Show the Flag英仏独・欧州海軍艦艇のインド太平洋派遣(艦船紹介編)
- 2021/08/08
- 18:47
Show the Flag英仏独・欧州海軍艦艇のインド太平洋派遣(艦船紹介編)
副題:自由で開かれたインド太平洋・日米印豪クアッド・2021年イギリス・コンウォールサミット共同宣言・世界は中国の国際海洋法違反を放置しない。
前回は欧州三ヶ国が海軍艦艇を派遣する意味について論じた。(*1)
中国の侵略的な国際海洋法違反行為に対するイエローカードをG7諸国他の国際社会は提示し続けているのだが、中国は自身の違反行為に対して「何処吹く風」と無視を決め込んでいる。その様な中国に対して「中国が見たくないイエローカード」を嫌でも見せるのが英仏独・欧州海軍艦艇のインド太平洋派遣の意味である。
Show the Flagとはその様な内容を一言で表したものである。
最近はShow the FlagをBoots on the groundと同じの意味で使用している様だが、Show the Flagとは砲艦外交のことである。
砲艦外交というと学校では悪いイメージで教わったと思うが、けして、その様なことはなく、話し合いを避ける相手を話し合いの場にいざなうものである。我が国の歴史でもっとも有名な砲艦外交はペリーの来航である。
「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四杯で夜も眠れず」である。
我が国の場合、戦後の現行憲法第9条(*2)に「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇・・・は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とあり、あたかも艦艇を海外に派遣すること自体が「武力による威嚇」に該当し「憲法違反」であるかの様なことを言う「護憲派」がいた。国連PKO部隊派遣や海賊対策との国際連携での武力事態の未然防止策をも「憲法の制約で日本は参加出来ない」などとのガラパゴス議論をしていたもので、あたかも「砲艦外交」が悪い事の様にされていた。
話し合いで説得出来ない相手であっても粘り強く説得を続けることが原則だが、例えば北朝鮮の様な相手には、トランプ大統領がやった様な「武力背景を排除しない交渉」が有効なのが実際だ。
北朝鮮は、弾道ミサイルを我が国上空を通過させたり、我が国近隣海域に撃ちこむなど、盛んに発射していたのだが、トランプの交渉により、それ以降は撃っていない。
前回指摘した「中国が見たくないイエローカード」。
見たくないものをどの様に見せるのか、の手法が英仏独・欧州海軍艦艇のインド太平洋派遣である。中国にこりゃマズイと思わせることが未然防止には必要なのである。
その為には、ある程度のインパクトの強さが必要なのである。
ドイツが派遣したのは同国海軍のフリゲート「バイエルン」である。
フリゲートというのは、フルスペック駆逐艦よりも一段性能が低く、船体も一回り小型であることが多い。
「バイエルン」はブランデンブルク級フリゲート(*3)の3番艦で、就役が1996年6月艦齢25年のベテラン艦で、満載排水量:4,900 t、全長:138.9 m、速力:29knotのフリゲートとしては有力艦なのだが艦船自体のインパクトは英仏に比して弱い。
しかし、英仏とは異なりインド太平洋に領土を持たないドイツが太平洋に「海軍艦艇を派遣した事」にインパクトがあるのである。
今回の欧州三ヶ国の艦艇派遣の中ではイギリスの空母機動艦隊の派遣はもっともインパクトが強い。
艦隊の中心は、イギリス海軍史上最大となるSTOVL空母「クイーン・エリザベス」(*4)である。
同艦は短距離離艦(Short Take-Off)・垂直着艦(Vertical Landing)能力を持つF-35Bを搭載する為の艦船であり、満載排水量:67,699t、全長:284.0 m、常時搭載機数(F-35B×24~36機+哨戒ヘリコプター及び早期警戒型ヘリコプター×10機)、速力:26knotの有力艦である。
我が国の軽空母=全通甲板型護衛艦である「いずも」が満載排水量:26,000t、全長:248.0m、F-35B搭載機数約10機、速力30knotであることから見れば、イギリス海軍STOVL空母「クイーン・エリザベス」は相当な有力艦であることが分かると思う。
通常、空母は単艦では行動しない。
しかし、今回のイギリス海軍のインド太平洋派遣は「10隻」もの体制で空母機動艦隊を編成しており、かなりインパクトが強い。
空母に随伴するのは以下の9隻である。
↓
・イギリス海軍45型駆逐艦2隻「デフェンダー」と「ダイヤモンド」(*5)
(満載排水量:7,350 t、全長:152.4 m、速力:29knot以上)
・イギリス海軍23型フリゲート2隻「ケント」と「リッチモンド」(*6)
(満載排水量4,300 t、全長133.0 m、28knot以上)
・イギリス海軍補給艦2隻「フォート・ビクトリア」と「タイドスプリング」
(性能概要の記載省略)
・イギリス海軍原子力潜水艦1隻(艦名非公表)
※トラファルガー級かアスチュート級かのどちらか。(*7)
・アメリカ海軍イージズ艦「ザ・サリバンス」
(満載排水量8,362 t、全長153.9 m 、31knot)
・オランダ海軍フリゲート「エヴァーツェン」(*8)
(満載排水量6,200 t、全長144.24 m 、30knot)
実に堂々たる空母艦隊であることが分かると思う。
注目すべきは、アメリカのイージス艦とオランダのフリゲートが随伴している点、そして、イギリスの原子力潜水艦がいる点である。
アメリカの空母機動部隊にも原子力潜水艦は随伴しており、潜水艦は相手側潜水艦から空母を護衛する役割を担う。潜水艦の最大の利点は、その秘匿性にあるので、普通は潜水艦の行動を公開することはない。
そうであるにも関わらず、艦名こそ非公表だが、インド太平洋海域に派遣していることを公表しているのは「本式の艦隊ですから」と言っているものである。
アメリカ海軍のイージス艦が随伴しているのは、多分、通信環境の保証の為であろう。
普段はNATOでの連携をしている米英蘭の間では通信はいつも通りに出来るであろう。
一方、理屈の上では、英米蘭NATOの通信環境は太平洋での日米との通信環境との連携が出来るはずだが、何事も実証しないことには「本当に出来る」とは言えないので、そういう意味で随伴している可能性がある。
一方、オランダ海軍がフリゲートをインド太平洋へと派遣する理由は分からない。
ドイツ海軍のフリゲイトと違い、オランダ海軍はイギリス海軍艦隊に随伴するかたちで参加している。
フランス海軍は既に今年(2021年)5月に来日している。
派遣されたのは全通甲板型「強襲揚陸艦」の「トネール」と随伴のフリゲート「シュルクーフ」である。
派遣されたフランス軍は、日米豪仏多国間演習「ジャンヌダルク21」を実施したのだが、その演習のうち、陸上での日米仏による拠点奪還演習があり、その様な作戦の為の艦種が「強襲揚陸艦」である。
フランス海軍・全通甲板型強襲揚陸艦「トネール」はミストラル級の2番艦(*9)で、満載排水量:21,500 t 、全長:210.0m、18.8knot、兵員400~900名と各種車両・上陸用車両及びヘリコプター16機を搭載する。
同艦は全通甲板型なので、一瞬、空母に見えるが空母ではない。
見た目での識別点としては「海面から飛行甲板までの高さが艦の幅に比して高いのが強襲揚陸艦」である。
これは上陸用の車両が艦尾から発進するのだが、上陸用車両の階層があり、その上にヘリコプターの格納層があり、その上が飛行甲板となる構造から、背が高くなっているものである。
空母との違いは他に、速力が20~22knot程度であり空母の30knot内外に比して低速であることだ。これは潜水艦や水上艦を相手にする空母と、動かない陸地・島を相手にする揚陸艦の要求仕様の違いである。
空母ではないのだが、フランス海軍の「トネール」のアジア太平洋派遣はかなりインパクトがある。
因みに、フランスはアメリカ以外で本格的原子力空母「シャルル・ド・ゴール」を保有しており、同艦は今年3月にはインド洋のソマリア沖まで出向いて、海上自衛隊と共同訓練をしているので、今回のアジア太平洋派遣は別の艦船となったのであろう。
尚、随伴しているフリゲート「シュルクーフ」はラファイエット級フリゲート(*10)の2番艦で、満載排水量3,810 t、全長124.2 m、25knotとの性能である。
比較的小型の艦であるが、台湾は、このラファイエット級を原型とした康定級フリゲートを6隻保有している。
報道によると、イギリス艦隊のフリゲートが8月7日に艦隊の先乗りとして佐世保に入港した。(*11)
昔からの地政学の経験則として「地域の軍事バランスが崩れると、その地域で武力事態が発生する」がある。
中国海軍は、ここ数年、異常な程に急激に大幅に増強しており、そのい意図を挫く必要があるのが現状なのである。
今回は、派遣された艦艇の紹介をメインとしたので、以上とする。
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【文末脚注】
(*1):前回は欧州三ヶ国が海軍艦艇を派遣する意味について論じた。
↓
2021/08/05投稿:
英仏独・欧州海軍艦艇のインド太平洋派遣は対中牽制・イエローカード
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1541.html
(*2):現行憲法第9条
↓
日本国憲法(昭和二十一年憲法)施行日: 昭和二十二年五月三日
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION
第9条:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
同第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
<引用終わり>
【ご参考】
2017/06/30
憲法議論7・現行憲法9条Q&A
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-705.html
2016/07/31投稿:
(解説編2)マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
2017/05/20投稿:
(資料編)憲法前文の登場・9条の登場と変遷
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-674.html
(*3):「バイエルン」はブランデンブルク級フリゲートの3番艦。
↓
Wiki:ブランデンブルク級フリゲート
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF%E7%B4%9A%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88
(*4):イギリス海軍史上最大となるSTOVL空母「クイーン・エリザベス」
↓
Wiki:クイーン・エリザベス級航空母艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%B6%E3%83%99%E3%82%B9%E7%B4%9A%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%AF%8D%E8%89%A6
(*5):イギリス海軍45型駆逐艦「デフェンダー」と「ダイヤモンド」
↓
Wiki:45型駆逐艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/45%E5%9E%8B%E9%A7%86%E9%80%90%E8%89%A6
(*6):イギリス海軍23型フリゲート「ケント」と「リッチモンド」
↓
Wiki:23型フリゲート
https://ja.wikipedia.org/wiki/23%E5%9E%8B%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88
(*7):イギリス海軍原子力潜水艦1隻(艦名非公表)※トラファルガー級かアスチュート級かのどちらか。
↓
Wiki:トラファルガー級原子力潜水艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%82%AC%E3%83%BC%E7%B4%9A%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%A6
Wiki:アスチュート級原子力潜水艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88%E7%B4%9A%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%A6
(*8):オランダ海軍フリゲート「エヴァーツェン」
↓
Wiki:デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲート
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%BC%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E7%B4%9A%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88
※「エヴァーツェン」は同級の4番艦
(*9):フランス海軍・全通甲板型強襲揚陸艦「トネール」はミストラル級の2番艦
↓
Wiki:ミストラル級強襲揚陸艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%AB%E7%B4%9A%E5%BC%B7%E8%A5%B2%E6%8F%9A%E9%99%B8%E8%89%A6
(*10):フランス海軍フリゲート「シュルクーフ」はラファイエット級フリゲートの2番艦
↓
Wiki:ラファイエット級フリゲート
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%83%E3%83%88%E7%B4%9A%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88
(*11):報道によると、イギリス艦隊のフリゲートが8月7日に艦隊の先乗りとして佐世保に入港した。
↓
gooニュース(FNNプライムオンライン)2021/08/07 18:16
見出し:◆英空母打撃群の軍艦が寄港 日米豪との共同訓練へ
https://news.goo.ne.jp/article/fnn/nation/fnn-221056.html
記事:○イギリス海軍の最新鋭空母の打撃群を構成する軍艦「リッチモンド」が、長崎県の佐世保港に寄港した。
○7日、佐世保港に寄港したのは、イギリスの空母「クイーン・エリザベス」を中心とする艦隊、空母打撃群のフリゲート「リッチモンド」。
○艦隊は、8月、日本の南方の海域で、海上自衛隊やアメリカ、オーストラリアの海軍との共同訓練に参加する予定。
○日本政府関係者は、リッチモンドは、艦隊の先乗りとして佐世保に入港したとしたうえで、中国をけん制する狙いがあるとの見方を示した。
<引用終わり>
【ご参考】
2020/06/30投稿:
中国の筋違いコメント・核・弾道ミサイル防衛を核保有国が批判する奇妙な構図
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1387.html
2021/06/30投稿:
軍拡を続ける中国が我が国の平和維持努力を批判
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1526.html
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副題:自由で開かれたインド太平洋・日米印豪クアッド・2021年イギリス・コンウォールサミット共同宣言・世界は中国の国際海洋法違反を放置しない。
前回は欧州三ヶ国が海軍艦艇を派遣する意味について論じた。(*1)
中国の侵略的な国際海洋法違反行為に対するイエローカードをG7諸国他の国際社会は提示し続けているのだが、中国は自身の違反行為に対して「何処吹く風」と無視を決め込んでいる。その様な中国に対して「中国が見たくないイエローカード」を嫌でも見せるのが英仏独・欧州海軍艦艇のインド太平洋派遣の意味である。
Show the Flagとはその様な内容を一言で表したものである。
最近はShow the FlagをBoots on the groundと同じの意味で使用している様だが、Show the Flagとは砲艦外交のことである。
砲艦外交というと学校では悪いイメージで教わったと思うが、けして、その様なことはなく、話し合いを避ける相手を話し合いの場にいざなうものである。我が国の歴史でもっとも有名な砲艦外交はペリーの来航である。
「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四杯で夜も眠れず」である。
我が国の場合、戦後の現行憲法第9条(*2)に「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇・・・は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とあり、あたかも艦艇を海外に派遣すること自体が「武力による威嚇」に該当し「憲法違反」であるかの様なことを言う「護憲派」がいた。国連PKO部隊派遣や海賊対策との国際連携での武力事態の未然防止策をも「憲法の制約で日本は参加出来ない」などとのガラパゴス議論をしていたもので、あたかも「砲艦外交」が悪い事の様にされていた。
話し合いで説得出来ない相手であっても粘り強く説得を続けることが原則だが、例えば北朝鮮の様な相手には、トランプ大統領がやった様な「武力背景を排除しない交渉」が有効なのが実際だ。
北朝鮮は、弾道ミサイルを我が国上空を通過させたり、我が国近隣海域に撃ちこむなど、盛んに発射していたのだが、トランプの交渉により、それ以降は撃っていない。
相手が見て、こりゃマズイと思わせることが未然防止には必要
前回指摘した「中国が見たくないイエローカード」。
見たくないものをどの様に見せるのか、の手法が英仏独・欧州海軍艦艇のインド太平洋派遣である。中国にこりゃマズイと思わせることが未然防止には必要なのである。
その為には、ある程度のインパクトの強さが必要なのである。
ドイツ海軍フリゲイト「バイエルン」
ドイツが派遣したのは同国海軍のフリゲート「バイエルン」である。
フリゲートというのは、フルスペック駆逐艦よりも一段性能が低く、船体も一回り小型であることが多い。
「バイエルン」はブランデンブルク級フリゲート(*3)の3番艦で、就役が1996年6月艦齢25年のベテラン艦で、満載排水量:4,900 t、全長:138.9 m、速力:29knotのフリゲートとしては有力艦なのだが艦船自体のインパクトは英仏に比して弱い。
しかし、英仏とは異なりインド太平洋に領土を持たないドイツが太平洋に「海軍艦艇を派遣した事」にインパクトがあるのである。
イギリス海軍・STOVL空母「クイーン・エリザベス」機動艦隊10隻の派遣
今回の欧州三ヶ国の艦艇派遣の中ではイギリスの空母機動艦隊の派遣はもっともインパクトが強い。
艦隊の中心は、イギリス海軍史上最大となるSTOVL空母「クイーン・エリザベス」(*4)である。
同艦は短距離離艦(Short Take-Off)・垂直着艦(Vertical Landing)能力を持つF-35Bを搭載する為の艦船であり、満載排水量:67,699t、全長:284.0 m、常時搭載機数(F-35B×24~36機+哨戒ヘリコプター及び早期警戒型ヘリコプター×10機)、速力:26knotの有力艦である。
我が国の軽空母=全通甲板型護衛艦である「いずも」が満載排水量:26,000t、全長:248.0m、F-35B搭載機数約10機、速力30knotであることから見れば、イギリス海軍STOVL空母「クイーン・エリザベス」は相当な有力艦であることが分かると思う。
通常、空母は単艦では行動しない。
しかし、今回のイギリス海軍のインド太平洋派遣は「10隻」もの体制で空母機動艦隊を編成しており、かなりインパクトが強い。
空母に随伴するのは以下の9隻である。
↓
・イギリス海軍45型駆逐艦2隻「デフェンダー」と「ダイヤモンド」(*5)
(満載排水量:7,350 t、全長:152.4 m、速力:29knot以上)
・イギリス海軍23型フリゲート2隻「ケント」と「リッチモンド」(*6)
(満載排水量4,300 t、全長133.0 m、28knot以上)
・イギリス海軍補給艦2隻「フォート・ビクトリア」と「タイドスプリング」
(性能概要の記載省略)
・イギリス海軍原子力潜水艦1隻(艦名非公表)
※トラファルガー級かアスチュート級かのどちらか。(*7)
・アメリカ海軍イージズ艦「ザ・サリバンス」
(満載排水量8,362 t、全長153.9 m 、31knot)
・オランダ海軍フリゲート「エヴァーツェン」(*8)
(満載排水量6,200 t、全長144.24 m 、30knot)
実に堂々たる空母艦隊であることが分かると思う。
注目すべきは、アメリカのイージス艦とオランダのフリゲートが随伴している点、そして、イギリスの原子力潜水艦がいる点である。
アメリカの空母機動部隊にも原子力潜水艦は随伴しており、潜水艦は相手側潜水艦から空母を護衛する役割を担う。潜水艦の最大の利点は、その秘匿性にあるので、普通は潜水艦の行動を公開することはない。
そうであるにも関わらず、艦名こそ非公表だが、インド太平洋海域に派遣していることを公表しているのは「本式の艦隊ですから」と言っているものである。
アメリカ海軍のイージス艦が随伴しているのは、多分、通信環境の保証の為であろう。
普段はNATOでの連携をしている米英蘭の間では通信はいつも通りに出来るであろう。
一方、理屈の上では、英米蘭NATOの通信環境は太平洋での日米との通信環境との連携が出来るはずだが、何事も実証しないことには「本当に出来る」とは言えないので、そういう意味で随伴している可能性がある。
一方、オランダ海軍がフリゲートをインド太平洋へと派遣する理由は分からない。
ドイツ海軍のフリゲイトと違い、オランダ海軍はイギリス海軍艦隊に随伴するかたちで参加している。
フランス海軍・全通甲板型LHA「トネール」とフリゲート「シュルクーフ」の派遣
フランス海軍は既に今年(2021年)5月に来日している。
派遣されたのは全通甲板型「強襲揚陸艦」の「トネール」と随伴のフリゲート「シュルクーフ」である。
派遣されたフランス軍は、日米豪仏多国間演習「ジャンヌダルク21」を実施したのだが、その演習のうち、陸上での日米仏による拠点奪還演習があり、その様な作戦の為の艦種が「強襲揚陸艦」である。
フランス海軍・全通甲板型強襲揚陸艦「トネール」はミストラル級の2番艦(*9)で、満載排水量:21,500 t 、全長:210.0m、18.8knot、兵員400~900名と各種車両・上陸用車両及びヘリコプター16機を搭載する。
同艦は全通甲板型なので、一瞬、空母に見えるが空母ではない。
見た目での識別点としては「海面から飛行甲板までの高さが艦の幅に比して高いのが強襲揚陸艦」である。
これは上陸用の車両が艦尾から発進するのだが、上陸用車両の階層があり、その上にヘリコプターの格納層があり、その上が飛行甲板となる構造から、背が高くなっているものである。
空母との違いは他に、速力が20~22knot程度であり空母の30knot内外に比して低速であることだ。これは潜水艦や水上艦を相手にする空母と、動かない陸地・島を相手にする揚陸艦の要求仕様の違いである。
空母ではないのだが、フランス海軍の「トネール」のアジア太平洋派遣はかなりインパクトがある。
因みに、フランスはアメリカ以外で本格的原子力空母「シャルル・ド・ゴール」を保有しており、同艦は今年3月にはインド洋のソマリア沖まで出向いて、海上自衛隊と共同訓練をしているので、今回のアジア太平洋派遣は別の艦船となったのであろう。
尚、随伴しているフリゲート「シュルクーフ」はラファイエット級フリゲート(*10)の2番艦で、満載排水量3,810 t、全長124.2 m、25knotとの性能である。
比較的小型の艦であるが、台湾は、このラファイエット級を原型とした康定級フリゲートを6隻保有している。
追記:イギリス艦隊の23型フリゲート「リッチモンド」が佐世保に先乗り入港
報道によると、イギリス艦隊のフリゲートが8月7日に艦隊の先乗りとして佐世保に入港した。(*11)
昔からの地政学の経験則として「地域の軍事バランスが崩れると、その地域で武力事態が発生する」がある。
中国海軍は、ここ数年、異常な程に急激に大幅に増強しており、そのい意図を挫く必要があるのが現状なのである。
今回は、派遣された艦艇の紹介をメインとしたので、以上とする。
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【文末脚注】
(*1):前回は欧州三ヶ国が海軍艦艇を派遣する意味について論じた。
↓
2021/08/05投稿:
英仏独・欧州海軍艦艇のインド太平洋派遣は対中牽制・イエローカード
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1541.html
(*2):現行憲法第9条
↓
日本国憲法(昭和二十一年憲法)施行日: 昭和二十二年五月三日
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION
第9条:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
同第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
<引用終わり>
【ご参考】
2017/06/30
憲法議論7・現行憲法9条Q&A
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-705.html
2016/07/31投稿:
(解説編2)マッカーサー3原則
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-469.html
2017/05/20投稿:
(資料編)憲法前文の登場・9条の登場と変遷
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-674.html
(*3):「バイエルン」はブランデンブルク級フリゲートの3番艦。
↓
Wiki:ブランデンブルク級フリゲート
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF%E7%B4%9A%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88
(*4):イギリス海軍史上最大となるSTOVL空母「クイーン・エリザベス」
↓
Wiki:クイーン・エリザベス級航空母艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%B6%E3%83%99%E3%82%B9%E7%B4%9A%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%AF%8D%E8%89%A6
(*5):イギリス海軍45型駆逐艦「デフェンダー」と「ダイヤモンド」
↓
Wiki:45型駆逐艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/45%E5%9E%8B%E9%A7%86%E9%80%90%E8%89%A6
(*6):イギリス海軍23型フリゲート「ケント」と「リッチモンド」
↓
Wiki:23型フリゲート
https://ja.wikipedia.org/wiki/23%E5%9E%8B%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88
(*7):イギリス海軍原子力潜水艦1隻(艦名非公表)※トラファルガー級かアスチュート級かのどちらか。
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Wiki:トラファルガー級原子力潜水艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%82%AC%E3%83%BC%E7%B4%9A%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%A6
Wiki:アスチュート級原子力潜水艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88%E7%B4%9A%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%A6
(*8):オランダ海軍フリゲート「エヴァーツェン」
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Wiki:デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲート
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%BC%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E7%B4%9A%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88
※「エヴァーツェン」は同級の4番艦
(*9):フランス海軍・全通甲板型強襲揚陸艦「トネール」はミストラル級の2番艦
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Wiki:ミストラル級強襲揚陸艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%AB%E7%B4%9A%E5%BC%B7%E8%A5%B2%E6%8F%9A%E9%99%B8%E8%89%A6
(*10):フランス海軍フリゲート「シュルクーフ」はラファイエット級フリゲートの2番艦
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Wiki:ラファイエット級フリゲート
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%83%E3%83%88%E7%B4%9A%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%88
(*11):報道によると、イギリス艦隊のフリゲートが8月7日に艦隊の先乗りとして佐世保に入港した。
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gooニュース(FNNプライムオンライン)2021/08/07 18:16
見出し:◆英空母打撃群の軍艦が寄港 日米豪との共同訓練へ
https://news.goo.ne.jp/article/fnn/nation/fnn-221056.html
記事:○イギリス海軍の最新鋭空母の打撃群を構成する軍艦「リッチモンド」が、長崎県の佐世保港に寄港した。
○7日、佐世保港に寄港したのは、イギリスの空母「クイーン・エリザベス」を中心とする艦隊、空母打撃群のフリゲート「リッチモンド」。
○艦隊は、8月、日本の南方の海域で、海上自衛隊やアメリカ、オーストラリアの海軍との共同訓練に参加する予定。
○日本政府関係者は、リッチモンドは、艦隊の先乗りとして佐世保に入港したとしたうえで、中国をけん制する狙いがあるとの見方を示した。
<引用終わり>
【ご参考】
2020/06/30投稿:
中国の筋違いコメント・核・弾道ミサイル防衛を核保有国が批判する奇妙な構図
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1387.html
2021/06/30投稿:
軍拡を続ける中国が我が国の平和維持努力を批判
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1526.html
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