「平和をつくるためには一層強力な国防力が必要だ」
- 2019/03/07
- 23:20
「平和をつくるためには一層強力な国防力が必要だ」

副題:韓国・文在寅の軍拡宣言。韓国のドクトリンが、今、どの様になっているのかを、文在寅の演説から読み解いたら、それは21世紀の白頭山計画だった。
今回論考の表題は、時事通信の記事から拝借したものだ。
その記事とは、韓国・文在寅大統領が3月5日に海軍士官学校で行った演説を報じる記事である。(*1)
同一事を報じている別記事(韓国紙・中央日報(*2))では、その事を「「平和を単に守ることを越えて平和を作り出すためにはさらに強い国防力が必要だ」と報じられている。
若干の違いはあるのだが、言っている事は同じである。若干の違いは、韓国語を日本語に訳す際の訳者の差異であり発言の主旨は同一だと考えてよい。
文在寅が言う「一層強力な国防力が必要だ」=「さらに強い国防力が必要だ」とは、要するに現状では軍備が弱い、軍備を拡張するぞ、との宣言である。
これと同じ事を、我が国総理が言ったとしたら、我が国の新聞・TV等からの大バッシング「報道」の嵐が吹き荒れると予想される内容である。
そのバッシングは、我が国国内に留まらず、南北朝鮮等の特定アジア諸国のマスコミや政府他からも湧き起こるであろう。
とは言え、主権国家が自国を守る為に必要だとする軍備を持つことは当然だと考えている。
我が国での言論空間では、「軍備増強」の1点だけでダメだとする論調であり、それは逆に危険だと考えているので、「韓国の軍拡」が、「韓国人の命、平和・安寧の確保」に必要だとの妥当性があれば、それを批判する様な事はしない。
この考え方は、以前の論考「軍隊とは何か」(*3)で論考・提示済なので、詳しくは、そちらをご覧いただきたい。
これから述べる事は、我が国の歪んだ言論空間での「軍拡は総て悪」の様な「一般論」ではなく、文在寅が今の時期に軍拡を述べている理由を記事から探し、それについて、妥当性があるのか否かを論考するものである。
妥当性の基準は上記した様に、「韓国人の命、平和・安寧の確保」に必要か否かである。
記事によれば、演説は海軍士官学校の「卒業および任官式」の際に行われたものである。
従って、ここでの「国防力」とは、陸海空の総てというよりは、主として海軍力について述べているものだと理解するのが自然である。
「韓国の海軍力」を俯瞰する際に、最初にアプローチすべき点は、韓国の地理的・政治的特性である。これは「地政学的特性」と言い換えてもよい。
その韓国の地政学的特徴は、地理的には、四角い国土の北が北朝鮮と38度線で陸地と接しており、他の三方が海に接している半島先端国家である。
三方の海は、東(右)に日本海、南(下)に対馬海峡、西(左)に黄海となっており、その各々の対岸には日本列島やシナの地があり、韓国のEEZはかなり狭い。
特に、南方向は日本列島が近隣にあり、対馬・釜山間などは視認距離内にある。
政治的には、北朝鮮とは未だに戦争状態(停戦中)である。
1950年6月25日の金日成による電撃的南侵で始まった朝鮮戦争では、当初、半島南半部のほとんどの地域が北朝鮮軍の勢力下になってしまっい、あわや韓国が滅亡寸前状態になった事があるので、北朝鮮と接する38度線に多くの陸上兵力を集中している。
北朝鮮の電撃的南侵は、当時の最優秀戦車であるソ連のT-34を押し立てての侵攻だったので、韓国陸軍は、多くの人員を38度線近辺に配置し、装備としては特に戦車(及び装甲車等の重装備陸上兵器)を重視してきた。
また、他の政治的特性としては、朝鮮戦争時の李相伴逃亡の経緯から、韓国軍の戦時統帥権は現在も駐韓米軍が持っているという特徴がある。
米韓軍事同盟の存在が朝鮮戦争後の朝鮮半島南半部を北朝鮮侵攻から守ってきたのである。
また、韓国自身は、陸海空軍及び海兵隊の4軍体制の軍隊を保持し、米頑同盟とともに同国の安全保障の骨子としている。
この様な地政学的特徴から、韓国軍の防衛費は、東西冷戦終結前の1988年には対GDP比4%を超えていたが、それ以降の、ここ20年は概ね2.5%から3.0%の範囲内で推移している。
欧州正面での東西冷戦後の激減に比して、韓国の国防費はあまり減少していない。
これは、我が国の国防費は、国防の必要性とは無関係に対GDP比1%未満となっている歪んだ政治的特性(*4)があるので、防衛費総額の日韓比較は意味がないので、西欧諸国との比較となったものである。
また、他の政治的特性のうちの経済力に関して言えば、韓国は、世界約200ヶ国の中にあって、GDP総額が世界15位圏にある。
これは、東南アジアでの発展途上国の様な「経済が弱くて必要な軍備が整備できない」という状態の国ではない、ということだ。
とは言え、毎年、対GDP比2.5%から3.0%程度の防衛費負担は、けして「軽い」ものではなく、韓国経済の構造転換や国民経済の改善は、進んでいない。
これらをまとめると、以下の様になる。
1)韓国が、自国民に脅威を与えると想定する「敵国」は北朝鮮と考えるのが妥当
2)北朝鮮からの脅威は、主として戦車、自走砲、装甲車による国境突破と想定
3)北朝鮮の空軍力・海軍力は極めて脆弱なので、陸上戦力を韓国は充実させている
4)アメリカとの同盟は、韓国安全保障の大きな柱である。
5)韓国の防衛費は、その脅威に応じて対GDP比2.5%から3.0%程度の髙い負担をしている。
これら以外に、正面戦ではないゲリラによる侵入工作や非戦闘側スパイ工作等への対処問題もあるが、今回の題材は、海軍力という韓国の正面防衛なので、これら非正規戦闘部分の説明は割愛している。
上記のまとめの様な状態とは、韓国が米韓同盟の存在により確立している「自由民主主義国家勢力の一員」であり、北朝鮮の脅威に対処することを主目的にしているという事である。そして、そうならば、文在寅がいう様な「一層強力な国防力」との「軍拡」の必要性は薄いという事だ。
北朝鮮の脅威に対処する軍備のうち、韓国が未整備なのは、弾道ミサイル防衛装備だけだと評価している。
軍事の要諦は、けして「重武装国家になる」などというものではない。
自国が属する地域の情勢に応じて、その情勢に対処して、自国。自国民の平和と安寧を確保する体制を維持するのが、軍事の要諦である。
従い、脅威度が低い国は、世界全体で見れば軽武装であっても構わないのである。
その国の地勢的な情勢下で自国の平和と安寧が確保できる軍備を保持していれば良いのである。
韓国の場合、北朝鮮と陸続きで対峙しているとの環境下にあり、それに応じた装備の充実が必要なのだが、東西冷戦構造の激変があった1989年頃から、その経済発展に伴い、だんだんと違う方向に変化してきていることが分かっている。
その事は、既に以前の論考「装備品を見て韓国のドクトリンを推定する(前編・後編)」(*5)にて指摘済である。具体的には、以下の点が「北朝鮮からの脅威に対処するにしては不必要に高価・高性能な装備を韓国は導入している」に該当する。
1)空軍力:2002年 F-15Kの導入決定・2005年配備開始
↓
北朝鮮の空軍力は脆弱で、その装備の多くは、1960年代超音速機黎明期世代のMiG-19、MiG-21等の骨董品であり、最新鋭機であっても1980年代に導入したMiG-29が約30機程度であると見られており、ずっと新鋭機の導入は行われていない。一方、韓国空軍は、1986年時点で既にF-16を導入しており、北朝鮮空軍を圧倒している。そうであるにも関わらず、当時、世界で4か国(アメリカ、イスラエル、日本、サウジ)しか導入していなかったF-15をわざわざ導入している。
2)海軍力1:外洋型駆逐艦導入開始
1998年:KDX-1(広開土王級駆逐艦)就役・3隻
2003年:KDX-2(李瞬臣級駆逐艦)就役・6隻
2008年:KDX-2(世宗大王級駆逐艦)イージス艦3隻
↓
北朝鮮の海軍力は空軍以上に脆弱で、哨戒艇やガンボート程度であり、それに対抗するのに駆逐艦は不要である。また、EEZが狭い韓国が外洋型艦船である駆逐艦を12隻も建造しているのは地理的条件からは異常であり、EEZが狭いドイツは駆逐艦を保有しておらず、フリゲートまでであるのと比べると、その異常さがわかる。
これらの異常な動きに関しては、以前の論考で詳しく述べている通りである。
この様な変化は、対北朝鮮を国家安全保障の根本とする国家方針が、それとは違う方向に変化したことに伴い、表面化したものである。
韓国の国家安全保障の視点が変わってしまったのは、1984年に全斗煥が作成した「白頭山計画」(*6)からである。
「白頭山計画」との軽壮大な妄想は、「南北統一後の自主防衛戦略・民族生存戦略」の策定を目的に作成された「計画」である。
要するに、その前提が「南北統一後」なので、現実世界での韓国の安全保障である「北朝鮮からの脅威への対処」がない状態とので空想が、計画の前提になっているものである。
「今の現実に対処しなくて良い」が所与の条件になると、途端に、想念だけの世界となり、その「国防計画」、「民族の生存計画」は、韓国人の文明的基盤である小中華思想の世界(*7)に嵌り込む。
結果、「白頭山計画」は、対日戦略となってしまっているのである。
その様な「対日戦略」が根っ子に存在している結果が、本来的には韓国には不要なF-15やイージス艦の保有との現象になって表れているのである。
随分と長くなってしまったが、今般の文在寅の軍拡宣言は、この様な背景があることを踏まえないと、何がなんだか分からなくなってしまうので、現在に至る韓国の軍備及び国防方針をズラズラと述べた次第である。
さて、これらの韓国の安全保障政策・ドクトリンの基礎知識を持った上で、文在寅の「国防力強化演説」を見ていこう。
とは言え、その全文は入手していない。文在寅軍拡演説は、韓国紙・中央日報記事から拾い出して論じることとなる。
韓国紙の記事なので、無駄に情緒的である。
また、文在寅の演説は「3.1運動100周年」の演説を分析(*8)して分かった通り、キーワードの羅列だけで、それらキーワード間の整合性や根拠の提示だとかはまったくない。
そういう文在寅の演説なので、韓国紙の記事からの「文在寅の言ったこと」の抜き出しだけで充分に素材になると考える。
以下に、「文在寅の言ったこと」を中央日報記事から抜粋し羅列する。
<抜粋引用開始>(付番は引用者)
①:「われわれが意志を持って一様に平和を追求すれば、韓半島(朝鮮半島)の非核化と恒久的平和は必ずやってくるだろう」、「『平和経済』の時代が続くだろう」
②:「われわれは国軍の強い力を土台に韓半島の運命をわれわれが自ら決める道を歩み始めた」
③:「われわれの勇気のある挑戦で韓半島は平和の時代を迎えている」
④:文大統領はまず「平和を作る軍隊」として海軍の役割を呼びかけた。
⑤:「われわれの周辺国に目を向けると、今は南北間軍事的緊張緩和が最優先課題だが、同時に世界4大軍事強国が韓半島を取り囲んでいる」
⑥:「平和を単に守ることを越えて平和を作り出すためにはさらに強い国防力が必要だ」
⑦:「新しい韓半島を守る海軍」
⑧:「今年は三・一独立運動と大韓民国臨時政府100年の節目の年で、新しい100年は真の国民の国家、平和な韓半島を完成する100年」、「100年前も今も変わったことはない。われわれが強い海洋力を土台にわが海を守り、大洋に進むことができる時になってこそ強い国になるだろう」
⑨:「2045年、海軍創設100周年にはひたすら韓国の科学と技術で作った韓国型イージス艦や駆逐艦、潜水艦、航空機がわれわれの目の前にあるだろう」、
⑩:「われわれの前に開かれる新しい時代の海軍は先輩が行ったことのない海、北極航路を切り開くことになるだろう」
⑪:「今日の海軍士官学校第73期新任海軍将校に国軍統帥権者として初めて命令を下す」、「ともにつらい訓練を経て積んだ戦友愛、世界の海で経験した同期との思い出を忘れずに、愛するがゆえに恥ずかしくない祖国、献身するに惜しくない祖国を作ることに先頭に立ってほしい」
<抜粋引用終わり>
韓国大統領等の話を理解する上で注意が必要なのは、同じ単語であっても、その単語が表す概念が日本人の常識とは必ずしも一致しないことである。
むしろ、まったく違ってしまっている事があるので注意が必要だ。
例えば、「平和」との単語である。
我々日本人が考える東アジア地域の平和とは、各国が争わず対等互恵な関係を築いている状態であり、それが望ましと考えている。
一方、小中華思想・華夷秩序を文化の根幹に置いている特定アジアでは、他者との上下関係が確立して安定している事が望ましいと考えており、東夷・禽獣である日本との対等互恵関係とは、不安定な関係であり、けして「平和」だとは考えていないのである。
彼等が言う「平和」とは、彼等が考える「秩序」通りの世界のことである。
そういう理解のもとに、上記の抜粋のうち「平和」との単語が出てくる冒頭部分を再度、お読みいだだきたい。以下に、それを意訳してみた。
<意訳>
①:「われわれ(南北朝鮮)が(朝鮮伝統の秩序との)意志を持って、一様に平和を追求すれば(南北が一緒になって日本を下の地位に固定してしまえば)、韓半島(朝鮮半島)の非核化と恒久的平和は必ずやってくるだろう」、「『平和経済』(日本が統一朝鮮に積極的に献上してくる)の時代が続くだろう」
③:「われわれ(南北朝鮮)の勇気のある挑戦(現在の東アジアの国際関係を朝鮮流の秩序に変える試み)で韓半島は平和(日本を膝下の置き、朝鮮流秩序が確立する)の時代を迎えている」
④:文大統領はまず「平和を作る軍隊」(朝鮮流秩序を実現化する軍隊)として海軍の役割を呼びかけた。
⑥:「平和を単に守ること(朝鮮流秩序を日本に要求する)を越えて平和を作り出す(その秩序に日本が従う世界にする)ためにはさらに強い国防力が必要だ」
<以下略・意訳終わり>
↓
文在寅は、この様な事を言っているのである。
そういう世界を実現化する役割を海軍は担っていると文在寅は若い士官達に檄を飛ばしているのが、今回の演説なのである。
彼等は、小中高を通じてウリナラファンタジー=日本悪玉論を学校で叩きこまれた世代である。
こんな意訳を読んだ方々の中には、「コイツ、アホじゃないのか?妄想し過ぎ」と感じる方もいるであろう。
しかし、この意訳は、35年前の「南北統一後の自主防衛戦略・民族生存戦略」である「白頭山計画」の趣旨に基づき意訳した同計画の相似形である。
韓国軍の装備は、「白頭山計画」に基づき整備されているとの事実からは、この様な妄想的意訳が、訳者の妄想ではなく、文在寅が妄想している事を正しく訳していると考えていただきたい。
多分、最初に、この意訳を提示しても「アホじゃないのか」と、読むことを止める方が多々でると思ったので、相当に長い「基礎知識紹介」を先に書いたことを御理解いただきたい。
文在寅が海軍を「日本征伐」の先兵にしているのは、日本列島が海を隔てて存在しているからである。韓国軍の主力である陸軍も、海を渡らなければ日本列島へは侵攻できないからだ。
しかし、我が国の海上自衛隊は韓国海軍より、はるかに充実している。
その事は、海軍士官学校を卒業する若い士官達も知っていることである。
そこで、文在寅は、「2045年、海軍創設100周年にはひたすら韓国の科学と技術で作った韓国型イージス艦や駆逐艦、潜水艦、航空機がわれわれの目の前にあるだろう」と、今から約25年後の2045年には、韓国海軍は大増強していると述べているのである。
25年後とは、随分と先であるが、現在20代前半の海軍士官学校の卒業生達にとっては、25年後とは自分が艦長や司令官になっているであろう未来なのであり、けして「随分と先」なのではない。彼等にとっての25年後とは、「輝かしい未来予想図」なのである。
その未来に於いて、韓国海軍は、今後増強される韓国型イージス艦・駆逐艦・潜水艦・航空機で海上自衛隊を圧倒するのだと述べて、若い士官達に檄を飛ばしているのである。
文在寅は、海軍軍備拡張の話をした後に、「北極航路」の話をしている。
「われわれの前に開かれる新しい時代の海軍は先輩が行ったことのない海、北極航路を切り開くことになるだろう」
ここの部分は、今回の文在寅の演説の中で一番笑った部分である。
何故なら、何も戦略的なことを考えておらず、朝鮮半島伝統の「入れ換え論法」であるからだ。
知っての通り、アジアの海洋は、太平洋とインド洋である。
ところが、それらは安倍首相が提唱し、既にアメリカ、インド、オーストラリア等が合意し、G7サミットの共同首脳宣言に登場する「インド・太平洋戦略」で、既に押えられている海洋であり、「インド・太平洋戦略」にまったくコミットしていない韓国が、今から、その広大な地域に別途進出するビジョン自体が成り立たないことは明らかなのである。
「インド・太平洋戦略」には、イギリスも参加することが確実視されている。
イギリスは、今も、インド洋にディエゴガルシア島をを領有しており、同島の海軍基地を英米海軍は連合して使用している。
同島は、中東・アフリカ東海岸。インド洋の戦略的要衝である。
その様な確固たる地域であることぐらいは、海軍士官学校の卒業生は分かっているはずだ。
そういう相手に、未来の韓国海軍は太平洋とインド洋を統制する様な話をしても、何もリアリティーはない。
勿論、最初の設定からリアリティーはないのだが、「偽りのリアリティー」のレベルであっても太平洋とインド洋を統制する様な話は通用しない。
そこで、韓国から見た海洋のうち、彼等が「手つかず」だと思っている「北極航路」とのキーワードの述べているのである。
我が国のインド・太平洋戦略、中国の一帯一路、その何れもが、極東地域から欧州方面へと延びる戦略であるので、文在寅は、それらに対抗する「北極航路」とのキーワードを述べ、あたかも、何か地球儀レベルの戦略があるかの様に装っているのである。
文在寅の演説には、根拠の提示はない。
「北極航路」の話も同じであり、ビジョンの的確性や実現性に関する話は何等の示されていない。
かなり長くなったので、今回は以上である。
これを文在寅の妄想爆発と見て笑うのも良いが、言っていることは日本征伐・日本破壊宣言であり、妄想だと放置しておくのは危険である。彼等は、我々の常識ではあり得ないことを、平気でやってしまうのだから。
1日1回ポチっとな ↓
FC2 Blog Ranking 
【文末脚注】
(*1):韓国・文在寅大統領が3月5日に海軍士官学校で行った演説を報じる時事通信記事。
時事ドットコムニュース 2019年03月05日17時46分
見出し:◆韓国大統領、海洋摩擦に警戒感=「独島」艦に搭乗、国防力強化訴え
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019030501000&g=int
記事:○【ソウル時事】韓国の文在寅大統領は5日、南部・昌原の海軍士官学校で演説し、「世界四大軍事強国が朝鮮半島を囲んでおり、海をめぐりさまざまな摩擦も表面化している」と述べ、「海洋管轄権、航行の自由の確保など、自国の海洋戦略を力で支えるため、海軍力を拡充している」と警戒感を表明した。
○その上で「わが海軍もこれに対応していかなくてはならない。平和をつくるためには一層強力な国防力が必要だ」と強調した。大統領府が演説内容を公表した。
○「四大軍事強国」は米国、ロシア、中国に加えて日本が含まれる。竹島の領有権をめぐる対立や韓国駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射問題には直接言及しなかったが、洋上での摩擦を念頭に国防力強化の必要性を訴えた。
○代表取材団によると、文氏は演説に先立ち、沖に待機していた島根県竹島の韓国名を冠した揚陸艦「独島」に搭乗した。「周辺国に海軍力を誇示し、海洋主権を守る意志を強調する意味がある」(大統領府当局者)という。(2019/03/05-17:46)
<引用終わり>
(*2):韓国紙・中央日報の記事
中央日報日本語版 2019年03月05日17時54分
見出し:◆揚陸艦「独島」に乗った文大統領「平和を守ることを越えて作り出さなければ」
https://japanese.joins.com/article/903/250903.html
記事:○文在寅(ムン・ジェイン)大統領は5日「われわれが意志を持って一様に平和を追求すれば、韓半島(朝鮮半島)の非核化と恒久的平和は必ずやってくるだろう」とし、「『平和経済』の時代が続くだろう」と述べた。この日午後、慶南昌原市(キョンナム・チャンウォンシ)の海軍士官学校練兵場で開かれた第73期海軍士官生徒の卒業および任官式に参加して祝辞を述べた。文大統領は昨年、陸軍士官学校の卒業および任官式に参加した。
○文大統領はこの日、ヘリコプターを通じて練兵場近海の揚陸艦「独島(トクド)」に着陸した。文大統領が「独島」に乗ったのは就任後初めてだ。文大統領はその後、近くで待機していた海軍港湾警備艇に乗り換えた後、「安重根(アン・ジュングン)」「独島」「孫元一(ソン・ウォニル)」「西エ(=部首のがんだれに圭)柳成龍(ソエリュソンリョン)」の将兵から対艦敬礼を受けて海事埠頭に到着し、行事場所に入場した。
○文大統領は祝辞で「われわれは国軍の強い力を土台に韓半島の運命をわれわれが自ら決める道を歩み始めた」として「われわれの勇気のある挑戦で韓半島は平和の時代を迎えている」と述べた。文大統領はベトナム・ハノイで開かれた第2回米朝首脳会談が合意なしに終わった翌日にも三一節記念演説を通じて米朝間仲裁を通した韓半島の平和定着への意志を強調した。
○文大統領はまず「平和を作る軍隊」として海軍の役割を呼びかけた。文大統領は「われわれの周辺国に目を向けると、今は南北間軍事的緊張緩和が最優先課題だが、同時に世界4大軍事強国が韓半島を取り囲んでいる」として「平和を単に守ることを越えて平和を作り出すためにはさらに強い国防力が必要だ」と強調した。
○さらに、「新しい韓半島を守る海軍」を強調した。文大統領は「今年は三・一独立運動と大韓民国臨時政府100年の節目の年で、新しい100年は真の国民の国家、平和な韓半島を完成する100年」とし「100年前も今も変わったことはない。われわれが強い海洋力を土台にわが海を守り、大洋に進むことができる時になってこそ強い国になるだろう」と話した。
○文大統領は「2045年、海軍創設100周年にはひたすら韓国の科学と技術で作った韓国型イージス艦や駆逐艦、潜水艦、航空機がわれわれの目の前にあるだろう」とし、「われわれの前に開かれる新しい時代の海軍は先輩が行ったことのない海、北極航路を切り開くことになるだろう」と話した。
○文大統領は海士生徒に「今日の海軍士官学校第73期新任海軍将校に国軍統帥権者として初めて命令を下す」とし「ともにつらい訓練を経て積んだ戦友愛、世界の海で経験した同期との思い出を忘れずに、愛するがゆえに恥ずかしくない祖国、献身するに惜しくない祖国を作ることに先頭に立ってほしい」と呼びかけた。
<引用終わり>
(*3):「軍備増強」の1点だけでダメだとする論調は危険。「○○国の軍拡」が、「○○国人の命、平和・安寧の確保」に必要だとの妥当性があれば、それを批判する様な事はしない。この考え方は、以前の論考提示済。
2019/02/23投稿:
軍隊とは何か
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1118.html
(*4):我が国の国防費は、国防の必要性とは無関係に対GDP比1%未満となっている歪んだ政治的特性がある。
2017/07/17投稿:
国民の平和と安寧を阻害している岩盤規制
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-714.html
(*5):北朝鮮からの脅威に対処するにしては不必要に高価・高性能な装備を韓国は導入している。そういう韓国のドクトリンの変質を装備品から概観する。
<陸軍・空軍装備>
2017/06/14投稿:
装備品を見て韓国のドクトリンを推定する(前編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-693.html
<海軍装備>
2017/06/15投稿:
装備品を見て韓国のドクトリンを推定する(後編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-694.html
(*6):韓国の国家安全保障の視点が変わってしまったのは、1984年に全斗煥が作成した、「南北統一後の自主防衛戦略・民族生存戦略」である「白頭山計画」からである。
2017/06/13投稿:
「白頭山計画」・実現性なき軽壮大な妄想
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-692.html
(*7):韓国人の文明的基盤である小中華思想の世界
2018/11/08投稿:
徴用工・韓国「最高裁」判決雑感5Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1049.html
(*8):文在寅の演説は「3.1運動100周年」の演説を分析して分かった通り、キーワードの羅列だけで、それらキーワード間の整合性や根拠の提示だとかはまったくない。
2019/03/05投稿:
(資料編)文在寅3.1演説・日本は「慰安婦」「徴用工」の問題を解決せよ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1126.html
1日1回ポチっとな ↓
FC2 Blog Ranking


副題:韓国・文在寅の軍拡宣言。韓国のドクトリンが、今、どの様になっているのかを、文在寅の演説から読み解いたら、それは21世紀の白頭山計画だった。
今回論考の表題は、時事通信の記事から拝借したものだ。
その記事とは、韓国・文在寅大統領が3月5日に海軍士官学校で行った演説を報じる記事である。(*1)
同一事を報じている別記事(韓国紙・中央日報(*2))では、その事を「「平和を単に守ることを越えて平和を作り出すためにはさらに強い国防力が必要だ」と報じられている。
若干の違いはあるのだが、言っている事は同じである。若干の違いは、韓国語を日本語に訳す際の訳者の差異であり発言の主旨は同一だと考えてよい。
文在寅が言う「一層強力な国防力が必要だ」=「さらに強い国防力が必要だ」とは、要するに現状では軍備が弱い、軍備を拡張するぞ、との宣言である。
これと同じ事を、我が国総理が言ったとしたら、我が国の新聞・TV等からの大バッシング「報道」の嵐が吹き荒れると予想される内容である。
そのバッシングは、我が国国内に留まらず、南北朝鮮等の特定アジア諸国のマスコミや政府他からも湧き起こるであろう。
とは言え、主権国家が自国を守る為に必要だとする軍備を持つことは当然だと考えている。
我が国での言論空間では、「軍備増強」の1点だけでダメだとする論調であり、それは逆に危険だと考えているので、「韓国の軍拡」が、「韓国人の命、平和・安寧の確保」に必要だとの妥当性があれば、それを批判する様な事はしない。
この考え方は、以前の論考「軍隊とは何か」(*3)で論考・提示済なので、詳しくは、そちらをご覧いただきたい。
これから述べる事は、我が国の歪んだ言論空間での「軍拡は総て悪」の様な「一般論」ではなく、文在寅が今の時期に軍拡を述べている理由を記事から探し、それについて、妥当性があるのか否かを論考するものである。
妥当性の基準は上記した様に、「韓国人の命、平和・安寧の確保」に必要か否かである。
記事によれば、演説は海軍士官学校の「卒業および任官式」の際に行われたものである。
従って、ここでの「国防力」とは、陸海空の総てというよりは、主として海軍力について述べているものだと理解するのが自然である。
「韓国の海軍力」を俯瞰する際に、最初にアプローチすべき点は、韓国の地理的・政治的特性である。これは「地政学的特性」と言い換えてもよい。
その韓国の地政学的特徴は、地理的には、四角い国土の北が北朝鮮と38度線で陸地と接しており、他の三方が海に接している半島先端国家である。
三方の海は、東(右)に日本海、南(下)に対馬海峡、西(左)に黄海となっており、その各々の対岸には日本列島やシナの地があり、韓国のEEZはかなり狭い。
特に、南方向は日本列島が近隣にあり、対馬・釜山間などは視認距離内にある。
政治的には、北朝鮮とは未だに戦争状態(停戦中)である。
1950年6月25日の金日成による電撃的南侵で始まった朝鮮戦争では、当初、半島南半部のほとんどの地域が北朝鮮軍の勢力下になってしまっい、あわや韓国が滅亡寸前状態になった事があるので、北朝鮮と接する38度線に多くの陸上兵力を集中している。
北朝鮮の電撃的南侵は、当時の最優秀戦車であるソ連のT-34を押し立てての侵攻だったので、韓国陸軍は、多くの人員を38度線近辺に配置し、装備としては特に戦車(及び装甲車等の重装備陸上兵器)を重視してきた。
また、他の政治的特性としては、朝鮮戦争時の李相伴逃亡の経緯から、韓国軍の戦時統帥権は現在も駐韓米軍が持っているという特徴がある。
米韓軍事同盟の存在が朝鮮戦争後の朝鮮半島南半部を北朝鮮侵攻から守ってきたのである。
また、韓国自身は、陸海空軍及び海兵隊の4軍体制の軍隊を保持し、米頑同盟とともに同国の安全保障の骨子としている。
この様な地政学的特徴から、韓国軍の防衛費は、東西冷戦終結前の1988年には対GDP比4%を超えていたが、それ以降の、ここ20年は概ね2.5%から3.0%の範囲内で推移している。
欧州正面での東西冷戦後の激減に比して、韓国の国防費はあまり減少していない。
これは、我が国の国防費は、国防の必要性とは無関係に対GDP比1%未満となっている歪んだ政治的特性(*4)があるので、防衛費総額の日韓比較は意味がないので、西欧諸国との比較となったものである。
また、他の政治的特性のうちの経済力に関して言えば、韓国は、世界約200ヶ国の中にあって、GDP総額が世界15位圏にある。
これは、東南アジアでの発展途上国の様な「経済が弱くて必要な軍備が整備できない」という状態の国ではない、ということだ。
とは言え、毎年、対GDP比2.5%から3.0%程度の防衛費負担は、けして「軽い」ものではなく、韓国経済の構造転換や国民経済の改善は、進んでいない。
これらをまとめると、以下の様になる。
1)韓国が、自国民に脅威を与えると想定する「敵国」は北朝鮮と考えるのが妥当
2)北朝鮮からの脅威は、主として戦車、自走砲、装甲車による国境突破と想定
3)北朝鮮の空軍力・海軍力は極めて脆弱なので、陸上戦力を韓国は充実させている
4)アメリカとの同盟は、韓国安全保障の大きな柱である。
5)韓国の防衛費は、その脅威に応じて対GDP比2.5%から3.0%程度の髙い負担をしている。
これら以外に、正面戦ではないゲリラによる侵入工作や非戦闘側スパイ工作等への対処問題もあるが、今回の題材は、海軍力という韓国の正面防衛なので、これら非正規戦闘部分の説明は割愛している。
上記のまとめの様な状態とは、韓国が米韓同盟の存在により確立している「自由民主主義国家勢力の一員」であり、北朝鮮の脅威に対処することを主目的にしているという事である。そして、そうならば、文在寅がいう様な「一層強力な国防力」との「軍拡」の必要性は薄いという事だ。
北朝鮮の脅威に対処する軍備のうち、韓国が未整備なのは、弾道ミサイル防衛装備だけだと評価している。
軍事の要諦は、けして「重武装国家になる」などというものではない。
自国が属する地域の情勢に応じて、その情勢に対処して、自国。自国民の平和と安寧を確保する体制を維持するのが、軍事の要諦である。
従い、脅威度が低い国は、世界全体で見れば軽武装であっても構わないのである。
その国の地勢的な情勢下で自国の平和と安寧が確保できる軍備を保持していれば良いのである。
韓国の場合、北朝鮮と陸続きで対峙しているとの環境下にあり、それに応じた装備の充実が必要なのだが、東西冷戦構造の激変があった1989年頃から、その経済発展に伴い、だんだんと違う方向に変化してきていることが分かっている。
その事は、既に以前の論考「装備品を見て韓国のドクトリンを推定する(前編・後編)」(*5)にて指摘済である。具体的には、以下の点が「北朝鮮からの脅威に対処するにしては不必要に高価・高性能な装備を韓国は導入している」に該当する。
1)空軍力:2002年 F-15Kの導入決定・2005年配備開始
↓
北朝鮮の空軍力は脆弱で、その装備の多くは、1960年代超音速機黎明期世代のMiG-19、MiG-21等の骨董品であり、最新鋭機であっても1980年代に導入したMiG-29が約30機程度であると見られており、ずっと新鋭機の導入は行われていない。一方、韓国空軍は、1986年時点で既にF-16を導入しており、北朝鮮空軍を圧倒している。そうであるにも関わらず、当時、世界で4か国(アメリカ、イスラエル、日本、サウジ)しか導入していなかったF-15をわざわざ導入している。
2)海軍力1:外洋型駆逐艦導入開始
1998年:KDX-1(広開土王級駆逐艦)就役・3隻
2003年:KDX-2(李瞬臣級駆逐艦)就役・6隻
2008年:KDX-2(世宗大王級駆逐艦)イージス艦3隻
↓
北朝鮮の海軍力は空軍以上に脆弱で、哨戒艇やガンボート程度であり、それに対抗するのに駆逐艦は不要である。また、EEZが狭い韓国が外洋型艦船である駆逐艦を12隻も建造しているのは地理的条件からは異常であり、EEZが狭いドイツは駆逐艦を保有しておらず、フリゲートまでであるのと比べると、その異常さがわかる。
これらの異常な動きに関しては、以前の論考で詳しく述べている通りである。
この様な変化は、対北朝鮮を国家安全保障の根本とする国家方針が、それとは違う方向に変化したことに伴い、表面化したものである。
韓国の国家安全保障の視点が変わってしまったのは、1984年に全斗煥が作成した「白頭山計画」(*6)からである。
「白頭山計画」との軽壮大な妄想は、「南北統一後の自主防衛戦略・民族生存戦略」の策定を目的に作成された「計画」である。
要するに、その前提が「南北統一後」なので、現実世界での韓国の安全保障である「北朝鮮からの脅威への対処」がない状態とので空想が、計画の前提になっているものである。
「今の現実に対処しなくて良い」が所与の条件になると、途端に、想念だけの世界となり、その「国防計画」、「民族の生存計画」は、韓国人の文明的基盤である小中華思想の世界(*7)に嵌り込む。
結果、「白頭山計画」は、対日戦略となってしまっているのである。
その様な「対日戦略」が根っ子に存在している結果が、本来的には韓国には不要なF-15やイージス艦の保有との現象になって表れているのである。
随分と長くなってしまったが、今般の文在寅の軍拡宣言は、この様な背景があることを踏まえないと、何がなんだか分からなくなってしまうので、現在に至る韓国の軍備及び国防方針をズラズラと述べた次第である。
さて、これらの韓国の安全保障政策・ドクトリンの基礎知識を持った上で、文在寅の「国防力強化演説」を見ていこう。
とは言え、その全文は入手していない。文在寅軍拡演説は、韓国紙・中央日報記事から拾い出して論じることとなる。
韓国紙の記事なので、無駄に情緒的である。
また、文在寅の演説は「3.1運動100周年」の演説を分析(*8)して分かった通り、キーワードの羅列だけで、それらキーワード間の整合性や根拠の提示だとかはまったくない。
そういう文在寅の演説なので、韓国紙の記事からの「文在寅の言ったこと」の抜き出しだけで充分に素材になると考える。
以下に、「文在寅の言ったこと」を中央日報記事から抜粋し羅列する。
<抜粋引用開始>(付番は引用者)
①:「われわれが意志を持って一様に平和を追求すれば、韓半島(朝鮮半島)の非核化と恒久的平和は必ずやってくるだろう」、「『平和経済』の時代が続くだろう」
②:「われわれは国軍の強い力を土台に韓半島の運命をわれわれが自ら決める道を歩み始めた」
③:「われわれの勇気のある挑戦で韓半島は平和の時代を迎えている」
④:文大統領はまず「平和を作る軍隊」として海軍の役割を呼びかけた。
⑤:「われわれの周辺国に目を向けると、今は南北間軍事的緊張緩和が最優先課題だが、同時に世界4大軍事強国が韓半島を取り囲んでいる」
⑥:「平和を単に守ることを越えて平和を作り出すためにはさらに強い国防力が必要だ」
⑦:「新しい韓半島を守る海軍」
⑧:「今年は三・一独立運動と大韓民国臨時政府100年の節目の年で、新しい100年は真の国民の国家、平和な韓半島を完成する100年」、「100年前も今も変わったことはない。われわれが強い海洋力を土台にわが海を守り、大洋に進むことができる時になってこそ強い国になるだろう」
⑨:「2045年、海軍創設100周年にはひたすら韓国の科学と技術で作った韓国型イージス艦や駆逐艦、潜水艦、航空機がわれわれの目の前にあるだろう」、
⑩:「われわれの前に開かれる新しい時代の海軍は先輩が行ったことのない海、北極航路を切り開くことになるだろう」
⑪:「今日の海軍士官学校第73期新任海軍将校に国軍統帥権者として初めて命令を下す」、「ともにつらい訓練を経て積んだ戦友愛、世界の海で経験した同期との思い出を忘れずに、愛するがゆえに恥ずかしくない祖国、献身するに惜しくない祖国を作ることに先頭に立ってほしい」
<抜粋引用終わり>
韓国大統領等の話を理解する上で注意が必要なのは、同じ単語であっても、その単語が表す概念が日本人の常識とは必ずしも一致しないことである。
むしろ、まったく違ってしまっている事があるので注意が必要だ。
例えば、「平和」との単語である。
我々日本人が考える東アジア地域の平和とは、各国が争わず対等互恵な関係を築いている状態であり、それが望ましと考えている。
一方、小中華思想・華夷秩序を文化の根幹に置いている特定アジアでは、他者との上下関係が確立して安定している事が望ましいと考えており、東夷・禽獣である日本との対等互恵関係とは、不安定な関係であり、けして「平和」だとは考えていないのである。
彼等が言う「平和」とは、彼等が考える「秩序」通りの世界のことである。
そういう理解のもとに、上記の抜粋のうち「平和」との単語が出てくる冒頭部分を再度、お読みいだだきたい。以下に、それを意訳してみた。
<意訳>
①:「われわれ(南北朝鮮)が(朝鮮伝統の秩序との)意志を持って、一様に平和を追求すれば(南北が一緒になって日本を下の地位に固定してしまえば)、韓半島(朝鮮半島)の非核化と恒久的平和は必ずやってくるだろう」、「『平和経済』(日本が統一朝鮮に積極的に献上してくる)の時代が続くだろう」
③:「われわれ(南北朝鮮)の勇気のある挑戦(現在の東アジアの国際関係を朝鮮流の秩序に変える試み)で韓半島は平和(日本を膝下の置き、朝鮮流秩序が確立する)の時代を迎えている」
④:文大統領はまず「平和を作る軍隊」(朝鮮流秩序を実現化する軍隊)として海軍の役割を呼びかけた。
⑥:「平和を単に守ること(朝鮮流秩序を日本に要求する)を越えて平和を作り出す(その秩序に日本が従う世界にする)ためにはさらに強い国防力が必要だ」
<以下略・意訳終わり>
↓
文在寅は、この様な事を言っているのである。
そういう世界を実現化する役割を海軍は担っていると文在寅は若い士官達に檄を飛ばしているのが、今回の演説なのである。
彼等は、小中高を通じてウリナラファンタジー=日本悪玉論を学校で叩きこまれた世代である。
こんな意訳を読んだ方々の中には、「コイツ、アホじゃないのか?妄想し過ぎ」と感じる方もいるであろう。
しかし、この意訳は、35年前の「南北統一後の自主防衛戦略・民族生存戦略」である「白頭山計画」の趣旨に基づき意訳した同計画の相似形である。
韓国軍の装備は、「白頭山計画」に基づき整備されているとの事実からは、この様な妄想的意訳が、訳者の妄想ではなく、文在寅が妄想している事を正しく訳していると考えていただきたい。
多分、最初に、この意訳を提示しても「アホじゃないのか」と、読むことを止める方が多々でると思ったので、相当に長い「基礎知識紹介」を先に書いたことを御理解いただきたい。
文在寅が海軍を「日本征伐」の先兵にしているのは、日本列島が海を隔てて存在しているからである。韓国軍の主力である陸軍も、海を渡らなければ日本列島へは侵攻できないからだ。
しかし、我が国の海上自衛隊は韓国海軍より、はるかに充実している。
その事は、海軍士官学校を卒業する若い士官達も知っていることである。
そこで、文在寅は、「2045年、海軍創設100周年にはひたすら韓国の科学と技術で作った韓国型イージス艦や駆逐艦、潜水艦、航空機がわれわれの目の前にあるだろう」と、今から約25年後の2045年には、韓国海軍は大増強していると述べているのである。
25年後とは、随分と先であるが、現在20代前半の海軍士官学校の卒業生達にとっては、25年後とは自分が艦長や司令官になっているであろう未来なのであり、けして「随分と先」なのではない。彼等にとっての25年後とは、「輝かしい未来予想図」なのである。
その未来に於いて、韓国海軍は、今後増強される韓国型イージス艦・駆逐艦・潜水艦・航空機で海上自衛隊を圧倒するのだと述べて、若い士官達に檄を飛ばしているのである。
文在寅は、海軍軍備拡張の話をした後に、「北極航路」の話をしている。
「われわれの前に開かれる新しい時代の海軍は先輩が行ったことのない海、北極航路を切り開くことになるだろう」
ここの部分は、今回の文在寅の演説の中で一番笑った部分である。
何故なら、何も戦略的なことを考えておらず、朝鮮半島伝統の「入れ換え論法」であるからだ。
知っての通り、アジアの海洋は、太平洋とインド洋である。
ところが、それらは安倍首相が提唱し、既にアメリカ、インド、オーストラリア等が合意し、G7サミットの共同首脳宣言に登場する「インド・太平洋戦略」で、既に押えられている海洋であり、「インド・太平洋戦略」にまったくコミットしていない韓国が、今から、その広大な地域に別途進出するビジョン自体が成り立たないことは明らかなのである。
「インド・太平洋戦略」には、イギリスも参加することが確実視されている。
イギリスは、今も、インド洋にディエゴガルシア島をを領有しており、同島の海軍基地を英米海軍は連合して使用している。
同島は、中東・アフリカ東海岸。インド洋の戦略的要衝である。
その様な確固たる地域であることぐらいは、海軍士官学校の卒業生は分かっているはずだ。
そういう相手に、未来の韓国海軍は太平洋とインド洋を統制する様な話をしても、何もリアリティーはない。
勿論、最初の設定からリアリティーはないのだが、「偽りのリアリティー」のレベルであっても太平洋とインド洋を統制する様な話は通用しない。
そこで、韓国から見た海洋のうち、彼等が「手つかず」だと思っている「北極航路」とのキーワードの述べているのである。
我が国のインド・太平洋戦略、中国の一帯一路、その何れもが、極東地域から欧州方面へと延びる戦略であるので、文在寅は、それらに対抗する「北極航路」とのキーワードを述べ、あたかも、何か地球儀レベルの戦略があるかの様に装っているのである。
文在寅の演説には、根拠の提示はない。
「北極航路」の話も同じであり、ビジョンの的確性や実現性に関する話は何等の示されていない。
かなり長くなったので、今回は以上である。
これを文在寅の妄想爆発と見て笑うのも良いが、言っていることは日本征伐・日本破壊宣言であり、妄想だと放置しておくのは危険である。彼等は、我々の常識ではあり得ないことを、平気でやってしまうのだから。
1日1回ポチっとな ↓



【文末脚注】
(*1):韓国・文在寅大統領が3月5日に海軍士官学校で行った演説を報じる時事通信記事。
時事ドットコムニュース 2019年03月05日17時46分
見出し:◆韓国大統領、海洋摩擦に警戒感=「独島」艦に搭乗、国防力強化訴え
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019030501000&g=int
記事:○【ソウル時事】韓国の文在寅大統領は5日、南部・昌原の海軍士官学校で演説し、「世界四大軍事強国が朝鮮半島を囲んでおり、海をめぐりさまざまな摩擦も表面化している」と述べ、「海洋管轄権、航行の自由の確保など、自国の海洋戦略を力で支えるため、海軍力を拡充している」と警戒感を表明した。
○その上で「わが海軍もこれに対応していかなくてはならない。平和をつくるためには一層強力な国防力が必要だ」と強調した。大統領府が演説内容を公表した。
○「四大軍事強国」は米国、ロシア、中国に加えて日本が含まれる。竹島の領有権をめぐる対立や韓国駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射問題には直接言及しなかったが、洋上での摩擦を念頭に国防力強化の必要性を訴えた。
○代表取材団によると、文氏は演説に先立ち、沖に待機していた島根県竹島の韓国名を冠した揚陸艦「独島」に搭乗した。「周辺国に海軍力を誇示し、海洋主権を守る意志を強調する意味がある」(大統領府当局者)という。(2019/03/05-17:46)
<引用終わり>
(*2):韓国紙・中央日報の記事
中央日報日本語版 2019年03月05日17時54分
見出し:◆揚陸艦「独島」に乗った文大統領「平和を守ることを越えて作り出さなければ」
https://japanese.joins.com/article/903/250903.html
記事:○文在寅(ムン・ジェイン)大統領は5日「われわれが意志を持って一様に平和を追求すれば、韓半島(朝鮮半島)の非核化と恒久的平和は必ずやってくるだろう」とし、「『平和経済』の時代が続くだろう」と述べた。この日午後、慶南昌原市(キョンナム・チャンウォンシ)の海軍士官学校練兵場で開かれた第73期海軍士官生徒の卒業および任官式に参加して祝辞を述べた。文大統領は昨年、陸軍士官学校の卒業および任官式に参加した。
○文大統領はこの日、ヘリコプターを通じて練兵場近海の揚陸艦「独島(トクド)」に着陸した。文大統領が「独島」に乗ったのは就任後初めてだ。文大統領はその後、近くで待機していた海軍港湾警備艇に乗り換えた後、「安重根(アン・ジュングン)」「独島」「孫元一(ソン・ウォニル)」「西エ(=部首のがんだれに圭)柳成龍(ソエリュソンリョン)」の将兵から対艦敬礼を受けて海事埠頭に到着し、行事場所に入場した。
○文大統領は祝辞で「われわれは国軍の強い力を土台に韓半島の運命をわれわれが自ら決める道を歩み始めた」として「われわれの勇気のある挑戦で韓半島は平和の時代を迎えている」と述べた。文大統領はベトナム・ハノイで開かれた第2回米朝首脳会談が合意なしに終わった翌日にも三一節記念演説を通じて米朝間仲裁を通した韓半島の平和定着への意志を強調した。
○文大統領はまず「平和を作る軍隊」として海軍の役割を呼びかけた。文大統領は「われわれの周辺国に目を向けると、今は南北間軍事的緊張緩和が最優先課題だが、同時に世界4大軍事強国が韓半島を取り囲んでいる」として「平和を単に守ることを越えて平和を作り出すためにはさらに強い国防力が必要だ」と強調した。
○さらに、「新しい韓半島を守る海軍」を強調した。文大統領は「今年は三・一独立運動と大韓民国臨時政府100年の節目の年で、新しい100年は真の国民の国家、平和な韓半島を完成する100年」とし「100年前も今も変わったことはない。われわれが強い海洋力を土台にわが海を守り、大洋に進むことができる時になってこそ強い国になるだろう」と話した。
○文大統領は「2045年、海軍創設100周年にはひたすら韓国の科学と技術で作った韓国型イージス艦や駆逐艦、潜水艦、航空機がわれわれの目の前にあるだろう」とし、「われわれの前に開かれる新しい時代の海軍は先輩が行ったことのない海、北極航路を切り開くことになるだろう」と話した。
○文大統領は海士生徒に「今日の海軍士官学校第73期新任海軍将校に国軍統帥権者として初めて命令を下す」とし「ともにつらい訓練を経て積んだ戦友愛、世界の海で経験した同期との思い出を忘れずに、愛するがゆえに恥ずかしくない祖国、献身するに惜しくない祖国を作ることに先頭に立ってほしい」と呼びかけた。
<引用終わり>
(*3):「軍備増強」の1点だけでダメだとする論調は危険。「○○国の軍拡」が、「○○国人の命、平和・安寧の確保」に必要だとの妥当性があれば、それを批判する様な事はしない。この考え方は、以前の論考提示済。
2019/02/23投稿:
軍隊とは何か
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1118.html
(*4):我が国の国防費は、国防の必要性とは無関係に対GDP比1%未満となっている歪んだ政治的特性がある。
2017/07/17投稿:
国民の平和と安寧を阻害している岩盤規制
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-714.html
(*5):北朝鮮からの脅威に対処するにしては不必要に高価・高性能な装備を韓国は導入している。そういう韓国のドクトリンの変質を装備品から概観する。
<陸軍・空軍装備>
2017/06/14投稿:
装備品を見て韓国のドクトリンを推定する(前編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-693.html
<海軍装備>
2017/06/15投稿:
装備品を見て韓国のドクトリンを推定する(後編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-694.html
(*6):韓国の国家安全保障の視点が変わってしまったのは、1984年に全斗煥が作成した、「南北統一後の自主防衛戦略・民族生存戦略」である「白頭山計画」からである。
2017/06/13投稿:
「白頭山計画」・実現性なき軽壮大な妄想
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-692.html
(*7):韓国人の文明的基盤である小中華思想の世界
2018/11/08投稿:
徴用工・韓国「最高裁」判決雑感5Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1049.html
(*8):文在寅の演説は「3.1運動100周年」の演説を分析して分かった通り、キーワードの羅列だけで、それらキーワード間の整合性や根拠の提示だとかはまったくない。
2019/03/05投稿:
(資料編)文在寅3.1演説・日本は「慰安婦」「徴用工」の問題を解決せよ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1126.html
1日1回ポチっとな ↓



スポンサーサイト