安倍首相・国連演説2018(後編)Final
- 2018/10/03
- 18:34
安倍首相・国連演説2018(後編)Final

副題:今年2018年の安倍首相の国連演説。一言で言えば地球儀を敷衍する実現性あるビジョンを示したものだと言える。そこには過去6年間の安倍政権の外交実績に通底する我が国の理念が込められている。
前回中編及び前々回前編の続きである。
現地時間2018年9月25日(日本時間26日)、アメリカ・ニューヨークの国連本部・総会にて、昨年に引き続き安倍首相が一般討論演説をした。本論考は、その紹介及び解説を目的にしている。
安倍首相の国連演説の全文は前々回論考(前編)の文末脚注の(*3)に引用してあるが、それを適宜抜粋して論を進める。
<前編で紹介した部分>
1。冒頭挨拶
2.自由貿易体制の維持・継続・発展
<中編で紹介した部分>
3.北東アジア地域の戦後構造を取除く
4.自由で開かれたインド・太平洋戦略
今回の後編Finalは、最終部分の「5.日本外交の目的の紹介「世界と地域の未来を確実なものとするために」の紹介である。
Ⅱ.個別注目点
5.日本外交の目的の紹介「世界と地域の未来を確実なものとするために」
安倍演説の最後の段落であるが、この話は中東パレスチナからの教師留学の受入の話から始まる。
前回紹介した海上保安政策を学んだマレーシア、フィリピン、スリランカからの留学生の話とは、「学ぶ人々を受け入れる」という点でとつながっており、演説の流れとして自然である。
パレスチナの教師留学の部分で注目したのは、演説に出てくる「慰藉(いしゃ)の力」という語句である。
安倍演説で、「慰藉」との語句が出てくる部分を以下に引用する。
<引用開始>
(前略)来年初め、ガザ地区から約10人、小中学校の先生を日本に招きます。これを第一陣として、毎年続けます。日本という異なる文化、歴史に身を置く教師たちは、ガザと中東を広い視野に置き、自分たちのことを見つめ直すでしょう。それは独特の、慰藉(いしゃ)の力を彼らに及ぼすのではないでしょうか。
平和とはもちろん、当事者双方の努力が必要なのです。(後略)
<引用終わり>
損害に応じた賠償で支払われる金銭に対して用いる「慰謝料」との単語の「謝」の字は「慰藉料」と書くこともあるが、その程度の事しか知らなかったので、あらためて「慰藉」の意味を調べてみた。
「慰藉」を辞典で調べると「慰め労わること」、「同情して、又は、すまないいと思って慰めること」とある。
この様な意味からすれば、損害賠償の際に使用される「慰「謝」料」に謝罪の「謝の字」が使われている方がぴったりくると思うと同時に、「慰藉」は、相手を思いやる心性と自分自身を見つめる態度が、その背景にあるものだと感じた。
「中東パレスチナからの教師留学の受入」の背景には、パレスチナ問題があることは容易に想起される。
パレスチナ問題は、その原初がイギリスによる二枚舌問題であることはご存じの事と思うが、「約束の地」へと「2000年ぶりに帰還」という話は、そこに随分と長い事住み続けてきた人々にとっては「何それ?」という話でしかない。
この話は、コロンブスの「新大陸「発見」」と同じで、かなり主観的なものであるが、何れにしろ、21世紀の現在もパレスチナ問題は「解決」していない。
これが一神教宗教どうしの宗教戦争なのか、自分達の主張の正当性を宗教に求めているものなのかは正確には分からないのだが、何れにしろ、「永遠なる怨嗟の連鎖」を何処かで断ち切らないと、この問題が「永遠に続く」ことは間違いがない。
我が国の場合、江戸時代までは「仇討」が制度化されていたのだが、その際に、仇討で殺された側が、仇討してきた相手に対して、再度の仇討をすることは認められてこなかったと言われている。これは「仇討の連鎖」を防ぐのが目的だ。
この様な連鎖からは明るい未来は生まれない。同様、我が国には「俺の目が黒いうちは○○を許さない。取引禁止だ。」という話があるが、これは逆に言えば「俺が死んだ後は知らぬ」という事であり、「対立の永続化」を防ぐ見識があるものである。
この様な我が国文化に根差した感覚に基づく話を安倍首相は、以前、アメリカ相手にしていることを思い出していただきたい。
2016年の年末に安倍首相は真珠湾を訪問しメッセージを発信している。(*1)これは、その年の5月のオバマ広島訪問・オバマ広島演説(*2)と対を成すもので、民主党政権で冷え切った日米関係の改善とともに、20世紀後半のパラダイムを変換する視点を提示するものであった。
安倍首相の真珠湾演説でのメッセージの主題は「和解の力」であり「寛容の心」である。
今回の国連演説に出てきた「慰藉の力」は語句こそ違えど、その理念は同じである。
安倍首相は国連演説で、「平和とはもちろん、当事者双方の努力が必要なのです」とガザのパレスチナ側だけではなく「当事者双方」に、この理念への理解を求めており、その先駆けとして、パレスチナからの教師留学の受入を表明している。
何故、教師留学なのかと言うと、教師は、教え子達に、新たな知識・視点を伝授することを使命とする人達だからである。少なくとも、従前とは違う視点、即ち、「慰藉の力」、「和解の力」、「寛容」がパレスチナの地で、新たに「選択肢」として加わることが期待できるからである。
最終的に物事を決めるのはパレスチナの人々自身である。それは民族自決の原則からは当然の事である。彼等の意向とは無関係に「これが善だ」として介入する西欧文明的なアプローチでは今まで解決してこなかったのだから、日本文明的なアプローチが行われることは意義深いことだと考える。
安倍首相の国連演説は、最後の段落で「日本外交の目的」は「世界と地域の未来を確実なものとするため」だと述べており、パレスチナの話に続き、我が国自身の若い世代への希望とその対応を述べ、改元の話、今後我が国で開催される各種の国際会議・スポーツイベントの話と続く。
この部分で例示されている各種国際会議はG20サミット、TICAD(アフリカ開発会議)である。プーチンとの日露会談や習近平との日中会談は「北東アジア地域の戦後構造を取除く」の部分で既にふれられている。
このうち、TICAD(アフリカ開発会議)に関しては、そこでUHC(Universal Health Coverage)(*3)を論じる旨を述べている。
UHCとは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことなのだが、これは貧困問題と大きく関係しているのだが、このプログラムの理念にも日本的理念が含まれている。
国際支援に関する日本的理念とは「施し」ではなく、自助努力に対する支援である。
以前にもちょっと触れた(*4)が、例えば、水不足な発展途上国への支援の場合、水や食料を支援する従来のやり方ではなく、井戸を掘る技術・井戸を保守・管理・運用する技術を支援するやり方である。
食糧難に陥っているのなら、「食糧を与える」との西欧文明的な「施し」の発想ではなく、灌漑設備や農業指導を行うというアプローチである。持続性、自存自立等の視点からは、この様なアプローチが望ましいと考える。
UHCの考え方には「治療」以外に「健康増進」、「予防」、「機能回復」が含まれていることが望ましい点だと考えている。
「病気になったから治療する」だけではなく、「健康増進」、「予防」での「病気にならないこと」での貧困化防止があり、また「治療したのだが病後に働けずに貧困化」してしまう状態からの脱却の為の「機能回復」が含まれている。
「健康増進」、「予防」は各人の努力・生活習慣に負うところが多いことはご存じのことだと思う。「施し」の発想一辺倒では「病気になったから治療する」、或いは「病後の収容施設」のみがハイライトされてしまい、持続性、自存自立の観点からは「解決すべき別の問題」が出てきてしまう。
安倍首相の国連演説は、最後に2点を述べている。
1つは我々日本と日本人が今後何をしていくのかの宣言であり、もう1つは、賞味期限切れとなった20世紀後半のパラダイムを色濃く引きずっている国連に対して、その変換をしていく旨の宣言である。
最後の2点の部分を以下に引用する。
<引用開始>
私たちの目は、未来を見続けます。
日本と日本の人々が未来に視線を据えるとき、日本は活力を増します。
未来を見つめる日本人は、SDGs(持続可能な開発目標)の力強い担い手となります。そんな次世代の日本の若人は、国連精神の旗手として立派に働いてくれるだろう。私の確信です。
最後に申し上げます。安保理改革が停滞する中、今世紀の世界における国連の意義は、いまや厳しく問われています。
けれどもだからこそ、日本は国連への貢献をやめません。グテーレス事務総長と共に、日本は安保理改革、国連改革に邁進(まいしん)することをお約束し、私の討論を終わりにします。ありがとうございました。
<引用終わり>
「今世紀の世界における国連の意義は、いまや厳しく問われています」との指摘を国連総会の場で表明することは天晴れである。
その上で、「日本は安保理改革、国連改革に邁進する」と宣言している。
これは20世紀後半のパラダイムを変換すると宣言なのであり、それは「戦後構造を取除く」ことそのものである。実に頼もしい演説である。
一方、「戦後構造からの利権」を得ている「(不当な)既得権益者」側からは、大きな反発が予想される。
知っての通り、そもそも「国連」とはUnited Nation=連合国のことである。
連合国とは、先の大戦の連合国である。
さきの大戦は、欧州地域と太平洋地域では意味合いが違うのだが、連合国側にとっては、フーバー元アメリカ大統領が指摘(*5)している様に、狂人大統領ルーズベルトによる、自己都合での「一体化したもの」であり、その様な違いは吹っ飛んでいる。
自分達戦勝国と敗戦国という単純な話になっているのであり、戦勝国クラブである「国連」は、正に先の大戦を色濃く引きずっている「20世紀後半のパラダイム」そのものである。
国連問題に関しては、指摘事項が多過ぎるので、今回は、これ以上は述べないが今年2018年の安倍首相の国連演説は、北朝鮮問題を世界中の問題だと国際社会を納得させた昨年2017年の演説(*6)と同様に我々日本人にとって素晴らしい内容である。
そのことを少しでも広めたいので紹介した次第である。
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【文末脚注】
(*1):2016年の年末に安倍首相は真珠湾を訪問しメッセージを発信している
2016/12/30投稿:
真珠湾・安倍演説1「和解の力」2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-574.html
2016/12/31投稿:
真珠湾・安倍演説2「和解の力」2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-575.html
【ご参考】
2017/01/03投稿:
真珠湾オバマ演説1・2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-576.html
2017/01/04投稿:
真珠湾オバマ演説2・2016/12/28Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-577.html
(*2):2016年5月のオバマ広島訪問・オバマ広島演説
※2016年の5月27日、伊勢志摩サミットで来日していた当時のアメリカ大統領オバマが、戦後、初めて広島を訪問した。その時のオバマの広島演説で、オバマは戦後レジュームの終焉を呼び掛けた。
2016/05/28投稿:
【コラム】2016年5月27日広島演説
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-424.html
2016/06/11投稿:
(資料編)オバマ広島演説・和訳
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-433.html
2016/06/13投稿:
【コラム】オバマ広島演説の分析1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-434.html
2016/06/17投稿:
【コラム】オバマ広島演説の分析2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-437.html
2016/06/18投稿:
【コラム】オバマ広島演説の分析3
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-438.html
2016/06/19投稿:
【コラム】オバマ広島演説の分析4
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-439.html
2016/06/21投稿:
【コラム】安倍首相広島スピーチ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-441.html
(*3):UHC(Universal Health Coverage)
JICA HP ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
https://www.jica.go.jp/aboutoda/sdgs/UHC.htm
リンク切れ?
(*4):国際支援に関する日本的理念とは「施し」ではなく、自助努力に対する支援である。
2018/09/16投稿:
ダライ・ラマの正論「欧州は欧州人のもの」雑感
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1015.html
(*5):フーバー元アメリカ大統領の指摘
タグ【フーバー回顧録】の一連の紹介
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-category-11.html
※「フーバー回顧録」とは通称である。
※本タグでの一連の紹介は、前半の「目次」を用いての全体像の概要紹介と後半の「Doc.18」=「第18文書」の紹介に大別される。第18文書は「7年間で19の失政」との題名がついており、フーバーは、ルーズベルト及びルーズベルトの死後に民主党政権を引き継いだ副大統領だったトルーマンの失政について述べているものである。
【ご参考】
2018/07/26投稿:
7月26日「今日は何の日」・ポツダム宣言
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-986.html
(*6):北朝鮮問題を世界中の問題だと国際社会を納得させた昨年2017年の演説
2017/09/21投稿:
安倍首相・国連演説
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-758.html
2017/09/26投稿:
安倍首相・国連演説2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-765.html
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副題:今年2018年の安倍首相の国連演説。一言で言えば地球儀を敷衍する実現性あるビジョンを示したものだと言える。そこには過去6年間の安倍政権の外交実績に通底する我が国の理念が込められている。
前回中編及び前々回前編の続きである。
現地時間2018年9月25日(日本時間26日)、アメリカ・ニューヨークの国連本部・総会にて、昨年に引き続き安倍首相が一般討論演説をした。本論考は、その紹介及び解説を目的にしている。
安倍首相の国連演説の全文は前々回論考(前編)の文末脚注の(*3)に引用してあるが、それを適宜抜粋して論を進める。
<前編で紹介した部分>
1。冒頭挨拶
2.自由貿易体制の維持・継続・発展
<中編で紹介した部分>
3.北東アジア地域の戦後構造を取除く
4.自由で開かれたインド・太平洋戦略
今回の後編Finalは、最終部分の「5.日本外交の目的の紹介「世界と地域の未来を確実なものとするために」の紹介である。
Ⅱ.個別注目点
5.日本外交の目的の紹介「世界と地域の未来を確実なものとするために」
安倍演説の最後の段落であるが、この話は中東パレスチナからの教師留学の受入の話から始まる。
前回紹介した海上保安政策を学んだマレーシア、フィリピン、スリランカからの留学生の話とは、「学ぶ人々を受け入れる」という点でとつながっており、演説の流れとして自然である。
パレスチナの教師留学の部分で注目したのは、演説に出てくる「慰藉(いしゃ)の力」という語句である。
安倍演説で、「慰藉」との語句が出てくる部分を以下に引用する。
<引用開始>
(前略)来年初め、ガザ地区から約10人、小中学校の先生を日本に招きます。これを第一陣として、毎年続けます。日本という異なる文化、歴史に身を置く教師たちは、ガザと中東を広い視野に置き、自分たちのことを見つめ直すでしょう。それは独特の、慰藉(いしゃ)の力を彼らに及ぼすのではないでしょうか。
平和とはもちろん、当事者双方の努力が必要なのです。(後略)
<引用終わり>
損害に応じた賠償で支払われる金銭に対して用いる「慰謝料」との単語の「謝」の字は「慰藉料」と書くこともあるが、その程度の事しか知らなかったので、あらためて「慰藉」の意味を調べてみた。
「慰藉」を辞典で調べると「慰め労わること」、「同情して、又は、すまないいと思って慰めること」とある。
この様な意味からすれば、損害賠償の際に使用される「慰「謝」料」に謝罪の「謝の字」が使われている方がぴったりくると思うと同時に、「慰藉」は、相手を思いやる心性と自分自身を見つめる態度が、その背景にあるものだと感じた。
「中東パレスチナからの教師留学の受入」の背景には、パレスチナ問題があることは容易に想起される。
パレスチナ問題は、その原初がイギリスによる二枚舌問題であることはご存じの事と思うが、「約束の地」へと「2000年ぶりに帰還」という話は、そこに随分と長い事住み続けてきた人々にとっては「何それ?」という話でしかない。
この話は、コロンブスの「新大陸「発見」」と同じで、かなり主観的なものであるが、何れにしろ、21世紀の現在もパレスチナ問題は「解決」していない。
これが一神教宗教どうしの宗教戦争なのか、自分達の主張の正当性を宗教に求めているものなのかは正確には分からないのだが、何れにしろ、「永遠なる怨嗟の連鎖」を何処かで断ち切らないと、この問題が「永遠に続く」ことは間違いがない。
我が国の場合、江戸時代までは「仇討」が制度化されていたのだが、その際に、仇討で殺された側が、仇討してきた相手に対して、再度の仇討をすることは認められてこなかったと言われている。これは「仇討の連鎖」を防ぐのが目的だ。
この様な連鎖からは明るい未来は生まれない。同様、我が国には「俺の目が黒いうちは○○を許さない。取引禁止だ。」という話があるが、これは逆に言えば「俺が死んだ後は知らぬ」という事であり、「対立の永続化」を防ぐ見識があるものである。
この様な我が国文化に根差した感覚に基づく話を安倍首相は、以前、アメリカ相手にしていることを思い出していただきたい。
2016年の年末に安倍首相は真珠湾を訪問しメッセージを発信している。(*1)これは、その年の5月のオバマ広島訪問・オバマ広島演説(*2)と対を成すもので、民主党政権で冷え切った日米関係の改善とともに、20世紀後半のパラダイムを変換する視点を提示するものであった。
安倍首相の真珠湾演説でのメッセージの主題は「和解の力」であり「寛容の心」である。
今回の国連演説に出てきた「慰藉の力」は語句こそ違えど、その理念は同じである。
安倍首相は国連演説で、「平和とはもちろん、当事者双方の努力が必要なのです」とガザのパレスチナ側だけではなく「当事者双方」に、この理念への理解を求めており、その先駆けとして、パレスチナからの教師留学の受入を表明している。
何故、教師留学なのかと言うと、教師は、教え子達に、新たな知識・視点を伝授することを使命とする人達だからである。少なくとも、従前とは違う視点、即ち、「慰藉の力」、「和解の力」、「寛容」がパレスチナの地で、新たに「選択肢」として加わることが期待できるからである。
最終的に物事を決めるのはパレスチナの人々自身である。それは民族自決の原則からは当然の事である。彼等の意向とは無関係に「これが善だ」として介入する西欧文明的なアプローチでは今まで解決してこなかったのだから、日本文明的なアプローチが行われることは意義深いことだと考える。
安倍首相の国連演説は、最後の段落で「日本外交の目的」は「世界と地域の未来を確実なものとするため」だと述べており、パレスチナの話に続き、我が国自身の若い世代への希望とその対応を述べ、改元の話、今後我が国で開催される各種の国際会議・スポーツイベントの話と続く。
この部分で例示されている各種国際会議はG20サミット、TICAD(アフリカ開発会議)である。プーチンとの日露会談や習近平との日中会談は「北東アジア地域の戦後構造を取除く」の部分で既にふれられている。
このうち、TICAD(アフリカ開発会議)に関しては、そこでUHC(Universal Health Coverage)(*3)を論じる旨を述べている。
UHCとは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことなのだが、これは貧困問題と大きく関係しているのだが、このプログラムの理念にも日本的理念が含まれている。
国際支援に関する日本的理念とは「施し」ではなく、自助努力に対する支援である。
以前にもちょっと触れた(*4)が、例えば、水不足な発展途上国への支援の場合、水や食料を支援する従来のやり方ではなく、井戸を掘る技術・井戸を保守・管理・運用する技術を支援するやり方である。
食糧難に陥っているのなら、「食糧を与える」との西欧文明的な「施し」の発想ではなく、灌漑設備や農業指導を行うというアプローチである。持続性、自存自立等の視点からは、この様なアプローチが望ましいと考える。
UHCの考え方には「治療」以外に「健康増進」、「予防」、「機能回復」が含まれていることが望ましい点だと考えている。
「病気になったから治療する」だけではなく、「健康増進」、「予防」での「病気にならないこと」での貧困化防止があり、また「治療したのだが病後に働けずに貧困化」してしまう状態からの脱却の為の「機能回復」が含まれている。
「健康増進」、「予防」は各人の努力・生活習慣に負うところが多いことはご存じのことだと思う。「施し」の発想一辺倒では「病気になったから治療する」、或いは「病後の収容施設」のみがハイライトされてしまい、持続性、自存自立の観点からは「解決すべき別の問題」が出てきてしまう。
安倍首相の国連演説は、最後に2点を述べている。
1つは我々日本と日本人が今後何をしていくのかの宣言であり、もう1つは、賞味期限切れとなった20世紀後半のパラダイムを色濃く引きずっている国連に対して、その変換をしていく旨の宣言である。
最後の2点の部分を以下に引用する。
<引用開始>
私たちの目は、未来を見続けます。
日本と日本の人々が未来に視線を据えるとき、日本は活力を増します。
未来を見つめる日本人は、SDGs(持続可能な開発目標)の力強い担い手となります。そんな次世代の日本の若人は、国連精神の旗手として立派に働いてくれるだろう。私の確信です。
最後に申し上げます。安保理改革が停滞する中、今世紀の世界における国連の意義は、いまや厳しく問われています。
けれどもだからこそ、日本は国連への貢献をやめません。グテーレス事務総長と共に、日本は安保理改革、国連改革に邁進(まいしん)することをお約束し、私の討論を終わりにします。ありがとうございました。
<引用終わり>
「今世紀の世界における国連の意義は、いまや厳しく問われています」との指摘を国連総会の場で表明することは天晴れである。
その上で、「日本は安保理改革、国連改革に邁進する」と宣言している。
これは20世紀後半のパラダイムを変換すると宣言なのであり、それは「戦後構造を取除く」ことそのものである。実に頼もしい演説である。
一方、「戦後構造からの利権」を得ている「(不当な)既得権益者」側からは、大きな反発が予想される。
知っての通り、そもそも「国連」とはUnited Nation=連合国のことである。
連合国とは、先の大戦の連合国である。
さきの大戦は、欧州地域と太平洋地域では意味合いが違うのだが、連合国側にとっては、フーバー元アメリカ大統領が指摘(*5)している様に、狂人大統領ルーズベルトによる、自己都合での「一体化したもの」であり、その様な違いは吹っ飛んでいる。
自分達戦勝国と敗戦国という単純な話になっているのであり、戦勝国クラブである「国連」は、正に先の大戦を色濃く引きずっている「20世紀後半のパラダイム」そのものである。
国連問題に関しては、指摘事項が多過ぎるので、今回は、これ以上は述べないが今年2018年の安倍首相の国連演説は、北朝鮮問題を世界中の問題だと国際社会を納得させた昨年2017年の演説(*6)と同様に我々日本人にとって素晴らしい内容である。
そのことを少しでも広めたいので紹介した次第である。
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【文末脚注】
(*1):2016年の年末に安倍首相は真珠湾を訪問しメッセージを発信している
2016/12/30投稿:
真珠湾・安倍演説1「和解の力」2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-574.html
2016/12/31投稿:
真珠湾・安倍演説2「和解の力」2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-575.html
【ご参考】
2017/01/03投稿:
真珠湾オバマ演説1・2016/12/28
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-576.html
2017/01/04投稿:
真珠湾オバマ演説2・2016/12/28Final
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-577.html
(*2):2016年5月のオバマ広島訪問・オバマ広島演説
※2016年の5月27日、伊勢志摩サミットで来日していた当時のアメリカ大統領オバマが、戦後、初めて広島を訪問した。その時のオバマの広島演説で、オバマは戦後レジュームの終焉を呼び掛けた。
2016/05/28投稿:
【コラム】2016年5月27日広島演説
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-424.html
2016/06/11投稿:
(資料編)オバマ広島演説・和訳
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-433.html
2016/06/13投稿:
【コラム】オバマ広島演説の分析1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-434.html
2016/06/17投稿:
【コラム】オバマ広島演説の分析2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-437.html
2016/06/18投稿:
【コラム】オバマ広島演説の分析3
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-438.html
2016/06/19投稿:
【コラム】オバマ広島演説の分析4
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-439.html
2016/06/21投稿:
【コラム】安倍首相広島スピーチ
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-441.html
(*3):UHC(Universal Health Coverage)
JICA HP ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
リンク切れ?
(*4):国際支援に関する日本的理念とは「施し」ではなく、自助努力に対する支援である。
2018/09/16投稿:
ダライ・ラマの正論「欧州は欧州人のもの」雑感
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-1015.html
(*5):フーバー元アメリカ大統領の指摘
タグ【フーバー回顧録】の一連の紹介
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-category-11.html
※「フーバー回顧録」とは通称である。
※本タグでの一連の紹介は、前半の「目次」を用いての全体像の概要紹介と後半の「Doc.18」=「第18文書」の紹介に大別される。第18文書は「7年間で19の失政」との題名がついており、フーバーは、ルーズベルト及びルーズベルトの死後に民主党政権を引き継いだ副大統領だったトルーマンの失政について述べているものである。
【ご参考】
2018/07/26投稿:
7月26日「今日は何の日」・ポツダム宣言
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-986.html
(*6):北朝鮮問題を世界中の問題だと国際社会を納得させた昨年2017年の演説
2017/09/21投稿:
安倍首相・国連演説
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-758.html
2017/09/26投稿:
安倍首相・国連演説2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-765.html
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