改憲議論と憲法規定の実現化議論を混同させる記事(前編)
- 2019/10/11
- 22:21
改憲議論と憲法規定の実現化議論を混同させる記事(前編)

副題:改憲議論の気運が高まると出てくる「改憲よりも○○」とのゴマカシ記事。今回は東京新聞が「れいわ新撰組」の参議院議員2人をダシにした同様記事が出た。
今回の題材は、東京新聞の10月6日朝刊記事「◆改憲より憲法の理念実現を れいわ2氏、訴え」である。(*1)
最初に副題に書いた通り、この東京新聞の記事は改憲気運に水を差すのが目的の記事だ。
憲法条文を改善する問題と憲法条文に書かれている理念を実現させるとの問題は、各々別の問題である。
それをあたかも「どちらか1つ」であるかの様な印象付けを行い、改憲議論をさせない様な方向に引っ張っている訳だ。
「憲法条文に書かれている理念を実現させる」との問題を解決するには、実務に軸足を置いた下位法の改正・新設をすることになる。
記事のダシにされている「れいわ新選組」の両議員は、国会議員なのだから、立法府の一員として、その本来責務をまっとうする立場にある。
国会での憲法議論は衆参両院の憲法審査会で行われる建て付けだ。
一方、「憲法条文に書かれている理念を実現させる」為の下位法の改正・新設の議論は別の委員会他で行うものである。
東京新聞記事は、これら各々の問題を、あたかもを「どちらか1つ」であるかの様な印象付けをしており、「憲法議論をすると憲法理念実現の為の下位法改正・新設議論がストップしてしまう」が如きの虚偽を流布する、印象操作・誤解誘導が目的の記事なのである。
「憲法議論をさせない事での改憲阻止」との卑劣な戦法については、以前から幾度も指摘している。(*2)
改憲するかしないかの判断は国民がすると現行憲法第96条(改憲条項)に書いてある。この条文の憲法理念からは、国会議員は国民に改憲是非の判断材料を示す責務を負っていると解されるのだが、国会で憲法議論をしないとの寝転がり戦法を続けている特定野党連中は、そういう責務を自覚していないのである。
東京新聞記事によれば、この様な誤解を「れいわ新選組」の両議員もしている様である。
そんな誤解をしている暇があるなら、立法府の一員として、「憲法条文に書かれている理念を実現させる」為の下位法の改正・新設との本来責務のご努力をしていただきたい。
今回題材の東京新聞記事は、この様な印象操作・誤解誘導が目的の記事であり、それを指摘する事で御仕舞にしてもよいのだが、記事中には障碍者である彼等が是正を求める際の具体的条文を掲げている部分があるので、その部分についての論考もしておきたい。
記事中に登場する具体的条文は、以下の通り、第13条、第25条、第14条、第22条の4つである。
↓
<抜粋引用>
・「両氏は幸福追求権を定めた一三条や生存権の保障を定めた二五条などを挙げ「障害者には十分実現されていない」と指摘する。」
・「「二五条で保障する権利が障害者には十分に認められていない。安倍政権がないがしろにしている」
・「二五条は、全ての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を認めている。」
・「舩後氏は、九月に首相官邸で、以前から交流のある首相と面会した際、法の下の平等を掲げる一四条や二二条の職業選択の自由にも触れ「理念を実現するために頑張る」と伝えた。」
・「二五条に関しては、本紙の取材に「重度障害者が自分の意思で自分の選択した人生を営むには、あまりにもバリアー(障壁)が多い社会の構造だ。衣食住など健常者と同じ権利がまだまだ保障されていない」と指摘している。」
<引用終わり>
現行憲法の条文番号を示しても、何のことか分からないと思うので、記事の登場順に書く条文に基づき論じる。
先ずは第13条である。
↓
現行憲法:第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
<引用終わり>
お読みいただければお分かりの通り、この憲法条文は理念を書いてある条文である。
憲法の条文には、この13条の様に「理念」を書いたものや、第4章・国会、第5章・内閣の条文の多くに見られる様な「規定」が書いてあるものがある。
また、第13条がある第3章・国民の権利及び義務にも「規定」が書いてある条文がある。
第13条の「理念」を東京新聞記事では「幸福追求権を定めた一三条」と書いてあるが、これは第13条の中にある「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」との記述からピックアップしたものである。
この第13条の理念は、第3章全体に掛かるものだと解するのが定説である。この事は以前の論考「大村愛知県知事の安易な理解「憲法21条違反」」で指摘済だ。
13条に言及する場合、得てして「公共の福祉に反しない限り」の部分をスルーするとの大間違いをする。(*3)
第13条が東京新聞の記事で出てくるのは1回だけである。
その文脈で登場するのは第25条である。
第25条の条文は以下の通りである。
↓
現行憲法:第25条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
同第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
<引用終わり>
第25条は、第13条の理念に基づき、より具体性を高めた条文となっているものの、これも「理念」の話である。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を「国」がどの様に「向上及び増進に努め」るのかは、この条文では示されていない。
憲法は実体法の「最高法規」(第98条)として機能しており、この理念は下位法で実現化している。
一番馴染みがあるのが、生活保護法であろう。
同法の立法趣旨・目的は、同法の第1条に以下の様に記載されている。
↓
生活保護法:第1条 (この法律の目的)
この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
<引用終わり>
ご覧の通り、生活保護法は現行憲法第25条の理念に基づくものだと最初に書かれていることが確認できたと思う。また、「生活に困窮するすべての国民に対し」とある様に、また、生活保護法の憲法での根拠である25条にある「すべて国民は」から、その対象は日本国籍を有する日本国の国民である。
この様な現行憲法に対して、「れいわ新選組」の両議員は、上記した様に「障害者には十分実現されていない」「二五条で保障する権利が障害者には十分に認められていない。」「重度障害者が自分の意思で自分の選択した人生を営むには、あまりにもバリアー(障壁)が多い社会の構造だ。衣食住など健常者と同じ権利がまだまだ保障されていない」と指摘しているのである。
要するに、現行憲法に基づき制定された生活保護法やその他の社会保障関係の下位法での規定内容または、その運用実態が不充分だ、ダメだ、と言っている訳だ。
ならば、両議員は立法府の一員なのだから、新規定を盛り込んだ下位法の改正・新設、或いは運用不備を補完する下位法の改正・新設等の立法努力、即ち、本来責務のご努力をしていただくのが一番の近道だ。
「実現されていない!」と騒ぐだけなら、それは国民側の「お仕事」であり、それら国民の声を反映させるのが議員の「お仕事」である。
ましてや、現行憲法第13条及び第25条の理念が実現していない事を以て、「憲法議論を停止せよ」という話の根拠にはなり得ない。
現在、改憲草案を提示している政党は自民党しかいない。
特定野党は、前述した通り「憲法議論をさせない事での改憲阻止」との卑劣な戦法を用いており、改憲草案を提示していないのでお話にならないが、それら特定野党や「れいわ新選組」の両議員が否定的に捉えている安倍・自民党が第13条、第25条に関して、どの様な改憲草案を提示しているのかを以下に示す。
↓
自民党案:第13条 人としての尊重等 (*4)
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
<引用終わり>
自民党案:第25条 生存権等 (*5)
全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
同第2項 国は、国民生活のあらゆる側面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない
<引用終わり>
ご覧の通り、言い回し以外は何も変わっていない。
赤く表示した部分だけが現行憲法と違っている部分であり、理念・規定としては同一だと言ってよい。現行憲法は「昭和21年憲法」と言われる様に、70数年前の文章・表記方法で書かれているので、それを現代後にアップデートしているものである。
要するに、改憲されなかった場合でも、自民党案通りで改憲がなされても、同じだと言う事である。
「れいわ新選組」の両議員が言っている「不充分」「ダメ」の解決は本来的には下位法で行うべきものだが、仮に、憲法条文で行う方法を取りたいのなら、「れいわ新選組」の両議員は自分達が考える新憲法の第13条、第25条の「改憲草案れいわ版」を出せば良いのである。国会議員の立場からは、そういう動きをすべきものである。
下位法の改正・新設または「改憲草案れいわ版」の提示もしないのなら、それは国会議員としての職務をまっとうしていないと看做されてしまう。
当方は、勿論のこと、「れいわ新選組」の両議員が身体的ハンディを負っていることを知っており、東京新聞の記事が両議員をダシに使っていることも認知しているので、ここに書いた事を実行せよと主張しているものではない。
「れいわ新選組」の両議員には、先の参議院選挙でそういう立場になったという事を考えた上で、国民の代表としてご発言いただきたいと願っているのである。
話を戻す。
この様に、現行憲法第13条・第25条に関して、現状で問題点があったとしても、それは、けして憲法議論を中止する理由にはなっていないし、なり得ないのである。
長くなったので、今回はここまでとし、次項へと続ける。
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【文末脚注】
(*1):今回の題材の東京新聞記事
東京新聞 2019年10月6日 朝刊
見出し:◆改憲より憲法の理念実現を れいわ2氏、訴え
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201910/CK2019100602000126.html
記事:○安倍晋三首相が臨時国会冒頭の所信表明演説で改憲への変わらぬ意欲を見せる一方、七月の参院選で初当選し本格的な国会活動に臨む重度障害者の舩後(ふなご)靖彦、木村英子両氏(いずれもれいわ新選組)が、改憲よりも「現行憲法の理念を実現することの方が喫緊の課題」と訴え、対照的な姿勢を示している。両氏は幸福追求権を定めた一三条や生存権の保障を定めた二五条などを挙げ「障害者には十分実現されていない」と指摘する。
○首相は四日の所信表明演説で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の舩後氏を「友人」と紹介。社会保障などの改革に向けた「道しるべは、憲法だ」と、衆参両院の憲法審査会での議論を促した。
○舩後氏は演説を受け、就労中が対象外となる「重度訪問介護」の制度改正について「首相とともに実現していきたい」と、歓迎するコメントを発表した。だが憲法に関しては、本紙のインタビューで「二五条で保障する権利が障害者には十分に認められていない。安倍政権がないがしろにしている」と批判している。
○二五条は、全ての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を認めている。
○舩後氏は、九月に首相官邸で、以前から交流のある首相と面会した際、法の下の平等を掲げる一四条や二二条の職業選択の自由にも触れ「理念を実現するために頑張る」と伝えた。
○木村氏も演説後「今の憲法ですら守られていない現状がある。早急な改憲はいかがなものか」と話し、首相の姿勢に疑問を呈した。二五条に関しては、本紙の取材に「重度障害者が自分の意思で自分の選択した人生を営むには、あまりにもバリアー(障壁)が多い社会の構造だ。衣食住など健常者と同じ権利がまだまだ保障されていない」と指摘している。
○両氏は、自民党が掲げる九条への自衛隊明記などの改憲四項目にも「悲惨な戦争を生み出す可能性を持つ改憲には反対」(木村氏)と距離を置く。特に、有事の際に政府への権限集中を認める緊急事態条項の新設には「戦争などの際に、障害者は真っ先に切り捨てられる」(舩後氏)と反対している。 (横山大輔)
・<記事中の写真の文字起こし>
れいわの参院議員2氏の
憲法に関する主な主張
◆条文の理念実現を
◇13条・幸福追求権
◇14条・法の下の平等
◇22条・職業選択の自由
◇25条・生存権
◆自民党改憲案の緊急事態条項は反対
木村栄子氏:さらに人権が制限される
舩後靖彦氏:戦争など有事の際に、障碍者は真っ先に切り捨てられる
<引用終わり>
(*2):「憲法議論をさせない事での改憲阻止」との卑劣な戦法については、以前から幾度も指摘している。
2018/07/02投稿:
「憲法議論をしないことでの改憲阻止」との愚劣
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-969.html
2018/02/27投稿:
相変わらずの寝転がり戦法・野党5党
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-871.html
2018/08/06投稿:
2018年通常国会・憲法議論から逃げ回った立憲民主党他野党
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-993.html
2018/09/23投稿:
「国会で憲法議論などするものか」と相変わらずの野党
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1020.html
2019/04/24投稿:
憲法議論から逃げ回っての改憲阻止を正当化する人達
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1163.html
(*3):第13条の理念は、第3章全体に掛かるものだと解するのが定説である。この事は以前の論考で指摘済だ。13条に言及する場合、得てして「公共の福祉に反しない限り」の部分をスルーするとの大間違いをする。
2019/08/10投稿:
大村愛知県知事の安易な理解「憲法21条違反」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1238.html
(*4):自民党案:第13条 人としての尊重等
2015/10/26投稿:
自己検証11 主権・人権概念での検証
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-244.html
(*5):自民党案:第25条
2015/11/11投稿:
自己検証18 主権・人権概念での検証
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-260.html
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副題:改憲議論の気運が高まると出てくる「改憲よりも○○」とのゴマカシ記事。今回は東京新聞が「れいわ新撰組」の参議院議員2人をダシにした同様記事が出た。
今回の題材は、東京新聞の10月6日朝刊記事「◆改憲より憲法の理念実現を れいわ2氏、訴え」である。(*1)
最初に副題に書いた通り、この東京新聞の記事は改憲気運に水を差すのが目的の記事だ。
憲法条文を改善する問題と憲法条文に書かれている理念を実現させるとの問題は、各々別の問題である。
それをあたかも「どちらか1つ」であるかの様な印象付けを行い、改憲議論をさせない様な方向に引っ張っている訳だ。
「憲法条文に書かれている理念を実現させる」との問題を解決するには、実務に軸足を置いた下位法の改正・新設をすることになる。
記事のダシにされている「れいわ新選組」の両議員は、国会議員なのだから、立法府の一員として、その本来責務をまっとうする立場にある。
国会での憲法議論は衆参両院の憲法審査会で行われる建て付けだ。
一方、「憲法条文に書かれている理念を実現させる」為の下位法の改正・新設の議論は別の委員会他で行うものである。
東京新聞記事は、これら各々の問題を、あたかもを「どちらか1つ」であるかの様な印象付けをしており、「憲法議論をすると憲法理念実現の為の下位法改正・新設議論がストップしてしまう」が如きの虚偽を流布する、印象操作・誤解誘導が目的の記事なのである。
「憲法議論をさせない事での改憲阻止」との卑劣な戦法については、以前から幾度も指摘している。(*2)
改憲するかしないかの判断は国民がすると現行憲法第96条(改憲条項)に書いてある。この条文の憲法理念からは、国会議員は国民に改憲是非の判断材料を示す責務を負っていると解されるのだが、国会で憲法議論をしないとの寝転がり戦法を続けている特定野党連中は、そういう責務を自覚していないのである。
東京新聞記事によれば、この様な誤解を「れいわ新選組」の両議員もしている様である。
そんな誤解をしている暇があるなら、立法府の一員として、「憲法条文に書かれている理念を実現させる」為の下位法の改正・新設との本来責務のご努力をしていただきたい。
今回題材の東京新聞記事は、この様な印象操作・誤解誘導が目的の記事であり、それを指摘する事で御仕舞にしてもよいのだが、記事中には障碍者である彼等が是正を求める際の具体的条文を掲げている部分があるので、その部分についての論考もしておきたい。
記事中に登場する具体的条文は、以下の通り、第13条、第25条、第14条、第22条の4つである。
↓
<抜粋引用>
・「両氏は幸福追求権を定めた一三条や生存権の保障を定めた二五条などを挙げ「障害者には十分実現されていない」と指摘する。」
・「「二五条で保障する権利が障害者には十分に認められていない。安倍政権がないがしろにしている」
・「二五条は、全ての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を認めている。」
・「舩後氏は、九月に首相官邸で、以前から交流のある首相と面会した際、法の下の平等を掲げる一四条や二二条の職業選択の自由にも触れ「理念を実現するために頑張る」と伝えた。」
・「二五条に関しては、本紙の取材に「重度障害者が自分の意思で自分の選択した人生を営むには、あまりにもバリアー(障壁)が多い社会の構造だ。衣食住など健常者と同じ権利がまだまだ保障されていない」と指摘している。」
<引用終わり>
現行憲法の条文番号を示しても、何のことか分からないと思うので、記事の登場順に書く条文に基づき論じる。
先ずは第13条である。
↓
現行憲法:第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
<引用終わり>
お読みいただければお分かりの通り、この憲法条文は理念を書いてある条文である。
憲法の条文には、この13条の様に「理念」を書いたものや、第4章・国会、第5章・内閣の条文の多くに見られる様な「規定」が書いてあるものがある。
また、第13条がある第3章・国民の権利及び義務にも「規定」が書いてある条文がある。
第13条の「理念」を東京新聞記事では「幸福追求権を定めた一三条」と書いてあるが、これは第13条の中にある「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」との記述からピックアップしたものである。
この第13条の理念は、第3章全体に掛かるものだと解するのが定説である。この事は以前の論考「大村愛知県知事の安易な理解「憲法21条違反」」で指摘済だ。
13条に言及する場合、得てして「公共の福祉に反しない限り」の部分をスルーするとの大間違いをする。(*3)
第13条が東京新聞の記事で出てくるのは1回だけである。
その文脈で登場するのは第25条である。
第25条の条文は以下の通りである。
↓
現行憲法:第25条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
同第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
<引用終わり>
第25条は、第13条の理念に基づき、より具体性を高めた条文となっているものの、これも「理念」の話である。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を「国」がどの様に「向上及び増進に努め」るのかは、この条文では示されていない。
憲法は実体法の「最高法規」(第98条)として機能しており、この理念は下位法で実現化している。
一番馴染みがあるのが、生活保護法であろう。
同法の立法趣旨・目的は、同法の第1条に以下の様に記載されている。
↓
生活保護法:第1条 (この法律の目的)
この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
<引用終わり>
ご覧の通り、生活保護法は現行憲法第25条の理念に基づくものだと最初に書かれていることが確認できたと思う。また、「生活に困窮するすべての国民に対し」とある様に、また、生活保護法の憲法での根拠である25条にある「すべて国民は」から、その対象は日本国籍を有する日本国の国民である。
この様な現行憲法に対して、「れいわ新選組」の両議員は、上記した様に「障害者には十分実現されていない」「二五条で保障する権利が障害者には十分に認められていない。」「重度障害者が自分の意思で自分の選択した人生を営むには、あまりにもバリアー(障壁)が多い社会の構造だ。衣食住など健常者と同じ権利がまだまだ保障されていない」と指摘しているのである。
要するに、現行憲法に基づき制定された生活保護法やその他の社会保障関係の下位法での規定内容または、その運用実態が不充分だ、ダメだ、と言っている訳だ。
ならば、両議員は立法府の一員なのだから、新規定を盛り込んだ下位法の改正・新設、或いは運用不備を補完する下位法の改正・新設等の立法努力、即ち、本来責務のご努力をしていただくのが一番の近道だ。
「実現されていない!」と騒ぐだけなら、それは国民側の「お仕事」であり、それら国民の声を反映させるのが議員の「お仕事」である。
ましてや、現行憲法第13条及び第25条の理念が実現していない事を以て、「憲法議論を停止せよ」という話の根拠にはなり得ない。
現在、改憲草案を提示している政党は自民党しかいない。
特定野党は、前述した通り「憲法議論をさせない事での改憲阻止」との卑劣な戦法を用いており、改憲草案を提示していないのでお話にならないが、それら特定野党や「れいわ新選組」の両議員が否定的に捉えている安倍・自民党が第13条、第25条に関して、どの様な改憲草案を提示しているのかを以下に示す。
↓
自民党案:第13条 人としての尊重等 (*4)
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
<引用終わり>
自民党案:第25条 生存権等 (*5)
全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
同第2項 国は、国民生活のあらゆる側面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない
<引用終わり>
ご覧の通り、言い回し以外は何も変わっていない。
赤く表示した部分だけが現行憲法と違っている部分であり、理念・規定としては同一だと言ってよい。現行憲法は「昭和21年憲法」と言われる様に、70数年前の文章・表記方法で書かれているので、それを現代後にアップデートしているものである。
要するに、改憲されなかった場合でも、自民党案通りで改憲がなされても、同じだと言う事である。
「れいわ新選組」の両議員が言っている「不充分」「ダメ」の解決は本来的には下位法で行うべきものだが、仮に、憲法条文で行う方法を取りたいのなら、「れいわ新選組」の両議員は自分達が考える新憲法の第13条、第25条の「改憲草案れいわ版」を出せば良いのである。国会議員の立場からは、そういう動きをすべきものである。
下位法の改正・新設または「改憲草案れいわ版」の提示もしないのなら、それは国会議員としての職務をまっとうしていないと看做されてしまう。
当方は、勿論のこと、「れいわ新選組」の両議員が身体的ハンディを負っていることを知っており、東京新聞の記事が両議員をダシに使っていることも認知しているので、ここに書いた事を実行せよと主張しているものではない。
「れいわ新選組」の両議員には、先の参議院選挙でそういう立場になったという事を考えた上で、国民の代表としてご発言いただきたいと願っているのである。
話を戻す。
この様に、現行憲法第13条・第25条に関して、現状で問題点があったとしても、それは、けして憲法議論を中止する理由にはなっていないし、なり得ないのである。
長くなったので、今回はここまでとし、次項へと続ける。
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【文末脚注】
(*1):今回の題材の東京新聞記事
東京新聞 2019年10月6日 朝刊
見出し:◆改憲より憲法の理念実現を れいわ2氏、訴え
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201910/CK2019100602000126.html
記事:○安倍晋三首相が臨時国会冒頭の所信表明演説で改憲への変わらぬ意欲を見せる一方、七月の参院選で初当選し本格的な国会活動に臨む重度障害者の舩後(ふなご)靖彦、木村英子両氏(いずれもれいわ新選組)が、改憲よりも「現行憲法の理念を実現することの方が喫緊の課題」と訴え、対照的な姿勢を示している。両氏は幸福追求権を定めた一三条や生存権の保障を定めた二五条などを挙げ「障害者には十分実現されていない」と指摘する。
○首相は四日の所信表明演説で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の舩後氏を「友人」と紹介。社会保障などの改革に向けた「道しるべは、憲法だ」と、衆参両院の憲法審査会での議論を促した。
○舩後氏は演説を受け、就労中が対象外となる「重度訪問介護」の制度改正について「首相とともに実現していきたい」と、歓迎するコメントを発表した。だが憲法に関しては、本紙のインタビューで「二五条で保障する権利が障害者には十分に認められていない。安倍政権がないがしろにしている」と批判している。
○二五条は、全ての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を認めている。
○舩後氏は、九月に首相官邸で、以前から交流のある首相と面会した際、法の下の平等を掲げる一四条や二二条の職業選択の自由にも触れ「理念を実現するために頑張る」と伝えた。
○木村氏も演説後「今の憲法ですら守られていない現状がある。早急な改憲はいかがなものか」と話し、首相の姿勢に疑問を呈した。二五条に関しては、本紙の取材に「重度障害者が自分の意思で自分の選択した人生を営むには、あまりにもバリアー(障壁)が多い社会の構造だ。衣食住など健常者と同じ権利がまだまだ保障されていない」と指摘している。
○両氏は、自民党が掲げる九条への自衛隊明記などの改憲四項目にも「悲惨な戦争を生み出す可能性を持つ改憲には反対」(木村氏)と距離を置く。特に、有事の際に政府への権限集中を認める緊急事態条項の新設には「戦争などの際に、障害者は真っ先に切り捨てられる」(舩後氏)と反対している。 (横山大輔)
・<記事中の写真の文字起こし>
れいわの参院議員2氏の
憲法に関する主な主張
◆条文の理念実現を
◇13条・幸福追求権
◇14条・法の下の平等
◇22条・職業選択の自由
◇25条・生存権
◆自民党改憲案の緊急事態条項は反対
木村栄子氏:さらに人権が制限される
舩後靖彦氏:戦争など有事の際に、障碍者は真っ先に切り捨てられる
<引用終わり>
(*2):「憲法議論をさせない事での改憲阻止」との卑劣な戦法については、以前から幾度も指摘している。
2018/07/02投稿:
「憲法議論をしないことでの改憲阻止」との愚劣
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-969.html
2018/02/27投稿:
相変わらずの寝転がり戦法・野党5党
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-871.html
2018/08/06投稿:
2018年通常国会・憲法議論から逃げ回った立憲民主党他野党
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-993.html
2018/09/23投稿:
「国会で憲法議論などするものか」と相変わらずの野党
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1020.html
2019/04/24投稿:
憲法議論から逃げ回っての改憲阻止を正当化する人達
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1163.html
(*3):第13条の理念は、第3章全体に掛かるものだと解するのが定説である。この事は以前の論考で指摘済だ。13条に言及する場合、得てして「公共の福祉に反しない限り」の部分をスルーするとの大間違いをする。
2019/08/10投稿:
大村愛知県知事の安易な理解「憲法21条違反」
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1238.html
(*4):自民党案:第13条 人としての尊重等
2015/10/26投稿:
自己検証11 主権・人権概念での検証
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-244.html
(*5):自民党案:第25条
2015/11/11投稿:
自己検証18 主権・人権概念での検証
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-260.html
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