安倍首相・国連演説2018(前編)
- 2018/10/01
- 20:54
安倍首相・国連演説2018(前編)

副題:今年2018年の国連演説も我が国の立場を明確に述べ、法に基づく世界秩序の維持・継続・発展を述べたものとなっている。
アメリカ・ニューヨークの国連本部・総会にて、昨年に引き続き安倍首相が一般討論演説をした。現地時間2018年9月25日・日本時間26日のことである。
昨年の国連演説は、北朝鮮問題の本質(*1)を世界各国に丁寧に説明するもので、この事は以前の投稿(*2)でも取り上げた。
その後、国際社会は国連安保理での北朝鮮経済政策決議の採択、シンガポールでの米朝会談へと事態は進展し、北朝鮮問題の解決に大きく寄与するものであった。
今年の安倍首相の国連演説は、そういう国際社会の進捗を踏まえ、その先の事を述べている。一言で言えば、地球儀を敷衍するビジョンを示したものだと言える。
しかも、そのビジョンは単なる願望や夢や希望の述べているものではなく、そういうビジョンの基礎となる各要素・パーツは、既に、実績として具現化、或いは実現化途上にあるものであることの紹介を交えたものであった。
この様な、実現化する蓋然性が高いビジョンを我が国首相が国連総会で述べたことは、素晴らしい事なので、それを紹介すものである。
安倍首相の国連演説の動画及び全文は首相官邸HP(*3)で公開されているので、先ずは、それをご覧いただくことをお勧めする。本紹介記事は、それをベースに注目点をハイライトするものである。
Ⅰ.演説の全体構成と提示事項概要
今回2018年の国連演説は、上記した様に、地球儀を敷衍するビジョンを示したものであり、その内容は多岐にわたる。
安倍首相の国連演説の文字起こし文も、それなりに長文になっており、長文を読むのが苦手な方もいると思うので、同演説に「見出し(片括弧)」を付し、その「概要(・を付した)」を示すことにした。
以下に、同演説の内容毎に当方が勝手に付けた「見出し」と「概要」をご覧いただきたい。
1)冒頭挨拶
・総裁選の勝利を受け、今後3年「日本の舵取りを続ける」旨を宣言
2)自由貿易体制の維持・継続・発展
・戦後日本の発展の原動力は自由貿易体制
・自由貿易体制=国際経済システムはルールに基づき自由でオープンなもの
・アジア地域の発展の背景も自由貿易体制
・自由貿易体制推進・WinWin関係で
(TPP11及び日EU・EPAの締結実績)
(WTOへのコミットの再確認)
(アジアRCWP、対米FFRの推進)
3)北東アジア地域の戦後構造を取除く
・領土問題を解決してロシアとの平和条約を締結する
・北朝鮮問題その1:拉致、核・ミサイル問題の解決
・北朝鮮問題その2:解決後には「明るい未来」がある
・日中関係(次項「自由で開かれたインド・太平洋戦略」の枕)
4)自由で開かれたインド・太平洋戦略
・地球儀を敷衍する地政学的視点の提示
・同戦略でのASEAN諸国の位置付け
・同戦略のバックボーンとして日米豪印ダイヤモンド構想に言及
・海洋秩序は制度に裏打ちされた法とルールの支配
・関連国へのサポート(留学生受入)紹介(次項の枕)
5)日本外交の目的の紹介「世界と地域の未来を確実なものとするために」
・(前項からの続きとして)中東パレスチナからの教師留学の受入
・日本の若い世代への希望(未来を生きる)
・我が国での改元の紹介(新生代の始まり)
・2019年6月にG20サミットを日本で開催することの紹介
・同8月・TICAD開催
・2019年ラグビーWC・2020年東京五輪開催
・安保理改革・国連改革を進める
要約の為の見出し・概要は以上である。
全体の流れが大まかに把握できれば良いと思う。
演説の全体の特徴の1つとして、前段の話が後段へとつながるのと同時に、後段の話が実は前段の話の一部だったりと連関しており、演説全体を通じての整合性を保ちながら織りなすカノンやロンドの様な演説になっている。
以前から、安倍首相には凄腕ライターのスタッフ・ブレーンにいるのであろうと推察しているが、今回も見事だったと思う。
Ⅱ.個別注目点
1.冒頭挨拶部分
冒頭部分は短いので、先ずは、その部分の総てを以下に引用する。
<引用開始>
①議長、御列席の皆様、向こう3年、日本の舵取りを続けることとなった私は、連続6度目となります本討論に、思いを新たに臨みます。
○今からの3年、私は、自由貿易体制の強化に向け、努力を惜しみません。北東アジアから戦後構造を取り除くために、労を厭(いと)いません。
<引用終わり>
安倍主層は、冒頭で、先の総裁選の勝利を受け、今後3年「日本の舵取りを続ける」旨を宣言している。
民主主義国家の政治首脳が、国政選挙での国民の審判を受けることや地位継続の最長規定があることから、その様な民主主義手続きとは無縁の独裁国家等の非民主主義国からは、この「有期制」を悪用され、「どうせ○○年後には代わる」との長期戦・遷延策を仕掛けられ、一種の弱みと看做されることがある。
取り分け、以前の我が国は、「1年で首相が変わる」と言われていた時期があり、見くびられていた時期があった。
ところが安倍首相は、既に6年の実績を持ち、その実績及び政権の継続性から、外交の世界では侮れない存在となっているのである。その安倍首相が、「オイラの任期は民主主義手続きに則り、正統性を以て、あと3年あるから」と宣言したのは、非民主主義国の北朝鮮・金正恩、中国・習近平に対するジャブの意味があると推定している。
尚、今年2018年5月に再度大統領選挙に勝ったプーチンの任期は2024年である。
その上で、安倍首相は、この冒頭部分で「自由貿易体制の強化」と「北東アジアから戦後構造を取り除く」との2大テーマをいきなり提示している。
最初の「自由貿易体制の強化」については、以前からずっと継続して述べていることであるが、この時期に、最初にこれを言ったのは、中間選挙を間近に控えたトランプ大統領の最近の「ちょっと行き過ぎた発言」に対して「トランプ大統領でも反対できない理念」で釘を刺したものだと思われる。
一方、もう1つの「北東アジアから戦後構造を取り除く」は、今回初出のスローガンである。以前から、同様主旨の「戦後政治の総決算」とか「日本をトリモロス」とかのことを安倍首相は言っていたのだが、それを、この様な表現で述べたことを、いままで当方は見たことも聞いたこともない。
「北東アジアから戦後構造を取り除く」は、「北東アジア」という地域的範囲が明示されていること、「戦後構造」という語句で、所謂「ヤルタ・ポツダム体制」の終焉を目指すことを述べており、これは、画期的である。
それを戦後構造の権化の様な戦勝国クラブ国連の総会で言うとはアッパレである。
演説の後段で「北東アジア」地域に関して述べている部分があるが、そこに登場する国名は、ロシア、北朝鮮、中国の3ヶ国である。
韓国との国名は、この演説には出てこない。最後まで登場しない。
また、演説の最後に安倍首相は、安保理改革・国連改革を述べており、発句と挙句の主旨が同じというロンドを奏でている。
2.自由貿易体制の維持・継続・発展
安倍首相の演説は次に、冒頭部分で提示された2大テーマのうちの最初の「自由貿易体制の強化」について述べている。
「自由貿易体制の強化」に関する部分で安倍首相は最初に戦後日本の発展の原動力は自由貿易体制があったからと述べ、「自由貿易体制は、アジア諸国を順次離陸させ、各国に中産階級を育てました」との事実を述べている。
その上で、それらは「国際経済システムが、ルールに基づき、自由でオープンなものだったおかげです。」と述べ、自由貿易体制の有益性を、実例を以て述べているのである。
この様な戦後我が国の歩みという事実を、以下の様に述べ、我が国は自由貿易体制の維持・継続・発展をしていくと宣言している。
<引用開始>
このシステムに最も恩恵を受けた国・日本が、その保全と強化のため立たずして、他の誰が立つのを待てというのでしょう。日本の責任は、重大です。
それは、日本の歴史に根差した使命でもあります。
日本には、近代日本の産業化を支えた石炭のほか、めぼしい資源はありませんでした。しかし戦後の日本は、貿易の恵みに身をゆだねたところ、資源が乏しくても、奇跡といわれた成長を実現できたのです。
貿易と成長の間の、今や常識と化した法則を、最初に身をもって証明した国が日本です。日本は、貿易の恵みを、世界に及ぼす使命を負っています。
<引用終わり>
この様な、自由貿易体制の維持・継続・発展をしていくとの宣言の中で、気になった部分がある。
その部分とは、「それは、日本の歴史に根差した使命でもあります。」である。
「日本の歴史に根差した使命」とは何か。
それが分かる方は「戦後「民主主義」教育」の毒素に対して解毒済の方である。
安倍首相は以前から「日本の歴史に根差した使命」を認識しており、それは2015年8月14日に発表した「戦後70周年談話」(*4)の中にも見られるものである。
同談話は、「我が国が戦争に至った経緯」と「我が国の戦後の歩み」と「我が国の姿勢」が述べられており、そのコンテキストをお読みいただければ、今回の「日本の歴史に根差した使命」が浮かび上がってくる。そのキーワードは、「欧米植民地主義」、「民族自決」、「ブロック経済化」などとであり、「我が国の姿勢」として示されているのは、以下の様に、自由貿易体制の推進、WinWin関係での支援による各国の自存自立である。
我が国のODAが始まったのは1960年代の初期である。我が国が、まだまだ豊だとは言えない時代から、既にODAによる支援が始まったのは、そういうアジア解放の文脈からなのである。
<「戦後70周年談話」の結語部分の抜粋引用>
(前略)経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去(中略)。だからこそ、我が国は、いかなる国の恣意にも左右されない、自由で、公正で、開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります。(後略)
<抜粋引用終わり>
現在、自由貿易体制を脅かしているのは中国である。
その事は貿易の事を少しは知っている方なら、皆もが知っている事だが、我が国偏向マスコミは、そういう事を報道しない。
我が国偏向マスコミが「報道」するのは、トランプの報復関税の話ばかりである。
実際のところ、トランプの報復関税の話のコンテキストは中国の不公正なる貿易体制にあるのだが、そういう「話の出発点」が示されることはあまりない。
確かに「自由で、公正で、開かれた国際経済システム」という視点からは、トランプもやり過ぎであるのだが、別の言い方をすれば「トランプだけを非難する問題ではない」のである。
そういう点からは、今回の安倍首相の国連演説で「自由貿易体制の維持・継続・発展」を最初に掲げたことは適切な判断だと考える。
また、同演説では、具体例として、TPP11と日EU・EPAの締結実績を述べ、WTOへのコミットの再確認を述べ、今後のアジアRCEPの推進、対米FFRの推進を述べている。
演説に「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)」が出てきたことが気に入らない方もいると思う。RCEPとは中国、韓国を含む16ヶ国FTAであり、特定アジア諸国を相手にFTAを締結することは「無駄」、「悪用されるだけ」と考える方もいると思うが、思い出していただきたいのは、オバマが菅直人を相手に加入を迫ったTPPは、その交渉の過程で甘利氏が頑張り、当初の「アメリカだけがお得になるTPP」から、今や「トランプが「アメリカに不利」だとして加入を拒んでいる本来的自由貿易協定のTPP」になっているのである。
RCEPも同様の様相になると考える方が自然である。
<長くなったので項を分けます>
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【文末脚注】
(*1):北朝鮮問題の本質
2017/04/17投稿:
北朝鮮との「対話」がもたらした結果が今1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-649.html
2017/04/18投稿:
続・北朝鮮との「対話」がもたらした結果が今2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-650.html
(*2):昨年2017年9月の国連総会演説考
2017/09/21投稿:
安倍首相・国連演説
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-758.html
2017/09/26投稿:
安倍首相・国連演説2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-765.html
(*3):2018年国連総会・安倍首相演説
首相官邸HP 平成30年9月25日(日付はニューヨーク現地時間)
見出し:◆第73回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/0925enzetsu.html
記事:○議長、御列席の皆様、向こう3年、日本の舵取りを続けることとなった私は、連続6度目となります本討論に、思いを新たに臨みます。
○今からの3年、私は、自由貿易体制の強化に向け、努力を惜しみません。北東アジアから戦後構造を取り除くために、労を厭(いと)いません。
○思いますに、日本国民は、自国の指導者に対し、自由貿易の旗手として立つことを切望しておりました。なぜなら日本自身、戦後、自由で開放された経済体制の申し子として、貿易の利益に浴し、目覚ましく成長した国だったからです。
○自由貿易体制は、アジア諸国を順次離陸させ、各国に中産階級を育てました。背後には、1980年代以降、日本からこれら諸国に向かった大規模な直接投資がありました。皆、国際経済システムが、ルールに基づき、自由でオープンなものだったおかげです。
○このシステムに最も恩恵を受けた国、日本が、その保全と強化のため、立たずして他の誰が立つのを待てというのでしょう。日本の責任は重大です。それは、日本の歴史に根差した使命でもあります。
○日本には、近代日本の産業化を支えた石炭のほか、めぼしい資源はありませんでした。しかし戦後の日本は、貿易の恵みに身を委ねたところ、資源が乏しくても、奇跡と言われた成長を実現できたのです。
○貿易と成長の間の、いまや常識と化した法則を、最初に身をもって証明した国が日本です。日本は、貿易の恵みを、世界に及ぼす使命を負っています。
○私は、時に国内の激しい議論を乗り越えて、自由貿易の旗を振りました。TPP(環太平洋パートナーシップ)11が成り、日本が国会でいち早くこれを承認できたことは、私にとって無上の喜びです。また世界史に特筆される規模と範囲の、日EU・EPA(経済連携協定)も成立させました。
○とはいえ、満足してなどいられません。私は自らにドライブをかけ、更に遠方を目指します。
○WTO(世界貿易機関)へのコミットメントはもちろん、東アジアに巨大な自由貿易圏を生むRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉に、私は全力を注ぎます
○そして何よりも、米国との新貿易協議、いわゆるFFRを重んじます。
○日米両国は、長年、世界の中で自由貿易体制を引っ張ってきました。その成熟の帰結として、日本が米国に対し行ってきた直接投資は、英国に次いで多い、85万6,000人の雇用を全米各州に生み出しました。
○いまや日本から米国に輸出される自動車が174万台なのに対し、米国国内で生産される日本車は、377万台です。
○これこそウィン・ウィン。そんな関係を、私は日米の間で続けていきたいと思っています。
○米国とだけではありません。日本は自由貿易の旗の下、どの国、どの地域とも、互いが、互いの力になる関係を築いてまいりました。これからも、そうしていきましょう。
○アジア・太平洋からインド洋に至る広い地域に、今世紀にふさわしい自由で公正な経済のルールを広げるには、システムをつくり、またそこから多大の恩恵を受けてきた国が、すなわち日本のような国こそが、これを主導しなくてはならない。私の、信念であります。
○私は先刻、北東アジアから積年の戦後構造を取り除くため、労を厭わないと申しました。
○私は今、ウラジーミル・プーチン大統領と共に、70年以上動かなかった膠着を動かそうとしています。
○大統領と私は今月の初め、ウラジオストクで会いました。通算22度目となる会談でした。近々、また会います。両国の間に横たわる領土問題を解決し、日露の間に、平和条約を結ばなくてはなりません。日露の平和条約が成ってこそ、北東アジアの平和と繁栄は、より確かな礎を得るのです。
○皆様、昨年この場所から、拉致、核・ミサイルの解決を北朝鮮に強く促し、国連安保理決議の完全な履行を訴えた私は、北朝鮮の変化に最大の関心を抱いています。
○いまや北朝鮮は、歴史的好機を、つかめるか、否かの岐路にある。手付かずの天然資源と、大きく生産性を伸ばし得る労働力が、北朝鮮にはあります。
○拉致、核・ミサイル問題の解決の先に、不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す日本の方針は変わりません。私たちは北朝鮮が持つ潜在性を解き放つため、助力を惜しまないでしょう。
○ただし幾度でも言わなくてはなりません。全ての拉致被害者の帰国を実現する。私は、そう決意しています。
○拉致問題を解決するため、私も、北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接向き合う用意があります。今決まっていることは、まだ何もありませんが、実施する以上、拉致問題の解決に資する会談にしなければならないと決意しています。
○日中関係についても一言させてください。本年始まった首脳間の往来は、来月、私が訪中し、その後には習近平国家主席を日本にお招きし、といった形で継続し、両国関係に、そしてこの地域に、決定的な安定の軸を加えていくでしょう。
○北東アジアから対立構造を除いた時、北極海から日本海、太平洋、インド洋へと抜ける海の回廊は、一層重みを増していきます。
○真上に位置し、広いEEZ(排他的経済水域)を持つ日本は、この海域と、またその上の空域が安全で平和であることを望みます。
○太平洋とインド洋、2つの海の交わりに、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国があります。かつて両洋を越え遠くアフリカに物産を伝えたのは、今で言う太平洋島しょ国の先達(せんだつ)でした。
○私が自由で開かれたインド太平洋戦略を言いますのは、まさしくこれらの国々、また米国や豪州、インドなど、思いを共有する全ての国、人々と共に、開かれた、海の恵みを守りたいからです。
○洋々たる空間を支配するのは、制度に裏打ちされた法とルールの支配でなくてはなりません。そう、固く信じるがゆえにであります。
○先日、マレーシア、フィリピン、スリランカから日本に来た留学生たちが、学位を得て誇らしげに帰国していきました。学位とは、日本でしか取れない修士号です。海上保安政策の修士号。目指して学ぶのは、日本の海上保安庁が送り出す学生に加え、アジア各国海上保安当局の幹部諸君で、先日卒業したのはその第3期生でした。
○海洋秩序とは、力ではなく法とルールの支配である。そんな不変の真理を学び、人生の指針とするクラスが、毎年日本から海に巣立ちます。実に頼もしい。自由でオープンなインド・太平洋の守り手の育成こそは、日本の崇高な使命なのです。
○さて皆様、本演説の準備に当たり、私はささやかな、新しいプログラムをつくりました。来年初め、ガザ地区から約10人、小中学校の先生を日本に招きます。これを第一陣として、毎年続けます。日本という異なる文化、歴史に身を置く教師たちは、ガザと中東を広い視野に置き、自分たちのことを見つめ直すでしょう。それは独特の、慰藉(いしゃ)の力を彼らに及ぼすのではないでしょうか。
○平和とはもちろん、当事者双方の努力が必要なのです。それでも願わくば、私たちのこのプログラムが、ガザの教師と子供たちに、希望のよすがを与えてくれたら。
○20年たつと、訪日経験を持つ先生は200人になる。彼らに教えを受けた生徒の数は数千人に達するでしょう。その日を待望いたします。
○本日、一端を述べてまいりました日本外交の目的とは、世界と地域の未来を、確実なものとすることです。さらにその上で、私が願いますのは、日本の未来を生きる若人たちが、たくましくも、チャレンジに立ち向かってくれることです。それをやりやすい環境を生み出すことが、私たち世代の務めです。
○あたかも日本には今、新しい風が吹こうとしています。来年4月末から5月初めにかけ、天皇陛下が退位され、皇太子殿下が即位されます。今上陛下の御退位に伴う御代(おだい)替わりは、実に200年ぶり。10月には、お祝いくださる賓客を世界からお迎えします。
○来年6月、日本はG20サミットを開きます。世界経済の在り方や環境問題など、国際社会が直面する課題についての議論を、私は議長として引っ張るつもりです。
○続けて8月、我々はTICAD(アフリカ開発会議)を開きます。1993年以来、日本が孜々(しし)として続け、アフリカ各国指導者から不動の信頼を得た会議の第7回です。例えば私自身幾度も重要性を説いてきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を、論じ合いましょう。
○お忘れなきよう。来年日本はラグビー・ワールドカップを開き、2020年には、東京がオリンピックとパラリンピックを開きます。私たちの目は、未来を見続けます。
○日本と日本の人々が未来に視線を据えるとき、日本は活力を増します。未来を見つめる日本人は、SDGs(持続可能な開発目標)の力強い担い手となります。そんな次世代の日本の若人は、国連精神の旗手として立派に働いてくれるだろう。私の確信です。
○最後に申し上げます。安保理改革が停滞する中、今世紀の世界における国連の意義は、いまや厳しく問われています。けれどもだからこそ、日本は国連への貢献をやめません。グテーレス事務総長と共に、日本は安保理改革、国連改革に邁進(まいしん)することをお約束し、私の討論を終わりにします。ありがとうございました。
<引用終わり>
(*4):安倍首相は以前から「日本の歴史に根差した使命」を認識しており、それは2015年8月14日に発表した「戦後70周年談話」の中にも見られるものである。
首相官邸HP 平成27年(2015年)8月14日
内閣総理大臣談話
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html
<同談話からの抜粋引用>
○百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。(後略)
○民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。
○世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。
○植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。○私たちは、経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる国の恣意にも左右されない、自由で、公正で、開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります。
<抜粋引用終わり>
【ご参考】
2015/08/18投稿:
【コラム】安倍談話を読む2-1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-190.html
2015/08/19投稿:
【コラム】安倍談話を読む2-2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-191.html
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副題:今年2018年の国連演説も我が国の立場を明確に述べ、法に基づく世界秩序の維持・継続・発展を述べたものとなっている。
アメリカ・ニューヨークの国連本部・総会にて、昨年に引き続き安倍首相が一般討論演説をした。現地時間2018年9月25日・日本時間26日のことである。
昨年の国連演説は、北朝鮮問題の本質(*1)を世界各国に丁寧に説明するもので、この事は以前の投稿(*2)でも取り上げた。
その後、国際社会は国連安保理での北朝鮮経済政策決議の採択、シンガポールでの米朝会談へと事態は進展し、北朝鮮問題の解決に大きく寄与するものであった。
今年の安倍首相の国連演説は、そういう国際社会の進捗を踏まえ、その先の事を述べている。一言で言えば、地球儀を敷衍するビジョンを示したものだと言える。
しかも、そのビジョンは単なる願望や夢や希望の述べているものではなく、そういうビジョンの基礎となる各要素・パーツは、既に、実績として具現化、或いは実現化途上にあるものであることの紹介を交えたものであった。
この様な、実現化する蓋然性が高いビジョンを我が国首相が国連総会で述べたことは、素晴らしい事なので、それを紹介すものである。
安倍首相の国連演説の動画及び全文は首相官邸HP(*3)で公開されているので、先ずは、それをご覧いただくことをお勧めする。本紹介記事は、それをベースに注目点をハイライトするものである。
Ⅰ.演説の全体構成と提示事項概要
今回2018年の国連演説は、上記した様に、地球儀を敷衍するビジョンを示したものであり、その内容は多岐にわたる。
安倍首相の国連演説の文字起こし文も、それなりに長文になっており、長文を読むのが苦手な方もいると思うので、同演説に「見出し(片括弧)」を付し、その「概要(・を付した)」を示すことにした。
以下に、同演説の内容毎に当方が勝手に付けた「見出し」と「概要」をご覧いただきたい。
1)冒頭挨拶
・総裁選の勝利を受け、今後3年「日本の舵取りを続ける」旨を宣言
2)自由貿易体制の維持・継続・発展
・戦後日本の発展の原動力は自由貿易体制
・自由貿易体制=国際経済システムはルールに基づき自由でオープンなもの
・アジア地域の発展の背景も自由貿易体制
・自由貿易体制推進・WinWin関係で
(TPP11及び日EU・EPAの締結実績)
(WTOへのコミットの再確認)
(アジアRCWP、対米FFRの推進)
3)北東アジア地域の戦後構造を取除く
・領土問題を解決してロシアとの平和条約を締結する
・北朝鮮問題その1:拉致、核・ミサイル問題の解決
・北朝鮮問題その2:解決後には「明るい未来」がある
・日中関係(次項「自由で開かれたインド・太平洋戦略」の枕)
4)自由で開かれたインド・太平洋戦略
・地球儀を敷衍する地政学的視点の提示
・同戦略でのASEAN諸国の位置付け
・同戦略のバックボーンとして日米豪印ダイヤモンド構想に言及
・海洋秩序は制度に裏打ちされた法とルールの支配
・関連国へのサポート(留学生受入)紹介(次項の枕)
5)日本外交の目的の紹介「世界と地域の未来を確実なものとするために」
・(前項からの続きとして)中東パレスチナからの教師留学の受入
・日本の若い世代への希望(未来を生きる)
・我が国での改元の紹介(新生代の始まり)
・2019年6月にG20サミットを日本で開催することの紹介
・同8月・TICAD開催
・2019年ラグビーWC・2020年東京五輪開催
・安保理改革・国連改革を進める
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演説の全体の特徴の1つとして、前段の話が後段へとつながるのと同時に、後段の話が実は前段の話の一部だったりと連関しており、演説全体を通じての整合性を保ちながら織りなすカノンやロンドの様な演説になっている。
以前から、安倍首相には凄腕ライターのスタッフ・ブレーンにいるのであろうと推察しているが、今回も見事だったと思う。
Ⅱ.個別注目点
1.冒頭挨拶部分
冒頭部分は短いので、先ずは、その部分の総てを以下に引用する。
<引用開始>
①議長、御列席の皆様、向こう3年、日本の舵取りを続けることとなった私は、連続6度目となります本討論に、思いを新たに臨みます。
○今からの3年、私は、自由貿易体制の強化に向け、努力を惜しみません。北東アジアから戦後構造を取り除くために、労を厭(いと)いません。
<引用終わり>
安倍主層は、冒頭で、先の総裁選の勝利を受け、今後3年「日本の舵取りを続ける」旨を宣言している。
民主主義国家の政治首脳が、国政選挙での国民の審判を受けることや地位継続の最長規定があることから、その様な民主主義手続きとは無縁の独裁国家等の非民主主義国からは、この「有期制」を悪用され、「どうせ○○年後には代わる」との長期戦・遷延策を仕掛けられ、一種の弱みと看做されることがある。
取り分け、以前の我が国は、「1年で首相が変わる」と言われていた時期があり、見くびられていた時期があった。
ところが安倍首相は、既に6年の実績を持ち、その実績及び政権の継続性から、外交の世界では侮れない存在となっているのである。その安倍首相が、「オイラの任期は民主主義手続きに則り、正統性を以て、あと3年あるから」と宣言したのは、非民主主義国の北朝鮮・金正恩、中国・習近平に対するジャブの意味があると推定している。
尚、今年2018年5月に再度大統領選挙に勝ったプーチンの任期は2024年である。
その上で、安倍首相は、この冒頭部分で「自由貿易体制の強化」と「北東アジアから戦後構造を取り除く」との2大テーマをいきなり提示している。
最初の「自由貿易体制の強化」については、以前からずっと継続して述べていることであるが、この時期に、最初にこれを言ったのは、中間選挙を間近に控えたトランプ大統領の最近の「ちょっと行き過ぎた発言」に対して「トランプ大統領でも反対できない理念」で釘を刺したものだと思われる。
一方、もう1つの「北東アジアから戦後構造を取り除く」は、今回初出のスローガンである。以前から、同様主旨の「戦後政治の総決算」とか「日本をトリモロス」とかのことを安倍首相は言っていたのだが、それを、この様な表現で述べたことを、いままで当方は見たことも聞いたこともない。
「北東アジアから戦後構造を取り除く」は、「北東アジア」という地域的範囲が明示されていること、「戦後構造」という語句で、所謂「ヤルタ・ポツダム体制」の終焉を目指すことを述べており、これは、画期的である。
それを戦後構造の権化の様な戦勝国クラブ国連の総会で言うとはアッパレである。
演説の後段で「北東アジア」地域に関して述べている部分があるが、そこに登場する国名は、ロシア、北朝鮮、中国の3ヶ国である。
韓国との国名は、この演説には出てこない。最後まで登場しない。
また、演説の最後に安倍首相は、安保理改革・国連改革を述べており、発句と挙句の主旨が同じというロンドを奏でている。
2.自由貿易体制の維持・継続・発展
安倍首相の演説は次に、冒頭部分で提示された2大テーマのうちの最初の「自由貿易体制の強化」について述べている。
「自由貿易体制の強化」に関する部分で安倍首相は最初に戦後日本の発展の原動力は自由貿易体制があったからと述べ、「自由貿易体制は、アジア諸国を順次離陸させ、各国に中産階級を育てました」との事実を述べている。
その上で、それらは「国際経済システムが、ルールに基づき、自由でオープンなものだったおかげです。」と述べ、自由貿易体制の有益性を、実例を以て述べているのである。
この様な戦後我が国の歩みという事実を、以下の様に述べ、我が国は自由貿易体制の維持・継続・発展をしていくと宣言している。
<引用開始>
このシステムに最も恩恵を受けた国・日本が、その保全と強化のため立たずして、他の誰が立つのを待てというのでしょう。日本の責任は、重大です。
それは、日本の歴史に根差した使命でもあります。
日本には、近代日本の産業化を支えた石炭のほか、めぼしい資源はありませんでした。しかし戦後の日本は、貿易の恵みに身をゆだねたところ、資源が乏しくても、奇跡といわれた成長を実現できたのです。
貿易と成長の間の、今や常識と化した法則を、最初に身をもって証明した国が日本です。日本は、貿易の恵みを、世界に及ぼす使命を負っています。
<引用終わり>
この様な、自由貿易体制の維持・継続・発展をしていくとの宣言の中で、気になった部分がある。
その部分とは、「それは、日本の歴史に根差した使命でもあります。」である。
「日本の歴史に根差した使命」とは何か。
それが分かる方は「戦後「民主主義」教育」の毒素に対して解毒済の方である。
安倍首相は以前から「日本の歴史に根差した使命」を認識しており、それは2015年8月14日に発表した「戦後70周年談話」(*4)の中にも見られるものである。
同談話は、「我が国が戦争に至った経緯」と「我が国の戦後の歩み」と「我が国の姿勢」が述べられており、そのコンテキストをお読みいただければ、今回の「日本の歴史に根差した使命」が浮かび上がってくる。そのキーワードは、「欧米植民地主義」、「民族自決」、「ブロック経済化」などとであり、「我が国の姿勢」として示されているのは、以下の様に、自由貿易体制の推進、WinWin関係での支援による各国の自存自立である。
我が国のODAが始まったのは1960年代の初期である。我が国が、まだまだ豊だとは言えない時代から、既にODAによる支援が始まったのは、そういうアジア解放の文脈からなのである。
<「戦後70周年談話」の結語部分の抜粋引用>
(前略)経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去(中略)。だからこそ、我が国は、いかなる国の恣意にも左右されない、自由で、公正で、開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります。(後略)
<抜粋引用終わり>
現在、自由貿易体制を脅かしているのは中国である。
その事は貿易の事を少しは知っている方なら、皆もが知っている事だが、我が国偏向マスコミは、そういう事を報道しない。
我が国偏向マスコミが「報道」するのは、トランプの報復関税の話ばかりである。
実際のところ、トランプの報復関税の話のコンテキストは中国の不公正なる貿易体制にあるのだが、そういう「話の出発点」が示されることはあまりない。
確かに「自由で、公正で、開かれた国際経済システム」という視点からは、トランプもやり過ぎであるのだが、別の言い方をすれば「トランプだけを非難する問題ではない」のである。
そういう点からは、今回の安倍首相の国連演説で「自由貿易体制の維持・継続・発展」を最初に掲げたことは適切な判断だと考える。
また、同演説では、具体例として、TPP11と日EU・EPAの締結実績を述べ、WTOへのコミットの再確認を述べ、今後のアジアRCEPの推進、対米FFRの推進を述べている。
演説に「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)」が出てきたことが気に入らない方もいると思う。RCEPとは中国、韓国を含む16ヶ国FTAであり、特定アジア諸国を相手にFTAを締結することは「無駄」、「悪用されるだけ」と考える方もいると思うが、思い出していただきたいのは、オバマが菅直人を相手に加入を迫ったTPPは、その交渉の過程で甘利氏が頑張り、当初の「アメリカだけがお得になるTPP」から、今や「トランプが「アメリカに不利」だとして加入を拒んでいる本来的自由貿易協定のTPP」になっているのである。
RCEPも同様の様相になると考える方が自然である。
<長くなったので項を分けます>
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【文末脚注】
(*1):北朝鮮問題の本質
2017/04/17投稿:
北朝鮮との「対話」がもたらした結果が今1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-649.html
2017/04/18投稿:
続・北朝鮮との「対話」がもたらした結果が今2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-650.html
(*2):昨年2017年9月の国連総会演説考
2017/09/21投稿:
安倍首相・国連演説
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-758.html
2017/09/26投稿:
安倍首相・国連演説2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-765.html
(*3):2018年国連総会・安倍首相演説
首相官邸HP 平成30年9月25日(日付はニューヨーク現地時間)
見出し:◆第73回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/0925enzetsu.html
記事:○議長、御列席の皆様、向こう3年、日本の舵取りを続けることとなった私は、連続6度目となります本討論に、思いを新たに臨みます。
○今からの3年、私は、自由貿易体制の強化に向け、努力を惜しみません。北東アジアから戦後構造を取り除くために、労を厭(いと)いません。
○思いますに、日本国民は、自国の指導者に対し、自由貿易の旗手として立つことを切望しておりました。なぜなら日本自身、戦後、自由で開放された経済体制の申し子として、貿易の利益に浴し、目覚ましく成長した国だったからです。
○自由貿易体制は、アジア諸国を順次離陸させ、各国に中産階級を育てました。背後には、1980年代以降、日本からこれら諸国に向かった大規模な直接投資がありました。皆、国際経済システムが、ルールに基づき、自由でオープンなものだったおかげです。
○このシステムに最も恩恵を受けた国、日本が、その保全と強化のため、立たずして他の誰が立つのを待てというのでしょう。日本の責任は重大です。それは、日本の歴史に根差した使命でもあります。
○日本には、近代日本の産業化を支えた石炭のほか、めぼしい資源はありませんでした。しかし戦後の日本は、貿易の恵みに身を委ねたところ、資源が乏しくても、奇跡と言われた成長を実現できたのです。
○貿易と成長の間の、いまや常識と化した法則を、最初に身をもって証明した国が日本です。日本は、貿易の恵みを、世界に及ぼす使命を負っています。
○私は、時に国内の激しい議論を乗り越えて、自由貿易の旗を振りました。TPP(環太平洋パートナーシップ)11が成り、日本が国会でいち早くこれを承認できたことは、私にとって無上の喜びです。また世界史に特筆される規模と範囲の、日EU・EPA(経済連携協定)も成立させました。
○とはいえ、満足してなどいられません。私は自らにドライブをかけ、更に遠方を目指します。
○WTO(世界貿易機関)へのコミットメントはもちろん、東アジアに巨大な自由貿易圏を生むRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉に、私は全力を注ぎます
○そして何よりも、米国との新貿易協議、いわゆるFFRを重んじます。
○日米両国は、長年、世界の中で自由貿易体制を引っ張ってきました。その成熟の帰結として、日本が米国に対し行ってきた直接投資は、英国に次いで多い、85万6,000人の雇用を全米各州に生み出しました。
○いまや日本から米国に輸出される自動車が174万台なのに対し、米国国内で生産される日本車は、377万台です。
○これこそウィン・ウィン。そんな関係を、私は日米の間で続けていきたいと思っています。
○米国とだけではありません。日本は自由貿易の旗の下、どの国、どの地域とも、互いが、互いの力になる関係を築いてまいりました。これからも、そうしていきましょう。
○アジア・太平洋からインド洋に至る広い地域に、今世紀にふさわしい自由で公正な経済のルールを広げるには、システムをつくり、またそこから多大の恩恵を受けてきた国が、すなわち日本のような国こそが、これを主導しなくてはならない。私の、信念であります。
○私は先刻、北東アジアから積年の戦後構造を取り除くため、労を厭わないと申しました。
○私は今、ウラジーミル・プーチン大統領と共に、70年以上動かなかった膠着を動かそうとしています。
○大統領と私は今月の初め、ウラジオストクで会いました。通算22度目となる会談でした。近々、また会います。両国の間に横たわる領土問題を解決し、日露の間に、平和条約を結ばなくてはなりません。日露の平和条約が成ってこそ、北東アジアの平和と繁栄は、より確かな礎を得るのです。
○皆様、昨年この場所から、拉致、核・ミサイルの解決を北朝鮮に強く促し、国連安保理決議の完全な履行を訴えた私は、北朝鮮の変化に最大の関心を抱いています。
○いまや北朝鮮は、歴史的好機を、つかめるか、否かの岐路にある。手付かずの天然資源と、大きく生産性を伸ばし得る労働力が、北朝鮮にはあります。
○拉致、核・ミサイル問題の解決の先に、不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す日本の方針は変わりません。私たちは北朝鮮が持つ潜在性を解き放つため、助力を惜しまないでしょう。
○ただし幾度でも言わなくてはなりません。全ての拉致被害者の帰国を実現する。私は、そう決意しています。
○拉致問題を解決するため、私も、北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接向き合う用意があります。今決まっていることは、まだ何もありませんが、実施する以上、拉致問題の解決に資する会談にしなければならないと決意しています。
○日中関係についても一言させてください。本年始まった首脳間の往来は、来月、私が訪中し、その後には習近平国家主席を日本にお招きし、といった形で継続し、両国関係に、そしてこの地域に、決定的な安定の軸を加えていくでしょう。
○北東アジアから対立構造を除いた時、北極海から日本海、太平洋、インド洋へと抜ける海の回廊は、一層重みを増していきます。
○真上に位置し、広いEEZ(排他的経済水域)を持つ日本は、この海域と、またその上の空域が安全で平和であることを望みます。
○太平洋とインド洋、2つの海の交わりに、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国があります。かつて両洋を越え遠くアフリカに物産を伝えたのは、今で言う太平洋島しょ国の先達(せんだつ)でした。
○私が自由で開かれたインド太平洋戦略を言いますのは、まさしくこれらの国々、また米国や豪州、インドなど、思いを共有する全ての国、人々と共に、開かれた、海の恵みを守りたいからです。
○洋々たる空間を支配するのは、制度に裏打ちされた法とルールの支配でなくてはなりません。そう、固く信じるがゆえにであります。
○先日、マレーシア、フィリピン、スリランカから日本に来た留学生たちが、学位を得て誇らしげに帰国していきました。学位とは、日本でしか取れない修士号です。海上保安政策の修士号。目指して学ぶのは、日本の海上保安庁が送り出す学生に加え、アジア各国海上保安当局の幹部諸君で、先日卒業したのはその第3期生でした。
○海洋秩序とは、力ではなく法とルールの支配である。そんな不変の真理を学び、人生の指針とするクラスが、毎年日本から海に巣立ちます。実に頼もしい。自由でオープンなインド・太平洋の守り手の育成こそは、日本の崇高な使命なのです。
○さて皆様、本演説の準備に当たり、私はささやかな、新しいプログラムをつくりました。来年初め、ガザ地区から約10人、小中学校の先生を日本に招きます。これを第一陣として、毎年続けます。日本という異なる文化、歴史に身を置く教師たちは、ガザと中東を広い視野に置き、自分たちのことを見つめ直すでしょう。それは独特の、慰藉(いしゃ)の力を彼らに及ぼすのではないでしょうか。
○平和とはもちろん、当事者双方の努力が必要なのです。それでも願わくば、私たちのこのプログラムが、ガザの教師と子供たちに、希望のよすがを与えてくれたら。
○20年たつと、訪日経験を持つ先生は200人になる。彼らに教えを受けた生徒の数は数千人に達するでしょう。その日を待望いたします。
○本日、一端を述べてまいりました日本外交の目的とは、世界と地域の未来を、確実なものとすることです。さらにその上で、私が願いますのは、日本の未来を生きる若人たちが、たくましくも、チャレンジに立ち向かってくれることです。それをやりやすい環境を生み出すことが、私たち世代の務めです。
○あたかも日本には今、新しい風が吹こうとしています。来年4月末から5月初めにかけ、天皇陛下が退位され、皇太子殿下が即位されます。今上陛下の御退位に伴う御代(おだい)替わりは、実に200年ぶり。10月には、お祝いくださる賓客を世界からお迎えします。
○来年6月、日本はG20サミットを開きます。世界経済の在り方や環境問題など、国際社会が直面する課題についての議論を、私は議長として引っ張るつもりです。
○続けて8月、我々はTICAD(アフリカ開発会議)を開きます。1993年以来、日本が孜々(しし)として続け、アフリカ各国指導者から不動の信頼を得た会議の第7回です。例えば私自身幾度も重要性を説いてきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を、論じ合いましょう。
○お忘れなきよう。来年日本はラグビー・ワールドカップを開き、2020年には、東京がオリンピックとパラリンピックを開きます。私たちの目は、未来を見続けます。
○日本と日本の人々が未来に視線を据えるとき、日本は活力を増します。未来を見つめる日本人は、SDGs(持続可能な開発目標)の力強い担い手となります。そんな次世代の日本の若人は、国連精神の旗手として立派に働いてくれるだろう。私の確信です。
○最後に申し上げます。安保理改革が停滞する中、今世紀の世界における国連の意義は、いまや厳しく問われています。けれどもだからこそ、日本は国連への貢献をやめません。グテーレス事務総長と共に、日本は安保理改革、国連改革に邁進(まいしん)することをお約束し、私の討論を終わりにします。ありがとうございました。
<引用終わり>
(*4):安倍首相は以前から「日本の歴史に根差した使命」を認識しており、それは2015年8月14日に発表した「戦後70周年談話」の中にも見られるものである。
首相官邸HP 平成27年(2015年)8月14日
内閣総理大臣談話
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html
<同談話からの抜粋引用>
○百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。(後略)
○民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。
○世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。
○植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。○私たちは、経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる国の恣意にも左右されない、自由で、公正で、開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります。
<抜粋引用終わり>
【ご参考】
2015/08/18投稿:
【コラム】安倍談話を読む2-1
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-190.html
2015/08/19投稿:
【コラム】安倍談話を読む2-2
http://samrai308w.blog.fc2.com/blog-entry-191.html
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