香港国家安全維持法 条文の中身を見る(前編)
- 2020/07/05
- 23:44
香港国家安全維持法 条文の中身を見る(前編)
副題:国際法を無視する中国共産党が統治する中国が法治主義の真似ごと遊び。他国主権下の国民を自国領外であっても中国の法律を以て逮捕するとの支離滅裂。
前回「序」に続き、いよいよ中身を見ていく。
突き合わせをするのは、「序」で述べた、保守速報で紹介されていたテレビ番組の一部であろう画像をベースにした4つの条文と全文和訳をしていた個人ブログでの当該条文である。
この突き合わせの目的は、当方が解さない中文の内容の和訳の信憑性確認である。
それでは、保守速報で紹介されていた4つの条文の突合・比較を行う。
先ずは、保守速報のテレビ番組の一部であろう画像ベースの「4つの条文」のうちの最初の「9条」を以下に引用する。
↓
<保守速報の画像文字起こしから抜粋引用開始>
9条:国家の安全を維持するため、香港政府は学校、団体、マスメディア、インターネットに対して宣伝・指導・監視と管理の体制強化など必要な措置を取るべき
<引用終わり>
これを読んで分かることは、この条文は「「香港政府」がやるべき事」が書かれていると言う事だ。
「香港政府」は、「国家の安全を維持する」ことを目的に、「学校、団体、マスメディア、インターネット」を対象に、「必要な措置を取るべき」と日本語としては違和感がある書き方になっている。
一方、全文和訳をしている方の第9条を以下に引用する。
↓
<全文和訳の個人ブログから抜粋引用開始>
第9条:香港特別行政区は、国家安全を維持し、テロ活動を防止するための努力を強化しなければならない。 学校、社会団体、メディア、インターネット等の国家安全に関する事項について、香港特別行政区政府は必要な措置を講じ、広報、指導、監督、管理を強化しなければならない。
<引用終わり>
こちらは、日頃見慣れている法文に近いとの印象がある。
突合・比較して分かる事は、主語の違い(「香港政府」と「香港特別行政区」)や「テロ活動を防止する」との語句がテレビ画面ベースにはないことなどである。
中文原文の第9条を参照すると、そこで使用されているのは「香港特別行政区」であり、また、そこには「恐怖活動的工作」なる文字列があることから、全文和訳の方は、それを省略しておらず、テレビ画像文では省略されているのだと分かる。
因みに、全文和訳版では、その条文が「どの章」の「どの節」にあるのかが分かる。
第9条は、「第二章・香港特別行政区の国家安全を維持する職責と機構」の「第一節・職責」にある5つの条文(第7条~第11条)のうちの1つである。
第二章・第一節は上記した様に「職責」であるが、その対象は以下の様に香港特別行政区に対してのものである。
↓
・「香港特別行政区」の職責規定=第7条、第9条、第10条
・「香港特別行政区の法執行機関及び司法機関」の職責規定=第8条
・「香港特別行政区行政長官」の職責規定=第11条
何れにしろ、両者とも第9条では「学校、社会団体、メディア、インターネット等」に対して「広報、指導、監督、管理を強化」せよ、との内容が紹介されているものである。
自由民主主義制度での「言論の自由」「思想・信条の自由」などの基本的人権概念での保障は共産党独裁政権下中国には存在しない。
そういう政治体制で、香港特別行政区に対して本土中共政府が「強化せよ」と言っているのだから、共産党独裁政権中国の国家維持には不都合な言論を「香港の地で言論統制をしなさい」と言っているものだ。
そういう事なので、「4つの条文」の1つに選ばれたのであろう。
続いて、保守速報のテレビ番組の一部であろう画像をベースの「4つの条文」のうちの第20条と第21条を以下に引用する。
20条と21条は、両方とも「犯罪となる行為」を示した条文であることから、まとめて突合・比較するものである。
↓
<保守速報の画像文字起こしから抜粋引用開始>
20条:国家の分裂や統一を破壊する行為の計画・実施・参加は、武力の使用の有無にかかわらず犯罪行為になる。
21条:いかなる人が第20条に違反する行為を他人に実行させるため、煽動・ほう助・教唆または犯罪行為のための資金等を提供することは犯罪になる。
<引用終わり>
読んでいる方も比較できる様に全文和訳版の第20条と第21条を以下に引用する。
↓
<全文和訳の個人ブログから抜粋引用開始>
第20条:何人も国家を分裂させ、国家の統一を破壊することを目的として、次に掲げる行為を組織し、計画し、実行し、又はその実行に参与した場合、武力の行使又は武力による威嚇の有無にかかわらず、罪に問われる。
(一)香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の部分を中華人民共和国から分離すること。
(二) 香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の地域の法的地位を不法に変更すること。
(三) 香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の部分を外国の支配下に移すこと。
前款の罪を犯した者の中で、首謀者あるいは罪が重大な者は、無期懲役又は十年以上の有期懲役に処する。積極的に参与した者は、三年以上十年以下の有期懲役に処する。それ以外の参加した者は、三年以下の有期懲役、禁錮あるいは管制処分に処する。
第21条:何人も、他人を煽動し、幇助し、教唆し、又は金銭あるいはその他財物によって資金援助して、本法第二十条に規定される罪を犯させた場合、罪に問われる。 事情が重大な場合には、五年以上十年以下の有期懲役に処する。事情が軽微な場合には、五年以下の有期懲役、禁錮又は管制処分に処する。
<引用終わり>
一目で分かる通り、テレビ画像版は随分と省略されたものである。
また、テレビ画像版は第21条の冒頭で「いかなる人」との語句を用いているが、全文和訳版では両条ともに「何人も」で条文が始まっている。
中国での法文の書き方・様式に関しては深くは知らないが、我が国の場合、「何人」との記載は、日本国籍の有無を問わない「誰でもが」という意味で使用される。
現行憲法の第三章・国民の権利及び義務の諸条文の冒頭を見れば、それが分かる。
「何人も」で始まる条文は、第16条、第17条、第18条、第20条、第22条である。
一方、第25条、第26条、第27条の書き出しは「すべて国民は」である。
詳しく書いていると長~い論考となってしまうので、大胆に言えば、「何人も」の条文は主として基本的人権にかかわるもので、我が国主権が及ぶ日本国内に於いては日本国籍の有無に関係なく、それらが保障されるという主旨である。
一方、「すべて国民は」の条文は、「日本国民の権利・義務」条文である。
第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあり、生活保護法の根拠になっている憲法条文である。
また、第26条と第27条は「国民の義務」を定めた条文である。
↓
<現行憲法>
第26条:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
同第2項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第27条:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
<引用終わり>
現行憲法の他、自由民主主義先進国でも「我が国の域内では誰でもが基本的人権を認められています」という似た様なものになっているものだ。
話を香港国家安全維持法に戻す。
同法の第20条と第21条は両方とも「何人も・・」で始まり、「罪に問われる」で終わっている。
要するに、中国国籍を持たない「誰でもが」「罪に問われる」というものだ。
香港国家安全維持法の第20条と第21条で「罪に問われる」行為として例示されているのは「国家を分裂させ、国家の統一を破壊することを目的とした行為」であるとしているが、具体的に何なのかを指摘する事は難しい。
これは逆に言えば、どの様にも拡大解釈が出来るというもので、恣意的な運用を可能にするものだ。
自由民主主義先進国であれば、司法の判例や社会常識に基づいた慣例や国会議論を通じた解釈により、妥当な線に落ち着くものだが、共産党独裁の中国の香港国家安全維持法では、そういう仕組みはない。
香港国家安全維持法の第65条を以下に紹介する。
↓
<引用開始>
第65条:本法の解釈権は、全国人民代表大会常務委員会に帰属する。
<引用終わり>
第65条は、「中国共産党が好きに解釈するから」というもので、そこには自由民主主義制度の三権分立の考え方も、一国二制度の自主独立の考え方もないことが分かるであろう。
こういう事をしてしまうのが独裁政権の独裁政権たる所以である。
尚、第20条及び第21条がある章は「第3章・罪と罰則」である。
第3章は以下の6つの節があり、第20条及び第21条は第1節の条文である。
↓
第1節:国家分裂罪(第20条~第21条)
第2節:国家権力転覆罪(第22条~第23条)
第3節:テロ活動罪(第24条~第28条)
第4節:外国又は境外勢力と結託して国家の安全を脅かす罪(第29条~第30条)
第5節:その他の処罰規定(第31条~第35条)
第6節: 効力範囲(第36条~第39条)
「4つの条文」のうちの最後の「38条」を以下に引用する。
↓
<保守速報の画像文字起こしから抜粋引用開始>
38条:永住権を持たない人が香港にいなくても香港特別行政区に対し、本法案に記載された犯罪行為を行った場合、本法案は適用される。
<引用終わり>
これだけを読んでも、何の事か分からないというのが正直なところである。
何故ならば、主権国家の主権が及ぶ範囲は、その主権国家の領土内に限定されるのだが、そうであるにも関わらず「香港にいなくても」と、「香港以外の何れの地域でも」と読める非常識な条文だからである。
テレビ画像ベースの条文は、ここまで見てきた様に、電子紙芝居用に省略されたもので、論考の役に立たない可能性が高いものなので、全文和訳版を見る事にする。
しかしながら、上記した様に第38条は「第3章・罪と罰則」の「第6節: 効力範囲」の4条文(第36条~第39条)の1つである
テレビ画像ベースの第38条だけを読むと、上述した様に「香港以外の何れの地域でも」と読める奇妙なものであるが、地域に関する規定は「第6節: 効力範囲」の4条文でセットになっているものなので、全文和訳版では第6節: 効力範囲の第36条から第39条までの総てを引用することにした。
↓
<全文和訳の個人ブログから抜粋引用開始>
第六節 効力範囲
第36条:本法は、香港特別行政区内で本法に規定する犯罪を犯した者に適用される。 香港特別行政区内で犯罪の行為や結果が発生した場合、香港特別行政区内の犯罪であるとみなされる。
本法は、香港特別行政区で登録された船舶又は航空機内で本法に規定する犯罪が行われた場合にも適用されるものとする。
第37条:香港特別行政区永久居民、又は香港特別行政区に設立された企業や団体などの法人、又は非法人組織が香港特別行政区外で本法に規定する罪を犯した場合、本法が適用される。
第38条:香港特別行政区の永住権を有しない者が、香港特別行政区の外で香港特別行政区が実施する本法に規定する罪を犯した場合、本法が適用される。
第39条:本法の施行後に犯した行為は、本法に基づいて罪に問われ、処罰される。
<引用終わり>
自由民主主義的センスで第6節の各条文を読むと、第36条と第37条は、まぁ分かる。
そういう流れで第38条を読むと、第36、37条で言及のなかったものをカバーする目的で書かれたものに見える。
しかし、法が施行され第38条は、第38条だけで効力を発揮し、しかも、その解釈権が中国共産党独裁政権にあるのだから、この条文は極めて危険なものになる。
「香港特別行政区の永住権を有しない者」とは、「香港以外の全世界の人々」との解釈が可能である。
「香港特別行政区の外で」とは「世界中の何処でも全部」との解釈が可能である。
実に危うい条文であることは間違いがない。そして同時に「他国の主権」という概念がないと思われる実に傲慢な条文である。
長くなったので項を分ける。今回前編は以上である。
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副題:国際法を無視する中国共産党が統治する中国が法治主義の真似ごと遊び。他国主権下の国民を自国領外であっても中国の法律を以て逮捕するとの支離滅裂。
前回「序」に続き、いよいよ中身を見ていく。
「香港国家安全維持法」の和訳条文を突合してみた
突き合わせをするのは、「序」で述べた、保守速報で紹介されていたテレビ番組の一部であろう画像をベースにした4つの条文と全文和訳をしていた個人ブログでの当該条文である。
この突き合わせの目的は、当方が解さない中文の内容の和訳の信憑性確認である。
それでは、保守速報で紹介されていた4つの条文の突合・比較を行う。
「香港国家安全維持法」の「第9条」の突合・比較
先ずは、保守速報のテレビ番組の一部であろう画像ベースの「4つの条文」のうちの最初の「9条」を以下に引用する。
↓
<保守速報の画像文字起こしから抜粋引用開始>
9条:国家の安全を維持するため、香港政府は学校、団体、マスメディア、インターネットに対して宣伝・指導・監視と管理の体制強化など必要な措置を取るべき
<引用終わり>
これを読んで分かることは、この条文は「「香港政府」がやるべき事」が書かれていると言う事だ。
「香港政府」は、「国家の安全を維持する」ことを目的に、「学校、団体、マスメディア、インターネット」を対象に、「必要な措置を取るべき」と日本語としては違和感がある書き方になっている。
一方、全文和訳をしている方の第9条を以下に引用する。
↓
<全文和訳の個人ブログから抜粋引用開始>
第9条:香港特別行政区は、国家安全を維持し、テロ活動を防止するための努力を強化しなければならない。 学校、社会団体、メディア、インターネット等の国家安全に関する事項について、香港特別行政区政府は必要な措置を講じ、広報、指導、監督、管理を強化しなければならない。
<引用終わり>
こちらは、日頃見慣れている法文に近いとの印象がある。
突合・比較して分かる事は、主語の違い(「香港政府」と「香港特別行政区」)や「テロ活動を防止する」との語句がテレビ画面ベースにはないことなどである。
中文原文の第9条を参照すると、そこで使用されているのは「香港特別行政区」であり、また、そこには「恐怖活動的工作」なる文字列があることから、全文和訳の方は、それを省略しておらず、テレビ画像文では省略されているのだと分かる。
因みに、全文和訳版では、その条文が「どの章」の「どの節」にあるのかが分かる。
第9条は、「第二章・香港特別行政区の国家安全を維持する職責と機構」の「第一節・職責」にある5つの条文(第7条~第11条)のうちの1つである。
第二章・第一節は上記した様に「職責」であるが、その対象は以下の様に香港特別行政区に対してのものである。
↓
・「香港特別行政区」の職責規定=第7条、第9条、第10条
・「香港特別行政区の法執行機関及び司法機関」の職責規定=第8条
・「香港特別行政区行政長官」の職責規定=第11条
何れにしろ、両者とも第9条では「学校、社会団体、メディア、インターネット等」に対して「広報、指導、監督、管理を強化」せよ、との内容が紹介されているものである。
自由民主主義制度での「言論の自由」「思想・信条の自由」などの基本的人権概念での保障は共産党独裁政権下中国には存在しない。
そういう政治体制で、香港特別行政区に対して本土中共政府が「強化せよ」と言っているのだから、共産党独裁政権中国の国家維持には不都合な言論を「香港の地で言論統制をしなさい」と言っているものだ。
そういう事なので、「4つの条文」の1つに選ばれたのであろう。
「香港国家安全維持法」の「第20条と第21条」の突合・比較
続いて、保守速報のテレビ番組の一部であろう画像をベースの「4つの条文」のうちの第20条と第21条を以下に引用する。
20条と21条は、両方とも「犯罪となる行為」を示した条文であることから、まとめて突合・比較するものである。
↓
<保守速報の画像文字起こしから抜粋引用開始>
20条:国家の分裂や統一を破壊する行為の計画・実施・参加は、武力の使用の有無にかかわらず犯罪行為になる。
21条:いかなる人が第20条に違反する行為を他人に実行させるため、煽動・ほう助・教唆または犯罪行為のための資金等を提供することは犯罪になる。
<引用終わり>
読んでいる方も比較できる様に全文和訳版の第20条と第21条を以下に引用する。
↓
<全文和訳の個人ブログから抜粋引用開始>
第20条:何人も国家を分裂させ、国家の統一を破壊することを目的として、次に掲げる行為を組織し、計画し、実行し、又はその実行に参与した場合、武力の行使又は武力による威嚇の有無にかかわらず、罪に問われる。
(一)香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の部分を中華人民共和国から分離すること。
(二) 香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の地域の法的地位を不法に変更すること。
(三) 香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の部分を外国の支配下に移すこと。
前款の罪を犯した者の中で、首謀者あるいは罪が重大な者は、無期懲役又は十年以上の有期懲役に処する。積極的に参与した者は、三年以上十年以下の有期懲役に処する。それ以外の参加した者は、三年以下の有期懲役、禁錮あるいは管制処分に処する。
第21条:何人も、他人を煽動し、幇助し、教唆し、又は金銭あるいはその他財物によって資金援助して、本法第二十条に規定される罪を犯させた場合、罪に問われる。 事情が重大な場合には、五年以上十年以下の有期懲役に処する。事情が軽微な場合には、五年以下の有期懲役、禁錮又は管制処分に処する。
<引用終わり>
一目で分かる通り、テレビ画像版は随分と省略されたものである。
また、テレビ画像版は第21条の冒頭で「いかなる人」との語句を用いているが、全文和訳版では両条ともに「何人も」で条文が始まっている。
中国での法文の書き方・様式に関しては深くは知らないが、我が国の場合、「何人」との記載は、日本国籍の有無を問わない「誰でもが」という意味で使用される。
現行憲法の第三章・国民の権利及び義務の諸条文の冒頭を見れば、それが分かる。
「何人も」で始まる条文は、第16条、第17条、第18条、第20条、第22条である。
一方、第25条、第26条、第27条の書き出しは「すべて国民は」である。
詳しく書いていると長~い論考となってしまうので、大胆に言えば、「何人も」の条文は主として基本的人権にかかわるもので、我が国主権が及ぶ日本国内に於いては日本国籍の有無に関係なく、それらが保障されるという主旨である。
一方、「すべて国民は」の条文は、「日本国民の権利・義務」条文である。
第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあり、生活保護法の根拠になっている憲法条文である。
また、第26条と第27条は「国民の義務」を定めた条文である。
↓
<現行憲法>
第26条:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
同第2項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第27条:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
<引用終わり>
現行憲法の他、自由民主主義先進国でも「我が国の域内では誰でもが基本的人権を認められています」という似た様なものになっているものだ。
話を香港国家安全維持法に戻す。
同法の第20条と第21条は両方とも「何人も・・」で始まり、「罪に問われる」で終わっている。
要するに、中国国籍を持たない「誰でもが」「罪に問われる」というものだ。
香港国家安全維持法の第20条と第21条で「罪に問われる」行為として例示されているのは「国家を分裂させ、国家の統一を破壊することを目的とした行為」であるとしているが、具体的に何なのかを指摘する事は難しい。
これは逆に言えば、どの様にも拡大解釈が出来るというもので、恣意的な運用を可能にするものだ。
自由民主主義先進国であれば、司法の判例や社会常識に基づいた慣例や国会議論を通じた解釈により、妥当な線に落ち着くものだが、共産党独裁の中国の香港国家安全維持法では、そういう仕組みはない。
香港国家安全維持法の第65条を以下に紹介する。
↓
<引用開始>
第65条:本法の解釈権は、全国人民代表大会常務委員会に帰属する。
<引用終わり>
第65条は、「中国共産党が好きに解釈するから」というもので、そこには自由民主主義制度の三権分立の考え方も、一国二制度の自主独立の考え方もないことが分かるであろう。
こういう事をしてしまうのが独裁政権の独裁政権たる所以である。
尚、第20条及び第21条がある章は「第3章・罪と罰則」である。
第3章は以下の6つの節があり、第20条及び第21条は第1節の条文である。
↓
第1節:国家分裂罪(第20条~第21条)
第2節:国家権力転覆罪(第22条~第23条)
第3節:テロ活動罪(第24条~第28条)
第4節:外国又は境外勢力と結託して国家の安全を脅かす罪(第29条~第30条)
第5節:その他の処罰規定(第31条~第35条)
第6節: 効力範囲(第36条~第39条)
「香港国家安全維持法」の「第38条」の突合・比較
「4つの条文」のうちの最後の「38条」を以下に引用する。
↓
<保守速報の画像文字起こしから抜粋引用開始>
38条:永住権を持たない人が香港にいなくても香港特別行政区に対し、本法案に記載された犯罪行為を行った場合、本法案は適用される。
<引用終わり>
これだけを読んでも、何の事か分からないというのが正直なところである。
何故ならば、主権国家の主権が及ぶ範囲は、その主権国家の領土内に限定されるのだが、そうであるにも関わらず「香港にいなくても」と、「香港以外の何れの地域でも」と読める非常識な条文だからである。
テレビ画像ベースの条文は、ここまで見てきた様に、電子紙芝居用に省略されたもので、論考の役に立たない可能性が高いものなので、全文和訳版を見る事にする。
しかしながら、上記した様に第38条は「第3章・罪と罰則」の「第6節: 効力範囲」の4条文(第36条~第39条)の1つである
テレビ画像ベースの第38条だけを読むと、上述した様に「香港以外の何れの地域でも」と読める奇妙なものであるが、地域に関する規定は「第6節: 効力範囲」の4条文でセットになっているものなので、全文和訳版では第6節: 効力範囲の第36条から第39条までの総てを引用することにした。
↓
<全文和訳の個人ブログから抜粋引用開始>
第六節 効力範囲
第36条:本法は、香港特別行政区内で本法に規定する犯罪を犯した者に適用される。 香港特別行政区内で犯罪の行為や結果が発生した場合、香港特別行政区内の犯罪であるとみなされる。
本法は、香港特別行政区で登録された船舶又は航空機内で本法に規定する犯罪が行われた場合にも適用されるものとする。
第37条:香港特別行政区永久居民、又は香港特別行政区に設立された企業や団体などの法人、又は非法人組織が香港特別行政区外で本法に規定する罪を犯した場合、本法が適用される。
第38条:香港特別行政区の永住権を有しない者が、香港特別行政区の外で香港特別行政区が実施する本法に規定する罪を犯した場合、本法が適用される。
第39条:本法の施行後に犯した行為は、本法に基づいて罪に問われ、処罰される。
<引用終わり>
自由民主主義的センスで第6節の各条文を読むと、第36条と第37条は、まぁ分かる。
そういう流れで第38条を読むと、第36、37条で言及のなかったものをカバーする目的で書かれたものに見える。
しかし、法が施行され第38条は、第38条だけで効力を発揮し、しかも、その解釈権が中国共産党独裁政権にあるのだから、この条文は極めて危険なものになる。
「香港特別行政区の永住権を有しない者」とは、「香港以外の全世界の人々」との解釈が可能である。
「香港特別行政区の外で」とは「世界中の何処でも全部」との解釈が可能である。
実に危うい条文であることは間違いがない。そして同時に「他国の主権」という概念がないと思われる実に傲慢な条文である。
長くなったので項を分ける。今回前編は以上である。
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