、経済面でも脆弱である状態を狙ってくる。それは、未然に防がなければならない。
小見出し:◆NATO加盟国は国防費増と財政健全化をセットで進めた
○だから、NATO加盟国では、2014年以降国防費を増やした時期に、財政健全化にも熱心に取り組んでいた。2014年から2019年までの5年を見てみると、EUに加盟するNATO加盟国20カ国において、財政赤字の対GDP比が3%以下の国は、11カ国から18カ国にまで増えた。また、前掲のスウェーデンは、国防費を対GDP比で2%にするのに合わせて、その財源としてたばこ税・酒税の増税や銀行税の導入を発表している。こうして財政基盤を維持・強化している。
○外交によって、国際紛争を未然に防ぐのが最優先されるべきである。しかし、それだけではわが国を取り巻く安全保障上の脅威が払拭できないならば、国民の生命と財産を守るためにどんな防衛力が必要かを考えることが求められる。そのためには、規模ありきの防衛費ではなく、真に効果的な防衛力を整備するために質の高い防衛費とすることが重要である。そして、有事にしっかりと耐えられる経済・金融・財政とするためのマクロ経済運営を、平時から行っていくことが、安全保障上でも不可欠である。
<引用終わり>
(*5):NATOウェールズ首脳会合
↓
外務省HP 平成26年9月8日
表題:◆NATOウェールズ首脳会合概要
(9月4日~5日,於:ニューポート(英国))
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page22_001428.html
記事:○1.NATO軍の即応性・防衛能力の強化
(1)ロシアによるウクライナ攻撃,中東の過激派台頭,北アフリカの不安定化を受け,NATOが全方位的な任務を引き受け,加盟国を全方位的な脅威から守れるよう,NATOの集団防衛を強化する即応性行動計画(RAP)に合意。これは,NATO即応部隊(NRF)内の初動対処部隊(VJTF/極めて短時間で展開可能な部隊)の創設,迅速な増派のための東方加盟国内への司令部の常時配置,受入施設の整備,装備・物資の事前配置,更に集団防衛に焦点を当てた演習計画の強化を含むもの。バルト諸国,ポーランド,ルーマニアが施設提供の意思を表明。
(2)防衛能力を強化するサイバー防衛等の優先分野のパッケージに合意。枠組国概念(FNC)を承認し,独英伊等を中心に有志加盟国による能力開発・部隊編成を実施。
2.大西洋間の絆と責任の分担の再確認
(1)「大西洋間の絆に関するウェールズ宣言」を採択し,ロシアによる違法なクリミア併合・継続的攻撃,北アフリカと中東の暴力・過激派の拡大に備えるため,北米及び欧州の全加盟国の国民,領土,主権及び共通の価値を防衛する継続不変のコミットメントを再確認。
(2)防衛予算の反転,効果的使用と負担・責任の均衡達成のため,NATO指標の対GDP比2%未達成国は10年以内に同水準に向けて引き上げるよう目指し,防衛予算の研究開発を含む主要装備品支出充当率も20%に増額するよう目指すことに合意。
3.ウクライナ危機とNATOロシア関係
(1)NATOウクライナ委員会は共同宣言を採択し,ロシアに対し,クリミア「併合」撤回,東部ウクライナ武装勢力支援停止,部隊撤収等を要求。また,ウクライナに対し,指揮統制通信,兵站・標準化,サイバー防衛等の新規支援を表明し,ウクライナとNATO間の相互運用性向上のための高次の機会への参加を期待。
(2)ロシアはNATOロシア基本文書・ローマ宣言に違反したが,NATOの今次首脳会合での諸決定はルールに基づく欧州安全保障枠組を尊重するもの。実務協力の停止と政治対話の維持は継続。今後のNATOロシア関係はロシアの行動の変化による。(以下略)
<引用終わり>
(*6):ドイツの防衛費の対GNP比推移
↓
ドイツの軍事費の対GDP比率(推移と比較グラフ)
https://graphtochart.com/img/graph/military-expenditure-of-gdp-de-mychart3-2019.webp
<西暦・軍事費の対GDP比率>
1960年3.83%、1961年3.80%、1962年4.57%、1963年4.98%、1964年4.45%
1965年4.16%、1966年3.97%、1967年4.14%、1968年3.46%、1969年3.45%
1970年3.06%、1971年3.11%、1972年3.22%、1973年3.21%、1974年3.31%
1975年3.34%、1976年3.19%、1977年3.09%、1978年3.10%、1979年3.01%
1980年3.01%、1981年3.09%、1982年3.08%、1983年3.08%、1984年2.97%
1985年2.91%、1986年2.84%、1987年2.82%、1988年2.68%、1989年2.57%
1990年2.56%、1991年2.03%、1992年1.89%、1993年1.72%、1994年1.58%
1995年1.52%、1996年1.49%、1997年1.43%、1998年1.41%、1999年1.42%
2000年1.38%、2001年1.34%、2002年1.35%、2003年1.34%、2004年1.29%
2005年1.28%、2006年1.22%、2007年1.20%、2008年1.25%、2009年1.36%
2010年1.32%、2011年1.25%、2012年1.26%、2013年1.20%、2014年1.14%
2015年1.15%、2016年1.15%、2017年1.16%、2018年1.18%、2019年1.28%
<1960年~2019年>
(*7):戦後ドイツが再軍備したのは1955年(昭和55年)のことで、その際にドイツはドイツ憲法(ドイツ基本法)の改憲をしている。
↓
2018/02/10投稿:
「ドイツ憲法の改正回数は「59回」」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-864.html
【ご参考】
2017/08/25投稿:
「ナチスはドイツ憲法で禁止」との慣用句
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-739.html
(*8):ロンドン条約では我が国の場合、統帥権干犯との難癖を軍部からかけられ、それ以降の我が国の政治体制が歪んでしまったとの苦い経験がある。
↓
2017/02/26投稿:
2.26事件考6Final(考察編3):統帥権干犯問題
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-614.html
【ご参考】
2017/02/20投稿:
2.26事件考1(事実確認編
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-609.html
2017/02/21投稿:
2.26事件考2(資料編1):青年将校側言い分・蹶起趣意書と要望事項
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-610.html
2017/02/22投稿:
2.26事件考3(資料編2):告示・俸勅命令・「兵に告ぐ」・散布ビラ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-611.html
2017/02/23投稿:
2.26事件考4(考察編1):決起の理由は何?
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-612.html
2017/02/24投稿:
2.26事件考5(考察編2):時代背景・思想的背景
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-613.html
(*9):「対GDP比1%」の岩盤規制
↓
2017/07/17投稿:
国民の平和と安寧を阻害している岩盤規制
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-714.html
1日1回ポチっとな ↓
FC2 Blog Ranking


副題:経済的視点では概ね正しいのだが、防衛費の本質である「国民を守る為に必要な規模の予算」との大前提が脇に置かれている残念な記事
核保有国ロシアが非保有国ウクライナに武力侵攻してから約2ヵ月が経過した。
いまや、メディアを筆頭に反ロシアの声一色になっており、マンガ映画的な勧善懲悪路線の「報道」に乗せられている様にも感じる。
「「片方の目」だけで判断するのは危険」との原則からは、メディアが「報道」しない2014年3月のロシアによるクリミア半島併合に至る原因・コンテキストをもう一度振り返る必要があるだろうが、現状では誰も聞いてくれそうにない。精々がモスクワから見たウクライナの地政学的位置付け(*1)程度を述べる程度である。
ウクライナ情勢を我々日本人の命、平和・安寧の確保に軸足を置いて見ると幾つかの教訓がある。
今般のロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナの安全保障・武力事態抑止策が破綻したから起こったことである。ウクライナが採用してきたこれまでの安全保障・武力事態抑止策では、自国の安全・平和は守れないことが分かったと思う。
ウクライナの「非核政策」「専守防衛政策」及び「集団防衛体制への未加入・未締結」が武力事態の未然防止に効果がなかったことは誰の目にも明らかである。(*2)
同様、集団防衛体制がなく、かつ、対峙する国が核保有国である場合、紛争当事国以外の国々は軍事的に介入してこない。
当たり前である。自ら火中の栗を拾うリスクを負うことを避けるのは、自国を安全に保つ為には当たり前の考え方である。
そういう状態なので、以前、自称「平和勢力」が言っていた「話し合いで解決」とか「国際世論に訴えて戦争を回避」とか「日本を守る憲法9条」とかの総てが現実世界ではあり得ない戯言だということが分かったと思う。
それら戯言を言っていた連中は、ウクライナ情勢を見て「抵抗せずに降伏すれば命を失わなくて済む」などと別の戯言を言っているのだが、彼等は物事を真面目に考えていないので、2つの事柄で間違っている。
1つは、以前の論考でも指摘したことだが、武力事態が終息したからと言って命の保証はない。70数年前にロシア兵が8月15日以降の満州で非戦闘員の女・子供に対して行った暴虐を忘れてしまったかの様な虚偽を言っているものである。(*3)
もう1つは、降伏してしまったら交渉当事者の立場を失うという現実を隠している点である。
「話し合いで解決」するには侵略してくる相手に対して、その目的が達成出来ていない段階でしか交渉は出来ない。そういう現実を無視しているので、従前言っていた「話し合いで解決」との手段を自ら放棄してしまう「抵抗せずに降伏」なる愚策を平気で口にするのである。
この様な自称「平和勢力」の虚偽言説とは異なり、かなりまともな言説も最近は記事になっている様で、それはそれで良い傾向だとは思うのだが、それでも少なくない違和感を持った東洋経済の記事(*4)があるので、今回は、それを題材にする。
東洋経済の記事について・欧州ドイツの防衛費の見方
今回の題材の東洋経済の記事の表題は「◆日本の防衛費は「対GDP比2%」へ倍増できるのか 安全保障戦略と経済・金融・財政の深い関係」である。
大筋に於いて経済的視点では概ね正しいのだが、防衛費の本質である「国民を守る為に必要な規模の予算」との大前提が脇に置かれている記事であり、ちょっと残念である。
何処がどの様に残念なのかを述べていくことにする。
同記事は冒頭で、防衛費を「今後5年以内に2%以上へ引き上げるよう政府に要請」する動きを紹介し、「対GDP比2%以上」との数値に対して、「NATOの動きと関係がある」と紹介している。
防衛費に関心がない人達に「対GDP比2%以上」との数値を説明するには必要な解説である。
しかしながら、以下の様な解説では不充分であり、残念な点がある。
↓
<東洋経済記事から抜粋引用開始>
NATOは、ウクライナ侵攻やコロナ禍の前から、国防費の対GDP比2%目標を掲げていた。2014年のことだ。
当時、NATO加盟国であるEU諸国において国防費対GDP比は、平均で1.19%だった。それが、2019年には1.53%に上がった。(中略)
特に、強い印象を与えたのは、NATO加盟国のドイツとNATO非加盟国のスウェーデンである。ドイツは、健全財政路線を堅持しているが、2022年から国防費を対GDP比2%とすべく予算を組んだ。対GDP比でみると、2021年は1.49%だったところから2%にまで大幅に増額するという。
<引用終わり>
これの何処が「不充分」なのかと言うと、「何故、2014年にNATOは加盟各国の防衛費目標を「対GDP比2%」にしたのか」との背景が書かれていないからである。
そうなった理由は、先ず最初に2014年に何が起こったかを書くと、3月にロシアによるクリミア半島の併合があった。そして9月にはNATO軍の即応性・防衛能力の強化を目指した「NATOウェールズ首脳会合」(*5)が開催され、以前からあった「NATO指標」の「対GDP比2%」が未達の国々に対して「10年以内に同水準に向けて引き上げる」ことに合意している。尚、2014年9月時点のアメリカ大統領はオバマである。
要するに、ロシアによるクリミア併合をNATO側視点で見ると、それ以前は「平和の配当」により削減出来ていた防衛費を、やはり元に戻す必要があると判断された為に「NATO標準の2%」に戻すことを合意したものだ。
もう1つの「残念な点」とは、「対GDP比」の比率事例が不適切なところである。
上記した記事の引用では、①NATO平均で1.19%(時期の明記なし)が1.53%(2019年)に上昇したことと、②ドイツが1.49%(2021年)だった防衛費を「2%に大幅増額」するとの方針を表明しているとの2点が書かれているのだが、比較するレンヂが適切ではない。
この様に考えるのは、NATOとは、そもそもが先の大戦終了後に米ソ東西対立が露わになり、旧ソ連邦(及びその衛星国)との対峙点が欧州では東西ドイツ国境であることから、西側諸国がソ連邦に対抗する為に組織した軍事同盟である。
従い、1989年の実質的な米ソ東西冷戦の終焉と1992年のソ連邦崩壊の前と後では、全く様相が異なっており、NATO諸国の防衛費はその頃を境に大幅に減少しているものである。
これは、防衛費という予算の性格上当たり前の動きである。
因みに、NATO主要国のうちドイツの防衛費の対GNP比推移(*6)を紹介しておく。
戦後ドイツが再軍備したのは1955年(昭和55年)のことで、その際にドイツはドイツ憲法(ドイツ基本法)の改憲をしている(*7)。一方、防衛費の推移データは1960年から2019年までの60年間である。
1960年代の10年間のドイツの防衛費の対GNP比は、最小値3.45%(1969年)から最大値4.98%(1963年)の範囲で推移している。Rolling ‘60’sの時代である
1970年代の10年間は少し落ち着き、最小値3.01%(1979年)から最大値3.34%(1975年)の範囲で推移している。
1980年代の最後の年、1989年はベルリンの壁が崩壊した年であり、米ソ東西冷戦の終わりの始まりの年であるが、防衛費としては、その前年に策定されているので、まだ大きくは減少していない。1980年代の10年間の防衛費の対GNP比は、最小値2.57%(1989年)から最大値3.09%(1981年)の範囲で推移している。
大転換した1989年までの30年間の単純平均値は3.38%である。
(1960年代:4.08%、1970年代:3.16%、1980年代:2.91%)
ソ連邦が崩壊したのは1992年である。
その1990年代の10年間は、ソ連邦崩壊前の1990年が2.56%で最大値となっているもので、逆に崩壊後は1996年から1999年まで1.4%代で推移している。
1990年代の単純平均値は1.71%である。
1989年から1992年の転換期の4年間とその後の1993年からの4年間を比較すると以下の様な数値となる。
↓
<転換期4年間:単純平均2.26%>
1989年2.57%→1990年2.56%→1991年2.03%→1992年1.89%
<冷戦終了後4年間:単純平均1.58%>
1993年1.72%→1994年1.58%→1995年1.52%→1996年1.49%、
米ソ東西冷戦構造に終焉とは、ドイツにとっては軍事的脅威との外的要因が大きく減少したもので、国家国民を守る為に必要な予算である防衛費が、脅威の減少に伴い減少するのは当然の動きである。
防衛費の減少は政府支出の減少であり、これを当時は「平和の配当」と称された。
2000年代の10年間の防衛費の対GDP比は単純平均値で1.30%、2010年代の10年間の単純平均値は更に減少し1.21%となっているものである。
1960年から大転換した1989年までの30年間の単純平均値は3.38%なのだが、米ソ東西冷戦構造崩壊後の1990年から2019年までの30年間の単純平均値は1.41%と大きく減少している。
ところが、2014年のロシアによるクリミア併合により、対処すべき脅威度が増大したものであり、冷戦後の防衛費の減少が当然である様に、脅威の増大との外的要因の変化に応じてドイツが防衛費を増大させることも当然のことである。
そうであるにも関わらず、東洋経済の記事では、冷戦構造がなくなった後の少ない防衛費比率(2021年1.49%)と比較して「2%への増大」との書き方をしているものである。
米ソ東西冷戦時のソ連邦の脅威があった時代30年間のドイツの防衛費の対GDP比単純平均値は3.38%であることから考えれば、ロシアがクリミア半島に併合し、今年になってからウクライナへの軍事進攻を実行したことからは、NATO標準値2%への増額は、「必要だから増額する」という話であり、それ以外の何物でもない。
東洋経済の記事について・我が国防衛費
東洋経済の当該記事の後半は、我が国の防衛費を2%にすることの困難さについて述べているものである。
以下の部分などはまったくの正論であり、同意出来るものである。
↓
<引用開始>
わが国の財政状況を度外視してでも防衛費の規模を対GDP比2%にするということでは、わが国の安全保障は成り立たない。
そもそも、どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのかといったことも、きちんと検討しなければならない。
<引用終わり>
しかし、ここで言う「どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのか」との問い掛けへの答えもヒントも、これ以降には出てこない。
以降に出てくるのは財政状況の話ばかりである。
確かに防衛装備費と財政は今も昔も難しい問題である。
その昔、建艦競争で各国の財政を圧迫したことから、膨大な費用を要する主力艦の保有数を制限することで各国は支出に歯止めかける事を目的にワシントン条約として合意したのだが、その次のロンドン条約では我が国の場合、統帥権干犯との難癖を軍部からかけられ、それ以降の我が国の政治体制が歪んでしまったとの苦い経験がある。(*8)
難しい問題となってしまうのは、防衛費という予算の性格からの宿命だからである。
防衛費とは、国家・国民を防衛する事を可能にする為の費用であり、その主眼点は「我国を守る・国民を守る」にある。
防衛費に限らず、予算とは、そもそも、政策があり、その政策を実行・実現する為の「資源」であり、防衛予算に限らず、福祉予算、インフラ整備予算等の総ての予算は、政策実現の為の資源である。
防衛費の場合は、先ず、我が国の国民の平和・安寧を維持するとの大前提があり、その大前提を実現する為の国防方針があり、国防方針の実行・実現に必要な具体的国防政策があり、その国防政策を実行・実現する資源として予算が付されるのである。
ところが我が国の場合は、いくら必要であっても、従前は「「対GDP比1%」の岩盤規制」(*9)があり、「どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのか」を真剣に考えても1%以内へと足切りされてしまっていたのが実情だ。
今回の東洋経済の記事は、従前の逆「対GDP比1%」との防衛必要性を脇に置いた数値規制と同じ発想で「対GDP比2%」を論じているだけに思えて仕方がない。
何故なら、「対GDP比2%」の提言をしている自民党の部会長は防衛問題に造詣の深い小野寺五典議員であり、むしろ「どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのか」を考えた上で「1%の上限枠」がその様な本来的アプローチを妨げ台無しにしている点を踏まえての提言なのに、東洋経済の記事では「対GDP比2%」との数値と財政だけの論を展開しているので、その様に考える次第である。
残念に思ったのは、こういう理由からである。
繰り返しになるが、本来的アプローチとは、先ず、我が国の国民の平和・安寧を維持するとの大前提があり、その大前提を実現する為の国防方針があり、国防方針の実行・実現に必要な具体的国防政策があり、その国防政策を実行・実現する資源として、予算が要求されるものである。
勿論、財政を一切無視することはない。
結果として、対GDP比がドイツの2010年代中盤頃の1.25%に落ち着くかもしれない。
これは、本来的アプローチをした結果として出てくるもので、その内容が妥当であるかどうかを国会で論じて決定されるものである。
現在の様に、防衛費の総額が1%を超えた途端に、その中身ではなく「対GDP比1%を超えた軍国主義予算だぁ~」と思考停止してしまう事の方が問題である。
今回は以上である。
1日1回ポチっとな ↓



【文末脚注】
(*1):モスクワから見たウクライナの地政学的位置付けを述べる。
↓
2022/02/28投稿:
ウクライナ情勢雑感1:地政学的視点
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1624.html
2022/03/03投稿:
ウクライナ情勢雑感3:ウクライナ侵攻後の着地点は?
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1626.html
(*2):ウクライナの「非核政策」「専守防衛政策」及び「集団防衛体制への未加入・未締結」が武力事態の未然防止に効果がなかったことは誰の目にも明らかである。
↓
2022/04/09投稿:
共産党・志位の舌先三寸の支離滅裂:ウクライナ情勢雑感9
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1637.html
(*3):戯言を言っていた連中は、ウクライナ情勢を見て「抵抗せずに降伏すれば命を失わなくて済む」などと別の戯言を言っているのだが、彼等は物事を真面目に考えていないので、2つの事柄で間違っている。1つは、以前の論考でも指摘したことだが、武力事態が終息したからと言って命の保証はない。70数年前にロシア兵が8月15日以降の満州で非戦闘員の女・子供に対して行った暴虐を忘れてしまったかの様な虚偽を言っているものである。
↓
2022/03/20投稿:
「降伏すれば命は安泰」なる虚偽。悲劇は戦争後も続く:ウクライナ情勢雑感7
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1631.html
(*4):東洋経済の記事
↓
東洋経済 2022/04/25 6:30
見出し:◆日本の防衛費は「対GDP比2%」へ倍増できるのか 安全保障戦略と経済・金融・財政の深い関係
https://toyokeizai.net/articles/-/584243
記事:○ロシアのウクライナ侵攻は、わが国の安全保障論議にも大きな衝撃を与えている。今夏の参院選挙後にも佳境を迎えると見込まれる、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の「防衛戦略3文書」の策定に向けた動きも、活発になっている。
○わが国の防衛関係費は、2022年度当初予算で5兆3145億円である。自民党の安全保障調査会を中心に、目下GDP(国内総生産)比が1%程度である防衛費を、今後5年以内に2%以上へ引き上げるよう、政府に要請しようとしている。
小見出し:◆防衛費倍増の動きはNATOと関係
○防衛費の対GDP比を2%以上に引き上げるとは、どういうことか。それは、ウクライナ支援で結束しているNATO(北大西洋条約機構)の動きと関係がある。
○NATOは、ウクライナ侵攻やコロナ禍の前から、国防費の対GDP比2%目標を掲げていた。2014年のことだ。当時、NATO加盟国であるEU諸国において国防費対GDP比は、平均で1.19%だった。それが、2019年には1.53%に上がった。
○加えて、今般のウクライナ侵攻を受けて、欧州域内に戦場を抱えることとなった結果、国防費増額を表明するNATO加盟国が次々と出てきた。
○特に、強い印象を与えたのは、NATO加盟国のドイツとNATO非加盟国のスウェーデンである。ドイツは、健全財政路線を堅持しているが、2022年から国防費を対GDP比2%とすべく予算を組んだ。対GDP比でみると、2021年は1.49%だったところから2%にまで大幅に増額するという。
○そして、福祉国家として知られるスウェーデンも、国防費を対GDP比で2%にすることを表明した。スウェーデンは、2015年以降コロナ禍の前まで、財政収支を黒字にし続けていた。
○このように、欧州諸国で国防費を対GDP比2%に増額する動きがあって、日本でも防衛費を対GDP比で2%にするよう求める政治的要求が強まっている。日本もそうしないと、NATO加盟国から冷ややかに見られるとの意見も出ている。
○日本の防衛関係費は、NATO基準の国防費とは定義が異なるので、単純に比較することはできない。NATO基準の国防費には、退役軍人への恩給費、PKO(国連平和維持活動)関連経費、海上保安庁予算などの安全保障に関連する経費も含まれている。
○それを踏まえて、日本の予算でNATO基準に直して計算すると、2021年度の金額は約6.9兆円、対GDP比で1.24%程度となる。対GDP比2%は11.2兆円であるから、あと4.3兆円増やさなければならなくなる。
https://toyokeizai.net/articles/-/584243?page=2
○国家予算で4.3兆円とは、どのぐらいの規模なのか。2022年度予算(一般会計と特別会計の純計)で、少子化対策費が4.4兆円、生活保護給付などに充てる生活扶助等社会福祉費が4.8兆円といったところである。それらの年間総額に匹敵するほどの規模の増額をしないと、対GDP比で2%には達しない。
○実はこれまで、防衛関係費は、財政健全化の犠牲になって削減されてきたのではなく、逆にその中でも優遇されて増えてきた。第3次安倍晋三内閣で、各歳出分野での予算編成方針を示す歳出の目安が「骨太方針2015」で設けられて以降、2022年度までの間に、防衛関係費は4000億円程度増えている。公共事業費は1000億円程度、文教及び科学振興費は640億円程度増えたが、それ以外の社会保障費以外の経費は、逆に合計して3000億円強減らされている。防衛費の増額は、ほかの経費の削減や効率化を行うことを通じて、実現してきた。
○対GDP比2%を実現するうえで、ほかの経費を減らしてでも防衛費を増やすという方針に、多くの国民が納得できるかが、問われよう。
小見出し:◆国債を増発して防衛費を増やせばいい?
○いや、そもそもほかの経費を減らしてでも防衛費を増やすという発想自体が、緊縮財政的な発想であって、そうではなく国債を増発して防衛費を増やせばよい、という見方もあろう。
○確かに、防衛装備品の中には、単なる消耗品ではなく、それなりに長い期間安全保障上の重要な役割を担うものもある。長期間にわたり国民に恩恵をもたらすものならば、その購入費を国債で賄えばよいと思うかもしれない。
○しかし、わが国を取り巻く安全保障環境がかつてないほど厳しい中で、ひとたび購入した防衛装備品が、長年にわたりそのまま安全保障上の効力を持ち続けるものは、年を追うごとに少なくなっていくだろう。5年や10年も経てば周辺国が強化する軍事力に比して陳腐化する装備品が続出することもありうる。そうなれば、短期間でさらに高度な防衛装備品を購入しなければならない。だから、国債で防衛費を賄うと、その恩恵を受ける期間はごく短期間にとどまるものの、その元利償還費の負担が長きにわたり国民に及ぶ羽目になる。
https://toyokeizai.net/articles/-/584243?page=3
○加えて、今般のロシアのウクライナ侵攻に直面して顕在化したのは、経済・金融・財政面で脆弱であると安全保障上の支障になる、ということである。侵攻したロシアに対して、先進各国がまずとったことは、経済制裁だった。経済制裁で対抗するということは、それだけ安全保障上でも経済基盤が重要であることを深く認識している証である。
○ロシアでは、先進各国の企業が撤退したことで、失業率がかなり高くなっている。金融面でも、ロシアの主要銀行が国際決済網から排除された。そして、財政面では、ロシア国債が事実上デフォルトしたも同然の状態となっている。
○安全保障は、軍備だけで成り立つものではなく、経済・金融・財政面での基盤がしっかりしていないと成り立たない。そうした基盤が脆弱だと、必要とされる抑止力や継戦能力を維持することもままならないことを、ウクライナ侵攻で痛感させられた。
○だから、わが国の財政状況を度外視してでも防衛費の規模を対GDP比2%にするということでは、わが国の安全保障は成り立たない。そもそも、どのような防衛力を整備するのが、わが国の安全保障上有効なのかといったことも、きちんと検討しなければならない。
○規模ありきで防衛力整備を進めると、有効でない防衛装備品を割高な値段で購入することを容易にしてしまう。また、装備品ばかりあっても人員配置も整わなければ、すぐに実用に供することはできない。それでは、国民の生命と財産を効果的に守ることができない。
○侵攻しようとする国は、侵攻される国が軍事面だけでなく、経済面でも脆弱である状態を狙ってくる。それは、未然に防がなければならない。
小見出し:◆NATO加盟国は国防費増と財政健全化をセットで進めた
○だから、NATO加盟国では、2014年以降国防費を増やした時期に、財政健全化にも熱心に取り組んでいた。2014年から2019年までの5年を見てみると、EUに加盟するNATO加盟国20カ国において、財政赤字の対GDP比が3%以下の国は、11カ国から18カ国にまで増えた。また、前掲のスウェーデンは、国防費を対GDP比で2%にするのに合わせて、その財源としてたばこ税・酒税の増税や銀行税の導入を発表している。こうして財政基盤を維持・強化している。
○外交によって、国際紛争を未然に防ぐのが最優先されるべきである。しかし、それだけではわが国を取り巻く安全保障上の脅威が払拭できないならば、国民の生命と財産を守るためにどんな防衛力が必要かを考えることが求められる。そのためには、規模ありきの防衛費ではなく、真に効果的な防衛力を整備するために質の高い防衛費とすることが重要である。そして、有事にしっかりと耐えられる経済・金融・財政とするためのマクロ経済運営を、平時から行っていくことが、安全保障上でも不可欠である。
<引用終わり>
(*5):NATOウェールズ首脳会合
↓
外務省HP 平成26年9月8日
表題:◆NATOウェールズ首脳会合概要
(9月4日~5日,於:ニューポート(英国))
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page22_001428.html
記事:○1.NATO軍の即応性・防衛能力の強化
(1)ロシアによるウクライナ攻撃,中東の過激派台頭,北アフリカの不安定化を受け,NATOが全方位的な任務を引き受け,加盟国を全方位的な脅威から守れるよう,NATOの集団防衛を強化する即応性行動計画(RAP)に合意。これは,NATO即応部隊(NRF)内の初動対処部隊(VJTF/極めて短時間で展開可能な部隊)の創設,迅速な増派のための東方加盟国内への司令部の常時配置,受入施設の整備,装備・物資の事前配置,更に集団防衛に焦点を当てた演習計画の強化を含むもの。バルト諸国,ポーランド,ルーマニアが施設提供の意思を表明。
(2)防衛能力を強化するサイバー防衛等の優先分野のパッケージに合意。枠組国概念(FNC)を承認し,独英伊等を中心に有志加盟国による能力開発・部隊編成を実施。
2.大西洋間の絆と責任の分担の再確認
(1)「大西洋間の絆に関するウェールズ宣言」を採択し,ロシアによる違法なクリミア併合・継続的攻撃,北アフリカと中東の暴力・過激派の拡大に備えるため,北米及び欧州の全加盟国の国民,領土,主権及び共通の価値を防衛する継続不変のコミットメントを再確認。
(2)防衛予算の反転,効果的使用と負担・責任の均衡達成のため,NATO指標の対GDP比2%未達成国は10年以内に同水準に向けて引き上げるよう目指し,防衛予算の研究開発を含む主要装備品支出充当率も20%に増額するよう目指すことに合意。
3.ウクライナ危機とNATOロシア関係
(1)NATOウクライナ委員会は共同宣言を採択し,ロシアに対し,クリミア「併合」撤回,東部ウクライナ武装勢力支援停止,部隊撤収等を要求。また,ウクライナに対し,指揮統制通信,兵站・標準化,サイバー防衛等の新規支援を表明し,ウクライナとNATO間の相互運用性向上のための高次の機会への参加を期待。
(2)ロシアはNATOロシア基本文書・ローマ宣言に違反したが,NATOの今次首脳会合での諸決定はルールに基づく欧州安全保障枠組を尊重するもの。実務協力の停止と政治対話の維持は継続。今後のNATOロシア関係はロシアの行動の変化による。(以下略)
<引用終わり>
(*6):ドイツの防衛費の対GNP比推移
↓
ドイツの軍事費の対GDP比率(推移と比較グラフ)
https://graphtochart.com/img/graph/military-expenditure-of-gdp-de-mychart3-2019.webp
<西暦・軍事費の対GDP比率>
1960年3.83%、1961年3.80%、1962年4.57%、1963年4.98%、1964年4.45%
1965年4.16%、1966年3.97%、1967年4.14%、1968年3.46%、1969年3.45%
1970年3.06%、1971年3.11%、1972年3.22%、1973年3.21%、1974年3.31%
1975年3.34%、1976年3.19%、1977年3.09%、1978年3.10%、1979年3.01%
1980年3.01%、1981年3.09%、1982年3.08%、1983年3.08%、1984年2.97%
1985年2.91%、1986年2.84%、1987年2.82%、1988年2.68%、1989年2.57%
1990年2.56%、1991年2.03%、1992年1.89%、1993年1.72%、1994年1.58%
1995年1.52%、1996年1.49%、1997年1.43%、1998年1.41%、1999年1.42%
2000年1.38%、2001年1.34%、2002年1.35%、2003年1.34%、2004年1.29%
2005年1.28%、2006年1.22%、2007年1.20%、2008年1.25%、2009年1.36%
2010年1.32%、2011年1.25%、2012年1.26%、2013年1.20%、2014年1.14%
2015年1.15%、2016年1.15%、2017年1.16%、2018年1.18%、2019年1.28%
<1960年~2019年>
(*7):戦後ドイツが再軍備したのは1955年(昭和55年)のことで、その際にドイツはドイツ憲法(ドイツ基本法)の改憲をしている。
↓
2018/02/10投稿:
「ドイツ憲法の改正回数は「59回」」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-864.html
【ご参考】
2017/08/25投稿:
「ナチスはドイツ憲法で禁止」との慣用句
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-739.html
(*8):ロンドン条約では我が国の場合、統帥権干犯との難癖を軍部からかけられ、それ以降の我が国の政治体制が歪んでしまったとの苦い経験がある。
↓
2017/02/26投稿:
2.26事件考6Final(考察編3):統帥権干犯問題
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-614.html
【ご参考】
2017/02/20投稿:
2.26事件考1(事実確認編
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-609.html
2017/02/21投稿:
2.26事件考2(資料編1):青年将校側言い分・蹶起趣意書と要望事項
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-610.html
2017/02/22投稿:
2.26事件考3(資料編2):告示・俸勅命令・「兵に告ぐ」・散布ビラ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-611.html
2017/02/23投稿:
2.26事件考4(考察編1):決起の理由は何?
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-612.html
2017/02/24投稿:
2.26事件考5(考察編2):時代背景・思想的背景
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-613.html
(*9):「対GDP比1%」の岩盤規制
↓
2017/07/17投稿:
国民の平和と安寧を阻害している岩盤規制
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-714.html
1日1回ポチっとな ↓



スポンサーサイト