北海道百年記念塔解体について3・資料を探査中
副題:1968年着工の金属構造物の北海道百年記念塔がボロボロで危険って何?メンテナンスを放棄していたのか?そんな疑問に答える資料を探してしているのだが、あまり出てこない。
前回論考「
北海道百年記念塔解体について2・疑問編 」(*1)で提示した疑問への回答のヒントになる資料を探してしているのだが、あまり出てこない状態である。
そんな状態なのだが、「北海道開拓倶楽部」とのHPを発見した。
同HPの表題「
設計者・井口健 北海道百年記念塔を語る⑧-竣工と管理 塔は老朽化などしていない 」(*2)にある記載が、前回疑問編で提示した「メンテをしていないのか?」に関して有用だと思われるので、それを題材に考えたことを述べることにした。
保守整備に関する記載 最初に同HPの記載のうち保守整備業務に関する部分を以下に抜粋引用する。
<引用開始>
10年後と20年後に補修工事が行われたました
(中略)
平成10年(1998年)の2度目の保守工事のときは、いくつか大きめの錆片とルーバーに取り付けた金網のフレームが階段室に滞積したことから大規模改修となりました。
<引用終わり>
↓
北海道百年記念塔の着工は1968年、完工は1970年である。
それに対して「10年後と20年後に補修工事が行われたました」との話があり、着工基準での10年後は1978年、20年後は1988年となる。
「2度目の保守工事」が行われたのは「平成10年(1998年)」だとしているので、着工基準であることが分かる。また、この記載からは少なくとも2021年から見れば23年前迄は保守整備工事が施行されていたことが分かる。
着工後20年目の保守整備工事の結果に関しては以下の様な記載がある。
<引用開始>
平成10年(1998年)の保守工事の時、完工後の報告会で「錆はこういう状態でした。錆による厚みの欠損はまったくありませんでした」と報告したのですが、発表を聞いた道庁の職員も「(錆による厚板の欠損がないことは)不思議ですね」と驚いていました。
それがコルテン鋼の特性で酸化膜が熟成し設計通りに機能を発揮したんですよ。
<引用終わり>
↓
ちょっと技術的な話なので分かり難いのだが、「コルテン鋼」という耐食性に優れた鋼材を百年記念塔は使用しており、一般的な鋼材の錆による経年劣化・減肉はなく大丈夫だという話をしているものである。
「コルテン鋼」とここでは表記されるのだが、「コールテン鋼」とも言う。
英語表記は「Cor-ten steel」である。
外見では茶色になり、赤錆が出ている様に見えるが、錆の浸透はなく、構造材としての強度は確保される鋼材である。
この特殊鋼は風雨の曝される鉄鋼製モニュメントで使用されている事例を知っている。
イギリスのテレビ刑事ドラマ「ヴェラ ~信念の女警部~」のオープニングに出てくるインパクトある巨大モニュメント「
Angel of the North」 は一瞬、赤錆だらけの朽ちた印象を受けるのだが、この像は「コールテン鋼」で作られており、しっかりとそこに存在している。
巨大モニュメント「Angel of the North」は翼部分が左右に大きく張り出し、構造材が腐食してしまうと、その自重で崩壊してしまうデザインをしているのだが、そういう事を未然に防止する為に「コールテン鋼」で作られているものである。(*3)
「Angel of the North」は1994年着工なので、2021年現在で既に27年が経過しているが、取り壊しとかの話は聞こえてこない。
北海道百年記念塔も「コールテン鋼」で作られており、少なくとも1988年時点で錆の浸透や減肉などがまったくなかったことが記載されている。また、そういう鋼材なのだから、それ以降に急激に錆の浸透や減肉が起こったとは考えられない。
「保守整備業務が何時まで行われていたのか?」との疑問は、「北海道開拓倶楽部」HPでの設計者・井口健氏の話では、明確化は出来なかったが少なくとも1988年までは大規模保守整備業務が行われていたことは分かった。
そして、使用鋼材の選定が的確であったことも分かったものである。
「保守整備なしで何時まで持つのか」との疑問に関する記載 次の疑問としては「仮に1988年以降、大規模保守整備工事がなされていないとして、何時までまともでいられるか」がある。
今では良く知られているが、東京タワーの上部鋼材は朝鮮戦争で破壊された米軍の戦車を溶かして再利用したものだ。鋼材の種類としては耐弾性装甲用鋼材であり、多分、炭素鋼なので定期的な塗装を実施して錆の浸透を防止する必要がある鋼材だ。
東京タワーは完成後60数年が経過しているが、今も観光施設として現役であるのは定期的な塗装を含むメンテナンスを実施しているからである。
従い、「北海道百年記念塔に対する保守整備工事をしていないのではないか?」という疑問を持ったのだが、北海道百年記念塔は「コールテン鋼」で作られており、同鋼材の特性を調べたところ、「Angel of the North」他の情報では定期的な錆止め塗装の必要性がないとあり、鋼材特性からは「保守整備工事をしていないからと言って直ぐには「劣化・老朽化が激しい」とか「建築物として危険な状態にあるので解体」とかにはならない」という事が分かったのである。
「北海道開拓倶楽部」HPには以下の様な記載がある。
<引用開始>
大事にすれば100年以上は持ちます。
<引用終わり>
<引用開始>
コルテン鋼の特性が認知されていないものだから、現場に行くと錆だらけだと思ってしまうわけです。完成後10年程たったとき〝行ってみたら廃墟だった〟という文化人類学の学者がいました。もう亡くなっていますけど。
<引用終わり>
↓
ここで言う「大事にすれば」は曖昧である。
「一切のメンテをしない」という事では「大丈夫ではない」とも受け取れる。
その一方、まだ大規模メンテの必要性がない「完成後10年程たったとき」との時期であってっも専門知識や予備知識がない人物が見た目だけで判断している事例を提示している。
「見た目がサビサビ」であっても「コールテン鋼」で作られている北海道百年記念塔は、けして「劣化・老朽化が激しい」訳でもなく、「建築物として危険な状態」にはなく「解体」の必要性もないという事を言っていると理解した。
「50年間の保守費用29億円」のベースは何?塗装費用だったらもっと安いはず 先の論考で述べた様に、道庁の試算では解体費用4億円・今後50年間の保守費用29億円との奇妙な比較は、保守費用の年当たりの単純平均0.58億円で計算されているのだが、北海道百年記念塔の使用鋼材が「コールテン鋼」であるのだから、東京タワーの様な鋼材では必須の塗装費用は不要または比較にならないぐらい低価格となる事が想定される。
そうなると、「50年間の保守費用」の積算ベースが何かが気になったくるのである。
仮に、「コールテン鋼」で作られている北海道百年記念塔の保守費用を【他の鋼材で作られている塔の保守費用を参考に同額としている】のならば、年額0.58億円との試算では過大計上だと言う事になるのである。
今回は以上である。
設計者・井口健氏の話は多岐にわたるので、今回はポイントを①保守整備工事の実施実績と②使用鋼材「コールテン鋼」の特性の2点だけに絞って述べたものである。
引き続き資料の探査は続けるつもりである。
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(*1):前回論考
↓
2021/03/22投稿:
北海道百年記念塔解体について2・疑問編
副題:1968年着工の金属構造物の北海道百年記念塔がボロボロで危険って何?メンテナンスを放棄していたのか?
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1482.html 【ご参考】
2021/03/19投稿:
北海道百年記念塔解体について・基礎編
副題:北海道百年記念塔って何?ちょっと知らベてみた。
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1481.html (*2):「北海道開拓倶楽部」HPの表題「設計者・井口健 北海道百年記念塔を語る⑧-竣工と管理 塔は老朽化などしていない」
↓
北海道開拓倶楽部
表題:設計者・井口健 北海道百年記念塔を語る ⑧
竣工と管理
塔は老朽化などしていない
https://www.hokkaidokaitaku.club/100nenkinento/100neto/iguchi_ken8.html <本文から保守・解体関係部分を抜粋引用>(改行位置等変更は引用者)
(前略)
Q:○─完成後、北海道百年記念塔に関わることは無くなったと?
↓
A:○いえ、10年後と20年後に補修工事が行われたましたが、これはうちの事務所でやっています。
○最初の保守工事では、塔体鉄骨の錆止めと塔内部の結露防止の土間コンクリートの打設、電気工事と塔内保守管理用の通路の設置などを行いました。
平成10年(1998年)の2度目の保守工事のときは、いくつか大きめの錆片とルーバーに取り付けた金網のフレームが階段室に滞積したことから大規模改修となりました。
○錆片はパネルとパネルの間に溜まった初期錆が剥げ落ちたもので、塔内部の湿気を抜く工事と、排水が悪くなっていたパネル1カ所を取り替えました。塔内の全般的な錆止め塗装と外装パネルの取り付け溶接の補強、それとパネルジョイントのコーキングを行いました。
Q:○─先生は完成してからもずっと塔に関われてきたのですね。ところで平成30年(2018年)に報道陣に内部公開が行われたとき落下した金属片発見されて話題になりましたが?
↓
A:○補修工事はうちの事務所もかかわってきまいたが、地震の時に落下したというステンレスの物体は、不可解です。
現場で物体をつぶさに観察しましたが、溶接で止めたり、ボルトで止められた形跡もありません。
しかも、片面をコルテン鋼の色にあわせて塗装をしている???
元からあったものなのか、後から置いたものなのか判定がつかない──そういう代物です。
○平成10年(1998年)の保守工事の時、完工後の報告会で「錆はこういう状態でした。錆による厚みの欠損はまったくありませんでした」と報告したのですが、発表を聞いた道庁の職員も「(錆による厚板の欠損がないことは)不思議ですね」と驚いていました。
それがコルテン鋼の特性で酸化膜が熟成し設計通りに機能を発揮したんですよ。
○以前に北大の工学部長だった柴田拓二先生を長とする調査委員会による調査が行われ、保守管理の方針が示されました。
この指針に基づいて管理が行われて来ました。今も塔は老朽化などしていない。
老朽化どころかコルテン鋼の理想的な姿です。柴田先生の指針に基づいて今後も保守管理を行ってほしいのです。
Q:○─北海道百年記念塔はまだまだ保つんですね。
↓
A:○大事にすれば100年以上は持ちます。 マンションでも人間でもなんでもそうですが、肝心なのは管理の仕方です。そのためのエレベーターがあるのですから……。
○北大の柴田先生は、この塔が長期にわたり守れるように維持管理指針をつくりました。後年、柴田先生は 百年記念塔の二次曲線を指して「X軸は僕でY軸は井口さんだ」。
そして「百年記念塔が守れないようであれば、北海道は駄目だ。
北海道の歴史の証人として絶対に残すべきだ」と声を大きくして言っていました。柴田先生の記念塔への遺言みたいなものです。
Q:○─しかし、世間にはずいぶんと誤解もあるようです。
↓
A:○コルテン鋼の特性が認知されていないものだから、現場に行くと錆だらけだと思ってしまうわけです。完成後10年程たったとき〝行ってみたら廃墟だった〟という文化人類学の学者がいました。もう亡くなっていますけど。
○そういう誤解──というよりも誤認が今でも非常に多い。それを助長しているのがマスコミ報道。報道の情報が正確ではないので誤解・誤認が消えません。コルテン鋼の特性が理解されるのは難しいですね……!
○そして、面と向かって言われたことはありませんが、前に話した 「アイヌ民族同化政策の象徴」という偏見ですね。塔が設計どおりにできていれば、そんな偏見の生じなかったと思うと残念です。
○悔しいのは、今これを壊してしまえば、この塔がアイヌを苦しめた象徴ということに固まってしまう。それが一番困るんですよ。だから僕はせめてこのまま自然と共生させ 、残しなさいと言っているんです。
Q:○─残念ながら道は北海道百年記念塔の解体撤去を決めてしまいました。
↓
A:○平成28年(2016年)に記念塔の存廃を議論する「 北海道の歴史文化施設活性化に関する懇談会」がはじまったとき、僕は「会議で僕に聞きたいことがあれば喜んで協力しますから、ぜひ連絡ください」といったんですが、何もないんです。
○道庁とはなんどもやり取りをしてしていますが、いつも事務的なやりとりだけで、技術的な話し合いは全くありません。老朽化について説明せよと言われたことない。記念塔に対しては僕も道に対して要望書を提出しましたが……
Q:○─先生の提出された要望書はどんな内容ですか?
↓
A:○まず百年記念塔の現状に対する私の意見として
【小生が去る4月11日に現場を視察に参りました折りに同行して戴いた伊藤組様より受領いたしました「平成29年度北海道百年記念塔維持管理計画策定調査報告書」の23頁、「イ・現状維持管理計画」の案が宜しいかと思います。但し、立ち入り禁止のフェンスについては必要と思われず、現在の立入禁止処置のものも美的にデザインされたものにする程度で宜しいと考えます。】
とした上で、将来像として、第一に塔の名前を「母なる大地の塔」と変える。そして、願わくば百年記念塔を設計当時の姿に近づける、と要望しています。
○今の塔はいうなればシューベルトの「未完成交響曲」なんですね。設計通りの姿であれば、まったく印象は違っていました。だからこそベートーベンの第9シンフォニー『歓喜の歌』になりたいと。
(中略)
Q:○─設計者であるばかりでなく、その後もずっと塔に関わってこられた先生をないがしろにして解体の決定が決められたんですね。
↓
A:○初めから壊すんだ、解体するんだと決めているんだね。アンケートを取ったとか、話をしたとか言っていますけど、言うなればアリバイ工作? その原点を知りたいものですがね……
(後略)
(*3):イギリスの刑事ドラマ「ヴェラ ~信念の女警部~」のオープニングに出てくるインパクトある巨大モニュメント「Angel of the North」は、翼部分が左右に大きく張り出し、構造材が腐食してしまうと、その自重で崩壊してしまうデザインをしているのだが、そういう事を未然に防止する為に「コールテン鋼」で作られている。
↓
The Angel of the North: A steel sculpture and landmark for North East England
https://www.arup.com/projects/the-angel-of-the-north <使用鋼材に関する部分の抜粋引用>
Using the right materials
Sculptures are often cast in bronze but something stronger was needed, so steel was specified. The cost of repeatedly painting conventional steelwork, or using stainless steel, was too high so we suggested using Cor-ten steel. Cor-ten is a special alloy that combines steel and copper that forms rusty patina during the first few years of exposure. This low maintenance and visually attractive finish protects the structure from environmental corrosion
<引用終わり>
Angel of the Northの日本語紹介ページ
地球の歩き方 2009年4月28日
北の天使「エンジェル・オブ・ザ・ノース」
https://tokuhain.arukikata.co.jp/glasgow/2009/04/post_58.html 1日1回ポチっとな ↓
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