インド太平洋戦略に関するアメリカ機密文書を公開
- 2021/01/17
- 23:33
インド太平洋戦略に関するアメリカ機密文書を公開
副題:自由民主主義の世界秩序を守る為に、中華思想・華夷秩序を基準としたに人間性を無視した「新世界秩序」の確立を阻止することが必須。
1月13日夕刻の産経新聞記事(*1)によれば、アメリカ政府は「インド太平洋戦略の枠組みに関し」て2018年2月時点でまとめた機密文書を公開したそうだ。
早速に、公開された原文を探したのだが、当方のgoogle検索スキルではヒットしなかった。
産経の同記事によれば、同文書を公開した目的は「米国民や同盟諸国に、米国が今後も長き将来にわたってインド太平洋を自由開かれた地域にするため永続的に取り組んでいくことを知ってもらうため」だそうだ。
産経記事は、同公開文書の記述内容を幾つか紹介している。
その主なものは以下の通り、中国の覇権的膨張行動を抑えることがインド太平洋戦略の大目的であり、それに付随する種々の目的・効果・政策等が書かれている。
↓
○大目的
「中国が米国および同盟・パートナー諸国に対して軍事力を行使するのを抑止し、各種の紛争において中国を打倒するため、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や台湾が位置する「第1列島線」の内側を守り抜くための戦略を構築し実践する」
○付随する種々の目的・効果・政策等
・「中国による非自由主義的な影響圏の確立の阻止」
・「北朝鮮による米国および同盟諸国への脅威の除去」
・「世界における米国の経済的リーダーシップの促進」
・「紛争時に(第一)列島線の内側での中国の持続的な制空・制海権を認めない」
・「列島線の外側では全ての領域で優位を確立する」
・「日本とインド、オーストラリアとの4カ国による安全保障枠組みがインド太平洋戦略の遂行に向けた「最も重要な軸」になる」
・「日本が同戦略における「地域的に統合され技術的に発達した中心的な柱」となるよう・・・日本の自衛隊の近代化も支援する」
・「金正恩体制に、生き残る唯一の道は核の放棄であると納得させることを目指す」
・「経済や外交、軍事などあらゆる分野で北朝鮮に「最大限の圧力」をかけて「完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化」(CVID)に向けた交渉の下地を整える」
ご覧いただければ分かる通り、少なくとも産経で紹介されているアメリカ側のインド太平洋戦略への理解は真っ当である。
そもそもインド太平洋戦略は、当初は「自由で開かれた広い海」「自由で法の支配が貫徹する平和な海」などの言葉でG7サミットや2015年4月のアメリカ議会演説他で安倍首相が提唱し続けたものである。(*2)
以前の「太平洋戦略・海洋の自由」が「インド太平洋戦略」との本来的な地域へと拡大して現在に至るのは、2017年の安倍首相のインド訪問でインド・シン首相との共同声明を発してからである。(*3)
トランプ大統領が、安倍首相のインド太平洋戦略の内容が自由民主主義世界を守るものである事を理解し、アメリカの戦略として有用であるとして、採用したものである。(*4)
一次資料である公開文書を発見できていない事から、他紙がどの様に報じているのかを見てみた。
我が国メディアの中で反日偏向を代表する朝日新聞(*5)も今回の機密解除を、見出し「◆米内部文書、台湾の防衛明記 中国の統一攻勢に危機感」との記事で報じている。(*6)
朝日記事は、毎度の有料記事であり無料部分6割程度しか読めないが、産経記事のトーンとは異なり「対中国」に関する記述がメインとなっている。
まるで、中国側の興味に軸足がある様なものであった。
↓
○朝日記事からの抜粋:種々の目的・効果・政策等
「中国の台頭を強く意識し、有事の際には台湾を防衛する」
「日本の自衛隊や台湾軍の近代化を支援する」
「中国による諜報(ちょうほう)活動やサイバー攻撃に対抗する能力の強化支援」
「台湾については「中国が統一しようと攻勢を強めている」と指摘。」
「紛争が起きた場合、沖縄や台湾、フィリピンなどを結ぶ「第1列島線」内で中国軍による空と海の支配を阻止するための防衛戦略をつくり、台湾を含めた「第1列島線」内を米軍が防衛することを明記している。」
「「第1列島線」には、沖縄の尖閣諸島も含まれるという。」
「米政府はこれまで、尖閣諸島は米国の日本防衛義務を定めた日米安保条約5条が適用されると説明してきたが、台湾は主に武器供与にとどまっていた。文書によって、有事の際はいずれも米軍が防衛する方針が明らかになった。」
○朝日記事での「公開の狙い」
「米国民と同盟国に対し、この地域での継続的な責任を示す」
「バイデン次期政権に、対中強硬路線や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の構想を引き継がせる狙いがありそうだ。」
ご覧いただければ分かる通り、朝日記事では「アメリカの台湾支援」が複数回言及されており、産経記事とは大きく異なっている。
同様、「アジア太平洋戦略」の基軸となる「日米印豪ダイヤモンドセキュリティー=クアッド」への言及はない。朝日には都合の悪いのであろう。
インド太平洋戦略が出来た背景は、中共支配下中国による覇権的膨張政策を防止する為である。
シナ大陸の戦後史は、米英の蒋介石への援助打ち切りにはじまる。(*7)
支援なき蒋介石は毛沢東との国共内戦にあえなく敗退し、蒋介石は台湾島に逃げ毛沢東共産党が支配を確立したのだが、その後に中共は周辺国を侵略し始めた。周辺国と言っても、当時の共産党「人民解放」軍には渡洋能力はなく、もっぱら陸続きの満州・東トルキスタン(ウイグル)・チベット他を併呑した。
今や、北方・西方への膨張はロシア国境に至り、突き当たりとなった。
「人民解放」軍には渡洋能力がないので、中国沿岸の金門島・馬祖島さえも侵攻できないでいるのだが、相手が弱体とみるや嵩にかかって侵略する。
今現在、中国はフィリピンの南沙諸島を侵略しているが、今から60数年前、ベトナムが旧宗主国フランスを相手に独立戦争をしている1954年に中国はベトナム・ダナンの東・中国海南島の南々東に位置する西沙諸島(パラセル諸島)に侵入し、今や自国領だと強弁している。火事場泥棒である。(*8)
以前の中国は貧しく、陸軍中心の編成であったのだが、自国人民労働者の所得を抑えながら、安価な人件費を背景にした製造業で経済力をつけると中国は軍拡を加速させ、海軍力を増強させ、東方の海洋への進出を模索している。
中国は地図で見れば分かる通り、思いの外海岸線が短い。
勿論、大きな領土を持っているので、それなりには長いが、イメージに比して短い。
しかも、黄海から海南島に至る海岸線は、日本列島から延びる南西諸島、台湾、フィリピン列島で蓋をされた状態であり、太平洋への出口は思いの外少ない。
日本列島・南西諸島・台湾・フィリピンと続く島々は、中国から見れば海上の閉塞ラインであり、それを勢力圏内に入れなくては、中国の世界侵出は達成されない。
従い、海軍の軍拡を推進してきたのであう。
中国がやっている膨張政策は果てしがない。
この様に言い切れるには、中国の目的が「既存の自由民主主義概念内での地位の向上」ではなく「中国の世界観に基づく別の新世界秩序の確立」にあるからだ。
今の中国は、Sinic文明・中華思想まる出しの中華皇帝・習近平の元に華夷秩序を基調とする新たな世界秩序を確立しようとしている。この事は以前の論考「先の大戦後の現在の世界情勢は第三段階にある」他(*9)で述べている通りであるので、ご一読いただきたい。
「華夷秩序」とは世界の中心である「中華」を頂点として、その下に従う国々により構成される上下関係秩序である。
一方、現在の世界秩序は、西欧文明ベース・自由民主主義を基調としたもので、対等互恵・自存自立の国家が基本にある秩序である。
従い、上下関係が基本の華夷秩序など容認できるものではない。
まったく異なる文明圏である中国がヘゲモニーを握る世界は「パクス・シニカ」(*10)と形容されることになるのだが、自由民主主義に軸足があるトランプ大統領はそれを「善」とし、「パクス・シニカ」の世界を「悪」と形容し、2020年大統領選挙のことを「善と悪との戦い」と称しているものである。
今回の公開は、大統領選の「結果」がバイデンとなっても、アメリカをはじめ多くの国々は中華独裁世界よりも自由民主主義世界の持続を選択するであろうとの考えからのものだと想定される。
「パクス・シニカ」など御断りなので、この公開により、少しでも多くの人々が内容を見れる様になったことは望ましいと考えている。
今回は以上である。
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【文末脚注】
(*1):1月13日夕刻の産経新聞記事
↓
産経新聞 2021.1.13 17:18
見出し:◆トランプ政権、インド太平洋戦略の枠組みに関する機密文書公開
https://www.sankei.com/world/news/210113/wor2101130028-n1.html
記事:○【ワシントン=黒瀬悦成】オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は12日、トランプ政権のインド太平洋戦略の枠組みに関し、ホワイトハウスが2018年2月にまとめた機密文書を公開したと発表した。
○文書は、中国が米国および同盟・パートナー諸国に対して軍事力を行使するのを抑止し、各種の紛争において中国を打倒するため、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や台湾が位置する「第1列島線」の内側を守り抜くための戦略を構築し実践すると明記した。
○文書は、インド太平洋地域での米国の安全保障上の懸案として「中国による非自由主義的な影響圏の確立の阻止」「北朝鮮による米国および同盟諸国への脅威の除去」「世界における米国の経済的リーダーシップの促進」などを掲げた。
○中国の軍事力への対抗策をめぐっては、中国が独自に設定した沖縄と、台湾、フィリピンを結ぶ海上防衛線である第1列島線に関し「紛争時に列島線の内側での中国の持続的な制空・制海権を認めない」「列島線の外側では全ての領域で優位を確立する」といった行動目標を打ち出した。
○同盟諸国との関係では、日本とインド、オーストラリアとの4カ国による安全保障枠組みがインド太平洋戦略の遂行に向けた「最も重要な軸」になるとした。
○また、日本が同戦略における「地域的に統合され技術的に発達した中心的な柱」となるよう力をつけさせ、日本の自衛隊の近代化も支援するとした。
○対北朝鮮では、「金正恩体制に、生き残る唯一の道は核の放棄であると納得させることを目指す」とし、経済や外交、軍事などあらゆる分野で北朝鮮に「最大限の圧力」をかけて「完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化」に向けた交渉の下地を整えることをうたった。
○オブライエン氏は機密文書を公開した理由について「米国民や同盟諸国に、米国が今後も長き将来にわたってインド太平洋を自由開かれた地域にするため永続的に取り組んでいくことを知ってもらうためだ」と説明した。
○20日に発足するバイデン次期政権が同様の枠組みでインド太平洋戦略を進めていくかどうかは現時点で明らかになっていない。
<引用終わり>
(*2):そもそもインド太平洋戦略は、当初は「自由で開かれた広い海」「自由で法の支配が貫徹する平和な海」などの言葉でG7サミットや2015年4月のアメリカ議会演説他で安倍首相が提唱し続けたものである。
↓
2015/05/01投稿:
【コラム】アメリカ人に考えさせる演説を読む1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-96.html
2015/05/01投稿:
【コラム2】アメリカ人に考えさせる演説を読む2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-97.html
<抜粋引用開始>
アジアの海について、私がいう3つの原則をここで強調させてください。
第一に、国家が何か主張をするときは、国際法にもとづいてなすこと。
第二に、武力や威嚇は、自己の主張のため用いないこと。
そして第三に、紛争の解決は、あくまで平和的手段によること。
太平洋から、インド洋にかけての広い海を、自由で、法の支配が貫徹する平和の海にしなければなりません。そのためにこそ、日米同盟を強くしなくてはなりません。私達には、その責任があります。
<引用終わり>
(*3):以前の「太平洋戦略・海洋の自由」が「インド太平洋戦略」との本来的な地域へと拡大して現在に至るのは、2017年の安倍首相のインド訪問でインド・シン首相との共同声明を発してからである。
↓
2017/09/17投稿:
安倍首相・インド訪問
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-754.html
<外務省HP>
日印共同声明(仮訳)
自由で開かれ,繁栄したインド太平洋に向けて
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000290053.pdf
※PDFファイル:スマホの方は要注意
(*4):トランプ大統領が、安倍首相のインド太平洋戦略の内容が自由民主主義世界を守るものである事を理解し、アメリカの戦略として有用であるとして、採用したものである。
↓
<前編>
2020/09/17投稿:
国家安全保障政策に関する安倍首相談話・果敢な戦略家安倍普三(前編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1422.html
<中編>
2020/09/22投稿:
国家安全保障政策に関する安倍首相談話・果敢な戦略家安倍普三(中編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1423.html
<後編Final>
2020/09/26投稿:
国家安全保障政策に関する安倍首相談話・果敢な戦略家安倍普三(後編)Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1424.html
(*5):我が国メディアの中で反日偏向を代表する朝日新聞
↓
2018/05/21投稿:
(資料編)朝日新聞の病巣を指摘する書籍
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-934.html
(*6):今回の機密解除を朝日も報じている。
↓
朝日新聞 2021年1月13日 5時00分
見出し:◆米内部文書、台湾の防衛明記 中国の統一攻勢に危機感
有料会員記事
https://www.asahi.com/articles/ASP1D7K5MP1DULZU00X.html
記事:○トランプ米政権が2018年2月、インド・太平洋地域の戦略を策定した際の内部文書を、朝日新聞が入手した。中国の台頭を強く意識し、有事の際には台湾を防衛することのほか、日本の自衛隊や台湾軍の近代化を支援することが明記されている。また、中国による諜報(ちょうほう)活動やサイバー攻撃に対抗する能力の強化支援も記されている。
○文書は18年2月15日付で作成された「インド太平洋における戦略的枠組みに関する覚書」。マクマスター大統領補佐官(当時)が署名しており、「秘密」指定された。ホワイトハウス関係者によると、機密解除されたうえで、13日にも公表される予定。機密解除に合わせて、現職のオブライエン大統領補佐官は「米国民と同盟国に対し、この地域での継続的な責任を示す」という文書を作成しており、バイデン次期政権に、対中強硬路線や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の構想を引き継がせる狙いがありそうだ。
○文書では、中国がインド太平洋地域において、米国の同盟関係を解消し、自らの存在感を高めようとしていると位置づけている。そのうえで、米国が取るべき対策などを列挙している。
○台湾については「中国が統一しようと攻勢を強めている」と指摘。紛争が起きた場合、沖縄や台湾、フィリピンなどを結ぶ「第1列島線」内で中国軍による空と海の支配を阻止するための防衛戦略をつくり、台湾を含めた「第1列島線」内を米軍が防衛することを明記している。ホワイトハウス関係者によると、「第1列島線」には、沖縄の尖閣諸島も含まれるという。
小見出し:◆「党派を超えた米国の意思」
○米政府はこれまで、尖閣諸島は米国の日本防衛義務を定めた日米安保条約5条が適用されると説明してきたが、台湾は主に武器供与にとどまっていた。文書によって、有事の際はいずれも米軍が防衛する方針が明らかになった。
小見出し:◆文書は日本をインド太平洋での…
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<無料部分の引用終わり>
(*7):シナ大陸の戦後史は、米英の蒋介石への援助打ち切りにはじまる。支援なき蒋介石は毛沢東との国共内戦にあえなく敗退し、蒋介石は台湾島に逃げ毛沢東共産党が支配を確立した。
↓
2016/06/08投稿:
続々・歴史年表・戦後史部分の概観
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-430.html
【ご参考】
2019/04/17投稿:
「上海臨時政府」樹立100周年考(後編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1157.html
2020/02/12投稿:
序・各国の建国記念日・建国年について
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1323.html
(*8):ベトナムが旧宗主国フランスを相手に独立戦争をしている1954年に中国はベトナム・ダナンの東・中国海南島の南々東に位置する西沙諸島(パラセル諸島)に侵入し、今や自国領だと強弁している。火事場泥棒である。
↓
2016/08/19投稿:
東シナ海・南シナ海
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-487.html
(*9):今の中国は、Sinic文明・中華思想まる出しの中華皇帝・習近平の元に華夷秩序を基調とする新たな世界秩序を確立しようとしている。この事は以前の論考「先の大戦後の現在の世界情勢は第三段階にある」で述べている通りであるので、ご一読いただきたい。
↓
2019/05/29投稿:
先の大戦後の現在の世界情勢は第三段階にある
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1190.html
(*10):まったく異なる文明圏である中国がヘゲモニーを握る世界「パクス・シニカ」
↓
2020/07/28投稿:
「パクス・シニカ」との暗黒未来を阻止する
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1401.html
2018/10/11投稿:
【ご参考】その1
ヘゲモニーチャレンジャー中国・事大主義小中華韓国
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1032.html
【ご参考】その2
2019/05/17投稿:
ヘゲモニーチャレンジ宣言をした中国Part1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1180.html
2019/05/19投稿:
ヘゲモニーチャレンジ宣言をした中国Part2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1181.html
2019/05/20投稿:
ヘゲモニーチャレンジ宣言をした中国Part3 Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1182.html
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副題:自由民主主義の世界秩序を守る為に、中華思想・華夷秩序を基準としたに人間性を無視した「新世界秩序」の確立を阻止することが必須。
1月13日夕刻の産経新聞記事(*1)によれば、アメリカ政府は「インド太平洋戦略の枠組みに関し」て2018年2月時点でまとめた機密文書を公開したそうだ。
早速に、公開された原文を探したのだが、当方のgoogle検索スキルではヒットしなかった。
産経の同記事によれば、同文書を公開した目的は「米国民や同盟諸国に、米国が今後も長き将来にわたってインド太平洋を自由開かれた地域にするため永続的に取り組んでいくことを知ってもらうため」だそうだ。
産経新聞記事が紹介する内容の概要
産経記事は、同公開文書の記述内容を幾つか紹介している。
その主なものは以下の通り、中国の覇権的膨張行動を抑えることがインド太平洋戦略の大目的であり、それに付随する種々の目的・効果・政策等が書かれている。
↓
○大目的
「中国が米国および同盟・パートナー諸国に対して軍事力を行使するのを抑止し、各種の紛争において中国を打倒するため、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や台湾が位置する「第1列島線」の内側を守り抜くための戦略を構築し実践する」
○付随する種々の目的・効果・政策等
・「中国による非自由主義的な影響圏の確立の阻止」
・「北朝鮮による米国および同盟諸国への脅威の除去」
・「世界における米国の経済的リーダーシップの促進」
・「紛争時に(第一)列島線の内側での中国の持続的な制空・制海権を認めない」
・「列島線の外側では全ての領域で優位を確立する」
・「日本とインド、オーストラリアとの4カ国による安全保障枠組みがインド太平洋戦略の遂行に向けた「最も重要な軸」になる」
・「日本が同戦略における「地域的に統合され技術的に発達した中心的な柱」となるよう・・・日本の自衛隊の近代化も支援する」
・「金正恩体制に、生き残る唯一の道は核の放棄であると納得させることを目指す」
・「経済や外交、軍事などあらゆる分野で北朝鮮に「最大限の圧力」をかけて「完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化」(CVID)に向けた交渉の下地を整える」
ご覧いただければ分かる通り、少なくとも産経で紹介されているアメリカ側のインド太平洋戦略への理解は真っ当である。
そもそもインド太平洋戦略は、当初は「自由で開かれた広い海」「自由で法の支配が貫徹する平和な海」などの言葉でG7サミットや2015年4月のアメリカ議会演説他で安倍首相が提唱し続けたものである。(*2)
以前の「太平洋戦略・海洋の自由」が「インド太平洋戦略」との本来的な地域へと拡大して現在に至るのは、2017年の安倍首相のインド訪問でインド・シン首相との共同声明を発してからである。(*3)
トランプ大統領が、安倍首相のインド太平洋戦略の内容が自由民主主義世界を守るものである事を理解し、アメリカの戦略として有用であるとして、採用したものである。(*4)
朝日新聞記事
一次資料である公開文書を発見できていない事から、他紙がどの様に報じているのかを見てみた。
我が国メディアの中で反日偏向を代表する朝日新聞(*5)も今回の機密解除を、見出し「◆米内部文書、台湾の防衛明記 中国の統一攻勢に危機感」との記事で報じている。(*6)
朝日記事は、毎度の有料記事であり無料部分6割程度しか読めないが、産経記事のトーンとは異なり「対中国」に関する記述がメインとなっている。
まるで、中国側の興味に軸足がある様なものであった。
↓
○朝日記事からの抜粋:種々の目的・効果・政策等
「中国の台頭を強く意識し、有事の際には台湾を防衛する」
「日本の自衛隊や台湾軍の近代化を支援する」
「中国による諜報(ちょうほう)活動やサイバー攻撃に対抗する能力の強化支援」
「台湾については「中国が統一しようと攻勢を強めている」と指摘。」
「紛争が起きた場合、沖縄や台湾、フィリピンなどを結ぶ「第1列島線」内で中国軍による空と海の支配を阻止するための防衛戦略をつくり、台湾を含めた「第1列島線」内を米軍が防衛することを明記している。」
「「第1列島線」には、沖縄の尖閣諸島も含まれるという。」
「米政府はこれまで、尖閣諸島は米国の日本防衛義務を定めた日米安保条約5条が適用されると説明してきたが、台湾は主に武器供与にとどまっていた。文書によって、有事の際はいずれも米軍が防衛する方針が明らかになった。」
○朝日記事での「公開の狙い」
「米国民と同盟国に対し、この地域での継続的な責任を示す」
「バイデン次期政権に、対中強硬路線や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の構想を引き継がせる狙いがありそうだ。」
ご覧いただければ分かる通り、朝日記事では「アメリカの台湾支援」が複数回言及されており、産経記事とは大きく異なっている。
同様、「アジア太平洋戦略」の基軸となる「日米印豪ダイヤモンドセキュリティー=クアッド」への言及はない。朝日には都合の悪いのであろう。
インド太平洋戦略は中国の覇権膨張政策への対抗策
インド太平洋戦略が出来た背景は、中共支配下中国による覇権的膨張政策を防止する為である。
シナ大陸の戦後史は、米英の蒋介石への援助打ち切りにはじまる。(*7)
支援なき蒋介石は毛沢東との国共内戦にあえなく敗退し、蒋介石は台湾島に逃げ毛沢東共産党が支配を確立したのだが、その後に中共は周辺国を侵略し始めた。周辺国と言っても、当時の共産党「人民解放」軍には渡洋能力はなく、もっぱら陸続きの満州・東トルキスタン(ウイグル)・チベット他を併呑した。
今や、北方・西方への膨張はロシア国境に至り、突き当たりとなった。
「人民解放」軍には渡洋能力がないので、中国沿岸の金門島・馬祖島さえも侵攻できないでいるのだが、相手が弱体とみるや嵩にかかって侵略する。
今現在、中国はフィリピンの南沙諸島を侵略しているが、今から60数年前、ベトナムが旧宗主国フランスを相手に独立戦争をしている1954年に中国はベトナム・ダナンの東・中国海南島の南々東に位置する西沙諸島(パラセル諸島)に侵入し、今や自国領だと強弁している。火事場泥棒である。(*8)
以前の中国は貧しく、陸軍中心の編成であったのだが、自国人民労働者の所得を抑えながら、安価な人件費を背景にした製造業で経済力をつけると中国は軍拡を加速させ、海軍力を増強させ、東方の海洋への進出を模索している。
中国は地図で見れば分かる通り、思いの外海岸線が短い。
勿論、大きな領土を持っているので、それなりには長いが、イメージに比して短い。
しかも、黄海から海南島に至る海岸線は、日本列島から延びる南西諸島、台湾、フィリピン列島で蓋をされた状態であり、太平洋への出口は思いの外少ない。
日本列島・南西諸島・台湾・フィリピンと続く島々は、中国から見れば海上の閉塞ラインであり、それを勢力圏内に入れなくては、中国の世界侵出は達成されない。
従い、海軍の軍拡を推進してきたのであう。
中国の覇権膨張政策は果てしがない
中国がやっている膨張政策は果てしがない。
この様に言い切れるには、中国の目的が「既存の自由民主主義概念内での地位の向上」ではなく「中国の世界観に基づく別の新世界秩序の確立」にあるからだ。
今の中国は、Sinic文明・中華思想まる出しの中華皇帝・習近平の元に華夷秩序を基調とする新たな世界秩序を確立しようとしている。この事は以前の論考「先の大戦後の現在の世界情勢は第三段階にある」他(*9)で述べている通りであるので、ご一読いただきたい。
「華夷秩序」とは世界の中心である「中華」を頂点として、その下に従う国々により構成される上下関係秩序である。
一方、現在の世界秩序は、西欧文明ベース・自由民主主義を基調としたもので、対等互恵・自存自立の国家が基本にある秩序である。
従い、上下関係が基本の華夷秩序など容認できるものではない。
まったく異なる文明圏である中国がヘゲモニーを握る世界は「パクス・シニカ」(*10)と形容されることになるのだが、自由民主主義に軸足があるトランプ大統領はそれを「善」とし、「パクス・シニカ」の世界を「悪」と形容し、2020年大統領選挙のことを「善と悪との戦い」と称しているものである。
今回の公開は、大統領選の「結果」がバイデンとなっても、アメリカをはじめ多くの国々は中華独裁世界よりも自由民主主義世界の持続を選択するであろうとの考えからのものだと想定される。
「パクス・シニカ」など御断りなので、この公開により、少しでも多くの人々が内容を見れる様になったことは望ましいと考えている。
今回は以上である。
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【文末脚注】
(*1):1月13日夕刻の産経新聞記事
↓
産経新聞 2021.1.13 17:18
見出し:◆トランプ政権、インド太平洋戦略の枠組みに関する機密文書公開
https://www.sankei.com/world/news/210113/wor2101130028-n1.html
記事:○【ワシントン=黒瀬悦成】オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は12日、トランプ政権のインド太平洋戦略の枠組みに関し、ホワイトハウスが2018年2月にまとめた機密文書を公開したと発表した。
○文書は、中国が米国および同盟・パートナー諸国に対して軍事力を行使するのを抑止し、各種の紛争において中国を打倒するため、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や台湾が位置する「第1列島線」の内側を守り抜くための戦略を構築し実践すると明記した。
○文書は、インド太平洋地域での米国の安全保障上の懸案として「中国による非自由主義的な影響圏の確立の阻止」「北朝鮮による米国および同盟諸国への脅威の除去」「世界における米国の経済的リーダーシップの促進」などを掲げた。
○中国の軍事力への対抗策をめぐっては、中国が独自に設定した沖縄と、台湾、フィリピンを結ぶ海上防衛線である第1列島線に関し「紛争時に列島線の内側での中国の持続的な制空・制海権を認めない」「列島線の外側では全ての領域で優位を確立する」といった行動目標を打ち出した。
○同盟諸国との関係では、日本とインド、オーストラリアとの4カ国による安全保障枠組みがインド太平洋戦略の遂行に向けた「最も重要な軸」になるとした。
○また、日本が同戦略における「地域的に統合され技術的に発達した中心的な柱」となるよう力をつけさせ、日本の自衛隊の近代化も支援するとした。
○対北朝鮮では、「金正恩体制に、生き残る唯一の道は核の放棄であると納得させることを目指す」とし、経済や外交、軍事などあらゆる分野で北朝鮮に「最大限の圧力」をかけて「完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化」に向けた交渉の下地を整えることをうたった。
○オブライエン氏は機密文書を公開した理由について「米国民や同盟諸国に、米国が今後も長き将来にわたってインド太平洋を自由開かれた地域にするため永続的に取り組んでいくことを知ってもらうためだ」と説明した。
○20日に発足するバイデン次期政権が同様の枠組みでインド太平洋戦略を進めていくかどうかは現時点で明らかになっていない。
<引用終わり>
(*2):そもそもインド太平洋戦略は、当初は「自由で開かれた広い海」「自由で法の支配が貫徹する平和な海」などの言葉でG7サミットや2015年4月のアメリカ議会演説他で安倍首相が提唱し続けたものである。
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2015/05/01投稿:
【コラム】アメリカ人に考えさせる演説を読む1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-96.html
2015/05/01投稿:
【コラム2】アメリカ人に考えさせる演説を読む2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-97.html
<抜粋引用開始>
アジアの海について、私がいう3つの原則をここで強調させてください。
第一に、国家が何か主張をするときは、国際法にもとづいてなすこと。
第二に、武力や威嚇は、自己の主張のため用いないこと。
そして第三に、紛争の解決は、あくまで平和的手段によること。
太平洋から、インド洋にかけての広い海を、自由で、法の支配が貫徹する平和の海にしなければなりません。そのためにこそ、日米同盟を強くしなくてはなりません。私達には、その責任があります。
<引用終わり>
(*3):以前の「太平洋戦略・海洋の自由」が「インド太平洋戦略」との本来的な地域へと拡大して現在に至るのは、2017年の安倍首相のインド訪問でインド・シン首相との共同声明を発してからである。
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2017/09/17投稿:
安倍首相・インド訪問
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-754.html
<外務省HP>
日印共同声明(仮訳)
自由で開かれ,繁栄したインド太平洋に向けて
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000290053.pdf
※PDFファイル:スマホの方は要注意
(*4):トランプ大統領が、安倍首相のインド太平洋戦略の内容が自由民主主義世界を守るものである事を理解し、アメリカの戦略として有用であるとして、採用したものである。
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<前編>
2020/09/17投稿:
国家安全保障政策に関する安倍首相談話・果敢な戦略家安倍普三(前編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1422.html
<中編>
2020/09/22投稿:
国家安全保障政策に関する安倍首相談話・果敢な戦略家安倍普三(中編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1423.html
<後編Final>
2020/09/26投稿:
国家安全保障政策に関する安倍首相談話・果敢な戦略家安倍普三(後編)Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1424.html
(*5):我が国メディアの中で反日偏向を代表する朝日新聞
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2018/05/21投稿:
(資料編)朝日新聞の病巣を指摘する書籍
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-934.html
(*6):今回の機密解除を朝日も報じている。
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朝日新聞 2021年1月13日 5時00分
見出し:◆米内部文書、台湾の防衛明記 中国の統一攻勢に危機感
有料会員記事
https://www.asahi.com/articles/ASP1D7K5MP1DULZU00X.html
記事:○トランプ米政権が2018年2月、インド・太平洋地域の戦略を策定した際の内部文書を、朝日新聞が入手した。中国の台頭を強く意識し、有事の際には台湾を防衛することのほか、日本の自衛隊や台湾軍の近代化を支援することが明記されている。また、中国による諜報(ちょうほう)活動やサイバー攻撃に対抗する能力の強化支援も記されている。
○文書は18年2月15日付で作成された「インド太平洋における戦略的枠組みに関する覚書」。マクマスター大統領補佐官(当時)が署名しており、「秘密」指定された。ホワイトハウス関係者によると、機密解除されたうえで、13日にも公表される予定。機密解除に合わせて、現職のオブライエン大統領補佐官は「米国民と同盟国に対し、この地域での継続的な責任を示す」という文書を作成しており、バイデン次期政権に、対中強硬路線や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の構想を引き継がせる狙いがありそうだ。
○文書では、中国がインド太平洋地域において、米国の同盟関係を解消し、自らの存在感を高めようとしていると位置づけている。そのうえで、米国が取るべき対策などを列挙している。
○台湾については「中国が統一しようと攻勢を強めている」と指摘。紛争が起きた場合、沖縄や台湾、フィリピンなどを結ぶ「第1列島線」内で中国軍による空と海の支配を阻止するための防衛戦略をつくり、台湾を含めた「第1列島線」内を米軍が防衛することを明記している。ホワイトハウス関係者によると、「第1列島線」には、沖縄の尖閣諸島も含まれるという。
小見出し:◆「党派を超えた米国の意思」
○米政府はこれまで、尖閣諸島は米国の日本防衛義務を定めた日米安保条約5条が適用されると説明してきたが、台湾は主に武器供与にとどまっていた。文書によって、有事の際はいずれも米軍が防衛する方針が明らかになった。
小見出し:◆文書は日本をインド太平洋での…
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<無料部分の引用終わり>
(*7):シナ大陸の戦後史は、米英の蒋介石への援助打ち切りにはじまる。支援なき蒋介石は毛沢東との国共内戦にあえなく敗退し、蒋介石は台湾島に逃げ毛沢東共産党が支配を確立した。
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2016/06/08投稿:
続々・歴史年表・戦後史部分の概観
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-430.html
【ご参考】
2019/04/17投稿:
「上海臨時政府」樹立100周年考(後編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1157.html
2020/02/12投稿:
序・各国の建国記念日・建国年について
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1323.html
(*8):ベトナムが旧宗主国フランスを相手に独立戦争をしている1954年に中国はベトナム・ダナンの東・中国海南島の南々東に位置する西沙諸島(パラセル諸島)に侵入し、今や自国領だと強弁している。火事場泥棒である。
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2016/08/19投稿:
東シナ海・南シナ海
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-487.html
(*9):今の中国は、Sinic文明・中華思想まる出しの中華皇帝・習近平の元に華夷秩序を基調とする新たな世界秩序を確立しようとしている。この事は以前の論考「先の大戦後の現在の世界情勢は第三段階にある」で述べている通りであるので、ご一読いただきたい。
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2019/05/29投稿:
先の大戦後の現在の世界情勢は第三段階にある
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1190.html
(*10):まったく異なる文明圏である中国がヘゲモニーを握る世界「パクス・シニカ」
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2020/07/28投稿:
「パクス・シニカ」との暗黒未来を阻止する
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1401.html
2018/10/11投稿:
【ご参考】その1
ヘゲモニーチャレンジャー中国・事大主義小中華韓国
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1032.html
【ご参考】その2
2019/05/17投稿:
ヘゲモニーチャレンジ宣言をした中国Part1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1180.html
2019/05/19投稿:
ヘゲモニーチャレンジ宣言をした中国Part2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1181.html
2019/05/20投稿:
ヘゲモニーチャレンジ宣言をした中国Part3 Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1182.html
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