ヘゲモニーチャレンジ宣言をした中国Part1
- 2019/05/17
- 21:21
ヘゲモニーチャレンジ宣言をした中国Part1

副題:自由・平等理念の世界基準がお気に召さない中国の自国文明基準のヘゲモニーチャレンジャー宣言。「経済政策の中でのソフトパワー」レベルの話ではない。
「アジア文明対話」なるイベントで習近平が演説を行ったとの日経記事を見た。(*1)
「アジア文明対話」なるイベントの存在は初耳で、どの様な趣旨のイベントなのかまったく知らなかったが、日経記事の見出し「◆習氏、米政権に警戒感 「アジア文明対話」で言及 」及び記事の内容からは、中国は、現在の世界の建て付けが米国有利なものだとして、お気に召さず、文明論を引っ張り出しているものである。
日経の記事は、中国が文明論を持ち出したのは「一帯一路戦略の中でのソフトパワー」だと位置付けている様である。
確かに背景に「米中貿易戦争」があり、海洋国家・米国の国際戦略に対抗し、大陸国家・中国の自国権益の拡大・確保を陸路中心の一帯一路戦略に置いているとの事象があるのだが、中国が文明論を持ち出したのは「一帯一路戦略の中でのソフトパワー」のレベルではなく、もっと大きい目的がある。
以前の論考(*2)で、中国はヘゲモニーチャレンジをしていることを指摘した。
先の大戦後の世界のヘゲモニー(指導的地位)が米国にあることは知っての通りである。
また、先の大戦以前は「日の沈まぬ帝国」であった英国がヘゲモニーを握っていた。
これら米英が指導的地位にいる世界での「世界標準」「正邪判断基準」は、米英にとって「自然だ、当然だ」と感じられるものになる。
米英両国は、西欧文明圏の国家であり、また、世界の主要国である仏国、独国、伊国、蘭国、西国も西欧文明圏の国々である。
大航海時代により世界を席巻した西欧文明の浸透は、近代に於いて東アジアに至り、19世紀後半からの100年は、西欧文明が地球規模に拡大した。西欧文明以外の文明が世界舞台に主役級として登場するのは、ロシア帝国・ソ連のスラブ文明圏と我が国日本文明圏である。
世界に現存する文明圏は9つある(*3)とされ、21世紀現在、従前は世界を動かす主役級にはなれなかった中国Sinic文明圏が台頭してきている。
中国が台頭できたのは、20世紀中盤以降の世界構造だった米ソ東西冷戦構造の中でのソ連弱体化戦略としての中ソ引き離し策が原因だ。中国を優遇することで東側陣営の結束を弱めるものであった。
当時の中国(共産中国)は、ただ単に国土と人口が多いだけの国で、経済・軍事等の国力に於いてまったく弱小であり、今日の様な強大さはまったくなかったので、その本性が何であろうと興味を持たれなかったのが現実だ。
米ソ東西冷戦構造がソ連崩壊により消滅した後の世界は、石油を背景にしたイスラム文明圏の台頭が経済分野では注目されるが、同時に軍事面でもイスラム文明圏の台頭があり、今も続いている。
サウジ等の産油国の多くは軍事的に西欧文明諸国との対立を選択していないが、イラン革命後に宗教国家色を鮮明にしてイスラム共和国となったイランやリビアなどは、国家レベルで西欧文明圏諸国と対峙するに至っている。
また、「イスラム過激派」と称されるISISIなどの諸集団によるテロ・武力行為は、国家ではないので「戦争」とは定義されないが、イスラム文明圏での正邪判断に於いては聖戦であり、その底には西欧文明基準の世界構造への反抗がある。
これらの現象を一般的には、米ソ東西冷戦構造の終焉に伴う民族主義の台頭とか米ソによる重石が外れたから、とか言われているが、総じては各文明・各文化の正邪判断の差異が根幹に存在する問題だ。
正邪判断の差異は、米ソ東西冷戦下では「思想の違い」と言われていたものと考えて良い。
「思想」の場合は、それを説明する論理が存在しているので、ある程度分かり易いが、それが「宗教」や「文化・文明」のレベルになると、それらは暗然であり、本人も自覚なく信じている正邪判断であり、分かり難いものとなる。
そういう米ソ東西冷戦構造終焉後の世界で中国は、経済・軍事との国力の両輪を発展させ強大となったことから、自分の正邪判断基準であるSinic文明とは異なる西欧文明を基盤とする現在の「世界標準」「正邪判断基準」に対しての違和感の払拭に動き出しているのである。
ヘゲモニーをアメリカの手から取り上げ、中国のものとしたいのだ。
現在の「世界標準」「正邪判断基準」の根本は、西欧文明圏の自由・平等の理念に基づくものである。
現在の世界の建て付けは国家単位となっており、平等理念で「国家は対等」との建て付けとなっている。
人口約13億人の中国も人口約32万人のアイスランドも国連では1国1票である。
また、自由理念から、各国は各国の自由に基づき、自分達自身が決めた国家体制で国家を運営することになっている。
そういう建て付けなので、自由民主主義ではない国家も存在している。
共産主義国家の中国、北朝鮮。イスラム共和国のイラン、絶対王政の中東産油国などである。また、自由民主主義でも、各国は自国の伝統・歴史に則り、共和国制の国々もあれば立憲君主制の国々もある。
自由民主主義の国々では、自国民1人々々の自由を尊重する理念となっている。
自由民主主義国の国民が、自由・平等理念を至高にものと考え、非自由民主主義国の国民にそれらが認められていない、改善すべきだと指摘することは、自由の範囲内だが、その国家の自由とぶつかっている面がある。
この様な、同じ理念間でも齟齬・矛盾が出てくるのが現状の実態だ。
なかなか難しい問題ではあるのだが、自由・平等理念自体はもっともすばらしいものだと考えているので、その理念自体を取り下げるつもりはない。
その様な現状の自由・平等理念での世界の建て付けにご不満なのが、Sinic文明圏の国、中国である。
今回の「アジア文明対話」なるイベントで習近平は「文明」をキーワードに基調演説をしているのだが、日経の記事での「習近平の演説内容」は、以下の4点しか書いておらず、分からない状態だ。
↓
<日経記事から抜粋引用>
①:「国際情勢は不安定性と不確実性が増している」
②:「ともにアジア運命共同体を築こう」
③:「自分たちの文明が優れていると考え、他の文明を改造しようとするのは愚かで災難だ」
④:習氏は演説で中国の古典「論語」や千夜一夜物語(アラビアンナイト)などとともに日本の「源氏物語」にも触れ「人類の宝だ」と称賛。
<引用終わり>
↓
注目点は上記の③だと思うが、どういう文脈で語っているのかまでは日経記事だけでは分からないので、ちょっとネット検索をしてみた。
我が国やアメリカの場合は、首脳の演説はHPで全文紹介されているケースがほとんどだが、中国では事情が違う様で、演説全文は見つからなかった。
その代わり、「◆数字で読み解くアジア文明対話大会における習近平主席の基調演説」との見出しの中国サイト(人民日報)の記事(*4)を発見した。
それを読んだ結果は「案の定の、中国によるヘゲモニーチャレンジ宣言」であった。
知っている方の間では常識であるが、「中国は指桑罵槐の国」である。
「指桑罵槐」とは字句で言えば「桑の木をさして槐(エンジュ)の木を罵る」であるが、「批判する対象(槐の木)を直接的に批判するのではなく、別の対象である桑の木を指しながら批判する」ことで、これは「間接的に人心を牽制しコントロールする」為の手法だと言われている。
習近平が一般論として言っている「自分たちの文明が優れていると考え、他の文明を改造しようとするのは愚かで災難だ」は、アメリカの事だと容易に想像できるものである。
先の大戦後の世界のヘゲモニーが米国にあることは知っての通りである。
しかし、これなどは、Sinic文明中国のやり方を知っている側から見ればブーメランでしかない。(笑)
アメリカには横暴なところがあることは多くの方が認知している。
時に、アメリカは大間違いをおかす。
そういう意味では、一般論としての「自分たちの文明が優れていると考え、他の文明を改造しようとするのは愚かで災難だ」は妥当であり、納得感がある話である。
とは言え、「それでは、どの様な文明を基準にした世界秩序が望ましいのか?」との問いへの答は、特には示されていない。
習近平の言っていることが、自由平等理念の基盤上での改善の話であれば良いのだが、中国はSinic文明圏であり、その文明は自由平等理念を基盤にしていない。
Sinic文明の根幹は、中華思想・華夷秩序であることは既に指摘済である。(*5)
中国の文明的価値観での「平和な世界」とは、世界の中心の華である中華の元に広がる世界である。
中華の指導の下に世界が従う体制がもっとも平和な世界なのである。
そんな世界はお断りである。
我が国は、1300年以上も昔からお断りをしているのだが、21世紀の今になっても、シナの地では、彼等が考える「平和な世界」を希求している。
<論考が長くなってしまうので、今回(Part1)は以上として項を分ける>
1日1回ポチっとな ↓
FC2 Blog Ranking 
【文末脚注】
(*1):「アジア文明対話」を報じる日経記事
日本経済新聞HP 2019/5/15 17:00 (2019/5/15 20:38更新)
見出し:◆習氏、米政権に警戒感 「アジア文明対話」で言及
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44821900V10C19A5910M00/
リード文:○【北京=羽田野主】中国の習近平(シー・ジンピン)政権指導部は15日、アジア地域の文化交流イベント「アジア文明対話」の開幕式を北京で開いた。広域経済圏構想「一帯一路」に中国の食文化や伝統芸能などソフトパワーを広げ、友好国を増やす狙いがある。習国家主席は「国際情勢は不安定性と不確実性が増している」と述べるとともに「ともにアジア運命共同体を築こう」と呼びかけた。
記事:○習氏は「自分たちの文明が優れていると考え、他の文明を改造しようとするのは愚かで災難だ」とも発言。中国に構造改革を迫るトランプ米政権への警戒感を示した。
○習氏が提唱した初の試みである「アジア文明対話」には、アジアの47カ国などから約2千人が参加。中国の主要都市で展覧会や伝統芸能の披露、グルメイベントといった関連行事を8月にかけて開く。
○「一帯一路」に含まれる地域からはシンガポール、スリランカ、アルメニア、ギリシャなどの政府首脳らが出席。習指導部はアジア文明対話を中国の価値観を広げて一帯一路圏での結びつきを強める今年の重要な外交行事と位置づけている。
○習氏は演説で中国の古典「論語」や千夜一夜物語(アラビアンナイト)などとともに日本の「源氏物語」にも触れ「人類の宝だ」と称賛。習指導部は対日関係の改善にかじを切っており、日本にも秋波を送った。
<引用終わり>
(*2):ヘゲモニーチャレンジャー
2018/10/11投稿:
ヘゲモニーチャレンジャー中国・事大主義小中華韓国
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1032.html
(*3):世界に現存する文明圏は9つある
我々日本人は、世界で現存する9つの文明圏のうちの1つである、我が国1国だけの日本文明圏で暮らしている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E6%98%8E%E3%81%AE%E8%A1%9D%E7%AA%81#/media/File:Clash_of_Civilizations_mapn2.png
青色:Western(西欧文明圏)
水色:Orthodox (東方正教文明圏(スラブ文明))
緑色:Islamic(イスラム文明圏)
黄色:Buddhist(仏教文明圏)
橙色:Hindu(ヒンズー文明圏)
灰緑色:African(アフリカ文明圏)
紫色:Latin American(ラテンアメリカ文明緬)
赤色:Sinic(シナ文明圏)
桃色:Japanese(日本文明圏)
(*4):中国サイト(人民日報))の記事
japanese.china.org.cn 2018年5月16日
見出し:◆数字で読み解くアジア文明対話大会における習近平主席の基調演説
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2019-05/16/content_74790274.htm
リード文:○アジア文明対話大会の開幕式が15日午前に北京で行われ、習近平国家主席が開幕式に出席して、基調演説を行った。演説は全文で三千字余りと長くはないが、内容がしっかり詰まっており、その情報量は膨大だ。人民日報では今回の演説を数字で読み解いた。
<記事部分引用省略。「(資料編)」で適宜引用する>
(*5):Sinic文明の根幹は、中華思想・華夷秩序であることは既に指摘済である。
2017/12/21投稿:
情勢認識が冷戦時代のままではダメでしょ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-829.html
2016/08/19投稿:
東シナ海・南シナ海
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-487.html
2017/07/04投稿:
シナ大陸の歴史観・易姓革命
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-708.html
【ご参考】
2018/10/13投稿:
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(前編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1033.html
2018/10/16投稿:
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(中編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1034.html
2018/10/17投稿:
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(後編)Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1035.html
1日1回ポチっとな ↓
FC2 Blog Ranking


副題:自由・平等理念の世界基準がお気に召さない中国の自国文明基準のヘゲモニーチャレンジャー宣言。「経済政策の中でのソフトパワー」レベルの話ではない。
「アジア文明対話」なるイベントで習近平が演説を行ったとの日経記事を見た。(*1)
「アジア文明対話」なるイベントの存在は初耳で、どの様な趣旨のイベントなのかまったく知らなかったが、日経記事の見出し「◆習氏、米政権に警戒感 「アジア文明対話」で言及 」及び記事の内容からは、中国は、現在の世界の建て付けが米国有利なものだとして、お気に召さず、文明論を引っ張り出しているものである。
日経の記事は、中国が文明論を持ち出したのは「一帯一路戦略の中でのソフトパワー」だと位置付けている様である。
確かに背景に「米中貿易戦争」があり、海洋国家・米国の国際戦略に対抗し、大陸国家・中国の自国権益の拡大・確保を陸路中心の一帯一路戦略に置いているとの事象があるのだが、中国が文明論を持ち出したのは「一帯一路戦略の中でのソフトパワー」のレベルではなく、もっと大きい目的がある。
以前の論考(*2)で、中国はヘゲモニーチャレンジをしていることを指摘した。
先の大戦後の世界のヘゲモニー(指導的地位)が米国にあることは知っての通りである。
また、先の大戦以前は「日の沈まぬ帝国」であった英国がヘゲモニーを握っていた。
これら米英が指導的地位にいる世界での「世界標準」「正邪判断基準」は、米英にとって「自然だ、当然だ」と感じられるものになる。
米英両国は、西欧文明圏の国家であり、また、世界の主要国である仏国、独国、伊国、蘭国、西国も西欧文明圏の国々である。
大航海時代により世界を席巻した西欧文明の浸透は、近代に於いて東アジアに至り、19世紀後半からの100年は、西欧文明が地球規模に拡大した。西欧文明以外の文明が世界舞台に主役級として登場するのは、ロシア帝国・ソ連のスラブ文明圏と我が国日本文明圏である。
世界に現存する文明圏は9つある(*3)とされ、21世紀現在、従前は世界を動かす主役級にはなれなかった中国Sinic文明圏が台頭してきている。
中国が台頭できたのは、20世紀中盤以降の世界構造だった米ソ東西冷戦構造の中でのソ連弱体化戦略としての中ソ引き離し策が原因だ。中国を優遇することで東側陣営の結束を弱めるものであった。
当時の中国(共産中国)は、ただ単に国土と人口が多いだけの国で、経済・軍事等の国力に於いてまったく弱小であり、今日の様な強大さはまったくなかったので、その本性が何であろうと興味を持たれなかったのが現実だ。
米ソ東西冷戦構造がソ連崩壊により消滅した後の世界は、石油を背景にしたイスラム文明圏の台頭が経済分野では注目されるが、同時に軍事面でもイスラム文明圏の台頭があり、今も続いている。
サウジ等の産油国の多くは軍事的に西欧文明諸国との対立を選択していないが、イラン革命後に宗教国家色を鮮明にしてイスラム共和国となったイランやリビアなどは、国家レベルで西欧文明圏諸国と対峙するに至っている。
また、「イスラム過激派」と称されるISISIなどの諸集団によるテロ・武力行為は、国家ではないので「戦争」とは定義されないが、イスラム文明圏での正邪判断に於いては聖戦であり、その底には西欧文明基準の世界構造への反抗がある。
これらの現象を一般的には、米ソ東西冷戦構造の終焉に伴う民族主義の台頭とか米ソによる重石が外れたから、とか言われているが、総じては各文明・各文化の正邪判断の差異が根幹に存在する問題だ。
正邪判断の差異は、米ソ東西冷戦下では「思想の違い」と言われていたものと考えて良い。
「思想」の場合は、それを説明する論理が存在しているので、ある程度分かり易いが、それが「宗教」や「文化・文明」のレベルになると、それらは暗然であり、本人も自覚なく信じている正邪判断であり、分かり難いものとなる。
そういう米ソ東西冷戦構造終焉後の世界で中国は、経済・軍事との国力の両輪を発展させ強大となったことから、自分の正邪判断基準であるSinic文明とは異なる西欧文明を基盤とする現在の「世界標準」「正邪判断基準」に対しての違和感の払拭に動き出しているのである。
ヘゲモニーをアメリカの手から取り上げ、中国のものとしたいのだ。
現在の「世界標準」「正邪判断基準」の根本は、西欧文明圏の自由・平等の理念に基づくものである。
現在の世界の建て付けは国家単位となっており、平等理念で「国家は対等」との建て付けとなっている。
人口約13億人の中国も人口約32万人のアイスランドも国連では1国1票である。
また、自由理念から、各国は各国の自由に基づき、自分達自身が決めた国家体制で国家を運営することになっている。
そういう建て付けなので、自由民主主義ではない国家も存在している。
共産主義国家の中国、北朝鮮。イスラム共和国のイラン、絶対王政の中東産油国などである。また、自由民主主義でも、各国は自国の伝統・歴史に則り、共和国制の国々もあれば立憲君主制の国々もある。
自由民主主義の国々では、自国民1人々々の自由を尊重する理念となっている。
自由民主主義国の国民が、自由・平等理念を至高にものと考え、非自由民主主義国の国民にそれらが認められていない、改善すべきだと指摘することは、自由の範囲内だが、その国家の自由とぶつかっている面がある。
この様な、同じ理念間でも齟齬・矛盾が出てくるのが現状の実態だ。
なかなか難しい問題ではあるのだが、自由・平等理念自体はもっともすばらしいものだと考えているので、その理念自体を取り下げるつもりはない。
その様な現状の自由・平等理念での世界の建て付けにご不満なのが、Sinic文明圏の国、中国である。
今回の「アジア文明対話」なるイベントで習近平は「文明」をキーワードに基調演説をしているのだが、日経の記事での「習近平の演説内容」は、以下の4点しか書いておらず、分からない状態だ。
↓
<日経記事から抜粋引用>
①:「国際情勢は不安定性と不確実性が増している」
②:「ともにアジア運命共同体を築こう」
③:「自分たちの文明が優れていると考え、他の文明を改造しようとするのは愚かで災難だ」
④:習氏は演説で中国の古典「論語」や千夜一夜物語(アラビアンナイト)などとともに日本の「源氏物語」にも触れ「人類の宝だ」と称賛。
<引用終わり>
↓
注目点は上記の③だと思うが、どういう文脈で語っているのかまでは日経記事だけでは分からないので、ちょっとネット検索をしてみた。
我が国やアメリカの場合は、首脳の演説はHPで全文紹介されているケースがほとんどだが、中国では事情が違う様で、演説全文は見つからなかった。
その代わり、「◆数字で読み解くアジア文明対話大会における習近平主席の基調演説」との見出しの中国サイト(人民日報)の記事(*4)を発見した。
それを読んだ結果は「案の定の、中国によるヘゲモニーチャレンジ宣言」であった。
知っている方の間では常識であるが、「中国は指桑罵槐の国」である。
「指桑罵槐」とは字句で言えば「桑の木をさして槐(エンジュ)の木を罵る」であるが、「批判する対象(槐の木)を直接的に批判するのではなく、別の対象である桑の木を指しながら批判する」ことで、これは「間接的に人心を牽制しコントロールする」為の手法だと言われている。
習近平が一般論として言っている「自分たちの文明が優れていると考え、他の文明を改造しようとするのは愚かで災難だ」は、アメリカの事だと容易に想像できるものである。
先の大戦後の世界のヘゲモニーが米国にあることは知っての通りである。
しかし、これなどは、Sinic文明中国のやり方を知っている側から見ればブーメランでしかない。(笑)
アメリカには横暴なところがあることは多くの方が認知している。
時に、アメリカは大間違いをおかす。
そういう意味では、一般論としての「自分たちの文明が優れていると考え、他の文明を改造しようとするのは愚かで災難だ」は妥当であり、納得感がある話である。
とは言え、「それでは、どの様な文明を基準にした世界秩序が望ましいのか?」との問いへの答は、特には示されていない。
習近平の言っていることが、自由平等理念の基盤上での改善の話であれば良いのだが、中国はSinic文明圏であり、その文明は自由平等理念を基盤にしていない。
Sinic文明の根幹は、中華思想・華夷秩序であることは既に指摘済である。(*5)
中国の文明的価値観での「平和な世界」とは、世界の中心の華である中華の元に広がる世界である。
中華の指導の下に世界が従う体制がもっとも平和な世界なのである。
そんな世界はお断りである。
我が国は、1300年以上も昔からお断りをしているのだが、21世紀の今になっても、シナの地では、彼等が考える「平和な世界」を希求している。
<論考が長くなってしまうので、今回(Part1)は以上として項を分ける>
1日1回ポチっとな ↓



【文末脚注】
(*1):「アジア文明対話」を報じる日経記事
日本経済新聞HP 2019/5/15 17:00 (2019/5/15 20:38更新)
見出し:◆習氏、米政権に警戒感 「アジア文明対話」で言及
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44821900V10C19A5910M00/
リード文:○【北京=羽田野主】中国の習近平(シー・ジンピン)政権指導部は15日、アジア地域の文化交流イベント「アジア文明対話」の開幕式を北京で開いた。広域経済圏構想「一帯一路」に中国の食文化や伝統芸能などソフトパワーを広げ、友好国を増やす狙いがある。習国家主席は「国際情勢は不安定性と不確実性が増している」と述べるとともに「ともにアジア運命共同体を築こう」と呼びかけた。
記事:○習氏は「自分たちの文明が優れていると考え、他の文明を改造しようとするのは愚かで災難だ」とも発言。中国に構造改革を迫るトランプ米政権への警戒感を示した。
○習氏が提唱した初の試みである「アジア文明対話」には、アジアの47カ国などから約2千人が参加。中国の主要都市で展覧会や伝統芸能の披露、グルメイベントといった関連行事を8月にかけて開く。
○「一帯一路」に含まれる地域からはシンガポール、スリランカ、アルメニア、ギリシャなどの政府首脳らが出席。習指導部はアジア文明対話を中国の価値観を広げて一帯一路圏での結びつきを強める今年の重要な外交行事と位置づけている。
○習氏は演説で中国の古典「論語」や千夜一夜物語(アラビアンナイト)などとともに日本の「源氏物語」にも触れ「人類の宝だ」と称賛。習指導部は対日関係の改善にかじを切っており、日本にも秋波を送った。
<引用終わり>
(*2):ヘゲモニーチャレンジャー
2018/10/11投稿:
ヘゲモニーチャレンジャー中国・事大主義小中華韓国
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1032.html
(*3):世界に現存する文明圏は9つある
我々日本人は、世界で現存する9つの文明圏のうちの1つである、我が国1国だけの日本文明圏で暮らしている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E6%98%8E%E3%81%AE%E8%A1%9D%E7%AA%81#/media/File:Clash_of_Civilizations_mapn2.png
青色:Western(西欧文明圏)
水色:Orthodox (東方正教文明圏(スラブ文明))
緑色:Islamic(イスラム文明圏)
黄色:Buddhist(仏教文明圏)
橙色:Hindu(ヒンズー文明圏)
灰緑色:African(アフリカ文明圏)
紫色:Latin American(ラテンアメリカ文明緬)
赤色:Sinic(シナ文明圏)
桃色:Japanese(日本文明圏)
(*4):中国サイト(人民日報))の記事
japanese.china.org.cn 2018年5月16日
見出し:◆数字で読み解くアジア文明対話大会における習近平主席の基調演説
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2019-05/16/content_74790274.htm
リード文:○アジア文明対話大会の開幕式が15日午前に北京で行われ、習近平国家主席が開幕式に出席して、基調演説を行った。演説は全文で三千字余りと長くはないが、内容がしっかり詰まっており、その情報量は膨大だ。人民日報では今回の演説を数字で読み解いた。
<記事部分引用省略。「(資料編)」で適宜引用する>
(*5):Sinic文明の根幹は、中華思想・華夷秩序であることは既に指摘済である。
2017/12/21投稿:
情勢認識が冷戦時代のままではダメでしょ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-829.html
2016/08/19投稿:
東シナ海・南シナ海
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-487.html
2017/07/04投稿:
シナ大陸の歴史観・易姓革命
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-708.html
【ご参考】
2018/10/13投稿:
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(前編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1033.html
2018/10/16投稿:
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(中編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1034.html
2018/10/17投稿:
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(後編)Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1035.html
1日1回ポチっとな ↓



スポンサーサイト