新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(中編)
- 2018/10/16
- 19:04
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(中編)
<ヘゲモニーチャレンジャー中国3>

副題:米ソ・東西冷戦はドンパチこそ発生しなかったが軍事力競走であった。新冷戦は中国が標榜する超限戦。その分野は法律戦・情報戦が主であり、軍事力は前面には出てこないので分かり難いのだが、世界秩序を変えたがっている中国との新たなる冷戦が始まっている。
前々回論考「ヘゲモニーチャレンジャー中国・事大主義小中華韓国」及び前回論考・前編の続きである。
ペンス副大統領の演説の紹介を続けるが、その演説内容の続きを一言で言えば「中国が世界秩序に反して、利己的利益を追究している具体例の提示」である。アメリカ副大統領が、アメリカ人を相手にしている演説なので、話の内容が具体的事例の羅列になっているものだと推察する。
概念の提示だけで理解する国民性ではないので、必然的に、この様になるのであろう。
尚、ペンス演説の全文は、文末脚注の(*1)で紹介しているホワイトハウスHPのURLで参照できるので、原文に興味があれば、そちらを参照願いたい。
<前回から紹介しているペンス演説の紹介の続き>
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○Now, through the “Made in China 2025” plan, the Communist Party has set its sights on controlling 90 percent of the world’s most advanced industries, including robotics, biotechnology, and artificial intelligence.
To win the commanding heights of the 21st century economy, Beijing has directed its bureaucrats and businesses to obtain American intellectual property –- the foundation of our economic leadership -– by any means necessary.
○Beijing now requires many American businesses to hand over their trade secrets as the cost of doing business in China.
It also coordinates and sponsors the acquisition of American firms to gain ownership of their creations.
Worst of all, Chinese security agencies have masterminded the wholesale theft of American technology –- including cutting-edge military blueprints.
And using that stolen technology, the Chinese Communist Party is turning plowshares into swords on a massive scale.
(勝手に和訳:○現状、中国共産党は「Made in China 2025」計画を通じて、ロボット工学、バイオテクノロジー、人工知能等の世界で最も先進的な産業の90%を支配する事を狙っている。
北京(中共政府)は、21世紀の世界経済の覇者となる為に(自国の)官僚や企業に対して、経済的ヘゲモニーの基礎であるアメリカの知的財産を、必要ならば、どの様な手段を用いても、入手するように指示している。
○北京(中共政府)は、アメリカ企業に対して、中国国内で事業を行う際の条件として、アメリカ企業が保有する特許・技術情報の開示を要求している。
同様、アメリカ企業に対して(100%子会社を認めないなどの)投資規制を行い、(中国企業が資本を持つことで)アメリカ企業が中国で生産する製品(に使用されているアメリカの知的財産権を)獲得する(などの策を弄している)。
最悪なることに、最先端の軍事計画の一部を含む米国の技術の剽窃を支配・指示してきたのは中国の安全保障機関(=軍部)である。
そして、中国共産党は盗んだ技術を使って鋤(すき・民間技術)を剣(けん・軍事技術)に転用して(軍事力強化・覇権強化に利用して)いる。
↓
以前から言われている、中国の国際法を無視した、特許等の知的財産権の窃盗利用、技術開発投資をしない不当な価格競争力優位策を指摘している部分である。
アメリカは参加していないが、TPPの重要な骨子の1つには、この知的財産権の厳格運用がある。甘利氏の尽力でTPPは、より公平な内容に止揚できたと考えているが、知的財産権関係条項を中国は守れないと思われる。韓国も同様であろう。
アメリカは、TPP不加入がトランプの選挙公約なので暫くは参加しないであろうが、何れにしろ、中国の知的財産権剽窃はTPPのみならず、他の既存の取り決めにも反しており、アメリカの得べかりし利益を毀損しているとの事実の提示をペンスはしている部分である。
ペンス演説は、中国のこれら知的財産権に係るインチキ経済政策が、実は軍事面にも暗い影を落としていることを説明している訳だが、経済政策の次に、中国の軍事力問題を紹介している。
国力の両輪は、経済力と軍事力であることからは、話の流れとしては当然である。
ペンス演説は以下の様に、中国の軍事力が、世界平和に資する軍事力ではなく、中国の利己的国益を押し通す為に使われている具体的事例を紹介している。
以下に、ペンス演説の軍事面での3つの段落を紹介する。
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○China now spends as much on its military as the rest of Asia combined, and Beijing has prioritized capabilities to erode America’s military advantages on land, at sea, in the air, and in space.
China wants nothing less than to push the United States of America from the Western Pacific and attempt to prevent us from coming to the aid of our allies. But they will fail.
(勝手に和訳:○中国は現在、他のアジア諸国総ての軍事費と同じくらいの軍事費を1国で費やしており、北京(中共政府)は、陸・海・空及び宇宙でのアメリカ軍の優位性を脅かす能力を得ることを、最優先の国家目標としている。
中国は、アメリカを西太平洋から追い出し、アメリカが(西太平洋地域の)同盟諸国との協力関係を終わらせ様にしている。しかし、中国の目論見は失敗するであろう。)
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○Beijing is also using its power like never before.
Chinese ships routinely patrol around the Senkaku Islands, which are administered by Japan.
And while China’s leader stood in the Rose Garden at the White House in 2015 and said that his country had, and I quote, “no intention to militarize” the South China Sea, today, Beijing has deployed advanced anti-ship and anti-air missiles atop an archipelago of military bases constructed on artificial islands.
(勝手に和訳:○北京(中共政府)はかつてないほどの軍事力を行使している。
中国の船舶は、日本の施政下にある尖閣諸島の周辺を日常的に(軍事的に)巡回している。
2015年に中国の指導者(習近平)がホワイトハウスのローズガーデン(記者会見演説をする場所)に立ち、「中国は南シナ海を軍事化するつもりはない」と言ったのだが、今日(2018年現在)北京(中共政府)は、近代的な対艦・対空ミサイルを、人工島に建設された軍事基地に配備している。)
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○China’s aggression was on display this week, when a Chinese naval vessel came within 45 yards of the USS Decatur as it conducted freedom-of-navigation operations in the South China Sea, forcing our ship to quickly maneuver to avoid collision.
Despite such reckless harassment, the United States Navy will continue to fly, sail, and operate wherever international law allows and our national interests demand.
We will not be intimidated and we will not stand down. (Applause.)
(勝手に和訳:○今週、中国の侵略的意図が露骨に表れた事件が起きた。南シナ海で航行の自由作戦に従事していたアメリカの駆逐艦「ディケーター」に対して、中国海軍の艦艇が45ヤード(約40m)に接近(意図的な衝突・体当たり行動による威嚇に該当)してきてので、アメリカ海軍駆逐艦は衝突回避の為の急激な操舵をせざるを得ない事態があった。
この様な無謀な嫌がらせがあったのだが、アメリカ海軍は国際法に則り、アメリカの国益(である国際秩序・自由な公海航行)の要求に基づき、今後も(自由な航行作戦の同地域での)飛行・航行を継続する。
我々は脅しに屈する事はないし、立ち止まることもしない。(拍手))
↓
ペンス演説の軍事面での3つの段落は以上である。
実際には、中国の軍事的問題には、もっと別の大きな問題があるのだが、聴衆にとって、もっとも分かり易く、最近の話題でもある、中国海軍艦艇による「洋上での煽り運転」を題材として取り上げている。
「航行の自由作戦」とは、国際海洋法を無視して、南沙諸島の環礁を埋め立て・対艦・対空ミサイルを設置し自国領土を主張している中国に対して、「国際法を守りなさい」と口で言っても聞く耳を持たないので、既成事実化阻止を含め、そこが中国の領土などではなく、公海であることを、自由航行で示す行動のことである。
これに対して、中国海軍艦艇は、意図的な衝突・体当たり行動による威嚇をしてきたのだが、その様な行動は、国際海洋法に反しての「自国領」なる中国の勝手な「主張」が、その原因にある。
中国海軍艦艇の行動は、道交法というルールに反して自分勝手な思い込みだけで煽り運転をする愚かなドライバーとまったく同じ行動であり、アメリカ人聴衆にとっては、とても分かり易い話であろうと思われる。
また、アメリカ人の気性からは軍事的挑発への反発は強く、歴史的には、元アメリカ大統領フーバーが分析した(*2)様に、ルーズベルトが仕掛けた「リメンバー・パールハーバー」(*3)があるし、リメンバー・アラモ砦であり、戦後ではトンキン湾事件、キューバ危機などである。
しかし、キューバ危機と北朝鮮の核・弾道ミサイル問題を比較すると、国民の反応が大違いなのは考察対象だと思える程に対照的である。
そんな国民性を踏まえているのであろうか、ペンス演説は経済と軍事の話のまとめとして、以下の様に述べている。
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○America had hoped that economic liberalization would bring China into a greater partnership with us and with the world.
Instead, China has chosen economic aggression, which has in turn emboldened its growing military.
(勝手に和訳:○アメリカは、経済の自由化が中国(の民主化を促進し、中国が)我々(アメリカ)及び国際社会との偉大なるパートナーシップにつながることを望んでいた。
ところが中国は(自由主義国際社会との良き関わりの)代わりに、経済侵略政策を選択し、経済成長で得た富を軍拡に費やしている。)
↓
経済と軍事という国力の両輪の2つの分野それぞれに於いて中国は侵略的であるとの認識を示している。
以前から、中国の軍拡は「問題あり」だという見方はあったのだが、それに対して中国は、「経済的関係強化」という「呪文」を繰り返し、「軍事関係は脇に置いておきましょう、経済関係を親密にやっていきましょう」と称して、軍拡問題を曖昧にしてきた。
今回のペンス演説は、「その手は桑名の焼き蛤」であり、経済・軍事の両面に於いて中国が侵略的だ、という認識を示しているのである。
ペンス演説の「中国は危険」との事例指摘は、この後、中国の人権問題へと続く。
「人権問題」自体はとても重要な問題である。
ところが、中国の様な人権状況が劣る国が、そういう重要な問題を利用して先進国に対して情報戦・宣伝戦を仕掛けているのである。かなり前から続く「この手法」を、今度はアメリカが逆手にとって中国に対して適用し、反撃し始めた様である。
ペンス演説に出てくる「人権問題」の項目としては、以下が述べられている。
長くなるので、演説の、その部分の紹介と和訳は省略するが、項目を紹介するだけで充分であろう。
<ペンス演説に登場する人権関係の項目>
・“Great Firewall of China”
「中国国内と海外ネットを隔てる巨大なファイアーウォ-ル」のこと、情報遮断・情報統制・ネット規制目的の国家的仕組み。
・“Social Credit Score.”
「社会信用度スコア」という中国国民1人1人に、国家が成績表をつける仕組み。小説「1984年」のビッグブラザーの様な超監視社会システムである。
・crashing down on Chinese Christians, Buddhists, and Muslims.
「中国人キリスト教徒・仏教徒・イスラム教徒に対して「信教の自由」を認めていない中国政府」。事例としてキリスト教の教会の閉鎖、チベット僧侶の焼身抗議、ウイグル自治区でのウイグル人弾圧など。
・a country that oppresses its own people
中国は「自国民を迫害する国家」であるとしている。上記したウイグル自治区での迫害等を述べている。
これらの中国国内での人権問題の続き、ペンス演説は、中国の外交政策の話を取り上げている。
中国の「外交姿勢」は、一言で言うと「軍事力を前面に出さない19世紀型の植民地主義」である。中国は経済力を用いて植民地を獲得する「外交」をしているのである。
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○In fact, China uses so-called “debt diplomacy” to expand its influence.
Today, that country is offering hundreds of billions of dollars in infrastructure loans to governments from Asia to Africa to Europe and even Latin America.
Yet the terms of those loans are opaque at best, and the benefits invariably flow overwhelmingly to Beijing.
○Just ask Sri Lanka, which took on massive debt to let Chinese state companies build a port of questionable commercial value.
Two years ago, that country could no longer afford its payments, so Beijing pressured Sri Lanka to deliver the new port directly into Chinese hands.
It may soon become a forward military base for China’s growing blue-water navy.
(勝手に和訳:○実際のところ、中国は所謂「借金漬け外交」を利用して、(中国の)影響力を拡張している。
今日中国は、何千億ドルものインフラ整備資金を投入しており、それはアジアからアフリカ、欧州、更には南米諸国の政府に対して行われている。
しかし、これら資金の貸付条件は最良の場合でも不透明なものであり、(そのインフラ投資に伴う)利益は、常に、そのほとんどが北京(中共政府)へと還流されてしまう。(現地には利益が残らない)
○スリランカに聞いてみれば良い。中国の国営企業が、事業採算性に疑問が残る港湾施設をスリランカに建設する案件の際にスリランカが負った巨額債務のことを。
2年前のことだが、スリランカが債務返済(借金返済)の手立てがなくなった時、中国は、その港湾施設を「借金のカタ」として中国のものにする様に圧力をかけたのだった。
その港湾は、やがて中国が軍拡で育成している外洋型海軍の海外拠点基地になるであろう。)
↓
中国が推進する覇権拡大戦略のうち、スリランカは「真珠の首飾り」と言われるインド洋での戦略的要衝確保地のうちの1か所である。
世界へ覇権を拡大したい中国なのだが、海洋への出口は極めて限定されており、その海岸線は国土面積に比して、かなり短い。東シナ海・南シナ海に面する地域だけであるので、その先の、アフリカへと続くインド洋へのアクセスを、ずっと模索してきた。
その様な戦略として、インド洋上での戦略拠点確保と、中国内陸部からミャンマーを通ってインド洋へとアクセスするルートの開拓等をしている。
そういう文脈の中でのスリランカでの港湾確保であるのだが、そのやり方が、ナニワ金融道での「泡に沈める」「風呂に沈める」やり方と同じ非道なやり方だというものである。
要するに、中国は19世紀型の植民地獲得「割譲」を、金銭を用いてやっているのである。
ペンス演説後、モルディブ等の国々が、中国の「一帯一路構想」からの離脱を述べており、「やっと気が付いたんかい。でも良かったね」という思いである。
ペンス演説は、スリランカの話の後に、南米への中国の接近と台湾排除の「1つの中国」との中国共産党が長年使い続けてきた「情報戦Tool」について言及しているのだが、「中国が世界秩序に反して、利己的利益を追究している具体例の提示」は、ここで終わり、それ以降は、「今のままの中国」が続けば、アメリカが今後、どの様な行動をすることになるのかを述べている。
ポイントは「今のままの中国」が続けば、である。
ペンスは演説で、「俺等アメリカ世界1!俺等の軍隊を知らんのか?」という「話」をしている。
その上で、紹介してきた「中国がやっているけしからん事」を是正すれば、「アメリカが今後やっていく事」が変わる旨を並べているのである。
とは言え、それは支那の地の文明である華夷秩序を否定するものであり、それは中国にとってみれば難しいものである。
一方、我々日本人からすれば、華夷秩序・中華冊封体制は1300年以上も昔に、「あれはダメだと思うぞ」と評価しているもので、そんな中国が21世紀の世界のヘゲモニーを握ることは悪夢でしかないので、これで良いと思う。
<長くなったので、ペンス演説の終盤部分は項を分けます>
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【文末脚注】
ペンス副大統領の演説(*1)
2018/10/13投稿:
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(前編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1033.html
<ペンス演説のテキスト>
ホワイトハウスHP Issued on: October 4, 2018
見出し:◆Remarks by Vice President Pence on the Administration’s Policy Toward China
(勝手な意訳:ペンス副大統領による、対中政策に関しての方針演説)
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-vice-president-pence-administrations-policy-toward-china/
※全文英語なので全文引用はしていない。注目点は本稿の中で適宜引用して和訳している。
(*2):フーバー回顧録に見る「ルーズベルトの仕掛け」
2016/08/30投稿:
フーバー回顧録・目次3
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-493.html
2016/11/11投稿:
フーバー回顧録Doc.18-4
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-540.html
2016/11/12投稿:
フーバー回顧録Doc.18-5
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-541.html
【ご参考】
2016/12/06投稿:
真珠湾攻撃に関する考察
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-557.html
2016/12/08投稿:
真珠湾攻撃にまつわるデマ話
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-558.html
(*3):「リメンバー・パールハーバー」との20世紀中盤のパラダイム
●<真珠湾演説>:.2016年12月28日
※2016年の年末に安倍首相は真珠湾を訪問しメッセージを発信している。これは、その年の5月のオバマ訪問と対を成すものである。目的は戦後パラダイムの終焉である。
2016/12/30投稿:
真珠湾・安倍演説1「和解の力」2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-574.html
2016/12/31投稿:
真珠湾・安倍演説2「和解の力」2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-575.html
【ご参考】
2017/01/03投稿:
真珠湾オバマ演説1・2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-576.html
2017/01/04投稿:
真珠湾オバマ演説2・2016/12/28Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-577.html
2016/12/29投稿:
(資料編)真珠湾両首脳ステートメント
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-573.html
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<ヘゲモニーチャレンジャー中国3>


副題:米ソ・東西冷戦はドンパチこそ発生しなかったが軍事力競走であった。新冷戦は中国が標榜する超限戦。その分野は法律戦・情報戦が主であり、軍事力は前面には出てこないので分かり難いのだが、世界秩序を変えたがっている中国との新たなる冷戦が始まっている。
前々回論考「ヘゲモニーチャレンジャー中国・事大主義小中華韓国」及び前回論考・前編の続きである。
ペンス副大統領の演説の紹介を続けるが、その演説内容の続きを一言で言えば「中国が世界秩序に反して、利己的利益を追究している具体例の提示」である。アメリカ副大統領が、アメリカ人を相手にしている演説なので、話の内容が具体的事例の羅列になっているものだと推察する。
概念の提示だけで理解する国民性ではないので、必然的に、この様になるのであろう。
尚、ペンス演説の全文は、文末脚注の(*1)で紹介しているホワイトハウスHPのURLで参照できるので、原文に興味があれば、そちらを参照願いたい。
<前回から紹介しているペンス演説の紹介の続き>
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○Now, through the “Made in China 2025” plan, the Communist Party has set its sights on controlling 90 percent of the world’s most advanced industries, including robotics, biotechnology, and artificial intelligence.
To win the commanding heights of the 21st century economy, Beijing has directed its bureaucrats and businesses to obtain American intellectual property –- the foundation of our economic leadership -– by any means necessary.
○Beijing now requires many American businesses to hand over their trade secrets as the cost of doing business in China.
It also coordinates and sponsors the acquisition of American firms to gain ownership of their creations.
Worst of all, Chinese security agencies have masterminded the wholesale theft of American technology –- including cutting-edge military blueprints.
And using that stolen technology, the Chinese Communist Party is turning plowshares into swords on a massive scale.
(勝手に和訳:○現状、中国共産党は「Made in China 2025」計画を通じて、ロボット工学、バイオテクノロジー、人工知能等の世界で最も先進的な産業の90%を支配する事を狙っている。
北京(中共政府)は、21世紀の世界経済の覇者となる為に(自国の)官僚や企業に対して、経済的ヘゲモニーの基礎であるアメリカの知的財産を、必要ならば、どの様な手段を用いても、入手するように指示している。
○北京(中共政府)は、アメリカ企業に対して、中国国内で事業を行う際の条件として、アメリカ企業が保有する特許・技術情報の開示を要求している。
同様、アメリカ企業に対して(100%子会社を認めないなどの)投資規制を行い、(中国企業が資本を持つことで)アメリカ企業が中国で生産する製品(に使用されているアメリカの知的財産権を)獲得する(などの策を弄している)。
最悪なることに、最先端の軍事計画の一部を含む米国の技術の剽窃を支配・指示してきたのは中国の安全保障機関(=軍部)である。
そして、中国共産党は盗んだ技術を使って鋤(すき・民間技術)を剣(けん・軍事技術)に転用して(軍事力強化・覇権強化に利用して)いる。
↓
以前から言われている、中国の国際法を無視した、特許等の知的財産権の窃盗利用、技術開発投資をしない不当な価格競争力優位策を指摘している部分である。
アメリカは参加していないが、TPPの重要な骨子の1つには、この知的財産権の厳格運用がある。甘利氏の尽力でTPPは、より公平な内容に止揚できたと考えているが、知的財産権関係条項を中国は守れないと思われる。韓国も同様であろう。
アメリカは、TPP不加入がトランプの選挙公約なので暫くは参加しないであろうが、何れにしろ、中国の知的財産権剽窃はTPPのみならず、他の既存の取り決めにも反しており、アメリカの得べかりし利益を毀損しているとの事実の提示をペンスはしている部分である。
ペンス演説は、中国のこれら知的財産権に係るインチキ経済政策が、実は軍事面にも暗い影を落としていることを説明している訳だが、経済政策の次に、中国の軍事力問題を紹介している。
国力の両輪は、経済力と軍事力であることからは、話の流れとしては当然である。
ペンス演説は以下の様に、中国の軍事力が、世界平和に資する軍事力ではなく、中国の利己的国益を押し通す為に使われている具体的事例を紹介している。
以下に、ペンス演説の軍事面での3つの段落を紹介する。
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○China now spends as much on its military as the rest of Asia combined, and Beijing has prioritized capabilities to erode America’s military advantages on land, at sea, in the air, and in space.
China wants nothing less than to push the United States of America from the Western Pacific and attempt to prevent us from coming to the aid of our allies. But they will fail.
(勝手に和訳:○中国は現在、他のアジア諸国総ての軍事費と同じくらいの軍事費を1国で費やしており、北京(中共政府)は、陸・海・空及び宇宙でのアメリカ軍の優位性を脅かす能力を得ることを、最優先の国家目標としている。
中国は、アメリカを西太平洋から追い出し、アメリカが(西太平洋地域の)同盟諸国との協力関係を終わらせ様にしている。しかし、中国の目論見は失敗するであろう。)
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○Beijing is also using its power like never before.
Chinese ships routinely patrol around the Senkaku Islands, which are administered by Japan.
And while China’s leader stood in the Rose Garden at the White House in 2015 and said that his country had, and I quote, “no intention to militarize” the South China Sea, today, Beijing has deployed advanced anti-ship and anti-air missiles atop an archipelago of military bases constructed on artificial islands.
(勝手に和訳:○北京(中共政府)はかつてないほどの軍事力を行使している。
中国の船舶は、日本の施政下にある尖閣諸島の周辺を日常的に(軍事的に)巡回している。
2015年に中国の指導者(習近平)がホワイトハウスのローズガーデン(記者会見演説をする場所)に立ち、「中国は南シナ海を軍事化するつもりはない」と言ったのだが、今日(2018年現在)北京(中共政府)は、近代的な対艦・対空ミサイルを、人工島に建設された軍事基地に配備している。)
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○China’s aggression was on display this week, when a Chinese naval vessel came within 45 yards of the USS Decatur as it conducted freedom-of-navigation operations in the South China Sea, forcing our ship to quickly maneuver to avoid collision.
Despite such reckless harassment, the United States Navy will continue to fly, sail, and operate wherever international law allows and our national interests demand.
We will not be intimidated and we will not stand down. (Applause.)
(勝手に和訳:○今週、中国の侵略的意図が露骨に表れた事件が起きた。南シナ海で航行の自由作戦に従事していたアメリカの駆逐艦「ディケーター」に対して、中国海軍の艦艇が45ヤード(約40m)に接近(意図的な衝突・体当たり行動による威嚇に該当)してきてので、アメリカ海軍駆逐艦は衝突回避の為の急激な操舵をせざるを得ない事態があった。
この様な無謀な嫌がらせがあったのだが、アメリカ海軍は国際法に則り、アメリカの国益(である国際秩序・自由な公海航行)の要求に基づき、今後も(自由な航行作戦の同地域での)飛行・航行を継続する。
我々は脅しに屈する事はないし、立ち止まることもしない。(拍手))
↓
ペンス演説の軍事面での3つの段落は以上である。
実際には、中国の軍事的問題には、もっと別の大きな問題があるのだが、聴衆にとって、もっとも分かり易く、最近の話題でもある、中国海軍艦艇による「洋上での煽り運転」を題材として取り上げている。
「航行の自由作戦」とは、国際海洋法を無視して、南沙諸島の環礁を埋め立て・対艦・対空ミサイルを設置し自国領土を主張している中国に対して、「国際法を守りなさい」と口で言っても聞く耳を持たないので、既成事実化阻止を含め、そこが中国の領土などではなく、公海であることを、自由航行で示す行動のことである。
これに対して、中国海軍艦艇は、意図的な衝突・体当たり行動による威嚇をしてきたのだが、その様な行動は、国際海洋法に反しての「自国領」なる中国の勝手な「主張」が、その原因にある。
中国海軍艦艇の行動は、道交法というルールに反して自分勝手な思い込みだけで煽り運転をする愚かなドライバーとまったく同じ行動であり、アメリカ人聴衆にとっては、とても分かり易い話であろうと思われる。
また、アメリカ人の気性からは軍事的挑発への反発は強く、歴史的には、元アメリカ大統領フーバーが分析した(*2)様に、ルーズベルトが仕掛けた「リメンバー・パールハーバー」(*3)があるし、リメンバー・アラモ砦であり、戦後ではトンキン湾事件、キューバ危機などである。
しかし、キューバ危機と北朝鮮の核・弾道ミサイル問題を比較すると、国民の反応が大違いなのは考察対象だと思える程に対照的である。
そんな国民性を踏まえているのであろうか、ペンス演説は経済と軍事の話のまとめとして、以下の様に述べている。
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○America had hoped that economic liberalization would bring China into a greater partnership with us and with the world.
Instead, China has chosen economic aggression, which has in turn emboldened its growing military.
(勝手に和訳:○アメリカは、経済の自由化が中国(の民主化を促進し、中国が)我々(アメリカ)及び国際社会との偉大なるパートナーシップにつながることを望んでいた。
ところが中国は(自由主義国際社会との良き関わりの)代わりに、経済侵略政策を選択し、経済成長で得た富を軍拡に費やしている。)
↓
経済と軍事という国力の両輪の2つの分野それぞれに於いて中国は侵略的であるとの認識を示している。
以前から、中国の軍拡は「問題あり」だという見方はあったのだが、それに対して中国は、「経済的関係強化」という「呪文」を繰り返し、「軍事関係は脇に置いておきましょう、経済関係を親密にやっていきましょう」と称して、軍拡問題を曖昧にしてきた。
今回のペンス演説は、「その手は桑名の焼き蛤」であり、経済・軍事の両面に於いて中国が侵略的だ、という認識を示しているのである。
ペンス演説の「中国は危険」との事例指摘は、この後、中国の人権問題へと続く。
「人権問題」自体はとても重要な問題である。
ところが、中国の様な人権状況が劣る国が、そういう重要な問題を利用して先進国に対して情報戦・宣伝戦を仕掛けているのである。かなり前から続く「この手法」を、今度はアメリカが逆手にとって中国に対して適用し、反撃し始めた様である。
ペンス演説に出てくる「人権問題」の項目としては、以下が述べられている。
長くなるので、演説の、その部分の紹介と和訳は省略するが、項目を紹介するだけで充分であろう。
<ペンス演説に登場する人権関係の項目>
・“Great Firewall of China”
「中国国内と海外ネットを隔てる巨大なファイアーウォ-ル」のこと、情報遮断・情報統制・ネット規制目的の国家的仕組み。
・“Social Credit Score.”
「社会信用度スコア」という中国国民1人1人に、国家が成績表をつける仕組み。小説「1984年」のビッグブラザーの様な超監視社会システムである。
・crashing down on Chinese Christians, Buddhists, and Muslims.
「中国人キリスト教徒・仏教徒・イスラム教徒に対して「信教の自由」を認めていない中国政府」。事例としてキリスト教の教会の閉鎖、チベット僧侶の焼身抗議、ウイグル自治区でのウイグル人弾圧など。
・a country that oppresses its own people
中国は「自国民を迫害する国家」であるとしている。上記したウイグル自治区での迫害等を述べている。
これらの中国国内での人権問題の続き、ペンス演説は、中国の外交政策の話を取り上げている。
中国の「外交姿勢」は、一言で言うと「軍事力を前面に出さない19世紀型の植民地主義」である。中国は経済力を用いて植民地を獲得する「外交」をしているのである。
<ペンス演説のテキストから抜粋引用>
○In fact, China uses so-called “debt diplomacy” to expand its influence.
Today, that country is offering hundreds of billions of dollars in infrastructure loans to governments from Asia to Africa to Europe and even Latin America.
Yet the terms of those loans are opaque at best, and the benefits invariably flow overwhelmingly to Beijing.
○Just ask Sri Lanka, which took on massive debt to let Chinese state companies build a port of questionable commercial value.
Two years ago, that country could no longer afford its payments, so Beijing pressured Sri Lanka to deliver the new port directly into Chinese hands.
It may soon become a forward military base for China’s growing blue-water navy.
(勝手に和訳:○実際のところ、中国は所謂「借金漬け外交」を利用して、(中国の)影響力を拡張している。
今日中国は、何千億ドルものインフラ整備資金を投入しており、それはアジアからアフリカ、欧州、更には南米諸国の政府に対して行われている。
しかし、これら資金の貸付条件は最良の場合でも不透明なものであり、(そのインフラ投資に伴う)利益は、常に、そのほとんどが北京(中共政府)へと還流されてしまう。(現地には利益が残らない)
○スリランカに聞いてみれば良い。中国の国営企業が、事業採算性に疑問が残る港湾施設をスリランカに建設する案件の際にスリランカが負った巨額債務のことを。
2年前のことだが、スリランカが債務返済(借金返済)の手立てがなくなった時、中国は、その港湾施設を「借金のカタ」として中国のものにする様に圧力をかけたのだった。
その港湾は、やがて中国が軍拡で育成している外洋型海軍の海外拠点基地になるであろう。)
↓
中国が推進する覇権拡大戦略のうち、スリランカは「真珠の首飾り」と言われるインド洋での戦略的要衝確保地のうちの1か所である。
世界へ覇権を拡大したい中国なのだが、海洋への出口は極めて限定されており、その海岸線は国土面積に比して、かなり短い。東シナ海・南シナ海に面する地域だけであるので、その先の、アフリカへと続くインド洋へのアクセスを、ずっと模索してきた。
その様な戦略として、インド洋上での戦略拠点確保と、中国内陸部からミャンマーを通ってインド洋へとアクセスするルートの開拓等をしている。
そういう文脈の中でのスリランカでの港湾確保であるのだが、そのやり方が、ナニワ金融道での「泡に沈める」「風呂に沈める」やり方と同じ非道なやり方だというものである。
要するに、中国は19世紀型の植民地獲得「割譲」を、金銭を用いてやっているのである。
ペンス演説後、モルディブ等の国々が、中国の「一帯一路構想」からの離脱を述べており、「やっと気が付いたんかい。でも良かったね」という思いである。
ペンス演説は、スリランカの話の後に、南米への中国の接近と台湾排除の「1つの中国」との中国共産党が長年使い続けてきた「情報戦Tool」について言及しているのだが、「中国が世界秩序に反して、利己的利益を追究している具体例の提示」は、ここで終わり、それ以降は、「今のままの中国」が続けば、アメリカが今後、どの様な行動をすることになるのかを述べている。
ポイントは「今のままの中国」が続けば、である。
ペンスは演説で、「俺等アメリカ世界1!俺等の軍隊を知らんのか?」という「話」をしている。
その上で、紹介してきた「中国がやっているけしからん事」を是正すれば、「アメリカが今後やっていく事」が変わる旨を並べているのである。
とは言え、それは支那の地の文明である華夷秩序を否定するものであり、それは中国にとってみれば難しいものである。
一方、我々日本人からすれば、華夷秩序・中華冊封体制は1300年以上も昔に、「あれはダメだと思うぞ」と評価しているもので、そんな中国が21世紀の世界のヘゲモニーを握ることは悪夢でしかないので、これで良いと思う。
<長くなったので、ペンス演説の終盤部分は項を分けます>
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【文末脚注】
ペンス副大統領の演説(*1)
2018/10/13投稿:
新冷戦状態にあるとの宣言・ペンス米国副大統領演説(前編)
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1033.html
<ペンス演説のテキスト>
ホワイトハウスHP Issued on: October 4, 2018
見出し:◆Remarks by Vice President Pence on the Administration’s Policy Toward China
(勝手な意訳:ペンス副大統領による、対中政策に関しての方針演説)
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-vice-president-pence-administrations-policy-toward-china/
※全文英語なので全文引用はしていない。注目点は本稿の中で適宜引用して和訳している。
(*2):フーバー回顧録に見る「ルーズベルトの仕掛け」
2016/08/30投稿:
フーバー回顧録・目次3
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-493.html
2016/11/11投稿:
フーバー回顧録Doc.18-4
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-540.html
2016/11/12投稿:
フーバー回顧録Doc.18-5
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-541.html
【ご参考】
2016/12/06投稿:
真珠湾攻撃に関する考察
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-557.html
2016/12/08投稿:
真珠湾攻撃にまつわるデマ話
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-558.html
(*3):「リメンバー・パールハーバー」との20世紀中盤のパラダイム
●<真珠湾演説>:.2016年12月28日
※2016年の年末に安倍首相は真珠湾を訪問しメッセージを発信している。これは、その年の5月のオバマ訪問と対を成すものである。目的は戦後パラダイムの終焉である。
2016/12/30投稿:
真珠湾・安倍演説1「和解の力」2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-574.html
2016/12/31投稿:
真珠湾・安倍演説2「和解の力」2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-575.html
【ご参考】
2017/01/03投稿:
真珠湾オバマ演説1・2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-576.html
2017/01/04投稿:
真珠湾オバマ演説2・2016/12/28Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-577.html
2016/12/29投稿:
(資料編)真珠湾両首脳ステートメント
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-573.html
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